第91話 交代要員?

 〈おいおい、凄い腕自慢が来たぞ〉

 〈かーっ、清々しいほどの勘違い野郎だな〉

 〈テイマーがソロだってよ〉


 「ん、お前テイマーか?」


 「そうです。タンザの招集の時には、腕利きのパーティーにバックアップをして貰っていたんです。このパーティーだと俺が面倒を見なきゃならなくなって討伐にならない」


 「お前の使役獣は?」


 「此のミーちゃんと・・・」


 〈ミッ、ミーちゃん〉

 〈だっ、駄目だ〉

 〈久々に強烈なギャグを聞いたぜ!〉


 傍らで聞いていた奴等が吹き出して大笑いしやがるので、殺気、王の威圧をぶつけると同時に、眼光で睨み黙らせる。

 一瞬で半数は黙り込み、残りは武器を手に身構える奴や、もたついて焦る奴。


 「ミーちゃんとフォレストウルフ二頭だけど」


 「フォレストウルフ二頭だと・・・もう一度ギルドカードを見せろ!」


 「お前があのシンヤか」俺のカードを手に、サブマスが頷きながらぼそりと呟く。


 〈お前! 良い度胸じゃねえか〉

 〈俺達に殺気を向けるとは、死にたい様だな〉


 「喧しい! 此奴に喧嘩を売るつもりなら、強制招集が終わってからにしろ! その時に遣り合う気が残っていたらな」


 騒ぐ奴等を一気に黙らせるとは、このサブマスも中々の威圧と貫禄だな。


 「そいつ等の腕はそんなに悪いのか?」


 「此処へ来る時に、フレイムドッグの群れと出会った。その時に倒した物を持っているので見てくれ」


 「判った。広場で見せて貰おうか」


 サブマスについて村の広場に行き、マジックバッグからフレイムドッグを取り出して並べる。

 その隣りにフェルザンが仲間の分も含めて八頭を並べる。


 〈おいおい、奴のは全て一撃・・・ていうか、殴り殺しているのもあるぞ〉

 〈それよりも隣を見ろよ〉

 〈あー、こりゃーDランクパーティーだな〉

 〈それよりも見ろよ、Dランクパーティーにしては、下手糞が混じっているぞ〉

 〈フレイムドッグをこんなに傷だらけにするってのは、ちょっとした才能が必要だな〉

 〈中々の才能と言いたいが、こんな奴が混じっていたら足を引っ張られるて死ぬぞ〉

 〈あれだ、仲間からおこぼれを貰ってランクアップした手口だな〉

 〈時々いるんだよな。仲間よりランクが下だと拗ねる奴〉

 〈そんなお子ちゃまが混じっているパーティーと、組みたくないのは当然だな〉


 「此れをやったのは誰だ?」


 聞かれたフェルザンが困った顔でエザードを見る。


 「此の男を外したら・・・」


 「駄目だ、タンザでは俺の手が回らないときは、バックアップのパーティーに流していたんだ。ブラックベアやキングタイガー程度ならパーティーだけで始末できる腕でないとな」


 〈おいおい、ソロのくせに大きく出たな〉

 〈サブマス、そんな奴は一人でやらせろよ〉

 〈だな、それだけの自信があれば出来るだろう〉


 「そこで笑っている馬鹿共とやるのなら、俺は一人の方が良いな」


 「判った、ちょい獲物が多い場所だから、手に余れば後ろに流せ。お前の配置は、防御線の少し前になるので防御線の所まで案内させる」


 「判った、交代は来るのか?」


 「マジックポーチが一杯になったら下がって良いぞ」


 〈おい、マジかよ〉

 〈一人で防御線の前に出すのか〉

 〈奴って、そんなに凄腕なのか〉


 * * * * * * *


 サブマスが付けてくれた案内人について、配置位置の手前まで連れて行って貰ったが、そこに居たパーティーの男はフーちゃん達を見て俺に名前を尋ねてきた。


 「シンヤだ、此処より少し前に出るので、手に余る物は後ろに流すから宜しく」


 「フォレストウルフ二頭と猫か、噂は聞いているぜ。俺達の所へは可愛い奴を流してくれよ」

 「噂通りなら、大物は任せたぞ!」

 「此れで一息付けるな」

 「その前にお客さんだ、2頭居るぞ」


 指差す先にレッドベアが見えると、フーちゃん達が左右に分かれて駆けだし、ミーちゃんも元の大きさに戻って俺の横を走る。


 〈おいおい一人で向かったぜ〉

 〈噂通りの様だな〉

 〈ああ、お手並み拝見といくか〉

 〈それより、正面から行くか!〉

 〈いや、ウルフが何かしているな〉

 〈おっ、飛び込んだぞ!〉

 〈畜生、此処からじゃ遠すぎる〉

 〈近くで見たいのなら行っても良いが。俺は此処からで十分だ〉


 〈おっ、一頭やったぞ!〉

 〈凄えなぁ。レッドベアを手玉に取ってるぞ〉

 〈噂どおりってか、噂以上じゃねえか〉

 〈あっさり二頭を倒して、マジックバッグにポイかよ〉

 〈相当容量の大きいマジックバッグらしいな。羨ましいぜ〉

 〈欲しいのなら確り稼がなきゃな〉


 レッドベアを倒した後は、2時間程前進して目印の岩に到着して一休み。

 その間に出会ったのはホーンボア一頭だけで、タンザ程ではなさそうな気配に一安心。

 しかし、ミーちゃんも大物狩りに慣れたのか、レッドベアの正面から飛び込み鼻先に乗ると目を狙って爪を立てる。

 レッドベアが驚いた隙に、俺が飛び込んで一突きして討伐完了と楽なものだ。


 フーちゃん達に交代で見張って貰い、ミーちゃんは近くの木の上で寛ぎながら監視をして、俺はのんびり食事を済ませてお茶を楽しむ。


 * * * * * * *


 「サブマス、帰ったぜ」


 「おお、ご苦労。現場の様子と送り込んだ奴はどうだ?」


 「タンザ程酷くねえな。あの時は凄腕が相当集まっていた様だし。奴の事も話しに聞いていたが噂以上だな」

 「レッドベア二頭をあっと言う間にかたづけて持ち場に向かったぜ」


 「タンザの時の噂は聞いているが、バックアップに付いたパーティーも腕が良かったらしいな」


 男がタンザで見聞きしたシンヤと、バックアップに付いたタンザの楯との連携の凄さを話す。

 別の男が、遅れて参加したシンヤと知り合いの土魔法使いのパーティーは、シンヤと競う様に討伐数を増やして有名だったと伝える。


 交代で帰ってきてその話を聞いていた男達の一人が、話しに割り込んできてシンヤの行った場所をサブマスに尋ねている。


 「それを聞いてどうするんだ?」


 「サブマス、俺は冒険者をやっているが歴とした子爵家の一員だ」


 そう言うと、子爵家の家族を示す身分証を突きつける。


 「ほう、貴族のお坊ちゃまが、落ちぶれて冒険者になっているのか。小遣い稼ぎは実力に見合った野獣を相手にしろよ。俺達と違って、野獣は貴族の穀潰しに遠慮しないからな」


 「無礼な! その言葉を取り消せ!」


 怒鳴った瞬間、サブマスから発せられた殺気によって黙らされた。


 「貴族の穀潰しが何を偉そうにぬかす。お前も貴族の身内を名乗るのなら、ギルドと王家の取り決めを知らない訳はないよな。クルト・ホーヘンか王都の本部へ報告させて貰うが、相応の覚悟はしておけよ」


 「お許し下さい!」即行で土下座をして、掌返しの謝罪を口にする。


 周囲の冒険者が興味津々で見守っていたが、見事な土下座を見て失笑するがサブマスの目付きは険しいままだ。


 「シンヤの持ち場を教えてやるので、奴のサポートをしろ。お前の思いどおりに出来たら、今の事は忘れてやる」


 「サブマス、本気ですかい?」

 「こんな、洟垂れに奴を差し出すんですか?」


 騒ぎ出す冒険者達を見て、ニヤリと笑うサブマス。

 その笑いを見て察した冒険者達も、ニヤリと笑って抗議の声をしずめる。

 シンヤを持ち場に案内した者が呼ばれ、クルト達七人をシンヤを案内した場所まで送ってやってくれと頼む。


 「此の男が案内してくれるのでついていけ! 案内料は銀貨二枚な。貴族のお坊ちゃまなんだからケチるなよ」


 それを聞いた男が嬉しそうに掌を突き出す。

 渋い顔で銀貨を払い「案内しろ!」と横柄に命じるが、周りの冒険者達がニヤニヤ笑いで案内の男に頷く。


 * * * * * * *


 「おっ、交代が早いじゃねえか」


 「あー違うよ。シンヤって人の所へ行くってさ。サブマスに此処まで案内して、方角と目印を教えてやってくれと頼まれたんだ」


 「ヒョロそうなのばかり七人で大丈夫なのか?」


 「ふん、俺には凄腕の魔法使いが配下にいるので問題ない」


 「魔法使いか、なら大丈夫かな。此処から西へ2時間程行けば目印の石が見える筈だ」


 「なんだ、案内してくれないのか?」


 「恐けりゃ行くのを止めな。奴は一人で行ったって聞いたぞ」

 「お前達は七人もいるし魔法使いもいるんだろう」


 「判った、行くぞ、ヨシ」


 「へいへい、行きゃー良いんでしょ」

 「兄貴、獲物が多いのなら稼ぎになりますぜ」

 「タンザに行きそびれたので、此処で稼ぎましょうや」


 「おう、テイマー如きが倒せる野獣なら、俺の雷撃で黒焦げにしてやるよ」


 「その男を我がホーヘン家へ奉公させることが出来れば、父上も喜ばれて褒美を貰えるぞ」


 「五男坊が偉そうに、もっと金を寄こせってんだ」


 「ん、何か?」


 「いえいえ、独り言ですよ・・・馬鹿!」


 * * * * * * *


 《マスター、人族が七人やって来ます》


 人族って、この持ち場は俺一人の筈なので、他のパーティーが迷い込んだのかな。


 「クルト、あれじゃねえのか?」


 「クルト様だ! 何度言えば判るんだ」


 「へいへい、自分で様を付けて恥ずかしくないんかねぇ~。おい、奴がシンヤに違いないか確かめてこい!」


 「兄貴、フォレストウルフがいるので間違いなさそうですぜ」


 「だ、そうですぜクルト・・・様」


 明らかに俺目当てで来ている様なので、用心の為にフードを被っておく。

 声も掛けずにやってくると、フーちゃん達と俺をジロジロと見て鼻で笑う。


 「自分の持ち場も判らない間抜けなのか」


 「シンヤだな。サブマスに聞いたとおりなので間違いない」


 又々厄介事の様だが、サブマスに聞いただと?


 「そうか、では俺は暫く寝るので交代してくれ」


 「待て! 勝手な事は許さん。マリンカル領トランドの領主、ノイエス・ホーヘン子爵が五男、クルト・ホーヘンの麾下に加えてつかわす!」

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