第166話 オークションの下見
ドラゴンを、王都冒険者ギルドに持ち込む日を伝えてきたので、使者に引き渡し方法変更の書状を持たせて帰した。
引き渡し当日は王家の担当者と収納持ちが午前中にギルドに出向く。俺は一人でギルドの解体場裏口から中へ入り、担当者と解体主任立ち会いの下でドラゴンを引き渡し、代金の受け取りは当初の予定通りに変更した。
俺の名が知れ渡っても、ドラゴンをギルドの解体場に運ぶのは王家の収納魔法持ちって事にして、俺の所へ来てもドラゴンは無い建前だ。
しかし、こうなると皆の身の安全というか、騒ぎに巻き込まれない工夫が必要になる。
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王都冒険者ギルドは、ロングドラゴンのオークション開催を発表した。
参加資格は現金一括支払いは当然だが、参加資格に金貨10枚と落札されたドラゴンを、当日そのまま引き取るかギルドに解体を依頼するかの二択とした。
オークション会場には持ち込めないので、開催前日に王都冒険者ギルドにて下見できるが、見学の為の資格が金貨10枚という訳だ。
そうでもしなければ見学者が冒険者ギルドに殺到しかねないので、その為の予防策と収入増を狙った方法だ。
王都冒険者ギルドより、本格的なドラゴンのオークション開催が告知されて、沸き立つ王都ラングス。
前回のドラゴン討伐に際しては、各ドラゴンの肉が少数オークションに掛けられたが、競り落とす事が出来たのは極少数だ。
今回はロングドラゴン丸々一匹なのだ。
ドラゴンの肉は王家の晩餐会や各国への贈答に使われた為に、肉の美味さのみが伝わっていたのでオークション開催は格好の話題となった。
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ロングドラゴンのオークション開催が発表された三日後、王国の馬車のお迎えを受けて王城に向かった。
今回はRやLはもとよりミーちゃんの護衛もなし。
王城に到着しても馬車は泊まる事なく走り続けて、だだっ広い所に壁が立っているだけの所で止まった。
ブライトン宰相と補佐官が並び、背後に控える男達が選ばれた魔法使い達の様だ。
「やあ、良く来てくれた。彼が魔法部隊のビーカス部隊長だ。彼に君の考えを教えてやってくれないか」
むっつり顔の男は、チラリと宰相の顔を見てから俺を見て「指示をお願い出来ますかな」と腰の後ろで手を組み、胸を張って言ってくる。
面倒そうな男なので各攻撃魔法使いと結界魔法使いに分けて貰う。
次いで土魔法使いと結界魔法使い達に、防壁の前に3m間隔で障壁を作って貰い火魔法、氷結魔法、雷撃魔法使い達に障壁を撃ち抜いて貰う。
土魔法使いには結界の障壁を攻撃して貰う。
攻撃に耐えた障壁の制作者を順に並べ、次いで壊れ具合の少ない者から後に続いて並ばせる。
壊れなかった障壁を作った者に壊れた障壁の前に新たな障壁を作って貰う。
そうして残りの攻撃魔法使い達に攻撃させる。
障壁を壊せた者と、耐え抜いた障壁の制作者を選出する。
壊れなかった障壁を、火、氷、雷。土魔法の順に各三回攻撃させる。
合計12回の連続攻撃に耐えた制作者から順に並べて隣の者を覚えさせる。
そして障壁を撃ち抜いた攻撃力の高い者も順に並べる。
「宰相閣下、宜しいですかな。此れがドラゴン討伐に何の役に立つのですか? 部隊の者を横一列に並べて一斉射を浴びせれば、技量の上がった魔法使い達にとって、ドラゴンと謂えども敵わないでしょう」
ブライトン宰相が困った様に俺を見る。
「貴殿は何の資格が有って我々を試すのか、我が王国の魔法部隊は精鋭揃いで・・・」
長くなりそうなので、王の威圧を浴びせて黙らせる。
「御託はいいよ。魔法部隊の部隊長なら俺に実力を示してくれ。優れているのなら黙って引き下がろう」
お~お、額に青筋が浮かびピクピクしているぞ。
「宰相閣下、伯爵家の一員たる我が・・・」
「御託はいいと言っているだろう。そこに立つ障壁を撃ち抜いてみろよ。出来ないのか?」
へらっと笑ってみせる。
無頼の冒険者を散々揶揄ってきた口撃に、ドスドスと足音荒く障壁の前に立ち〈我が守護神、アインスの力を示してそれを打ち砕かん・・・ハッ〉〈ドーン〉
音は大きいが障壁には傷一つ付いていない。。
〈フッ〉と部隊長に聞こえる様に鼻で笑い、壊れずに立っている障壁をアイスランスの連続攻撃で全て打ち砕く。
何が起きたのか理解出来ずに、ポカンと間抜け面を晒す部隊長に追撃の一言。
「最低でも、壊れなかった障壁を壊せる程度の実力が無ければ、ドラゴン討伐の役に立たないんだよ。お前のは対人戦にしか使えない役立たずだ。身分を口にするより腕を磨け!」
壊れなかった障壁をいとも簡単に打ち砕かれて、顔が引き攣っている土魔法使い達に新たな的を作らせる。
但し障壁は幅20cm高さ2mと指定して、その上に30cm角の箱を作って置かせる。
3m間隔で並んだ10個の的に、35mの距離から攻撃力上位10名を指名して攻撃させる。
一発で当てた者は一名で柱に当たって落ちた者が二名、残った的をアイスランスの速射で打ち砕いてみせる。
静まりかえる魔法使い達に、タンザに送られた者達の事を教える。
「貴方達のお仲間で魔法の上位者達が、ドラゴン討伐の為にヒュルザス、タンザ、クリュンザへ派遣された。特にタンザには精鋭が送り込まれたが、結界魔法使い二名、土魔法使い二名氷結と火魔法使いが各一名の六名のみがドラゴン討伐が可能とみなされた。それも冒険者達の支援を受けての話だ。貴方はドラゴン討伐どころか野獣の現場に連れて行っても、足手まといにしかならないし闘えば全滅必至だ。先程色々と試したが、ドラゴン討伐に参加した者には遠く及ばない。特に部隊長、25m程度の距離からしか攻撃出来ないのなら、オーク程度しか闘えない」
おっ、今度は顔が真っ赤になったぞ。
「ブライトン宰相、訓練場での能力向上も大事ですが、野獣討伐の実戦訓練を徹底した方が宜しいですよ。最低でもベア類やタイガー類と、正面切って向き合える度胸がないと厳しいですからね。後はドラゴン討伐に参加した者達を基準に、能力別に分けて訓練して下さい。それと、指揮官は肩書きを誇るような奴は除外してください」
「有り難う。君の教えには感謝する」
* * * * * * *
オークション二日前、冒険者ギルドの正面に王国の紋章入り馬車が、横付けされた。
解体場入り口はギルド職員によって閉鎖されていて、誰一人として解体場へは入れない。
王家の担当者を迎えたのはギルマスとサブマスで、王家の担当者と空間収納持ちの男を案内して解体場に入る。
俺は王家の馬車が到着したのをミーちゃんから教えてもらい、解体所の裏口から壁抜けの要領で中へ入る。
ドラゴンの搬入口となる裏口は、中で解体係の者が見張っていて、突如現れた俺に驚いているが話は通っている様で驚いただけだ。
解体場へ入って来た担当者とギルマス達をみて、ドラゴンの置き場所を確認する。
タンザのギルド分、ロングドラゴンをドンと出すと皆が驚いていたが「お前は空間収納持ちなのか」とギルマスが驚いた様な声を出すが、肩を竦めただけで返事はしない。
担当者がロングドラゴンと記された受取書を差し出したので、礼を言って受け取り、裏口から壁抜けの要領でおさらばする。
* * * * * * *
最初のロングドラゴンの引き渡しが終わったその夜には、王都の冒険者ギルドにドラゴンが持ち込まれたと噂が広がった。
そうなると、タンザから帰るなり書状を出したりブライトン宰相が訪ねて来たりした俺に、目を付けたのがマークスだ。
居間で寛いでいる時に「あの噂はお前か」と聞いてきたので、黙って肩を竦めておく。
「俺に会いたいって奴が押し掛けてきたら、用件と氏名や住所を書かせ、返事は後ほどと言って追い帰してくれ」
「返事をする気は無いのだろう。次ぎに来た時はどうするんだ?」
「ん、叩き帰すよ。それで駄目なら・・・」
にっこり笑って再び肩を竦めておく。
* * * * * * *
ドラゴン公開当日、王都冒険者ギルド前は長蛇の馬車列で身動き出来ない有様で、急遽低ランクの冒険者達を誘導係に雇って大忙し。
ギルドの入り口は案内係の冒険者達が塞ぎ、大勢のお供を連れての入場はお断り。
お供は一名のみで、解体場入り口にて入場料金貨10枚を支払うと入場を許される。
血の匂いが染みついた解体場に入ると、ロープが張り巡らされていて中へ入るのは厳禁だが、周囲から自由にドラゴンの状態を確認出来る様になっていた。
ロングドラゴンの頭の所には説明係の冒険者が立ち、口を棒で支えて半開きにしたドラゴンの説明をする「このドラゴンは口内に火魔法を撃ち込まれて討伐されました」と声を張り上げている。
その声を聞き、口内を覗き込む見学者に「当ドラゴンのオークション一ヶ月後に、テラノドラゴンのオークション開催を予定しております」と続けて叫んでいる。
それを聞いたオークション参加予定の見学者達は、以前王城から冒険者ギルドへドラゴンが運び込まれた経緯を思い出し、複数頭のドラゴンが討伐された噂が本当だと理解した。
噂ではタンザの西、名も無い村から斥候に出た若いテイマーが帰って来て、村の広場に複数のドラゴンを並べたとの事。
その数は3、4頭から7、8数頭とあやふやだが、ドラゴン討伐を受けタンザの防衛の為に、王国が魔法部隊を送り込んだ話は有名で有る。
その後ドラゴン討伐の噂は聞こえてくるのだが、正確な事は判らなかった。
だが今、テラノドラゴンの話が出たと言う事は、複数のドラゴンが討伐されたのは間違いない。
次回のオークションはテラノドラゴンだという事は、ロングドラゴンは一頭のみなのでどうすべきか。
ドラゴンハウスに展示されているドラゴンを思い出して、ロングドラゴンのオークション価格の胸算用を始める者が多数いた。
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