第90話 ダラワン村へ
「強制招集の経験が有るのでしたら、俺達を連れて行ってもらえませんか」
「あんた達も強制招集に応じたのなら、前回の経験が有るんじゃないのか」
「あの時は、俺達田舎の村で農作物や家畜を守る仕事を請け負っていて、強制招集を知らなかったんです」
全員30前後のおっさんで、俺の様な若造を侮る気配がないのは好感が持てる。
しかし、一人論外な奴がいるので釘を刺しておくか。
「俺は基本一人で行動するので、ハインツまでは同行してもその先は付き合えないけど良いかな」
「ありがとう御座います。俺達は〔火祭りの剣〕ってパーティーで、リーダーのフェルザンです。エザードにはよく言い聞かせますので勘弁して下さい」
「悪いが、俺が釘を刺しておくよ」
フェルザンの陰に隠れてふて腐れるエザードの前に立つと、何か言いたそうに口を開き掛ける。
エザートの目を見据え、眼力で奴に何も喋らせない。
半分開きかけた口から声が出ることはなかったが、顔面蒼白でガタガタと震えて膝から崩れ落ちる。
周囲の者も異変を感じて身構えるが、以前の殺気を浴びせた様にはならなかった。
少しは眼力の使い方が出来る様になったかな。
「余計な事を口にせず、リーダーや仲間に従っていろ。判っているのか!」
カクカクと頷くので眼力を消し、フェルザン達に「行こうか」と声を掛ける。
ギルドの外に出てフーちゃん達二頭を見ると、皆腰が引けてしまっている。
* * * * * * *
王都を出てハインツに向かうが、多くの冒険者がハインツに向かっているので、タンザス街道は冒険者ばかりの様に見える。
フォレストウルフを二頭連れた俺は目立っている様で、色々と声を掛けられる。
友好的なものから敵意を剥き出しにして挑発してくる者まで様々で、相手をするのは疲れる。
なので俺に絡んで来た奴や凄んだ奴は、ビーちゃんの体当たり攻撃を受ける事になる。
正面や側面から体当たりして、ちくりと一刺しして離脱する。
そして何時もながらの面倒な説明をしてやると、それを聞いていた奴の中から、俺の頭上で旋回するキラービーを見て立ち去っていく者がちらほら。
唾を吐いたり悪態を吐く奴も例外なく刺されて逃げ出しているが、時に少数の蜂だと侮り叩き落とす馬鹿がいて、悲劇に見舞われる。
「助けてやらねぇのかよ」なんて言う奴には「冒険者をしていて、キラービーに手を出す様な馬鹿を助ける義理はない」と言って放置する。
殺さない様に手加減して貰っているので、後悔しながら毒消しポーションを買いに行け!
* * * * * * *
ハインツに到着したが、此処はテイムされている獣でも街中に入る事を禁止している。
身分証を使いたくなかったので、フェルザン達と一般の通路を通ったが、この非常時でも獣を入れる気がない様だった。
列から放り出されたので、フーちゃん達を連れてそのまま貴族用通路に踏み込む。
血相を変えて駆け寄って来た警備の兵士達だけに見える様に、身分証を晒すが目が血走っていて話にならない。
殺気と王の威圧を使って動きを止め、鼻先に王妃様の身分証を突きつけてやる。
「ハインツは、アルバート・ウィランドール公爵様の領地だな。此の紋章が何か、知らないはずはないよな。俺は王都ラングスは疎か、ウィランドール王国内の如何なる地でも、使役獣を連れて通ることを許されている」
俺の身分証を鼻先に突きつけられて、漸く紋章が目に入った様で戸惑っている。
そりゃー、公爵家は王家に連なる血筋、似た様な紋章だから下手なことは言えないと気付いた様だ。
「何をしている!」
「はっ、この冒険者が・・・身分証が」
「お前は何処を通る気だ」
「貴族用通路なのは知っていますよ」
そう言って身分証を見せると、一瞬で姿勢を正す。
ふむ、上役なら知っていて当然だし話が通じそうだ。
「これは王妃様から預かった物だが、王国内何れの地にてもテイムした獣を連れて通れると聞いているのだが」
「はっ、間違い有りません!」
「ならもう一つ、冒険者ギルドと王家の取り決めにより、不審な点がなければ冒険者は街へ入れるよな」
「その通りですが、それが何か?」
「では、何故そちらの通路ではテイムした獣を連れて通れないのだ。と言うか、街に入れないのは何故だ」
「いえ、入れます。二月ほど前に王家からの通達で、冒険者の連れている獣は冒険者の責任で街へ入れる様になりました」
「おかしいな、俺は其方の通路を通るのを禁止されて放り出されたのだが」
「王家の通達が徹底してなかった様で、申し訳ありません」
「では、通してもらえるかな」
「どうぞお通りください」との返事とともに、敬礼をされて悪目立ち。
強制招集でなければ、追い返された時点でトンズラしていたのだが、逃げられないので困る、と言うか逃げるべきだったと後悔した。
さて冒険者ギルドはと見れば、先に通ったフェルザン達が興味津々な顔で待っているじゃないの。
「行こうか」
「シンヤさんって、顔が利くんですね」
「警備兵が敬礼していましたよ」
「高ランクになると、貴族用を通れるんですか」
「遅くならないうちにギルドに顔を出して、状況を聞いておこう」
ちょいと誤魔化して、冒険者ギルドへ急ぐ。
* * * * * * *
ハインツの冒険者ギルドは、タンザ程混み合ってなく何となくのんびりした感じだ。
この街に直接押し寄せている訳ではないので、緊迫感がないのかな。
受付で王都から強制招集されて応援に来たと伝えると、ギルドカードの確認後二階の会議室へ行く様に言われる。
珍しそうにキョロキョロするフェルザン達を連れて二階に上がると、ギルマスと名乗った男が簡易地図を示して、討伐現場への道を示してくれる。
ハインツの西門から出て、西へ二日の距離ダラワン村で村長の家に居るサブマスの指示に従え、と言われて会議室を放り出された。
扱いが悪いし領内は旅費をくれないのかな、取り敢えず食料を仕入れてから行くことにして市場へ向かう。
俺が暖かい食料をたっぷり仕入れているのを横目に、フェルザン達は保存食を中心に買い込んでいる。
日頃パーティーとして金を貯め、性能の良いマジックポーチ買っておかなかったツケだ。
獲物を狩っても持ち帰る数が少なければ、稼ぎに響くのを理解してないのかな。
ダラワン村へ向かって二日目にフレイムドッグの群れと出会ったが、25、6頭の群れに腰が引けている。
黙って見ていると円陣を組み、火魔法使いのコランが中心に立つ。
「シンヤさんはどうするんですか?」
「そっちは何時も通りにやってくれ。俺は少し離れて見せて貰うから」
「俺達を囮に使うつもりかよ」
「なんだ、囮にしかならない腕なのか」
「ゴールドカードが、口だけじゃない所を見せてくれよ」
「下手な煽りだが、俺が前に出るとお前達の稼ぎが無くなるぞ。良いのか」
「いえ、俺達だけでやります。エザード、偉そうに言うのならお前が正面を受け持て!」
フェルザンに言われて緊張しているエザード、五人の円陣では右後ろだったのに正面では荷が重かろう。
「フェルザン、後ろは俺が受け持つから目の前の奴だけをかたづけろ」
「ありがとう御座います。皆、後ろは気にせずやれ!」
「来るぞ!」
ギャンギャン吠えながら突っ込んで来た先頭の奴が、エザードに飛びかかり残りが左右に分かれて襲い掛かって来る。
コランの詠唱が聞こえるが〈我願う、我が魔法の守護神たるフレイン様のお力を、我の魔力に乗せて敵を焼き尽くさん〉・・・〈ハッ〉
ちょつとずつこけそうになってしまった。
フランの時は、確か土魔法の神様アーンス様だった筈で、火魔法がフレインとはねぇ。
やっぱり、アマデウスの野郎はポンコツで手抜きな神様だわ。
「糞ッ、多過ぎる!」
ずっこけながらも、後ろに回って来た奴を三頭ばかり切り伏せていると、エザードの泣き言が聞こえてくる。
「おらっ、Dランクでブイブイ言っている奴が、泣き言を言うんじゃねぇぞ!」
彼等の負担を減らす為に三歩ほど前に進むと、円陣の一角が崩れて弱いとみたフレイムドッグが俺に集中してくる。
支配を使うと不自然になるので、俊敏と剛力を発揮して短槍を振り回し殴り斬り捨て叩き潰す。
多数相手だと突きは引き抜く動作が余計だし隙が出来るので、振り回す事になるが近くにフェルザン達が居るので気を使う。
フレイムドックの群れは、勝てないと悟って引き上げて行くが少数になっている。
俺の周囲に九頭とそれ以外に八頭が倒れていて、死にきれない奴がもがいている。
死んでいるフレイムドッグをマジックバッグに放り込んでいると「俺達の分まで入れているが、独り占めする気か」と馬鹿が喚く。
「つくづく根性の曲がった奴だな。お前達の分を自分達で持ちたいのなら、好きにしろ。それよりも、お前が受け持った正面の二頭だが・・・」
「何だ、文句があるのか!」
阿呆らしいので眼光を使って黙らせ、フェルザンにダラワン村へ急ぐぞと急かす。
フレイムドッグを討伐しているときに、遠くにホーンボアの群れを見た。
防御線を抜けて来たとしたら、冒険者の数が少ないのか野獣が多いのか。
* * * * * * *
ダラワン村に到着すると、村の年寄りが村長の家へ案内してくれた。
サブマスに到着報告をすると、ギルドカードを要求されて見せる。
「シンヤはBランクで他は全てDか、お前達パーティーの配置位置は村人が案内してくれるので、先の奴と交代してくれ」
「まってくれサブマス! 俺はソロなんで、こんな腕の悪い奴が混じったパーティーと一緒じゃ危なくてやってられない。一人での配置にしてくれ」
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