第28話 大捜索

 ちょっとしたアクシデントは有ったが、その日の野営時にはフランが細切りのお肉を野営地周辺の枝に掛けていく。


 《みんなお肉だよ~》


 《お肉♪》

 《ありがとう~、マスター》

 《それ俺の~》

 《早い者勝ちだぜ》


 フランの周辺をキラービーが飛び回り、お肉に止まったり食いついているのをレブンが恨めしげに見ている。

 大集団のキラービーの乱舞は恐れるフランも、数十匹程度の数にはすっかり慣れてしまったようだ。

 レブンの奴は美味しいポーションを飲んだ後なので、今夜の飯は味も分からないはずだからざまあみろだ。


 二日目三日目とブラウンベアを求めて森の奥へ向かうが、時々予定外の獣と出会う。

 獣の数が多いと避けて通れないので、フランのお出ましとなる。

 今回はホーンボアだが、体高1.5m位で体長3m以上有りそうな巨体。

 正面から突っ込んで来そうなので「フラン、シェルターが先だ!」とドラドが叫び全員を集める。


 8人全員をシェルターで包み、ホッと一息入れているときに〈ドカーン〉と轟音が響く。

 ホーンボアの突撃にも楽々耐えるシェルターに、ドラド達もホッとしている。


 「今回の遠征は安心感が違うわ」

 「だな、この大きさのホーンボアになると手子摺るからな」

 「ああ、あの巨体で小回りが利くし、体当たりや牙も凄いからな」


 確かに凄い、此れじゃ俺の野営用結界も崩壊しかねないな。

 オークやバッファロー程度の攻撃に耐えると聞いているが、早めに強化版を手に入れる事にしよう。

 フランが矢狭間を作り、正面からストーンランスの攻撃をしようとするのを止める。


 「フラン、正面からじゃ弾かれる恐れが有るぞ。横を見せるまで待て」


 「シンヤの言うとおりだ。正面から狙うときは前足だが、あの大きさでも細いので狙いにくいだろうから待った方が良いな」


 《ビーちゃん達、俺達の前に居る大きいヤツの耳を、好きなだけ刺して良いぞ》


 《やったー》

 《いっちばーん♪》

 《反対側に行ってやるぞ》

 《おれは鼻の穴だー》


 「おい! 様子がおかしいぞ」

 「何か嫌がってないか?」


 「フラン、横を向いてるときに頭か心臓を狙え!」


 「はい!」・・・〈いっけー!〉 〈ゴン〉


 「おいおい、何か凄い音がしたが・・・」

 「あっ、よろけてるぞ」

 「フラン、もう一発行けー」

 「石頭みたいだから、心臓を狙え!」


 〈・・・ハッ〉


 今度は横腹にストーンランスが射ち込まれ、よろけて腰砕けになるが未だ生きている。


 「よーし、後は止めだ。落ち着いてやれ!」


 《マスター、大きいのが来てるよ》


 《大きいのって?・・・何匹居るの?》


 《一つだよ。でも毛がいっぱいで針が届きそうもないや》

 《此奴嫌い!》

 《巣を壊す奴だよ》

 〈鼻も硬いし耳も毛がいっぱいだから嫌い!〉


 《俺達の方に来てるの?》


 《そう、今こけた奴の反対側からだよ》


 おいおい、止めてくれよ。

 キラービーの巣を壊すやつって、ブラウンベアじゃ在るまいな。


 「やったぞ!」

 「フラン、良くやった!」

 「久々の大物だな」


 「静かに! 別な奴が居るぞ!」


 「よせやい」

 「まさか、こんな大物の側に別な奴だって」


 「ドラドさん、ここから覗いて見て。ブラックベアです」


 さっき(テイム)〔ブラックベア、74〕って出たから間違いない。


 「糞ッ、本当にブラックベアだ! 何でこんな近場に大物が二頭も居るんだ」


 「フラン、まだ行けるだろう」


 「やります!」


 「頭は止めた方が良さそうだぞ」


 「今度は一発で仕留めて見せます」


 「あれっ、倒れたホーンボアに向かってるぞ」

 「獲物の横取りかよー」

 「奴にとったら餌が転がっているのだからな」

 「フランに頼むぞと言っても、尻を向けられては不味いな」


 「尻にストーンランスを射ち込みなよフラン。怒って立ち上がったら向きなんて関係ないだろう」


 一つ頷いて口内詠唱を始め〈・・・ハッ〉

 深々と尻にストーンアローが射ち込まれて〈ギャオォォォ〉って、凄い雄叫びを上げて立ち上がった。

 〈・・・ハッ〉立ち上がったブラックベアの背中にストーンランスが吸い込まれて、ビクンとして動きが止まる。


 (テイム)〔ブラックベア、10・・・・・・〕

 (テイム)〔ブラックベア、4・・・・・・〕


 (テイム)〔ブラックベア、1・・・〕ご臨終の様だ。


 「死んだ様だよ。お目出度うフラン。一人前の土魔法使いだな」


 「有り難う御座います、シンヤさん」


 「良くやった。フラン」

 「おお、大物を連続して討伐とはな」


 背中をバンバン叩かれているので助けてやるか。


 「あんまりフランを叩かないで。キラービーが見たら襲われるよ」


 俺の言葉に動きが止まる。


 「そうだった。すっかり忘れていたぜ」

 「シェルターの中で良かったぜ」

 「もう居ないだろうな」

 「流石に三匹目なんて勘弁して欲しいぜ」


 「此奴はフランのマジックバッグに入れてくれ。俺のでは手足を切り落とさないと無理だわ」


 「入りますかねぇ~」


 手足を伸ばして倒れているので、フランの4-30のマジックバッグではキツそうだし、5-90はレブンに知られない方が良かろう。


 「フラン、お前のマジックバッグじゃキツそうだから、俺のマジックバッグに入れるよ」


 目配せして言うと、軽く頷いて「お願いします」と頭を下げる。


 「なんだ、シンヤはランク3以外も持っているのか?」


 「家宝のマジックバッグですよ。ランク5なので収まるでしょう」


 「ほう、大したものを持っているな」


 ホーンボアの前後の足を縛って引き寄せ、マジックバッグにぽい。

 ブラックベアはそのままで収まりそうなので、ポイすると収まった。


 「やれやれ、ブランウベアを狩りに来て、とんでもないのが獲れたな」

 「リーダー、此の儘ブラウンベアを探すのか」


 「ああ、一度戻ってなんて悠長な事をしていて、村に被害が出たら不味いからな。足跡のあった場所は後1日半の距離だ。食料はシンヤとフランがたっぷり持っているので、少々予定が延びてもいけるだろう」


 * * * * * * *


 二日目の昼過ぎに問題の場所に到着したが、日が経っているので足跡に落ち葉などが積もっている。

 周辺を捜索しても新たな足跡は見当たらず、夕暮れ前に捜索を中止する。

 翌日も周辺を捜索して回ったが手掛かり無し、夕暮れ前に木の枝に生肉を乗せてビーちゃん達にお食事を提供していると、ドラドさんから声を掛けられた。


 「なぁシンヤ、キラービーにお願いを出来るんだよな」


 「はい、助けてとか止めてなんて簡単な事なら」


 「ブラウンベアの捜索に、キラービーは使えないかな」


 相談と言いながら、俺が在る程度キラービーと意思の疎通が出来ていると感じての提案だろう。

 落ち葉の積もった足跡を追っても時間が掛かるだけで、足跡が途切れたらそれまでだ。

 ビーちゃん達にお願いして探させても良いが、それだと特定のキラービーを使役していると思われる。


 「明日の朝ビーちゃん達にお願いしてみますが、期待しないで下さいね」


 「ビーちゃん?」


 「あ~、キラービーって長いので、ビーちゃんて呼んでます」


 * * * * * * *


 朝食後、フランからホーンラビットを貰い解体する間に、ビーちゃん達にお仲間を探して呼んで来てと頼んだ。

 周囲の木々に切り刻んだ肉を載せて暫くすると《20号で~す。連れてきたよー》と聞こえてきて、直ぐに重低音の羽音も聞こえだした。


 「フラン、皆をシェルターに避難させて」


 「判った。ドラドさん、大群が来ますのでこっちに来て下さい!」


 フランの悲鳴のような声に慌てて集まり、間一髪でシェルターに包まれる。


 《マスター、帰りました♪》

 《マスター、お呼びですか~》

 《マスターだぁ~》

 《あっ、お肉がある~♪》


 《皆、お願いが有るのだけれど、先にお肉を食べてよ》


 《良いの~》

 《ありがとうなの~》

 《お肉~♪》


 重低音に包まれて腹に響くし、周囲が薄暗くなり周りはキラービーだらけだ。


 《41号で~す。お仲間がたくさん居たよ~》

 《6号、見つけました~♪ マスターにご挨拶だって~》


 おいおい、凄い数だが幾つの群れだよ。


 「おい、凄い数のキラービーだぞ」

 「フラン、奴は何時もこんな感じなのか」


 「何時もは数十匹ですし、群れが来ても此れほどの数じゃないですよ。それでも蚊柱のようになる数ですけど」


 「あの中に立っているなんて、正気の沙汰じゃねぇな」


 「今まで見た最大の群れですよ・・・お肉はあれで足りるのかなぁ」


 「ちょ、肉の心配か?」


 「何時も群れが来ると、お願いを聞いて貰ったお礼に肉を振る舞うんですよ」


 《お肉有り難うマスター》

 《何をするの~》

 《何処へ行くの~》


 《食べ終わったらこれを見てね》


 マジックバッグからブラックベアを取り出して置く。


 《あっ、毛玉やろうだ!》

 《此奴に巣を壊されたよ》

 《針が届かない奴だ》

 《マスターの使いなの?》


 《違うよ、討伐・・・死んでるよ。これと似た奴を探して欲しいんだ》


 《良いよ~、任せて!》

 《マスターのお願いはまかされるよ》

 《何処にいるの?》


 《お肉を食べた子から指差す方向に飛んで探してくれるかな》


 《行くよ~》

 《どっち? 指は?》


 《じゃー始めるよ。お日様が上に来ても見つからなければ巣に帰るんだよ》


 東に向かって指差し、ビーちゃん達が飛び始めたので時計回りにゆっくりと回っていく。

 俺の向きが変わっていくので東から南へ、西にと飛び去る方向が変化し北から東に戻って終わり。


 「凄い! シンヤの指差す方へとキラービーが飛び去っていくぞ」

 「あれで、キラービーを使役していないと言われてもなぁ~」

 「あの数を使役出来たら無敵だぞ」


 「ドラドさん、蜂を使役出来るテイマーなんて居るのですか?」


 「聞いた事が無いな。テイム出来るのは動物だけとは聞いたがな」

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