第24話 二つ名のギルマス
フランがストーンバレットの手加減を覚えたし、ストーンランス作りが一段落したので街へ戻る事にした
何時もの如く、街の近くに目立たないクーちゃん達のアパート作って貰い、洗った串焼き肉を置いてから出入り口へ向かった。
「ホーンラビットも久々に担ぐと重いですね」
「だな、次からは薬草にしておこうか。新人の商売の邪魔はしたくないが、重いのは嫌だから」
「俺達もド新人ですよ。しかしシンヤのさんの言った通り、あれから俺達を狙うような奴が現れませんね」
「ああ、サブマス達と伯爵様の手勢が、ギルマス達主立った者を捕らえてしまえば俺達を襲う意味がないからな。捕まらなくても街から逃げ出しているだろうし、俺達が周辺の街へ行く方が危ないかも」
事件の中心地は、脛に傷ある奴等が逃げ出して空白地帯って事だな。
* * * * * * *
俺達がギルドに入ると受付のお姉ちゃんが目を丸くしている。
この間ホルムのサブマス達と乗り込んで来たのでよく覚えているようだ。
買い取りのおっちゃんにホーンラビット以外も有ると言うと、奥へ行きなと軽く言われる。
ホーンラビット5匹とオーク4頭を並べ終わると不審げな解体係のおっちゃん。
「何で胸を開いているんだ」
「魔石が欲しくて討伐したんですよ」
「魔石が無いと15,000ダーラ値が下がるぞ」
「それで良いですよ」
〈おい見ろよ〉
〈なかなか腕が良さそうだな〉
〈足の後ろと首にしか傷が無いとはな〉
〈どんな方法ならこうなるんだ?〉
ホーンボアを持ち込んで来たパーティーが俺達と獲物を見比べている。
その間に査定を済ませた解体係から査定用紙を貰い、フランに見せると頷く。
礼を言ってカウンターへ用紙を持って行くと、受付のお姉ちゃんから声が掛かった。
「貴方達二人、ギルマスが呼んでいるのでついてきて」
「俺達はギルマスに呼びつけられる覚えは無いんですけど」
「ホルムの件だそうですよ。詳しい事はギルマスから聞いて頂戴」
ホルムの件と言われても、もう片付いた筈なんだけど、フランと顔を見合わせていると「早く来て!」と怒られた。
「嫌な予感しかしませんね」
「でも此処で殺すようなことはしないだろうから、会ってみるか。ビーちゃん達を呼んでおくよ」
「頼みますよってか、相変わらず肝が据わってますね」
「なに言ってるの、手持ちのポーションで間に合うのか考えているよ」
受付のお姉ちゃんがノックして部屋に入り「二人を連れて来ました」と言って俺達を部屋に押し込む。
ん・・・この間のギルマスと違う、いや違って当然か。
《マスター、開けてください》
《今度は俺が先だからな》
《早い者が刺しても良いんだよ》
《まだだよ。静かにしていて》
《はーい》
「この蜂がお前の護衛か?」
「ギルマスと聞きましたが、用件は何ですか?」
「おう、お前達には嫌な話だが、問題の男に逃げられた」
「はあ~・・・ギルマスに逃げられたって」
「そんなぁ~」
「何をどうすれば取り逃がすんですか」
「お前達を追っていった奴等が帰らないし、ホルムのサブマスが多数の男達を引き連れて街を出たので、後をつけさせたのだろう。手下が捕まったと知って直ぐに逃げ出したのだろうな。ホルムのサブマス達が破落戸共を連れ帰ったが、逃げられてはどうにもならない。連れ帰った半数が街の破落戸共だが、残りはこの街の冒険者なので直ぐに噂になった。ギルマス権限の剥奪と手配をしたので、此の国から逃げだしても行き場所は無いだろう。あの男は〔劫火のオーウェン〕と恐れられた元Aランクだ、万が一出会ったら即座に逃げろよ。それと、ホルムのギルドから多額の金が振り込まれているので、堪忍しておけ」
そう言って手を振り、出て行くように促された。
カウンターで査定用紙を差し出し、全て二人の口座に預けると伝えると同時に、残高確認をしたいと申請する。
「幾らになったんでしょうか」
「金貨10枚ずつは確実だけと、奴等らの稼ぎにはあまり期待できないな」
「でも上物のマジックポーチが残り三つ、二つは中も見ていませんからね」
支払い係が俺達二人のギルドカードを受け取り入金し、残高を書き込み始めて手が止まる。
何度か俺達の顔とカードを見比べては首を捻り、再びカードと見比べてから金額を確認して書き込み始めた。
カードと残高を記した紙を受け取り確認する。
6,024,650ダーラ・・・さっきの査定275,000の半分入れてこれか。
フランの残高も殆ど同じって事は、現金もそうだが三つのマジックポーチが良いお値段だったようだ。
「彼奴等の分も含めると、結構なお値段になりましたね」
「半分以上はマジックポーチの処分代だと思うな。さっそくポーションを買いに行くかな」
「気が早いですねぇ」
「当然さ、命あっての事だからな。初級も買い足しておくよ」
支払い係に金貨35枚を要求してマジックポーチへポイ。
見るからにド新人二人の残高に驚いていたら、あっさり3,500,000ダーラを卸したので又ビックリしていた。
礼を言って振り返ると、ホーンボアを持ち込んだパーティーが査定用紙を持ってやって来るところだった。
危ない危ない、大金を下ろすところを見られたら、何を言われるか知れたものじゃない。
「よう兄さん達、二人でやってるのか?」
「そうですけど、何か御用ですか」
「さっきの獲物を見たが、良い腕だな。俺達のパーティーに加わらないか」
「済みませんが、俺達は二人でやるつもりですので無理です」
フランを促して行こうとすると、三人が俺達の行く手を塞ぐ。
「俺達はGランクのペエぺエですから勧誘はお断りします。通して貰えませんか」
「ド新人か、俺達の勧誘を断るとは良い度胸だな」
「お褒めいただき、有り難う御座います。通して貰えないって事は、ド新人のGランクに絡んでいると思って宜しいのでしょうか。最近冒険者規約を教わったばかりですので・・・」
「あ~、もういい、行け!」
「森で会ったら、仲良くしようぜ」
ほんと、捨て台詞は何処の世界も似たようなものだな。
「可哀想に、次の犠牲者に志願するなんて」
「えっ、出会ってもフランは見物する気なの」
「えっ、そこはビーちゃんの出番でしょう」
「ストーンバレットでお仕置きでしょう。今のうちに、舐められたら叩き伏せる練習をしないと後で困るよ。ストーンバレットでだって簡単に人を殺せるんだから、手加減の練習だね」
手加減の練習は散々したとのぼやきは無視する。
* * * * * * *
薬師ギルドに行くと以前のエルフが出迎えてくれたが、ギルマスだそうだ。
薬師ってのは数が少なく小所帯なので、ギルマスをしているよと教えてくれた。
上級ポーションの中と上を各1本と、初級の下を5本に中と上を各3本と伝えたら呆れていた。
金貨34枚と銅貨4枚を支払いポーションを受け取ると、薬師ギルドで必要としている薬草の事を訊ねる。
「相当森の奥へ行かねば採取出来ない物ばかりで、君達では無理だよ」
「それじゃー此れの査定をして貰えますか」
ポーションのビンを二本カウンターに乗せる。
一本は1/4程でクーちゃん達の猛毒、もう一本は3/4入ったビーちゃん達の毒液だ。
「此れは?」
「少ない方がポイズンスパイダーで、多い方がキラービーの毒です」
「キラービーに守られているとの噂だが、毒まで集められるのか。それにポイズンスパイダーの毒を良く集められたな」
「薬草採取をしていたら時々飛び出して来ますから・・・」
不純物無しの毒は貴重だと喜ばれて、クーちゃんの毒は250,000ダーラでビーちゃんのは330,000と高額で引き取ってくれた。
それを見ていたフランが、俺も村に帰ったらキラービーの毒を集めるよといったが、不純物無しの上物だからほぼ倍額で引き取ったと言われて撃沈。
村で毒矢の為にキラービーを捕っていたが、10匹捕まえても微々たる量しか集められないのを良く知っている。
ましてやポイズンスパイダーの毒を採取となると気が遠くなると言っていたからな。
58枚の銀貨を貰い、フランに29枚を渡して薬師ギルドを後に食料の買い出しに向かう。
食料の買い出しは賊のバラ銭、銅貨鉄貨を使うが食料の買い出し以外に使わないので未だまだ残っている。
この金が無くなれば本格的な冒険者稼業を始める予定だが、フランにストーンランスをみっちり教えなくてはならない。
* * * * * * *
ストーンランスを安定的に作れるので射撃練習だが、ストーンアローを射てるのだから物さえ作れれば後は同じだと思わなかったようで、俺にやれと言われて戸惑っていた。
しかし、ストーンアローと理屈は一緒でと説明してやると納得して試し打ち。
標的の立木に〈ドーン〉と音を立ててめり込むと感激してウルウルしている。
「まさか・・・ストーンランスを撃てる様になるとは思ってもみませんでした」
「後は何れだけ射てるかだな。今日から寝る前に魔力切れ寸前まで射って、自分の能力を把握しておけよ」
「何発射てるかですね」
「違うよ。シェルターやドームも含めて何回魔法が使えるかだよ。その回数の2/3程度が攻撃に使えるってことさ。幾ら攻撃力が上がっても防御が出来なければ死ぬよ。攻撃して駄目ならシェルターに籠もり、魔力の回復を待ってまた攻撃出来るけど攻撃一辺倒だと、勝てなければ・・・ね」
「判りました。肝に銘じておきます」
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