第9話 尋問

 ミツバチは一度刺すと針が抜けて死ぬとか聞いたが、スズメバチは何度も刺すって聞いたな。

 キラービーに取り付かれて、何度も刺されたら死んじゃうな。


 《ビーちゃん達、もう良いよ。止めー。少し離れていてね》


 避難所から出ると、草は踏み荒らされそこ此処で倒れて呻いている奴が多数いた。


 《ビー1号ちゃん。逃げた奴はいるかな》


 《こんなうすのろは逃がしません! みんな倒れています》


 へいへい、空を飛ぶあんたと違い、俺達は地面を這ううすのろですよ。


 「此奴等どうします?」


 「さっき気になる事を言っていたからなぁ」


 「お・い・・・毒消しのポーションを・・持っていたら・・・たのむ」


 「なんで俺達の後をつけていたの? 教えてくれたらポーションをやるよ」


 「なんの事だ・・・俺達は、狩りに・・」


 「ん、そうかい。キラービーに襲われるなんて不運だねぇ~。フラン奴等の武器を取り上げて手足を縛り上げろ。ロープは奴等が持っているはずだ」


 「今度は襲われてませんよ」


 「いいから縛りな。訳は後で教えてやるよ」


 倒れて呻く奴等の荷物を探ると、二人が長いロープを持っていたのでそれを使ってせっせと縛る。

 不慣れな仕事に一息ついていると、ビーちゃんが他にも居ると教えてくれた。


 少し離れた所に散らばって三人が倒れて呻いていた、総勢11人かよ。

 毒が回ったのか顔や手足がパンパンに腫れ上がり、呼吸も苦しそうだ。

 縛った奴の荷物の中に、毒消しのポーションを見つけて毒消しポーションを半分ずつ二人に飲ませておく。

 怪我用のポーションは半数が持っていたので、それも半分ずつ飲ませて様子を見る。


 その間に投げ捨てた剣を拾い上げて草を刈り、野営用結界を展開して縛り上げた奴等を二人して引き摺り込む。


 「こんな事をしてどうするんですか」


 フランが、はあはあ言いながら聞いてくるが、縛り上げた奴等に聞かれたくないので説明は後だとキツく言っておく。

 全員の背中を結界に凭れさせ、ずらりと並べてからご挨拶。


 「質問しても惚けるだろうから先に言っておくが、聞いたことには素直に喋った方が楽だぞ。お前達の中に知っている者がいるようだが、野営用結界の中の音は外に漏れない。意味は判るよな」


 「俺達を・・・どうする、つもりだ」

 「お前、たちは、とう・・ぞくか」

 「たのむ、ポーションを持っているのなら・・もっと・」


 「お前達のリーダーは誰だ?」


 皆だんまりで俺を睨んでくるが、襲われる心配が無いので痛くも痒くも無い。


 「フラン、話したくなる拷問の方法を何か知ってる?」


 「えぇ~、シンヤさん何か考えがあったんじゃないんですか?」


 「あるにはあるんだけど、外に放り出して野獣の餌にするって事だな。殴る蹴るは面倒だし、そんな体力はないよ」


 「おい・・・俺達を・・殺せば はんざい」


 「あっ気にしないで。聞きたい事を聞いたら・・・ねっ」


 「どうせ殺され・・・しゃべら・・・ねえ」


 「そう、なら良いや。フラン全員の持ち物を剥ぎ取っちゃいな。犯罪奴隷か楽に死ぬより野獣に食われる方が良いらしい」


 どうも、あの6人を殺してから殺人に忌避感がない。

 と言うか、野獣や人の死に対して何の感慨も湧かないのも、加護のお陰かな。

 野獣討伐の為に召喚したんだ、獣や人の死に対しあれこれ考えていては、使い物にならないって事だな。


 喋らねえと言った奴の服を切り裂き剥ぎ取っていると、フランが困った様に俺を見ている。


 「此奴等の会話を聞いていただろう『金になる若い二人だ、絶対に逃がすなよ』ってな」


 「まさか、奴隷狩り!」


 「それ以外にそんな台詞が出ると思う。それに、街から俺達をつけてきたんだ。それ以外の考えだとしても、見逃せばこの手の奴等は必ず仕返しに来るからな。それなら後腐れ無くしておくのが最良だろう。出来ないのなら共犯者になりたくないだろうし、此処でお別れだな」


 俺達の話をニヤニヤしながら聞いていた奴と目が合ったので、黙ってそいつの服を切り裂きむきむきにしてやる。


 「おい・・・ほんと・に・・やる・つ・も」


 「お前達は、11人で街から俺達をつけ回したんだ。それで冗談でしたが通ると思うか?」


 素っ裸にした奴の足を掴み、引き摺って結界の外に出そうとしたが重すぎる。


 「フラン、手伝うかお別れか選べ」


 「やります! あいつ等と同じで、シンヤさんの言っている通りだと思います」


 二人して足を掴んで引き摺るが、ポーションが聞いて来たのかジタバタし始めた。

 良く見れば、浮腫が少し引いているように思える。

 投げ捨てた剣を拾い、口をぶん殴って顎を砕き手足の腱をプッツンしてやる。


 〈ウゴーッ〉


 小さな悲鳴を上げたが、ジタバタするのを止めたので外に放り出す。

 最初に裸にした男も外に放り出すと、口に石ころを押し込んで声を出せないようにして、手足の腱を切り逃げられなくする。


 結界内に戻って残りの9人を見回す。


 「貴方、肉付きが良さそうなので餌になってね」


 にっこり笑って犠牲者を指名すると、顔面がピクピクして憤怒の形相になり暴れ出したが、手足を縛っているので芋虫のダンスにしか見えない。


 《マスター、7号です。何か来ますよ》


 何かってなによと思ったが、ビーちゃん達にそれを聞いても無駄か。

 普通に話せる事だけでも奇跡なのに、これもテイマー神ティナの御加護と感謝しておく。


 「フラン何かが近づいて来ているらしいので、見に行ってくるよ」


 「俺も行きます」


 二人して結界を出ると、ビーちゃん7号が目の前に降りてきて道案内をしてくれる。

 姿を見られないように慎重に進むと〈ギャッ〉〈グギャー〉なんて声が聞こえる。


 「ゴブリンですよ」


 「丁度良いや。奴等にお食事を振る舞ってやろう。フラン石を拾え、姿を見せて投げつけろ」


 足下の石を数個拾い、ゴブリンの群れに向かって投げつける。

 飛んできた石にビックリしていたゴブリンだが、一発が身体に当たると興奮して騒ぎだし、俺達の姿を見たゴブリンが〈ギャギャッ〉と喚きながら走り出す。

 それを見た仲間のゴブリンが後に続く。


 「逃げるぞフラン!」


 全力で野営用結界に向かって走るフラン、俺は追いつかれない程度に速度を落として走る。


 〈ギャーッ〉〈ゴワッ〉〈ムギャーギギ〉なんて騒がしく追いかけてくる。

 走りながら石を拾って投げ、野営用結界へと誘導する。


 「シンヤさん、早く!」


 ゴブリンが追いついて来るのを見て焦るフラン、彼の腕を掴んで結界内に避難すると何かに躓いた。


 ビーちゃん達の毒で動けなかった奴等の一人が、芋虫のように動いて移動していた。

 あれだけパンパンに腫れ上がっていたのに、もう動けるのかとその体力に感心したが、毒消しのポーションを半分ずつ飲んだ奴がいたのを思い出した。

 しかも蹴り飛ばしてしまった芋虫の手には、小さなナイフが握られている。


 危ない危ない。

 取り上げたナイフを、そいつの両肩に突き立ててやる。


 「フラン、注意しろ。ポーションを飲ませたので動ける奴がいるようだからな」


 転がっている9人のロープを確認して、武器を持っていないか再確認する。

 何と言う事でしょう、全員ベルトやポケットに小型のナイフを持っているではないか。

 それもお食事用じゃない、小さく薄い隠しナイフだ。


 「有り難うね、あんたが教えてくれなきゃ危ない所だったわ。お礼に、ゴブリンのお食事風景を見せてあげるよ」


 結界の外では、裸で転がる二人にゴブリンが群がり〈ギギャ〉〈ギエーッ〉〈ゴワッ〉等と嬉しそうにご馳走に飛びついている。

 俺はお食事風景に興味が無いので、ゴブリンに背を向け俺を睨む男達に質問する。


 「俺の質問に答えないのなら、次の餌になると覚悟しろよ」


 最初にナイフを取り上げた男の前にしゃがみ『金になる若い二人だ、絶対に逃がすなよ』って、どうやって金にするんだ?。


 「大した・・・意味じゃねぇ・・よ。俺達・の・・荷物持ちに」


 「そんな冗談は聞きたくないんだよ。お前は次の餌に決定だな。外のお食事風景でも見学していろ、お前は食われる方だけどな」


 フランに男の腱を切る様に頼み、隣の男に微笑みかける。

 青い顔をして震える男は俺と目を合わすと、何でも喋るから殺さないでと必死に頭を下げた。


 ビーちゃんの毒で滑舌が悪いながらも喋った内容は、ザンドラ冒険者ギルドのギルマスをボスとした盗賊団で、ザンドラで冒険者登録した者の中から地元出身でない人間を狙って攫っていると喋った。

 勿論護衛の少ない旅人なども狙うが、街や近隣の者には手を出さないと話した。


 噂になったり顔見知りがいて、取り逃がした時の危険を考えての用心深いやり方だ。

 俺とフランが狙われたのも、地元の人間でないのと若いので高く売れると見込んだようだ。

 そりゃー、街を出る時から目をつけられるはずだ。

 隣で聞いていたフランが、酸っぱい物を大量に食った様な顔になっている。


 「フラン、俺は街を逃げ出すけど、お前はどうする」


 「えっと、付いて行きます! ギルマス相手じゃ勝ち目が無いし」


 「ギルマスには、黙っていてやるから・・これを解け」

 「おまえたち・・・が、街から・・・消えるの・・なら」

 「おお・仲間にも見逃・・・って・・」


 俺達が街から逃げ出すと知ったとたん、息を吹き返したように偉そうに言い出す馬鹿共。


 「ご親切にどうも。親切序でに、転がっている持ち物の使用者登録を外してくれるかな」


 そう言うと一瞬で静かになり、仲間達と目を見交わして俯いたり横を見たりと狼狽えている。

 ランク1が5個と、明らかに上物と思えるマジックポーチが2つに、綺麗な刺繍が施された物が1つ。

 1-5のマジックポーチでも金貨2枚、200,000ダーラで、ギルドで講習をしてくれたおっさんが持っていたのが、2-10で金貨5枚って言っていた。

 3つの物はそれよりも高い物に間違いない。

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