第167話 王家お買い上げ

 ロングドラゴンから始まり、テラノドラゴン、アーマードラゴンとオークションは20日~30日の間隔で開かれて、ウィップドラゴン四頭を引き渡した時に、強制招集が終わったと教えられた。

 ウィップドラゴン四頭のオークションは、参加者全員が皆一頭を望んだ為に、参加者が残り四人になった時点で終了と決まった。

 次のクリムゾンスネークでオークションも終わりかと話題になっている時に、フラン達オシウスの牙を含むドラゴン討伐組が俺の家にやって来た。


 「お前の家が替わったと言っていたが、変わりすぎじゃねえの」

 「此れは家じゃなくて、お屋敷だな」

 「あんた、ドラゴン討伐でお貴族様にでもなったの?」

 「シンヤさん、流石に此れはやり過ぎでしょう」


 「ミレーネ様が、伯爵になれた礼に家をくれるっていうので、お礼を言っておいたのさ。そしたら、家が見つかったと言われて見に来たら此れだよ。あ~、部屋はムラードに聞いて好きなところを使ってくれ。例の物は、漸く斥候で討伐した物の最後の物が、もうすぐオークションに掛けられる」


 「何でそんなに時間が掛かるんだ?」


 「大きさを考えてよ。斥候で討伐したのがロングドラゴン、テラノドラゴン、アーマードラゴン、ウィップドラゴン4頭にクリムゾンスネークとスコーピオンだよ。一頭オークションに掛け、落札されても持ち帰れる者がいないので解体となる。片づけが終わって次の奴をギルドに渡す。そしてオークション、俺の腹の中でドラゴンが腐りそうだよ」


 「腹黒いあんたなら、ドラゴンが腐ってもお腹を壊す事はなさそうね」

 「腹痛を起こしても、自分で治せるから大丈夫よ」

 「すると俺達の稼ぎは当分お前の腹の中って事か」


 「取り敢えず、各パーティーと言うより各人に、金貨500枚を渡しておくよ。言っておくが、タンザの索敵依頼分は高値で落札されたが、此れからもドラゴンがオークションに出て来ると知ったら、落札価格はぐんと下がると思うよ」


 「タンザの分はどれくらいで落札されたんだ?」


 「ロングドラゴンが金貨6,388枚、テラノドラゴンは金貨5,421枚、アーマードラゴン5,147枚、ウィップドラゴンは一頭1,046枚×4=4,184枚で、合計21,140枚だな。後はクリムゾンスネークとスコーピオンで終わりだけど、スコーピオンは展示用だな。スネークはお肉が絶品と評判だから、期待が持てるね」


 メモ用紙を見ながら説明する。


 「ギルドが1/3ピンハネして残りが・・・」


 「約14,100枚だな、これにオークション手数料20%を引かれて11,280枚少々って所かな」


 「え~え~と、金貨21,140から11,280を引くと・・・9,860枚ってぼったくりじゃねえか!」

 「ギルドって儲かるのねぇ」

 「今回は王家の治癒魔法師が活躍したので、死傷者の数がぐっと少なくて補償費が少なく済んだから余計だぜ」

 「瀕死の者や重傷者も、凄腕の治癒魔法師がホイホイ治すもんだから、皆恐れずで討伐に向かったからなぁ」

 「あの凄腕の治癒魔法師もあんたの知り合いなんですって?」


 「ああ、此の家の警備と使用人達の護衛を担当しているマークスの娘だよ」


 「で、あんたが手ほどきをしたって訳ね」

 「それよか、美味い酒とつまみは無いのか?」


 「メイド長のカレンにご馳走をお願いしているのでもう少し待ってよ」


 「シンヤさんって大金持ちなんですねぇ」

 「何で冒険者をしているんですか」


 ホーキンやフェルザン達が興味津々で聞いてくるが、フランと顔を見合わせてしまう。


 「冒険者登録はフランと一緒になったけど、二人ともオケラに近い状態のペエペエだったぞ。その後でフランと再び会った時に一悶着あって運が付いてきたってところかな」


 「あれは一悶着どころじゃないですよ。何度死にかけた事か」


* * * * * * *


 魔法部隊副隊長に連れられてブライトン宰相閣下にお目通りして、ドラゴン討伐の功績を認められて、お褒めの言葉を貰い感激。

 その後侍従に導かれて広く豪華な部屋へ通されると、壁際に近衛騎士が居並ぶ部屋で横一列に並ばされ、「国王陛下です」の言葉に」慌てて跪いた。


 「その方達はドラゴン討伐に際し、ウィランドール王国魔法部隊の一員として優れた力量を示した」


 跪く俺達に、再び宰相閣下の言葉が聞こえ、頭を下げた俺の肩に何かが置かれた。


 「汝、ケイオス・デェルゴに男爵位を与える」


 えっ・・・何を?


 「ケイオス、陛下にお礼を」


 宰相閣下の言葉に頭が混乱して何が何やら・・・


 「良い、此からも励めよ」との言葉に思わず頭を下げた。


 隣の奴も「・・・・デェルゴに男爵位を」と聞こえたので、俺達はドラゴン討伐の功績を認められて男爵になったのだと判った。

 夢見心地で宰相閣下の執務室に戻ると「君達は王国魔法部隊の一員として、初のドラゴン討伐の功績を認められ、一代限りではあるが年金貴族として男爵位を与えられた。家名は勝手ながら、ドラゴン討伐の地を付けさせてもらった」とのお言葉。


 隣りに控えていた副隊長は、魔法部隊の部隊長昇進が伝えられている。


 * * * * * * *


 宴会翌日、二日酔いの皆を連れて商業ギルドへ出向き、商業ギルドの会員証を持つ者には俺の口座から金貨500枚、50,000,000ダーラを振り込ませる。

 会員証のない者にはカードを作って貰い、そこへ金貨500枚を振り込ませた。


 29人の口座に、金貨500枚ずつ移動させたので残高確認をお願いした。

 俺の口座から金貨14,500枚、1,450,000,000ダーラと、大金の移動に係員も慌てている。

 差し出された用紙には4,160,720,000-1,450,000,000=2,710,720,000ダーラの数字。

 思っていたより遥かに多いので入出金を見れば、毎年金貨4480枚、448,000,000ダーラが振り込まれている・・・花蜜や蜂蜜とコールドマッシュの代金だ。


 家の維持に掛かる費用が無いし、別途必要な金は俺の懐から出していたので見ていなかったが、ちょっと多過ぎる。

 此処で空間収納から王家の紋章入り革袋を出したらどんな顔をされる事やら。

 確か、15,000枚少々の金貨が残っているはずだが、懐の中で眠っていてもらおう。


 「大金が入ったけど実感がないわね」


 「俺の懐で眠っている奴を処分すればもっと増えるよ」


 「私はファンナだけで満足していたんだけどねぇ」

 「私だって魔法が上達するのが嬉しくて・・・」

 「まっ、シンヤと関わったお陰で食うに困る事はなくなったな」

 「だな、こんな事になるとは夢にも思わなかったぞ」


 「俺達は目立っている様だから出ようか」


 カウンターの中は大金が動いて事務処理に右往左往しているし、俺を含めて30人の冒険者は目立ちすぎる。

 俺の言葉に皆も気付き、そそくさと商業ギルドを後にした。


 * * * * * * *


 タンザのギルド分の処分が終わった翌日、又もブライトン宰相の先触れの訪問を受ける。

 ムラードの「如何致しましょうか」の声に、居間に居た者達が一斉に俺を見る。


 まぁ、先触れの奴が俺一人ではなく「皆様方と」言ったものだから無理もないか。


 「あんた、私達に立て替えた金貨だけでも凄い額だったのに、宰相様が尋ねてくるって・・・」

 「いったい何をやったの?」

 「それを聞いて、しれっと「明日の午前中なら」なんて言ってやがる」

 「でも何で俺達もなんだ?」

 「まさか、王国で雇おうなんて言い出さないよな」

 「シンヤさん、跪かないと不味いかな。又怒鳴られたりして」


 「フランは相変わらずだな」


 「シンヤさん絡みで最初からぶん殴られてますからね。シンヤさんと貴族様が絡むと、碌な事がないのをよーく知ってますから」


 「それじゃ、明日は宰相と会う時は、俺の後ろに控えていればいいよ。俺が跪かなけりゃ素知らぬ顔をしているんだね」


 「そんな事をして、手打ちになんてならないでしょうね」


 「此れだけの戦力を相手に、ごり押しして来ると思う」


 「これだ! シンヤって意外と喧嘩っ早いからな」

 「そうそう、それに時々キツい皮肉も言うからな」

 「お漏らし君なんて言われた奴は、未だに陰でそう呼ばれているぞ」


 * * * * * * *


 一夜明けたら皆そわそわと落ち着かない。

 そんな彼等を見て、マークスがニヤニヤと笑っている。


 家令のムラードに案内されてブライトン宰相がやって来たが、お供は補佐官一人で護衛達は玄関フロアで待たせている様だ。


 「待たせたかな」


 「いえいえ、それよりも皆を集めて何の御用ですか?」


 「ドラゴン討伐に関し何の報酬も約束していなかったので、君達に預けたマジックバッグを進呈するよ。使用者登録も登録者制限も其方でしてくれたまえ」


 後ろで嬉しそうな騒めきが起きているので、黙って頭を下げておく。

 しかし、俺はマジックバッグが又増えてしまった。


 「君達に集まってもらったのは他でもない。君達が討伐したテラノドラゴンとアーマードラゴン、それとスネークをそれぞれ一匹、王家に譲ってもらいたいのだよ。勿論オークション価格に幾許かは上乗せをさせてもらう」


 オークションの手数料抜きの価格なら大歓迎だがと振り向けば、皆一斉にコクコクと頷いている。

 満場一致なら断る理由がない。


 「引き渡し時期はどうします?」


 「タンザ冒険者ギルド分の、処分が終わった後でどうかな」


 「判りました。クリムゾンスネークのオークションが終わり、ギルドの解体場が空になったら引き渡しますので、解体依頼は王家の方でお願いします」


 「それは任せてくれたまえ。王家引き取り分の解体が終われば、残りのドラゴンのオークションを続けてくれれば良い。なにせドラゴンを丸々持って帰って来たのは君達の分だけだからね」


 「ヒュルザスとクリュンザでもドラゴンが見つかったのですか」


 「君達の報告を受けて、志願者を募って奥地へ送り込んだよ。君達が鍛えてくれた魔法使い達と共にね。幾許かのドラゴンを討伐出来たが、持ち帰れる者がいないので現地で解体しているそうだが」


 そう言って宰相が首を振る。

 ドラゴン解体の経験者は極少数なので、ドラゴンのミンチになっていなけりゃ良いがと思ってしまった。


 空間収納持ちの能力拡大なんて、どうやれば良いんだろ。

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