第34話 ミーちゃんの登録
オシウス村での実験は終わったし、狩りの獲物やフランの所でのおよばれ
にも飽きたので、一度街に戻る事にした。
「やっぱり街に戻るんですか」
「ああ、相応の力は付いたと思うし、服やブーツもすっかりよれてしまったからな。フランはどうする?」
「村を出るのは当分無理ですよ。柱を一日20本立てて4mですよ、あれから三月以上になりますが、漸く400m程です。その合間に野獣の討伐にも駆り出されますし、魔法が上達したのに喜んで良いのか悩みます。シンヤさんはどうです?」
「ああ、ミーちゃんとスーちゃんは立派に役に立ってくれたよ。と言うか、ミーちゃんは旅の道連れになりそうだな」
「羨ましいですよ。俺は塀作りだけで1年以上掛かりそうだし」
「それだがな、魔力を少なく使う練習はしているのか」
「いえ、これ以上少なく出来そうもなかったので諦めました。魔力が増えれば良いのですが、加護を持たないので」
「魔法は慣れれば慣れるほど、少ない魔力で同じ事が出来ると聞いたけど試してみなよ。最初の頃に出来なかったからといって、今も出来ないとは限らないぞ。時々自分の限界を試すのは大事な事だよ」
「そうでした。出会った頃はお粗末な魔法でしたけれど、シンヤさんの教えに従ったお陰で愚痴をこぼせるまでになったのだから、試してみます」
* * * * * * *
夜明けとともにオシウス村に別れを告げてザンドラに向かい、途中でスーちゃんを解放する。
人目がないのを良いことにスキップを踏みながらザンドラを目指すが、歩幅が10m前後の軽いスキップだが早い早い。
流石のミーちゃんも追ってこれないので、背負子に乗せての気楽な旅だ。
タンザス街道に出てからは人目もあるので、街道を逸れて草原をザンドラ目指して進み、夕暮れ前にザンドラの街に到着。
街の出入り口で列に並ぶと、丸腰で背負子に猫を乗せた俺は人目を引いた様で、街に戻る冒険者達の目が痛い。
「ん、背中の猫は何だ?」
「あっ、俺の飼い猫です。オシウス村に厄介になっていたときに懐かれちゃって、結構役に立つんですよ」
「だがそいつはファングキャットだろう。何か在るとお前が責任を取らされるぞ」
「温和しいのになぁ」と態とらしく言いながら肩をぽんぽんする。
ミーちゃんも心得たもので、ひょいと肩に乗ると喉をグルグル鳴らしてスリスリする。
警備兵が呆れ顔で通してくれたので、頭を下げておく。
〈ファングキャットを飼ってるなんて、巫山戯た奴だな〉
〈あれを狩っても金にならねえからな。オシウス村って言ってたから、鼠退治用に飼ってたんじゃないのか〉
〈田舎者のやることは判らねえよ〉
勝手にほざいていろ、絡んで来たらお仕置きをしてやるから。
久方ぶりにギルドに来て買い取りのおっちゃんにご挨拶。
「今日は一人か」
「はい、でも獲物はそれなりに持って来ました」
「そうか、奥へ行きな」
〈さっきの巫山戯た奴が、解体場へ行ってるぞ〉
〈マジックポーチ持ちかよ〉
〈若いけど丸腰だから持っているとは思ったけどな〉
〈どうせホーンラビットを2,3匹だろうさ〉
今日も先客が二組いて、エルクと水牛の様な角を持つ獲物を前に彼此言っている。
もう一組はハウルドッグと羊の様なものを並べている。
死んだ奴の名前が判らないのが不便だが、生きて出会ったら判るから良いか。
「おう、今日は一人か?」
「はい。少し多いのですが」
「判った、あっちへ行こう」
解体場の奥へ案内されたので、示された場所に獲物を並べていく。
ホーンボア 3頭
エルク 2頭
オーク 9頭
グレイウルフ 11頭
フレイムドッグ 7頭
カリオン 6頭
チキチキバード 2羽
スプリントバード 1羽
コケッコー 3羽
レッドチキン6羽
「結構多いな。オークはやっぱり魔石を取ったのか」
「ええ、ちょっと必要なんで」
「レッドチキンやチキチキバードを良く獲れたな」
「そりゃー此奴がいますからね」
ミーちゃんの頭を撫でてやると、グルグル鳴いて尻尾をフリフリする。
「なんだ、お前はそんな物を飼っているのか」
「オシウス村で厄介になっているときに懐かれましてね」
「待て、お前はテイマーじゃなかったか? 蜂の護衛がいるとか」
「ええ加護のお陰でね。だから仲良くなってテイムしたんですよ」
「それなら受付に申請して、テイム済みの印を貰っておけ。そいつも野獣と看做されるので、それなしだと殺されても文句を言えないぞ」
「そうします。有り難う御座います」
やっぱりお友達では通用しないか。
グレイウルフもテイムしたかったが、薄暗くなってから現れたのでビーちゃん達の支援を受けられず、集団で襲ってくるので手加減出来なかった。
フランから聞いた常識では、テイマーがテイム出来る野獣は1頭のみと言っていたが、俺が2頭目を従えたらどうなるのかな。
査定に時間が掛かると言われ、食堂で待つと伝えてギルドカードを預ける。
解体場を出ると取り敢えず受付へ行き、ミーちゃんを抱えてテイム済みの登録をお願いする。
渡された用紙に俺の登録情報と従えている野獣名を書いて申請、ギルドカードを要求されたが、解体主任が持っていると伝えて紐付きのメダルを貰う。
此れを付けておけば街に入っても野獣と看做されないし、攻撃を受けないと教えてくれた。
万が一攻撃を受けたら反撃しても良いそうで、正当防衛を認めているのは有り難い。
まっ、ミーちゃんには悪戯や攻撃をされたら、取り敢えず逃げろとは言い聞かせている。
後はビーちゃん達に仕返しをしてもらえば良いからと言い聞かせておく。
ミーちゃんを肩に乗せて食堂へ行き、エールとステーキを持って空きテーブルを探すが、ミーちゃんが大注目。
〈おい見ろよ。猫連れだぞ〉
〈あれってファングキャットじゃないか〉
〈メダルを付けているので、テイム済みなんだろう〉
〈あ~、あいつは去年の春過ぎに新人登録した間抜けだぞ。テイマーの能力が1だってさ〉
〈俺達のパーティーにと思ったが、役立たずなので捨て置いた奴さ〉
〈なんだ、それでテイム出来たのがファングキャットって事か〉
〈ホーンラビットより強そうだな〉
〈あれは金にならんのでホーンラビットの方がマシだぞ〉
空きテーブルに座りエールを飲んでステーキに取りかかったところで、解体場で話し込んでいた男達が食堂に入ってきた。
解体場でもちらちらと俺達を見ていたが、食堂内を見回し二人が俺の所へ直行してくると、向かいの席にどっかりと座った。
「兄さん良い腕をしているな。何処のパーティーに属しているんだ?」
「俺は一人ですよ。相棒はいますけど」
俺の言葉にちらりとミーちゃんを見て「ふ~ん」と小馬鹿にしたように笑う。
「なら俺達と一緒にやろうや。猫を連れてじゃ大変だろう」
「解体場に居ましたよね、オークの討伐には此奴がお手伝いしてくれたのですよ。俺一人では無理なのでね」
そう言うと二人が顔を見合わせている。
仲間達がエールやつまみを抱えてやって来たが、ミーちゃんの座る椅子を蹴り「猫なんかを置くな!」と怒鳴ってきた。
椅子から落とされたミーちゃんが、不満げな唸りを上げて俺の肩に飛び乗る。
「兄貴、仲間になると言いましたか」
「猫と一緒が良いそうだ」
「お前なぁ~、田舎の村から出てきたんだろう。街は何かと物騒だぞ」
「そうそう、一人で意気がっていても、街を一歩出ると何が起きるか判らないからな」
にやにや笑いながら人を見下した目で見てくる。
勝手に笑ってろ! 直ぐに泣きっ面に変えてやるから。
そう思ったときに受付カウンターの方が騒がしくなった。
《ビーちゃん達、こっちだよ》
《マスター大丈夫ですかー》
《どれを刺すんですか?》
《俺の座る前に居る奴等だけど》
〈おい!〉
〈キラービーだ!〉
〈騒ぐな! 刺激せずに頭を下げて静かに〉
〈痛って〉
《まだ早いよ、もう少し待ってね。俺の周りを飛んでいてね》
《はーい》
《あ~ん、もっと早く刺すんだった》
《毛玉が怒っているね》
「何を無様な格好をしているんですか?」
「蜂が、キラービーが・・・」
「なんの騒ぎだ! って、なんでキラービーがいるんだ!」
「あーギルマス大丈夫ですよ。多分ギルマスは刺されないと思いますよ」
「お前は・・・シンヤだったな。何故蜂を入れた!」
「嫌だなぁ~、俺が呼んだ訳じゃないですよ。隣の人が俺のミーちゃんを椅子から蹴り落としたので、蜂達が怒った様なんです」
「外に出せ!」
「無茶言わないで下さいよ。俺はキラービーを従えている訳じゃ有りませんから。やっとファングキャットをテイム出来た、ヘタレのテイマーですよ。まさか、俺が蜂をテイム出来るなんて言いませんよね」
「だがお前の護衛なんだろうが」
「テイマー神ティナ様の加護を授かっているので、守ってくれていますね。俺が従えるミーちゃんを、椅子から蹴り落としたので助けに来てくれたようです」
肩に乗るミーちゃんを胸に抱き、前足を持って招き猫のポーズを取らせ可愛さをアピール。
俺と同席している連中をジロリと睨み「此奴はキラービーが守っているので、余計な事をするな!」と頭上を舞うビーちゃん達を気にしながら、小声で叱責するギルマス。
俺と同席している奴等は冷や汗を流しながら俺とギルマスの遣り取りを見ていたが、ギルマスに叱責されて別な意味で冷や汗が流れたようだ。
「此奴を外に出せないのか? そのうち追い出す為に蚊遣りでも燻す奴が出てくるぞ」
「お願いしたら出て行ってくれるでしょうけど、この人達が勧誘してきているので、俺の感情に反応するので直ぐに戻ってきますよ」
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