第25話 本格始動

 今のところフランは20回前後魔法が使えるが、自分が何れだけの魔力を使っているのか知らない。

 回数も初めに聞いたときには15、6回と言っていたのに、増えているのに気付いてない。

 せめて攻撃に20回以上魔法が使えるように、魔力を節約する方法も教えよう。

 尤もラノベの受け売りなのだが、今のところ十分役に立っているので大丈夫だろう。


 「フランは魔法を射つときに、魔力が腕から出ていくのは判るんだよな」


 「勿論です。それが出来なけれで魔法は使えません」


 「じゃー、アローでもシェルターでも魔法を使っているときに、魔力がどれ位流れているのか判る?」


 「どれ位って、魔法に必要な量でしょう」


 「本当に、俺が聞いた話だとそうじゃないよ。魔力の流れる量を知れば、少なくしても魔法は使えるって」


 「そんな事が出来るんですか」


 「知らない。俺は魔法使いじゃないからな。でも俺が聞きかじった教えで魔法が上達しただろう」


 「確かに上達しましたし、魔力の追加なんて驚きです」


 「アローでもシェルターでも、石の如く硬くなれと願って作れば出来るだろう」


 「はい。前のような柔な物でなくて安心です」


 「だから腕から流れる魔力の量を探ってみなよ。そして流れる量の最後を止めて少なくしてみてはどうかな。使用する魔力を少なくしすぎると魔法が発動しないって聞いているので、駄目なら元に戻せば良いだけだろう」


 「ですね。試して出来れば攻撃力も上がりますし、今晩からやってみます」


 フランがストーンアローを射つ横で、俺は短弓の練習だが気になる事が一つ。

 ストーンアローと俺の矢の速度が殆ど同じで、30m程度の距離でも山なりに飛ぶ。

 フランのイメージとして、矢は放物線を描いて飛ぶと思い込んでいるからだろう。

 やはり石弩を使って直線的に飛ぶイメージを焼き付ける必要がありそうだ。

 強力な魔法も速度が遅ければ躱されてしまい無力だ。


 「またお客さんですよ」


 フランの声に闇を透かして見る。

 夜になると彷徨く野獣が時々現れるが、今日の奴はウルフ系らしくキャンキャン吠えない。

 安心安全なドームの中で魔法の練習をしているのだが、今日はストーンアローの確認の為に射たせることにした。


 「フラン、近づいて来たら射ってみろよ」


 「えっ、また野獣を持ち込むと目立ちますよ。バレットで追い払うのじゃ駄目ですか」


 「ストーンアローで気になる事があるのでやってくれ。それと口内詠唱でな」


 「判りました」


 何やらモゴモゴ言って〈ハッ〉掛け声と共にストーンアローが飛ぶが、やっぱり山なりに飛んでいる。

 そして遅い。

 一発目は当たったが、遅い分致命傷にならず〈ギャン〉と一声吠えて走り出した。

 二発目は悲鳴に驚いた仲間達が動いて外れ、焦ったフランが追撃を射つが大きく外れる。


 「もう良いよ。思ったより威力が無いよな」


 「えっ、でも弓で射ってもこんなものですよ。一発で仕留めるのなら、強弓と重い矢が必要ですから」


 「アローを一本作ってよ」


 差し出されたストーンアローは全長60cmちょいで太さは1cmちょい、以前決めた大きさと太さだ。

 威力を上げるには早さと重さなので、石弩の速度が出せても今のままでは大して威力は上がらないだろう。

 対人戦なら十分役立つが、獣相手では数を射たないと倒せないだろうし、ストーンランスでは威力が大きすぎる。


 「フラン悪いけどアローの太さを倍にしてくれるか」


 「今のじゃ駄目ですか」


 「自分で言ったじゃないか『一発で仕留めるのなら強弓と重い矢が必要』だと。対人戦なら十分だけど、野獣相手じゃ軽すぎるようだ。兵士になるんじゃなくて野獣の討伐だろう、なら一発に威力のある方が有利だぞ」


 「確かに、さっきの奴も当たったのに逃げて行っちゃいましたね」


 「数の多いドッグ系やウルフを一発で仕留めれば、無駄に数を射たなくて済むからな」


 「またストーンアローからやり直しですね」


 「ストーンランスは今のままで良いと思うよ。飛ばすのはアローと同じなので、練習はアローで十分さ」


 フランがアロー作りの練習をしている間、俺はビーちゃん達とお遊びだ。

 25匹ずつの分隊飛行から始めて、10匹5匹と分散集合や左右からの同時攻撃訓練。

 時には獲物を取り囲んで旋回しながら、後ろからや頭の向いた反対側からの攻撃練習に、遊び気分で付き合ってくれる。

 アロー作りに疲れたフランが、それを見て呆れている。


 クーちゃん達が、ビーちゃん達が側で編隊飛行をするのが恐いと言うので、餌が多いと示す場所にマイホームを置いてやる。

 勿論草叢の中に埋め込んで、ビーちゃん達が入れない所へだ。

 暇潰しの薬草採取には付き合って貰うが、何時も巣の中で縮こまっているより快適で嬉しそう。

 採取した薬草はランク3-60のマジックポーチの中なので、何時でも新鮮な物を売りに行ける。


 フランのストーンランスの変更も出来たし、ゴブリンで試すと一発で吹き飛んだ。

 以前だったら矢が突き立つと大騒ぎしていたが、今は一発で静かになるし抵抗出来ても簡単に処理できる。

 お陰でゴブリンの魔石は50以上溜まっているので、ゴブリン狩りは襲われない限り他の冒険者達に任せる事にした。


 * * * * * * *


 最後の仕上げの為に一度街に戻る事にしたが、街が見える街道に出たところでチンピラと遭遇。

 名も知らぬ五人組のパーティーで『森で会ったら、仲良くしようぜ』なんて言ってた奴等だ。


 「あ~、会っちゃいましたよ」


 「手加減した、バレットの練習相手に来てくれるとは、案外親切な方達ですね」


 「やっぱり俺が相手をするんですか」


 「喧嘩を売られたら、買うのが冒険者でしょう」


 「いやいや、御免なさいをして逃げるのも冒険者ですよ」


 「危なくなったら、ビーちゃん達に後ろから襲わせるよ」


 《ビーちゃん達は合図するまで襲っちゃ駄目だよ》


 50匹のキラービーに襲われたら、止めたときには手遅れになりそうなので指名することにした。


 《1号から5号以外は攻撃禁止! 少し離れて飛んで見つからない様にね。合図をしたら、1号から5号は5回までは刺しても良いよ》


 《えぇ~、たくさん刺したいでーす》

 《後でお肉がたべたいで~す♪》


 「よう、久し振りだなぁ。どうだ、俺達とやる気になったか?」


 「嫌です! あの時のホーンボアは傷だらけだったじゃないですか。俺達が倒したオークを見たでしょう、弱い奴とは組みたくないの。判ります?」


 「ほう、そうなのか。俺達が弱いか試してみるかな」


 「止めておいた方が良いのでは、怪我をしますよ」


 「糞ガキが生意気に!」


 背負った剣を抜いたのでフランに合図。

 〈パカーン〉といい音がして、剣を抜いた男が頭を仰け反らせて倒れた。


 「やりやがったな!」 〈パカーン〉


 砕け散るストーンバレットと吹きとぶ男、連射速度が遅いけど、対人戦ではこんな物か。

 三人が抜刀と同時にフランに襲い掛かったので《行けっ!》と命令。


 ストーンバレットを射ち始めた時点で背後に忍ばせた、ビーちゃん達が一斉に襲い掛かる。

 同時に上空待機していた残りが羽音高く降下して乱舞する。


 〈痛てっ・・・〉

 〈蜂だ!〉

 〈逃げろ!〉


 蜂に刺されて三人が逃げ出したので、ゆっくり後を追いかけさせる。


 《マスター、動かなくなったよ》

 《のろまめっ》

 《マスターの敵は許すまじ!》


 《もう良いよー。皆帰っておいで》


 「いやー、恐いこわい。もっと早く助けてくださいよ」


 「ん、そこはシールドを目の前に作って防ぐところだろう。それか奴等の足下に低い障壁を作り、足を引っかけて転ばせるとかさ。フラン、魔法は臨機応変に使えよ」


 「そんな練習はしてませんよ」


 「シールドが作れるんだから、低いシールドとか縦の物を横に作るとかさ。せっかく魔法が使えるんだから、使い方を考えなよ」


 「普通そんな事は思いつきませんよ」


 「土魔法だぞ、建築や道路作りに城壁まで色々と見本があるじゃない」


 「あ~・・・でした」


 「自在に使える様になれば、稀代の魔法使いとして名を馳せるぞ」


 俺の言葉に何かを考え込んでいたが、顔がにやけだした。

 此奴、有名になった自分を想像してるんじゃないよな。


 「フラン、逃げたギルマス〔劫火のオーウェン〕の様な二つ名を考えているのか?」


 「えっ、そ、そそそんな事は考えてませんよ」


 顔を赤くして否定しても丸わかりだぞ。

 恥ずかしくて名乗れないような二つ名を俺が進呈してやろうかな。


 「こいつ等どうします?」


 「当然放置だろう。通りかかった奴が好きにするさ」


 * * * * * * *


 「フラン、シェルター!」


 「数が多いですね」


 「まっ、こっちは安全地帯から攻撃するので関係ないさ」


 マジックポーチから短弓を取り出して、フランが開けてくれた矢狭間からハウルドックを狙い射つ。

 隣ではストーンアローで次々とハウルドッグを射ち倒している。

 ストーンアローと石弩を同時に射ち、飛ぶ速度や飛び方を何度も見せた結果、格段に速度が速くなり威力も上がった。

 俺が二の矢を射つ前に、フランが3、4頭を倒しているのであっと言う間に闘いは終わった。


 「テイムしますか?」


 「ドッグ系はキャンキャン煩いからねぇ。テイムして連れ歩いたら、自分の居場所を大声で教えているようなものだから要らない」


 「居場所を知られるのは不味いですね。それじゃ止めを刺しますか」


 倒れても息の有るハウルドッグに止めを刺して、フランのマジックバッグに放り込んでいく。

 ウルフ系、できれば体躯の大きいと言われるフォレストウルフをテイムしたいが、この辺りにはいないらしい。

 ウルフ系も居ない訳ではないが、本格的に狩りを始めてから出会っていない。


 現在のところホーンラビットをテイムしたが〔突撃〕の特性しかなく即座に解放して殺して夕飯になったからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る