第27話 嫌がらせ

 思った通りだ、クーちゃん達を解放してもクーちゃんから貰った能力の木登りは消えていない。

 ゴブリンとホーンラビットをテイムして直ぐに解放したときに、能力と末尾の数字の関係が気になっていたんだ。


 クーちゃんとビーちゃんの数字が減り、消滅しても何の変化も無かった。

 とすれば、テイムした時に選択した木登りや毒無効に関係が有るはずだと思ったが、正解のようだ。

 流石に悪食や突撃で試す気にはなれなかったからな。


 クーちゃん達を解放して、周囲をぐるりと回ってそのまま何もせずに街へ戻ったので、ドラド達が不思議そうにしていたが何も言わなかった。


 二日程で大量の食料や調味料等を仕入れてから、ドラド達と共にオシウス村に向かった。

 ザンドラの南門から出てタンザス街道を1日歩き、そこから東に向かうが荷馬車がやっと通れるような道で、オシウス村がどん詰まりだと聞いた。


 ドラド達は村では中堅クラスらしいが、それでもウルフやドッグ系なら軽く討伐出来るらしい。

 ドラドが〔オシウスの牙〕のリーダーで、ヤンス、ゴルヘン、ユージン、ゼブルの五人。

 上位クラスは討伐で他の村に行っていて、当分戻れないそうだ。


 野営の時にドームを作り、俺達が野営用の簡易ベッドを出すと呆れていた。


 「何と、二人ともマジックポーチ持ちか」

 「それもシンヤの短槍から見て、ランク3か」

 「稼ぎが良いのは判ったが、どうやってだ」


 「これもシンヤさんのお陰ですよ。命を助けて貰ったし、拉致されていた豪商のお孫さんを助けたら、マジックポーチと大金が手に入りましたからね。それに魔法の手ほどきもして貰い、出会った時が本格的な狩りを始めたばかりでした」


 「ちょっと詳しく話せよ」

 「豪商の孫娘だって?」

 「それは詳しく聞かないとな」


 娯楽の少ない世界なので、フランの話に喰いついて来た。

 詳しい話はフランに任せて、一人お茶を楽しむ。

 フランは俺との出会いと、6人の冒険者に追われて俺と出会ったときから話し始めた。


 長くなりそうなので、一人野営用結界に籠もり先に眠らせて貰う。

 幾らフランの知り合いだとは言え、見知らぬ他人と一緒に寝る度胸はない。

 数日もすればある程度の人となりは判るだろうから、それまでは一人で寝させてもらう。


 * * * * * * *


 フランは俺との出会いから話し始めたことを後悔したが、すでに手遅れで根掘り葉掘り聞かれて音を上げていた。

 ミーナとハンナ婆さんを連れて逃げ出したところで、続きは明日しますので寝かせて下さいと泣きを入れた。


 俺は爽やかな目覚めだが、フランは寝不足のご様子。

 ドラド達の俺を見る目が昨日と違うのは、襲って来た賊は皆殺しになった顛末を聞いたからだろう。


 歩きながら話の続きをさせられて、げっそりした顔になっているがマジックポーチを貰った事や、謝礼の金額を聞こうとしない。

 この辺は幾ら年下の見習い相手とは言え、家族以外は口を挟まない礼儀を守っていて好感が持てる。


 陽が傾き始めた頃にオシウス村に着いたが、周囲を頑丈な木柵に囲まれ家も頑丈な造りでザンドラとは大違い。

 フランは歓迎されているが、見知らぬ俺は遠巻きにされてボッチ状態。

 早速ブラウンベアの状況確認と討伐の打ち合わせが始まり、俺はただの見物人なのでお先に失礼する。


 冒険者の泊まる小屋の外を借り、野営用結界を張ると案内してくれた男が呆れている。


 〈ド新人で、役立たずのテイマーが何であんな物を・・・〉なんて呟きが聞こえて来る。

 まさか、岩に見える野営用結界が、外が丸見えで声も聞こえているとは知らない様だ。

 暫く結界の回りを彷徨き見物していたが、ただの岩に見えて動きもしないので飽きて帰って行った。


 彼が去ると別口がやって来て、珍しそうに眺めたりさすったりと煩い。

 好い加減鬱陶しくなり、煩いから静かにしろと怒鳴りそうになった頃、入れ替わる様にガキの集団が現れた。


 〈これか、なんちゃらの結界ってやつは〉

 〈おう、フランが連れてきた奴らしいな〉

 〈ドラドさん達も、役立たずのフランなんか連れ戻してどうする気なんだろうな〉

 〈レブンさんの火魔法の方が凄いのに、なんで腰抜けを連れていくんですかね〉

 〈俺もブラウンベア討伐につれて行ってもらえるので、実力差を見せつけてやるよ〉

 〈しかし、奴の仲間がテイマーとはねぇ〉

 〈それも能力最低らしいですよ〉

 〈それじゃー、フランとお似合いのコンビだな〉

 〈討伐から帰って来たら、少し甚振っておきますかね〉

 〈俺達よりでかい顔をしたらどうなるのか、もう一度教えておきましょうや〉


 なる程、フランが魔法のあれこれを教えたら喜ぶはずだし、8対1じゃ勝ち目は無いもんな。

 村に居ても魔法の腕は上がりそうに無いし、こんな連中と狩りに行っても囮にされかねない。

 腕を上げたければ、外に出て修行するのが手っ取り早いからな。

 荷物持ちに使おうとする奴等や、奴隷狩りの連中は予想外だっただろう。


 こいつ等は、俺のテントに花火を射ち込んだ連中と似たような性格の様だ。

 でかい顔はしないが、喧嘩を売ってくるのなら相応の返礼はしてやるからな。


 と思っていたら、ズボンの前をまさぐり、小さな物を引き摺り出して小便を始めやがった!

 此の男、許すまじ!


 * * * * * * *


 相変わらず寝不足気味のフランが起こしに来たが、昨日の小便組の奴も付いてきている。

 人の顔をジロジロ見て値踏みしている表情は、ゲーセン当たりに屯するチンピラそっくりでフランも不快そうだ。


 「お早うフラン、あんたは?」


 「あ~ん、俺か? 俺は炎のレブンって者だ。ブラウンベア討伐に行くが、お前達二人は俺の邪魔をするなよ」


 炎のレブン、自分で二つ名を名乗るのか。

 火魔法なら、豪炎のオーウェンみたいな格好いいやつにしろよ。

 ギルドを追放されて手配犯になるけどな。


 「何がおかしい!」


 「ああ、御免ねぇ~。自分で二つ名を名乗る奴に初めて会ったからさ」


 「お前、レブンさんを馬鹿にしているのか!」


 「いやいや、強そうな人には逆らわない性格なんですけど・・・」


 「レブンもヘラルドも、シンヤに絡むのは止めた方が良いぞ。ドラドさんから話を聞いて無いのか?」


 「聞いたさ、能力1の最低のテイマーでお前のお友達だってな」

 「弱い奴同士中が良さそうだな」


 「どう見ても四つ五つ年上に見える奴が、年下を虐めるのに一人じゃ出来ないって情けないと思わないのか」


 「何を! 糞ガキが舐めた口を・・・」


 「お前達何をしている! 出発するぞ」


 「シンヤさん、行きましょう」


 「待て! お前達荷物はどうした!」


 「煩いよ、荷物は持っているから気にするな。行こうぜフラン」


 「マジックポーチを持っているのなら、俺の荷物も持て!」


 「生憎ランク1のマジックポーチなんで無理! お前の荷物なんて入れたら、食料無しで歩く事になりそうだから断る!」


 へらっと笑って断ると後ろで喚いていたが、完全無視をする。


 ドラド達五人とフランと俺に、炎のレブンちゃんでブランウベア討伐に出発したが、呪詛の声が聞こえるような目でレブンに睨まれっぱなし。

 斥候のヤンスを先頭に、リーダーのドラド、フラン、レブン、俺と続く。


 背負子が重い振りをして時々前のフランを突き飛ばしたり、足に短槍を絡めて転ばそうとするレブン。

 何時もならフラン一人なので、好き勝手に嫌がらせが出来たのかも知らないが、今日は俺が後ろから見ているのを忘れている。


 《近くに居るのは?》


 《42号です》

 《28号も居るよ》

 《3号も》

 《マスター、1号にお任せー》


 《では1、3、28、42の順で、俺の前を歩く奴の顔に体当たり。1号は鼻を3号はほっぺを刺して良し! 28と42は頭を刺してやりな》


 《1号、行きます!》

 《3号も行くぞー》

 《頭かぁ~》

 《28号、競争だ!》


 〈ブン〉と聞こえた時には〈痛てっ〉とレブンの声が聞こえて、直ぐに手を振り回したがほっぺから3号が飛び去る所だった。

 羽音が消えてホッとしているレブンの頭に、衝突する様にぶち当たり飛び去るビーちゃん達。


 〈あ、ああぁぁ〉


 「どうした?」レブンの声にドラドが振り返る。


 「蜂を怒らせた様だよ」


 「お前にレブンが何かしたのか?」


 「違うよ。レブンがフランに嫌がらせをしているので怒った様だね」


 「フランに・・・フランはテイマーじゃないぞ」


 「フランは俺と半年以上も行動を共にしているんだ、時々餌も貰っているのでキラービーも彼を襲わないし、守っているんだろう」


 「そんな事が・・・」


 「まぁ、後ろから小突いたり足に槍を絡めて転ばそうとしたり、年上なのに姑息だよねぇ~」


 「おまえは、共に狩りをする仲間にそんな事をしているのか。命を預ける仲間にそんな事をすれば、いざという時に見捨てられるぞ」


 頭を抱えて呻くレブンは、ドラドに叱責されても痛みで返事も出来ない様だ。


 「痛そうだな。俺が止めてとお願いしたからその程度で済んだが、余計な事をすると死ぬよ」


 「お前が遣らせたんだろうが・・・覚えていろよ」


 「蜂が命令を聞くと思ってるのかよ、馬鹿にも程があるな」


 「シンヤさん、此の儘じゃ足手まといになりますので、毒消しポーションを飲ませますよ」


 「仕方がないね。熊さんから分けて貰った、美味しい奴を飲ませてやりなよ」


 「勿論です。不味さはシンヤさんのお墨付きのやつね」


 う~思い出した、余計な事を言いやがって。

 青臭くて苦く、渋柿の汁を混ぜたように舌がざらざらになる気持ち悪さ。

 青黒く腫れ上がった鼻とほっぺにポーションを滴して、残りを手渡している。

 頭に振り掛けて遣らないのは、フランの意趣返しなのかな。

 ふらふらになっているので、仕方なくレブンの荷物を俺が預かる事にした。

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