第38話 来るな

 これは、息子が大学生時代に体験した話です。

 息子が通っていた大学は家からは遠方でしたので、親元を離れてのアパート生活でした。

 築年数は経ていましたが、部屋は綺麗でそこそこ広かったので、彼は気に入り、在学中の生活拠点としてお世話になることになりました。

 勿論、某サイトで炎マークがついて無いかチェックしましたが大丈夫でした。

 私も引っ越しの際には訪れましたが、何もぞくぞくしませんでしたし、本人も何もいないと言ってい撒いたので、まあ大丈夫でしょう。

 正直の所、私の霊感は当てになりませんが。

 彼が新生活を始めてしばらくたった頃、ベッドに寝っ転がっていると、突然、耳鳴りがしました。

 即座に彼は警戒しました。

 案の定、全身の筋肉が強張り動かない。

 金縛り。

 それも、眼が覚めている状態で。

 でも、彼にとってそれは慣れっこでした。

 彼は何度も同じ状況を経験しており、完全覚醒状態での金縛りそのものに驚きや畏怖を覚える事はありませんでした。

 彼の注力は、むしろその先に注がれました。

 何者?

 周囲を見渡し、彼に障りを及ぼしている元凶の姿を追います。

 見えない。

 けど、いる。

 姿は見えないものの、その気配から、彼は直感的にその正体を察しました。

 女性だ。

 何を仕掛けて来る?

 意識を研ぎ澄ませながら、姿なきものの動向を追う。

 気配が、体に密着して来た。

 まずい。

 入ろうとしている。

 ぐいぐい押し寄せてくる気配。

 来るな。

 来るな。

 来るな。

 意識を集中し、侵入を拒絶する。

 これって、前にも体験している。

 高校の学習合宿の時。

 あの時は姿が見えたし、相手は人ではなかった。

 今回のは人――の霊。

 姿を成すまでの力が無い存在。

 勝てる。

 過去の経験が、拒絶の意志を更に強化する。

 並々ならる自信が、執拗に憑依を試みる気配の触手をことごとく撥ね退ける。

 気配が消えた。

 同時に、全身の筋肉を束縛していた緊張が一気に弛緩する。

 金縛りが解けたのです。

 あれは、何だったのでしょうか。

 彼の部屋は特に曰くのあるものではないのですが。

 やはり、引き寄せてしまう彼の体質によるものなのか・・・。

 恐らく、たまたま通りかかった所、偶然にも「波長の合う存在――息子に気付き、何かを訴えようとしていたのか。

 否、石を伝えっるというより、あからさまに息子に入り込もうとしていたのだから、そんな生易しいものではないです。

 あの気配の主は、息子に憑りついて何をしようとしていたのでしょうか。

 生前、成し遂げられなかった自分がやりたかったことを、息子の身体を通じて成し遂げようとしたのでしょうか。

 それとも・・・。

 

 


 

 

 

 

 

 

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