第7話 キラービー軍団

 「刺激しない様に、ゆっくり離れましょう」


 「一匹だけだし、捕まえられないかな」


 「弱ったこいつ等を狙って来たようですから、もう少ししたら仲間を連れて来ますよ」


 「今なら一匹だけだし、殺さない程度にたたき落とせないかな」


 「出来ますけど、どうするんですか?」


 「もしもテイム出来たら、最強の武器になるだろう」


 「ちょっと待ってて下さい。薬草袋を用意しておいて下さい」


 そう言ってフランが細い樹の枝を集め出すと、全ての葉を落として荒い箒の様な物を作った。

 転がって呻く男達の回りを跳ぶキラービーに慎重に近づくと、男の周囲を旋回している時を狙い、上から素速い一撃を加える。

 地面に落ちた蜂を素速く薬草袋で押さえて丸め、寝ているクーちゃんを拾い上げると急いでその場から離れる。


 丈高い草叢で周囲から見えない場所に野営用結界を設置して一息つくと、キラービーが死んでないか確認する。

 と言っても(テイム)〔キラービー・4〕死んでないので包んだ上から軽く叩き(テイム)〔キラービー・2〕

 もう一度慎重に叩き(テイム)〔キラービー・1〕となった。


 さて二柱の神様の加護?が有ればテイム出来ると思うので試させて貰おう。

 (テイム・テイム)〔キラービー・50-1〕と頭に浮かび、クーちゃんと同じ様に光りの紐で繋がったのでテイムは成功の様だ。

 これで複数種をテイム出来る事が確認出来たし、キラービーなら機動力も攻撃力も高そうだ。

 次は名前だが、呼びやすいビーちゃんに決定。


 《聞こえるかな?》


 《はい、マスター》


 《袋から出してあげるけど、飛んじゃ駄目だよ。それと名前はビー1号ね》 《はい、ビー1号ですね》〔ビー1号・50-1・複眼、毒無効〕


 おっ、今度は複眼と毒無効か、飛行能力なんてのは無いのかな。

 すぐに頭から消えたけど、これもあまり試したくないのでスルーしておくか。


 《ビーちゃん、この指に止まってくれるかい》


 《はーい》返事とともに鈍い羽音を立てて浮き上がると、立てた人差し指にふわりと止まった。

 ふと気になって(テイム)〔キラービー・7〕1だったのが7になってるって、テイムしたら回復するのかな。

 ティナに聞かなきゃ判らないだろうし、加護って事にして忘れよう。


 「へえぇぇぇ。テイムしている所を初めて見ましたけど、凄いですねぇ~」


 「街に行こうと思ってたけど、今日一日付き合ってくれないか」


 「何をするんですか」


 「キラービーを増やすんだよ。こいつが数十匹いれば、昨日の様な奴等を恐れる必要はなくなるからね」


 「数十匹って・・・そんな事が出来るんですか」


 「それを今から試すんだよ待ってな」


 一度結界の外に出ると草の穂から綿毛を少し取ってきて、それをビーちゃんの足に付ける。


 「いいかな、この綿毛の付いているのがビーちゃん。今からこの子を放して仲間を呼んでこさせるので、綿毛の無い方を叩き落として薬草袋を被せる」


 「それをテイムするのですか」


 「一々探しに行かなくて済むだろう」


 「本当に出来るんですか?」


 「だから試すって言っただろう。一つ聞いておくけど、キラービーにどれ位刺されたら死ぬの?」


 「いまさらそれですか。人に依るそうですが、普通は数匹から十数匹だそうです。それこそ一回刺されただけで、死ぬ人もいると聞いてますが」


 早く言ってよ! でも毒自体はクーちゃんの方が強力な様だな。


 掌を見て(スキル)

 〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護、ティナの加護、生活魔法・魔力8/10、索敵初級、気配察知初級、隠形初級〕

 〔ポイズンスパイダー、50-1、複眼、木登り、29〕

 〔キラービー、50-1、複眼、毒無効、30〕


 クーちゃんの30が29に変化しているので、テイム出来る日数か寿命か。

 ビーちゃんも最後の数字が30となっているし、昆虫が成虫になってからの寿命って知らないので0になるのを待つしかない。


 スキルでテイムした能力を確認したが、複眼・木登り・毒無効はラノベでは使役者が能力を共有できる事だった筈なので、木登りと毒無効を選んでみる。


 〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護、ティナの加護、生活魔法・魔力8/10、索敵初級、気配察知初級、隠形初級、木登り、毒無効〕

 〔ポイズンスパイダー、50-1、複眼、木登り、29〕

 〔キラービー、50-1、複眼、毒無効、30〕


 俺の能力に木登りと毒無効が付いているので、テイムした物の能力が使えるって事だろう。

 これで万が一蜂に刺されても死ぬことはなさそうだ。

 ビーちゃんを連れて結界の外に出ると《仲間を一匹だけ呼んで来れるかな?》

 《沢山じゃなく?》


 《そう、一匹だけね。ビーちゃん一人じゃ寂しいだろうから、仲間を増やそうと思ってね》


 《呼んで来ま~す♪》ブーンと鈍い音をさせて空に舞い上がって姿が消えた。


 「フランは、ビーちゃんが連れて来たキラービーを叩き落としてよ。俺の考えが間違っていなければ、キラービーを数十匹を使役できるから楽になるぞ」


 「数十匹もですか」


 フランの呆れた様な声が聞こえたが、成功すれば50匹のキラービー軍団になる。

 周囲を警戒しながら暫く待つと、鈍い羽音が聞こえてきた。

 足に綿毛を付けたビーちゃんが、一匹のキラービーを伴って俺の周囲を旋回する。


 《ビーちゃん、俺の前に浮かんでよ。合図をしたら急いで離れるんだよ》


 《はーい。何をするんですかマスター》


 《離れたら呼ぶまで来ちゃ駄目だよ。判ったかな》


 《判りました。マスター》


 二匹のキラービーが俺から少し離れた所でホバリングすると、フランが蜂の背後で構える。


 《離れて!》


 俺の掛け声と共にビーちゃんが急上昇し、ビーちゃんの姿が消えると同時にフランがキラービーを叩き落とす。

 地面に落ちて藻掻くキラービーを(テイム)〔キラービー・3〕

 殺さない様に細枝を束ねた物で蜂を叩き(テイム)〔キラービー・2〕

 もう一度軽めに叩き(テイム)〔キラービー・1〕


 すかさず(テイム・テイム)〔キラービー・50-2〕となったので2匹目のキラービーのテイム成功。


 《お前はビー2号な》〔キラービー・50-2、複眼、毒無効、30〕


 ふむ、複眼と毒無効は変わらないのか、だが50-2になったのでこの調子でテイムすれば安全に狩りが出来そうだ。

 新たに加えたビーちゃん2号も使い仲間を集めさせたが、途中から大群が現れたので中止。

 慌てて結界の中へ飛び込み、フランと二人ホッと胸を撫で下ろす。


 《マスター、マスター、何処ですか?》


 おっと、フランの腕を掴んで逃げるのに必死で、ビーちゃん達を忘れていた。

 まっ、仲間達だから襲われる事は無いでしょう。


 《ビーちゃん達は暫く離れて待っててね》


 《はーい×13》と、幼稚園児の様なお返事が聞こえてきた。


 長い一日が終わり、ビーちゃん達を結界の中へ入れると、目覚めたクーちゃんが大パニック。


 《ぎゃあぁ~、嫌ぁ~、マスター! 蜂です! 食べられるぅ~、逃げて下さい!》


 そうだった、蜂って樹液を吸うだけじゃなく、昆虫や動物の肉を肉団子にして巣に運ぶんだったな。

 樹液だけじゃないのを忘れていたってか、クーちゃんも肉食だろう。

 まっ、クーちゃんから見れば、蜂は捕食者だから恐いのも無理は無いか。


 《クーちゃん落ち着け。ビーちゃん達は新たなお仲間だから、クーちゃんを襲ったりしないよ。なっビーちゃん達》


 《はいマスター。仲間は・・・食べません》


 ちょっと間が開いたので、食欲と闘っていたな。

 試しに串焼き肉を洗って差し出したが、一口齧って《不味い》って言われてしまった。

 仕方がないので、串焼き肉を餌にでかい鼠をおびき寄せビーちゃん達に襲わせた。

 数匹がドブネズミの二倍くらいの奴に取り付くと〈ギーッ〉と悲鳴を上げて逃げ出したが直ぐに倒れてピクピクと痙攣しだした。


 フランに鼠の皮を剥いで貰い、ビーちゃん達のお食事に提供する。

 一切れはクーちゃんに差し出すと。久し振りのマウスだーと喜んでいた。

 クーちゃんがどんな狩りをしているのか知らないが。結構大物も食べている様だ。

 まっ大物の一欠片だろうけど、肉食の彼からすれば昆虫以外は大物だし、殺しても皮や毛が邪魔で食べるまでが大変だろう。


 フランに頼んで植木鉢を伏せた様なクーちゃん用のハウスと、ビーちゃん達用には小さな円筒に小枝を入れた物を作って貰う。


 * * * * * * *


 一夜明けて、野獣達の饗宴跡を避けて街道に出るとザンドラの街を目指す。

 周辺の見張りをビーちゃん10~13号に頼み、1~9号にはホーンラビットの狩りをして貰う。


 《マスーター、見つけました》


 《なら1~5号で狩ってね。死んだら迎えにきて》


 《はーい》


 いやー狩りは安全で楽なのが一番だわ。

 フランがキラービーを使って狩りをする俺に呆れかえっていたが、稼ぎの半分が貰えるのだから文句はなさそう。

 もっとも、毒殺したホーンラビットを食べても大丈夫なのか心配だったが、傷から毒が身体に入れば死ぬが、胃袋に入る分には問題ないと。

 毒矢を使って狩りをする事もあるが、肉を食べても死んだ者はいないと言われてしまった。


 《マスター、お迎えに来ましたぁ~♪》


 《有り難う、ん・・・何号だっけ》


 《3号です!》


 《御免ねぇ~、背番号でもなけりゃ見分けがつかないよ。今度から何号か先に言ってね》

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