第131話 驚愕の鑑定結果
シンヤが帰ると国王が大きな溜め息を吐き、二枚の紙を見ながら「こんな相手を敵に回す馬鹿がいたとはな」と呟く。
「此れは真でしょうか?」
「嘘だと思うか、此の男の鑑定は王国随一と言っても過言ではない」
そう言って傍らに立つバルロットに用紙を渡す。
無意識に受け取り用紙を読み動きが止まる。
シンヤ、人族・22才。
アマデウスの加護
テイマー・能力1、ティナの加護×2
火魔法・フレインの加護
土魔法・アーンスの加護
氷結魔法・アインスの加護
結界魔法・ディーフの加護
治癒魔法・トリートの加護
転移魔法・ムーブの加護
空間収納魔法・トレージの加護
生活魔法・魔力710/710、
「魔法が七つに加護が十個とは信じられません。それにティナの加護とはテイマー神の加護ですよね。テイマー神の加護が二つも有るなんて・・・」
「三種五頭をテイムしていても不思議ではないのう」
「彼を欲しいと言われましたが、どういたしましょうか」
「多分、ルシアンの為に鑑定使いを必要としているのだろう」
「ですが、犯罪奴隷を治癒魔法使いに下げ渡した事例は御座いません」
「ルシアンには王国の身分証を持たせているので問題あるまい。モーラン子爵に相談してみよ」
* * * * * * *
魔法の手引き書は大量に複製されて、各地の冒険者ギルドや貴族達に配られ、街の人の集まる所にも張り出された。
同時に攻撃魔法の練習の為に、兵の訓練場や闘技場などが開放されることになった。
特に冒険者ギルドは大騒ぎになり、張り出された手引き書と同じ物が銀貨1枚で手に入れる事ができるので飛ぶ様に売れた。
何時もは閑散としているギルドの訓練場は、攻撃魔法の使い手が常に練習する光景が見られる様になった。
「おう、どうだ?」
「いやー、手引き書なんて物が公開されるとはなぁ。お陰で魔法が楽に撃てる様になったぜ。お前はどうだ?」
「俺は一から練習しなおして、ほぼ倍の40発は撃てるぞ」
「やっぱり一からやり直した方が良いのかな。俺は魔力放出の練習をしただけだからな」
「いままで勿体付けて教えて貰っていたのが、馬鹿らしいったらねえや」
「聞いたか、土魔法使いは引っ張りだこだって」
「聞いたが、腕の良いって条件付きだぞ」
「そりゃーそうだ。高い金を払うんだ、下手糞に金を払う馬鹿はいねえよな」
* * * * * * *
「ねぇエイナ、此れってシンヤが教えてくれたことじゃない」
依頼掲示板横に張り出された用紙を見ながら、リンナがエイナに尋ねる。
「そうよ、二つだけ書かれていないけど後は間違いないわ」
「つまり、その二つだけ漏らさなきゃ、誰に教えても良いって事よね」
「そんな面倒な事をしなくても、銀貨一枚で基礎は学べるわよ。魔力放出から先は同じ魔法使いに教わるのだけれど、教わる相手次第になるわね」
「それはそうかもね」
「私だって魔法がスムーズに使える様になっても、アローやランスの速度を上げる事など思いつきもしなかったわ。シンヤに教えられなかったら、今ほどにはなれなかったと思う」
「つまり、皆魔法が使える様になったり上達しても、凄腕と呼ばれる者は一握りって事には変わりないのね」
「シンヤの様に色々と考える者か、凄腕と呼ばれる者から教えて貰わないと一流にはなれないわね」
* * * * * * *
土魔法のドームで静かな夜を過ごして、陽が昇ると治癒魔法の練習を始める。 ルシアンに教えたことを自分が遣ることになるとは思わなかったが、一通りの怪我を治せる様になり次の段階へ移る。
土魔法の手術台に乗せたゴブリンを固定すると、指を切り落とした後で再生を願って魔力を流す。
指三本分の魔力で簡単に再生したので、もう一度斬り落として指二本分で再生を促すが、今度は僅かに斬り落とした所が盛り上がっただけ。
攻撃魔法で感じていたが、指三本分は魔力が多すぎるようだ。
手首から切り落として、指三本分の魔力では掌までしか再生出来なかったので、再度指三本分で治療すると完全に再生した。
再生はしたが棒きれで突いても指一本動かないので、リハビリが必要だとおもう。
二の腕の真ん中から斬り落としての再生では、指九本分で完全再生。
膝から切り落としても指九本分の魔力で完全再生なので、ルシアンの時と同じく1+1ではなく1+αの様だが治れば良し!
機会があれば、ルシアンの魔力でどの程度再生出来るのか試してみたいものだ。
常時使用する魔力量を指二本分にする練習を続けながら、転移魔法の練習をする。
ドームへの出入りに転移魔法を使っているのだが、中長距離ジャンプは見通し距離なら問題なく跳べる。
上空へのジャンプは落下速度を落とす為に、風船状の結界魔法を使って空気抵抗を増し、15m程度まで降りた所で結界を消滅させて自由落下。
身長の10倍、最大ジャンプをして落下した程度の衝撃で着地できるので、上空へのジャンプも気楽に出来る。
計算外だったのが、気圧差で耳が痛かった事だ。
高層ビルのエレベーターでも耳がツンとするが、一気に上がった時に耳の痛さに慌てて鼻を摘まんで息抜きをした。
空間収納は魔力量に比例するのか知らないが、やり方はアニメやラノベのようにやったら簡単に出来たし、長い棒も難なく収まった。
但し、精々5、6mの棒なので、そのうち倒木を見つけて試してみることにして、それ迄はお預けとする。
最大の問題は火魔法で、ファイヤーボールを一度試してからは使っていない。
テニスボール大の火球を何度も作っては消しを繰り返しているが、魔力を抜いて爆発はさせない。
指三本分の魔力でファイヤーボールを撃った時に〈ドーン〉と轟音が響き渡り、爆発力の大きさに驚き練習を中止していた。
今回は大きくて深い井戸を掘り、下へ飛び降りると底を球形にして化学実験に使うフラスコ状にした。
此れで爆発の威力も音もフラスコの底で広がってから上空へ抜けるので、安心だと思い練習開始。
指二本分の魔力と相まって、大分マシになったと思う。
井戸の縁で音を聞いている俺には、どの程度なのかよく判らないがマシになったと思いたい。
練習後は井戸の上に岩に似せたドームを作り、落下防止をしておく。
* * * * * * *
久し振りにマークスの家を訪ねるとお出掛け中だが、今日辺り帰って来る筈だと言われたので、明日出直してくると言って引き返す。
翌日迎えに行き、ルシアンの所へ行くぞと言って夫婦を無理矢理馬車に乗せる。
ミレーネ様のお屋敷に到着した時から、マークスは借りてきた猫の仔状態でルシアンの母親の方が興味津々といった感じ。
セバンスに二人を紹介して、ミレーネ様にご挨拶。
跪く必要はないと言っておいたら、最敬礼をされてミレーネ様が苦笑していた。
主のミレーネ様への挨拶が済んだら、セバンスにお願いしてルシアンの部屋へ二人を案内してもらい、その間にミレーネ様に確認をとっておく。
「犯罪奴隷の鑑定使いですか」
「犯罪奴隷といっても、王城で俺を許し無く鑑定した為に奴隷に落とされたのです。王城で鑑定使いとして仕えていた者ですので、腕は一級品だとおもいます。治癒魔法の依頼で出掛けた先に、病人を鑑定出来る者が居るとは限りませんからね」
「それで私の配下として、ルシアンの補佐をさせるのですね」
「お願い出来ますか」
* * * * * * *
ノックの音にドアを開けると、セバンスさんの後ろに父ちゃんと母ちゃんが立っていた。
「気を使ってお休みを貰わないものですから、シンヤ様がお連れになられました」
そう言って父と母を部屋に残し「ルシアン、ご両親とゆっくりお話をして安心させてあげなさい」と言って出て行った。
「驚いたわねぇ。あんたこんな立派なお部屋に住まわせて貰っているの?」
「貴族に仕える治癒魔法使いって、腕っこきでもなければ大して金も貰えないと聞くぞ」
「えへっ、私って腕っこきらしいわよ。ミレーネ様にお仕えする時に金貨100枚を頂いたし、毎月のお給金は金貨五枚貰っているわ。それに治療依頼の報酬の半分も貰っているのよ」
「あいつ、そんな事は一言も言わなかったぞ」
「でも安心したわ」
「ああ、奴に頼んで良かった」
「もう少しお金が貯まったらお家を買おうね」
「えっ、お前幾ら稼いでいるんだ?」
「ん~、最初の侯爵様は恐い思いをしただけだったけど、その後は金貨50枚貰って後何度か金貨100枚から150枚位貰っているかな」
「家は有るし、お前の稼ぎは嫁ぐときのために貯めておきなさい」
「ああ、此れでも並みの奴等より稼いでいるからな」
ノックの音に返事をすると、メイドのサーシャがお茶を持って来てくれ、その後ろにシンヤ様がいた。
「へえ~、良い部屋を貰っているな」
「はい、これもシンヤ様が魔法の手ほどきをしてくれたお陰です」
「なんだ、知らなかったのか」
「ん、俺は此の家では客人だぞ、使用人の部屋へのこのこと顔を出すことは出来ないからな」
「それなら何で此処へ来たんだ」
「ルシアン、治療の具合はどうだ」
「シンヤ様の教え通りにして治らなかった事はありません。この間ミレーネ様のお供で王妃様にお会いしたら、こんな物を貰いました」
ルシアンが得意げに取りだしたのは王家の紋章入り身分証で、俺のとはちょっと違うが紋章に金の縁取り付きだ。
しかも『国王陛下の側近を示す物で、貴族や豪商達から無理難題を言われたら『それを見せて、陛下のお許しがあれば』と答えれば良いって言われました」とあっけらかんと言われてしまった。
「国王陛下かぁ~、お前のより格が上じゃねぇの」
そりゃそうだろう。
相応の実力を認めたからこそ、此れだけの物を持たせたのだろう。
ルシアンに改めて魔法の手引き書を渡して、貴族や王族に魔力を絞る事は教えても増やすことは教えるなと言っておく。
勿論ミレーネ様にもだと念押ししておくのを忘れない。
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