第23話 オークの魔石

 夜明けを待ってゴブリンを放置した場所に行ってみると、食い荒らされていたがスライムは見当たらず。

 少し思いついて森の側へ行きたいとフランにお願いする。


 「危ない所へは近づかないんじゃないのでは?」


 「クーちゃん達のお家を作ろうと思ってね。薪にする木の中に皮が剥がれる奴が有るじゃない。あれを剥いで筒にすれば、クーちゃんのお家にぴったりだと思わない」


 それはそれは変な物を見る目で見つめられた挙げ句、大きな溜め息を吐かれた。

 クーちゃんのお家を担いでいるのは俺なんだし、配下の住宅事情も考えてやる責務があるんだよ。

 一匹だったらバッグの中でも良いが、五匹だし個室を要求するので俺も大変なんだよ。

 草叢で遊んでいるときは仲良くしているのに、寝室兼住居は絶対一人って贅沢な奴等。


 《27号です。マスター、大きな人族が四ついます》


 《大きな人族・・・それって毛が一杯生えている奴かな》


 《そうでーす。刺してもいいですかぁ~》


 《ちょっと待ってね》


 「フラン、オークがいるらしいぞ。魔石が欲しいし、ちょっと短槍の練習をしたいのでバックアップを頼めるかな」


 「危ないことはしたくないって割に、オークを相手にする気ですか」


 「危ない事はしないよ。ビーちゃん達に襲ってもらい、俺は後ろから忍び寄るつもりだから。短弓を使えば簡単だけど、短槍の実戦練習さ」


 「俺は?」


 「バックアップだけでいいよ。ビーちゃん達が目や鼻を狙っているから、そうそうフランまで襲わないよ」


 《27号、案内してよ》


 《はーい。こっちだよ》


 目の前に降りてくると、くるりと一回りしてオークのいる方へと飛んで行く。


 《みんな判ってるね。目と鼻と耳だよー》


 《任せなさーい》

 《ひゃっほー。行くぞー!》

 《刺しまくってやる!》


 《未だまだだよ。合図をしたら攻撃ねっ》


 「見つかった様ですよ」


 〈グオォォォ〉〈ガウゥゥ〉と雄叫びを上げながら俺達目掛けて突撃を始めたので《やっちゃいなっ!》と攻撃命令を出す。


 《45番、行きまーす》

 《6番が先に刺してやる!》

 《負けるなー》

 《一杯刺してお肉を貰うんだ!》


 あ~あ、ビーちゃん達に群がられて、目や鼻を刺されるので必死で追い払っているが、ビーちゃん達の飛翔速度に追いついてない。


 「んじゃー、ちょっくら行ってくるので、バックアップ宜しく」


 「はいはい。オークを討伐する雰囲気じゃないですね」


 そりゃーそうよ。オークは周りを見る余裕はないので、俺が後ろから近づいても気付かない。

 こっそり近づいて後ろからアキレス腱や脹ら脛をちょん。


 〈ギャアァァァー〉とか〈グワーァァァ〉と痛みに雄叫びを上げるが、俺の存在には気付いてない。

 四頭のアキレス腱を斬って倒すと、首の頸動脈を狙ってプスリ。

 足の痛みで暴れているので狙いがズレても、刺した槍を滑らせて頸動脈を切断して終わり。

 吹き出した血飛沫を浴びて臭いので、クリーンを三連発。


 うむ、今宵の虎徹は・・・短槍はよく斬れるなぁ~、朝だけど。

 短槍はウオーターで綺麗に洗い、フランに魔石の抜き取り方を教えてとお願いする。


 「本当に俺と同じ時に登録した、初心者ですかねぇ~」


 「一緒に並んで講習を受けたじゃない。もう忘れたの」


 「よーく覚えてますが、恐いことや危ない事は嫌って言う割に、度胸がありすぎですよ」


 そりゃー二柱の神の加護持ちだから、神様特典でしょう。

 以前のオークは同行した冒険者達に任せたので、今回がお初だが恐怖心で身が竦むなんて全然ない。


 それよりもゴブリンでもそうだがオークの胸を切り開き、魔石を抜き取る為に腕を突っ込む方が気持ち悪いぞ。

 暖かい胸の中に手を入れて心臓の下辺りをまさぐり、魔石を包む肉ごと引き摺り出してナイフでちょん。

 それから魔石を傷付けないように慎重に取り出し、ウオーターでジャバジャバする。


 野営用結界に使用する魔石はゴブリンで3日、オークで20日持つと聞いたので此れで80日は大丈夫。

 ゴブリンの魔石の方が簡単に手に入るが、臭い奴の上に乗り魔石を取り出すのなら回数の少ない方が有り難い。

 それにゴブリンはいくらクリーンを掛けても、何時までも服が匂うような気がする。


 「オークを捨てるのですか」


 「俺達が持ち込めばマジックバッグ持ちだと知られるよ」


 「オークは一体85,000ダーラから90,000ダーラですよ。俺が預かっておきます。絡まれたらビーちゃんにお願いしてください」


 「ならフランに、バレットを覚えて貰おうか」


 「バレットですか」


 「野獣相手なら必要無いが、人族相手なら良い武器になるぞ。それにオーク相手にストーンアローでは心許ないので、ストーンランスも覚えた方が良いな」


 「バレットは出来るでしょうけど、ストーンランスなんて重くて飛ばないでしょう」


 「なんで?」


 「時々村に来る土魔法使いの冒険者が、ストーンランスは重いので飛ばすのに魔力を使うって言っていましたよ」


 「それ、おかしくないか魔法で飛ばすんだぞ。そんな事を言ったらシェルターやドームを作れば魔力切れになるだろう」


 「確かにそうですね」


 オークとの遭遇で遅れたが、クーちゃんハウス建設の為に樹皮を確保するのに半日潰れた。

 何時もの野営地まで移動するのが面倒なので、森の側に野営用結界を張る。


 樹皮を丸めてはクーちゃんに中へ入って貰い、ご意見を賜って手直しを繰り返す。

 出来上がったのは内径10数cm、長さ25cm程の薪のような見た目で、背負子に括り付ければ短めの薪そのもの。

 草叢の側に置けと言うので置くと、短い枯れ草を持ち込んでマイホーム作りを始めた。


 《マスター、有り難う御座います。毒をたっぷり出しますね♪》

 《美味しいお肉は有るし、素敵な巣も出来たので頑張ります!》


 何れ薬草採取もお願いするので、それまでのんびりしていてもらおう。


 * * * * * * *


 ホーンラビットを殺さない程度に刺してもらい、短槍の峰の部分でぶん殴って弱らせてテイムする。

 スキル確認では〔ホーンラビット・12-1、突撃、警戒、33〕と出た。

 ゴブリンが6-1でホーンラビットが12-1、テイム出来るのは強い野獣ほど数が少なそうだ。


 知りたい事は判ったので(テイム・解放)で支配を外して止めを刺す。

 スライムもテイムしたいので、ホーンラビットをお食事用に解体し内臓や皮を放置する。

 その周辺にクーちゃん達を配置し、スライムが現れたら教えてとお願いしておく。

 ビーちゃん達からスライムて何?となり、フランにスライムの大きさのボールを作って貰い、こんなのが来たらと教える。


 「ホーンラビットはどうでした」


 「突撃と警戒だったよ。それぞれの種類による特性が俺に判る様になっているんだろうな。クーちゃんの木登りで俺も木登りが得意になったからね。残念ながら毒無効は試しようがないけど」


 「えっ、ビーちゃんに一度刺して貰えば良いじゃないですか」


 「でも人に依っちゃ、一度刺されただけで死ぬんだろう」


 「その為に毒消しポーションを買っていますので、大丈夫ですよ・・・多分」


 この野郎、俺で人体実験をするつもりだな。


 「良いけどさ、俺を刺しても良いのなら、側にいるフランも道連れで刺されるだろうな」


 「俺を巻き込むんですかぁ。それなら試さなくて良いです」


 《マスター、2号です。丸いのが出てきたよ》

 《1号です! 丸いの見つけました!》

 《5号でーす。丸いのに踏み潰されそうです~》


 「スライムが出てきたようだけど、警戒を頼めるかな」


 「良いですよ。ビーちゃんに刺されるよりはマシですから」


 「で、スライムを弱らせるってどうすればいいの?」


 「ぶん殴るんです! 但し表面を傷付けると中の水分が抜けて死んじゃいます」


 ぶん殴るのなら、適任者がいるのでお願いするか。


 「フラン、ストーンバレットで叩きのめす練習をしようか。今日は未だ練習をしてないだろう」


 《クーちゃん達、帰っておいで》


 《はーい×5》


 「結局俺ですか」


 「何事も練習あるのみ、練習しなきゃ上達しないよ。ストーンランスが撃てる様になったら威力を上げる方法を教えるからさ」


 内臓を放置した場所には丸いのが三個転がっていたが、思ったより大きそう。

 大きめなビーチボール大が二個とバランスボールみたいな奴が一個だ。


 「フラン、小さい方をお願い」


 〈バレット・・・ハッ〉


 距離15m程なので一発で命中・・・て、表皮を射ち抜いて石ころがスライムの中に入っちゃった。


 「あれっ・・・やっぱりぶん殴る方が良さそうですよ」


 やっぱり人頼みは駄目かと思い、短槍の峰でぶん殴る為に近寄るとプルプル震えている。

 ん、と思い良く見ようと近づくと、一瞬変形したかと思ったら吹き飛ばされた。


 強烈なボディーアタックを食らった様で、数回転して止まる。

 いやいや、スライムの体当たりって強烈じゃん。

 と言うか、顔が生暖かいと思って撫でるとべったりと血が付いてきた。

 スライムはと見ると、変な形に萎んで動かないのでフランが射ち抜いたらしい。


 「大丈夫ですか?」


 「だれだよ、子供達が体当たりで吹っ飛ばされているなんて。無茶苦茶強烈だよ」


 「多分仲間がやられたので興奮したのでしょう。それより血が出てますよ」


 「痛てててて。買ってて良かったポーションってね。初級の下で良いよね」


 「多分大丈夫でしょう。掛けてあげますよ」


 「スライムは又今度だな。何か対策を練らなくっちゃ」


 傷に掛けた残りを差し出されたので、覚悟を決めて飲んだが青汁より少しましな程度だな。

 こんなに簡単に怪我をするのなら、上級の中と上のポーションも買っておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る