第8話 ビーちゃん達の初陣

 街道に出る前に、木の下にクーちゃん用の植木鉢を伏せて中に入れ暫しのお別れ。

 串焼き肉の大きいのを洗って置いてきたので4、5日なら大丈夫だろう。

 ビーちゃん達は俺達の上空で監視と、万が一に備えて街の中も付いてきてもらう。


 二人とも背負子にホーンラビットを括り付け、その上に薬草袋を乗せている。

 俺が最低ランクとはいえ、マジックポーチ持ちと思われない様にしているが、ホーンラビット一匹でも結構重い。

 次から背負子には薬草だけを括ることにしようと決めた。


 ギルドに到着すると買い取りのおっさんの所へ直行して、ホーンラビット5匹とカリオン一頭だと告げる。

 見るからに新人の二人だが、背負子にはそれぞれホーンラビットを括り付けているので、マジックポーチ持ちかと小声で尋ねられた。


 黙って頷くと横の通路を指差し「解体係に数を言って査定して貰いな」と教えてくれた。

 ラノベと違い親切な対応にお礼を言って通路の奥へ進み、突き当たりの扉を開けると血の匂いにむっとする。


 「ホーンラビットか、そこへ置いてくれ」


 「あのー、五匹とカリオン一頭です」


 「ああ、全部並べてくれたらいいぞ」


 気の良さそうなおっちゃんの指示に従って並べたが、ホーンラビットは全て無傷。


 「おいおい、この五匹は全て無傷じゃねえか。どうやって獲ったんだ」


 「これね、キラービーに襲われていたんですよ。それを見つけたので拾ってきました。討伐したのはカリオンだけです」


 「なんとまあ~、運の良い奴等だな。それにしてもお前達は刺されなかったのか?」


 「はい、彼が土魔法が使えるので、小さな避難所を作って貰い逃げ込んでました」


 「ふうーん」と興味を無くしたのか、ホーンラビットとカリオンを検分すると用紙に書き込んでいく。


 査定は直ぐに終わり、用紙を差し出された。

 ホーラビット 7,000ダーラ×5=35,000ダーラ。

 カリオン 25、000ダーラ


 フランに見せると、村でもこの値段ですよと教えてくれたので、礼を言って解体場を後にした。

 薬草はフランに任せる事にして、薬草買い取りの小母ちゃんに差し出す。

 俺は薬草の知識なんて皆無、フランに教えて貰った薬草をクーちゃんに教えて探して貰ったのだから。


 しかし、流石は村でも薬草採取していたと言うだけあって、周囲を警戒しながら薬草を探して歩くフランに隙はない・・・たぶん。

 俺はクーちゃんから連絡を受け、不自然に揺れる草の所へ行って採取するだけで、後は気配察知と索敵の練習に励んだ。


 フランが小母ちゃんに呼ばれて査定用紙を貰って来る。


 ポーション草、10本1,000ダーラ×16束、16,000ダーラ

 トロポリス、1本。300ダーラ×7本、21,000ダーラ

 ナタウの葉、10枚一束、600ダーラ×3束、1,800ダーラ

 オリゾンテの芋、芋1個1,000ダーラ×5個、5,000ダーラ

 トロルの葉、20枚一束1,200ダーラ×14束、16,800ダーラ

 合計60,600


 ホーンラビットとカリオンの査定と合わせると120,600ダーラになる。

 死んだ6人から剥ぎ取った金が、全部で240,000ダーラ少々有るので、合計360,000ダーラちょい。


 食堂に行き、ごった煮のスープにパンの朝食を食べながら、周囲に聞こえないように小さな声で相談を持ちかける。


 「フラン、奴等の分と合わせると360,000ダーラちょい有るので、フラン用のマジックポーチを買おう」


 「あれってお高いんでしょう」


 「200,000ダーラだから買えるぞ。俺のマジックポーチに二人分の荷物と食料を入れたら、後は大して入れられないからな」


 「でも良いんですか」


 「その代わり残りは俺の自由にさせてくれないか」


 「それは良いですよ。殆どシンヤさんが狩った物ですし」


 食事を終えると査定用紙を渡して金を貰い、速効で冒険者御用達の店に行きマジックポーチをと言う。


 「また来たのか。と言うか仲間か?」


 「ああ、彼用のマジックポーチが欲しいんだ。それと登録者制限をお願いします」


 そう告げて、カウンターに銀貨22枚を置く。


 「忘れられないうちにと急いだな。しかし三日目に此れだけ稼いで来るとは、若いのに腕が良さそうだな」


 「いえいえ、キラービーにやられたカリオンやホーンラビットを見つけたので、運が良かっただけですよ」


 しれっと用意していた嘘を言っておく。


 オヤジはマジックポーチを取り出し、フランに登録方法を教え登録者制限を付けてくれた。

 俺のマジックポーチにも登録者制限を付けて貰い、ホーンラビットや鳥を狩る弓はないかと尋ねる。

 短弓より小さな小弓(コユミ)を出してくれたの、でマジックポーチに入れて見ると綺麗に収まったので幾らかと尋ねる。


 小弓一張り120,000ダーラに矢一本が1,000ダーラと聞き、フランが弓は俺が作るので矢だけ買えと言ってくれる。

 それを聞いてオヤジが苦笑いしているが、マジックポーチを買ったばかりなので文句は言わない。


 店内を見学していて野営用の簡易ベッドを見つけたが、1-5のマジックポーチには収まりそうもない。

 すぐ側に丈夫な袋を繋いだ物が置かれていた。

 フランの説明によると、各袋に干し草を入れて繋げば野営用の寝床になるそうだ。


 一辺が50cm×80cm位で、干し草を入れると俺なら4個繋げば立派な寝床になると聞き、即行でお買い上げ。

 俺が4袋にフランが5袋、1袋4,000ダーラなので36,000ダーラを支払って店を出る。


 残金94,000ダーラに俺の持ち金を足せば100,000ダーラ少々。

 食料をたっぷり仕入れたら、草原でビーちゃんのお仲間作りに励もう。

 フランにはその間に小弓を作って貰えば、キラービーに襲われたのを拾ったなんて嘘を言わなくて済む。

 矢さえ射ち込む事が出来ればアリバイ作りは完璧なので、堂々とギルドに持ち込めるってものだ。


 * * * * * * *


 街を出てクーちゃんを回収すべく歩いていると、フランがつけられているようですと教えてくれた。


 「何時からなの?」


 「街の出入り口で並んでいた時から変な視線を感じていましたけど、街道に出てからつかず離れずについてきていますよ」


 「村で薬草採取や狩りに同行していただけあって、やっぱりその辺は鋭いね。俺なんて索敵と気配察知が少し出来る程度だからねぇ~」


 「のんきですね。どうします」


 「そりゃ~、ビーちゃんにお任せでしょう。クーちゃんを回収したら草原の奥へ入ろうよ。ついてくる様なら、突如キラービーに襲われる不幸に見舞われるんじゃないかな」


 「シンヤさんって恐いね」


 「同じ日に冒険者になったんだ。さんは要らないよ」


 「えっ、でもシンヤさんは18でしょう。俺は巣立ちの後で直ぐに街に出て来たので16ですよ」


 「へっ・・・そうなの。フランの方が背が高いし、同い年と思ってたよ」


 巣立ちか、その辺の情報が一切ないので困るなぁ。

 基本情報っても読み書きや、野獣を見て何か判るテイマーの基本だけで常識が判らない。

 常識や魔石の抜き取りなどはフランに教えて貰わないとな。


 クーちゃんを回収してそのまま草原に踏み込み、フランの先導で薬草が多そうな場所に向かう。


 《ビーちゃん1号、俺達が通った後をついてきている奴がいるんだけど判る?》


 《マスターの後をですか》


 《そう、俺が歩いた後を歩いている奴がいるかな》


 《たくさんいます》


 ちょっ、沢山居るって、嫌だねぇ。


 「フラン、薬草採取は後回しだ。適当に歩いて、俺達が狙いなのか確かめよう」


 「判りました。見晴らしの悪い方へ行きますので、周囲の警戒を頼みます」


 灌木の茂る所でフランの避難所に潜み、相手がどう出るのか見ることにした。


 「大地に願いてその力を借り、我の願う形にその姿を変えよ・・・ハッ」


 ゆるゆると地面が盛り上がり、二人並んでしゃがんだ姿を覆い隠すと真っ暗になり、直ぐに覗き穴が出来た。


 「中々便利だね。強度はどのくらい有るの」


 「ホーンボアの突撃なら何とか耐えますが、シンヤさんの野営用結界にはとても及びませんよ」


 「どれ位大きく出来るの」


 「普段は4,5人が横になれる程度ですが、もう少し大きくも出来ます」


 野営用結界は便利だけど、知っている奴が見れば誰かが居ると丸わかりだ。

 ラノベの知識で、フランの魔法を鍛えてみるかな。


 「来ましたよ・・・5・・・7、8人ですね」


 「さて、どうするかな」


 覗き穴から観察しながら耳を澄ませて、奴等の会話を聞いてみる。


 〈つけているのがバレたかな〉

 〈それは無いだろう。一度も後ろを振り返らなかったし〉

 〈しかし、見通しの悪い所ばかり歩くとは、彼奴ら馬鹿なのか〉

 〈新人なので危険な所が判らないんだろうさ〉


 「完全に俺達狙いですね」


 「ビーちゃん達にお願いするかな」


 〈そっちの方を探して見るか〉

 〈おう、金になる若い二人だ、絶対に逃がすなよ〉


 ん、と思っていると、いきなり〈ドカーン〉と轟音が響く。

 うおーぉぉ、驚いた!


 〈馬鹿め。ちゃっちい土魔法なんかで騙されるかよ。お前等何を見ているんだ! 奴等はこの中だ、叩き潰せ!〉


 「見つかりましたよ」


 「ビーちゃんにお願いするよ」《ビーちゃん達、此奴等をやっちゃってよ》


 《はーい×13》


 軽いお返事が聞こえたと思ったら、すぐに騒ぎが起こった。


 〈糞ッ、キラービーだ!〉

 〈多いぞ! まさかキラービーの巣が有るんじゃないよ・・・痛っ〉

 〈逃げろ!〉

 〈ギャーァァァ〉

 〈勘弁してくれー〉


 「凄いですね。たった13匹のキラービーで、奴等を追い回してますよ」


 「うん、思った以上に攻撃力があるよな。こりゃークーちゃんとビーちゃんの数を増やすのが先だな」


 「そうですね。まさかポイズンスパイダーを使って、薬草を探させるとは思いませんでした。あ~・・・静かになりましたよ」

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