第130話 魔法の手引き書

 火炎の皆と再び解体場へ行き、彼等の獲物を見る。


 「なんだ、お前達知り合いか」


 「ああ、何処へ並べれば良い」


 指定された所へ並べて行くが、どれも体表が焦げていて査定に響きそうだ。


 カリオン 6頭

 ハウルドッグ 4頭

 ホーンボア 1頭

 エルク 1頭

 此れ等とは別に、ゴブリンとハイゴブリンの魔石を多数持っているそうだ。


 「奥の奴って、もしかしてシンヤが狩った奴なの?」


 「まぁな。草原を歩いていれば獲物に事欠かないからな」


 「やっぱりゴールドカード持ちは違うな。エールを奢るのが恥ずかしいぜ」

 「いやいや、ただ酒より美味い物はないからゴチになるよ」


 * * * * * * * *


 火炎のギラン達と共に狩りに出て、ハンザの魔法の使い方を見物する。

 魔法が使える回数は以前と変わらず、推定35回で実戦には30回を目安に使っている。

 そして使用法は正攻法、正面からファイヤーボールをぶつけるだけで、魔力の増減で威力を変えることもしていない。


 正面からゴブリンの群れが突っ込んで来ていて、ハンザを中心に迎え撃つ態勢になる。


 「ハンザ、先頭の奴の足下に撃ち込んでみなよ」


 「えっ、足下って」


 「ほら、早くしないと突っ込まれるぞ」


 「あっ、ああ§*∞々*?※々〆∞#&‡§・・・ハッ」〈パーン〉


 ゴブリンの群れが宙に舞い地面に叩きつけられると、ギラン達が素速く駆け寄り止めを刺していく。

 短縮の口内詠唱で発現も早くなり、火魔法使いとしては一人前だろうけど威力が今一って感じだが、威力を上げる魔力の増減とかは自分で考えろ、だな。


 「いや、何か威力が上がった様だぞ」

 「流石はシンヤ、魔法の事を良く知っているな」


 「ハンザ、今使った魔力より少ない魔力で、同じ魔法が射てるか試してみて」


 「少なくは出来ると思うけど、それで魔法が使えるかなぁ」


 「以前話しただろう、魔力76で50回以上使えるって奴の事を」


 「ああ、羨ましい限りだぜ」


 「其奴は魔力をギリギリで使う練習をしたのさ、野営の時に少ない魔力を使って魔法を使って見ろよ。別にファイヤーボールを射たなくていい、火の玉を作れるか試せばいいのさ。それで魔力を少なく使う練習をすれば回数も増えるぞ」


 「ハンザ、やってみろよ」

 「シンヤの教え通りにして上達したんだ、試して損は無いと思うな」


 * * * * * * * *


 火炎の連中と別れた後、コルサスから王都迄を四日で駆け抜けて無事に我が家に帰り着いた。

 一通の書状が投げ込まれていて差出人はブライトン宰相。

 ウルファング王国からの刺客が潜入して半数は捕らえたが、20名近くは逃げられたので注意されたしとの事で、鉄血の刃を思い出した。


 攻撃魔法と結界魔法は思い通りに使える様になったが、治癒魔法と転移魔法の練習の前にやることがある。

 一日家に籠もり計画の草案作りに励んだ。


 翌日草案を胸に辻馬車を雇って王城へ向かい、前回同様南門で用件を伝えると従者の案内で宰相執務室へと向かった。

 今回も案内の従者が扉の脇に控える係の者に何事か告げると待つことも無く執務室に招き入れられた。


 「漸く会えたな。君を狙った刺客を多数捕縛したのだが、逃げおおせた者もいて、連絡が付かなくて困っていたんだよ」


 ん、コルサスで警告の書状を読み、返書を認めたのに届いていない。

 コルサスでは都合四日、コルサスから王都迄四日に草案作りに一日。

 コルサス王都間は馬車で16日の距離だが、執事に急ぎ送る様に伝えた筈なのでおかしい。


 「10日程前に、コルサスのグレンセン伯爵の執務室で書状を受け取り、返書を急ぎ送るようにと執事に渡していますが、届いていないのですか」


 宰相が補佐官を見、補佐官が微かに首を振る。


 「聞きにくいんだが・・・」


 「そのうち、元凶二人の訃報が届くと思いますよ」


 「それは・・・本当かね?」


 ちょっと肩を竦めて話を逸らす。


 「それよりも提案が有ってお邪魔したのですが」


 「提案?」


 「魔法使い達の能力向上についてです。私が数名に魔法の指導を、正確には魔力の操作方法を教えていることを知っていますよね」


 「知らないとはいわないが、それが何か」


 「条件を満たせば、魔法使いの能力を引き上げる方法を公開しようかと思いまして」


 「公開、それは本当かね!」


 「基本的には冒険者達に公開しますが、王家や貴族が利用しても構いません」


 「良いのかね?」


 「条件を聞き入れてくれたらです」


 「その条件を聞かせて貰えるかな」


 「犯罪奴隷以外の魔法を授かっている全ての者を、王国に登録し王国が登録者を保護すること。希望する冒険者もです。保護の方法はこれに書いています」


 一枚の用紙を差し出す。

 ウィランドール王国の貴族は、領地内で魔法を授かった者の名と魔法名は全て記録し、王家に報告する。

 魔法使いは雇用主と双方納得の上で、一年契約の雇用関係を結ぶことが出来る。

 ウィランドール王国は、彼等の自由を保障し不正なきよう監視する責任を持つ事とする。

 これに反した者は、地位や財産の全てを没収し終生犯罪奴隷とする。

 この条文は公開すること。


 俺の差し出した用紙を手に考え込んだ宰相が口を開く。


 「王家は誰が監視するのだね」


 「登録して不当に扱われた者達が、黙って従うと思いますか。俺も黙ってはいませんよ。面白い事を教えますので、以前俺を鑑定した男が生きているのなら連れてきて下さい」


 一瞬考えてから補佐官に男を連れて来る様に命じ「陛下と相談してくる」と言って宰相も執務室を出て行った。


 さして待つこともなく、宰相は国王とバルロットと共に戻って来たが「訃報が届くとは本当か?」と座りもせずに問いかけて来た。


 「今頃は、跡目争いで忙しい様ですよ」


 「信じられんが、異変が起きていると報告は受けている」

 「シンヤ殿は、此れを受け入れれば公開するって本当ですか」


 「ええ、公開して能力が向上した者を力ずくで囲い込まれては困るんです」


 「だが、公開すれば他国の戦力も大幅に向上することになる」


 「そうなっても、この条件を適用しない限り此の国は困りませんよ。有利な条件の方へ人は流れますからね。返事は鑑定使いの結果を聞いてからで宜しいですよ」


 補佐官に連れられてやって来た鑑定使いは、窶れた顔で俺を見て驚いている。


 「今から俺を鑑定して貰うが、結果を決して口にするな。鑑定結果は紙に書け」


 そう告げ、俺は一枚の用紙を裏返して置き、もう一枚を男に差し出す。

 男は躊躇っていたが国王や宰相に促されて俺に向き直る。

 以前感じたおかしな感触に包まれたが、男が驚愕の表情で震えていて感触が消えた。


 差し出されたペンを手に、震えながら鑑定結果を書いていくが中々手が止まらない。

 漸く書き終えた用紙をそっと補佐官に差し出したので、俺の伏せた用紙は国王に渡す。

 鑑定使いの記入した用紙を見て宰相が震えていて、俺の差し出した用紙を国王が見てあっけにとられている。

 二枚の用紙を突き合わせて呻いているので「冗談だと思いますか」と問いかけてみる。


 「お前は・・・神々の僕なのか?」


 ちょっ、ポンコツ神の僕って、止めてくれ!


 「未だ二つほどは練習中ですが、人並み以上に使えますよ」


 「此れが本当なら我々の敵う相手ではない」


 震える手で用紙を突きつけてくるので、鑑定使いの書いた用紙を見てみるが支配などは書かれていない。


 「其方の申し出を受けよう。契約書を作らせるので・・・」


 「それは必要ありません。約束を守ってくれれば良いだけですから」


 「それが一番恐いのだが」と国王のぼやきが聞こえたが素知らぬ振りをして手引き書の用紙を渡す。


 * 魔法の手引き書 *

 以下に記すことは魔法の基礎であり、風・水・火・土・雷・氷・治癒・転移

・結界・収納の十大魔法全ての基礎となるもので十分な練習が必要である。


 魔法を授かれば最初に魔力溜りを探す(感じる)事から始める。

 魔力溜りはへその奥周辺に有り、心を静めて精神を集中して探す事。

 何時でも直ぐに魔力溜りの魔力が感じられる様になれば魔力操作の練習に移る。

 魔力操作とは、魔力溜りの魔力を自由に動かすことであり、魔力を自由に動かせなければ魔法は発現しないし、発現しても威力の無い不安定な魔法となる。

 練習としては、魔力を捏ねたり引っ張ったりし、利き腕まで導くことである。

 この時、魔力は手首から肘に向けて溜める様にし、溜めた魔力は魔力溜りまで戻すを何度も繰り返し、常に一定量の魔力が腕に届く様にする。

 何時でも何処ででも此れが出来る様になれば、魔力の放出の練習に移る。

 この練習を怠れば、魔法は使えるが安定した魔法とはならないので注意が必要。

 魔力の放出は数を数えて行い、身体が怠くなった時点で中止すること。

 一度や二度は魔力切れを体験して、魔力切れがどれ程危険かも知っておく事が大事である。

 安定した魔力放出が出来る様になってから、初めて魔法の練習に移る。

 魔法の練習には同じ魔法使いから注意すべき点を教わり良く守る事。

 火魔法・土魔法・氷結魔法・雷撃魔法等の魔法は、いきなり撃つことはせずにファイヤーボールやバレット等を作る事から始める。

 此処で注意すべき事は、魔法が安定して発現する様になった時、もう一度魔力操作に戻り魔法が発現する最低の魔力量を知ることである。

 その為には手首に送る練習をした魔力量を、少しずつ減らしていきながら魔法を使ってみる。

 魔法が発現するギリギリの魔力量で魔法が使えれば、魔法を使用出来る回数が増える事になる。

 尤も注意すべきは、魔法が使える回数の1/4~1/5の魔力は常に残しておき万一に備える様に心がけることである。


 詠唱に付いては、魔法を授かるという事は魔法神の許しを得たことであり、一々許しを請うことも願う必要もない。

 詠唱で必要な事は、何をどうしたいかを決めて魔法を発動させることである。


 「その手引き書を各冒険者ギルドと街の辻々に張り出して下さい。勿論貴族に配っても構いませんし、魔法を授かった者にも配って下さい」

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