第33話 訓練と試しの日々
村長達が興味深げにフランと俺の遣り取りを見ている。
倍の太さになった物の長さを倍にして貰い、再び倍の太さにしてから地面を埋めて倒れない様にする。
約2.5m埋まっているので地上部は4mちょい、地上部の長さを倍にして貰ってから村長と相談。
「これで8mちょっとの高さがあるはずです。どの程度の高さをお望みですか?」
「この高さなら十分じゃよ。しかし、柱が細いが大丈夫なのかな」
「柱はこの倍にして貰いますし、フランの土魔法なら強度も問題ないはずです」
そう言って再び太さを倍にして貰ったので、太さは20cmオーバになっている。
その柱を中心に東西南北四ヶ所、5m程離れた場所にアンカーを作って貰い、ロープを担いで柱に登り上部に括り付ける。
ロープの下はアンカーと結び、重りを垂らした糸を使って柱を垂直になる様に調整だ。
「良く知っているな」
「家を建てるときに、柱を真っすぐするのにこうするのを見ていましたから」
全てのロープを張り終えると、見ていた者達に柱の強度試験を頼む。
「折れても良いのか?」
「大丈夫ですよ。折れたらもっと頑丈な物をフランが作りますから」
「酷え話し」
「どのみちフランが作る事になるんだから一緒だろう」
「まぁ、村長達は俺の土魔法が上達したのを知った時から、このつもりだった様ですよ。お土産を持って帰って来たら、親父達とは話が出来ていましたからね」
お可哀想なフランちゃん。
「ところで何回魔法を使った?」
「17、8回くらいですかね」
「これ以上は使うなよ」
「ここなら安全ですので、もう少し使っても良いんじゃないですか」
「ここは柵の外だぞ。万が一の事を常に考えてないと、魔力切れ寸前で野獣が襲って来たらどうするの。常に1/3の魔力は残しておけよ」
「そうですね。でも、何百本建てる事になるんでしょうね」
「一日20本以上は立てるなよ。レブンの様な奴等が、遅いだ手抜きだと言い出すけど相手にするな。文句があるなら自分でやれと言ってやれば良いさ」
村長の指示で柱を壊そうとしていた者達は、傷らしい傷も付けられず疲れて諦めた様だ。
それを見て、フランがニヤリと笑う。
翌日には真っ直ぐに立てた柱に斜めの補強をして、引かれた線に沿って柱を立てていく。
柱と柱の間はぴったりとつけて、猿でも登れない様にしていく。
それに柱の下部と上部は、最終的に隣と密着して強度を上げる予定だ。
この辺りは夜の間に村長達と話し合ったらしい。
フランはお仕事で忙しいので、役立たずの俺は村の外に出てジャンプと俊敏を使い熟す訓練に励む。
ミーちゃんという鬼ごっこの鬼は、ジャンプと俊敏を駆使して追い回すには最良の相手だ。
そんな訓練の日々の間に《マスター、大きな人族が来ているよ》とビーちゃんから待望のオークの発見報告。
《有り難う。案内してくれるかな》
《43号が案内しまーす》
舞い降りてきたビーちゃんを見て、ミーちゃんの毛が逆立つ。
ビーちゃん達に刺されて以来トラウマになったのか、羽音が近づいてくると唸る唸る。
ミーちゃんを宥めつつ、43号の案内で森を駆け抜けオークの所へ急ぐ。
村から遠く離れての単独行動は控えているので、長らく待たされたが楽しみだ。
オークは三頭で、ビーちゃん達が足止めの為に周囲を取り囲んで攻撃している。
《ミーちゃん、足の後ろだけを攻撃だよ。絶対に前に回ったり顔を狙っちゃ駄目だよ》
《はい、マスター、練習通りやります!》
《よし、後ろに回るぞ》
ビーちゃん達を追い払うのに手を振り回し唸り声を上げているので、周囲への警戒が全然出来てない。
オークの背後に回り、後方15m程からジャンプして跳び込むと同時に、身を沈めアキレス腱を狙って短槍で斬り付ける。
〈グギャー、ガッ〉
〈ゴワーッッ〉
斬り付けた瞬間後ろに飛ぶと、ミーちゃんも脹ら脛をザックリ切り裂いて俺の横へ駆け込んで来る。
悲鳴を聞いたオークが振り向き俺を見つけて唸るが、ビーちゃん達に邪魔されている。
《ミーちゃん後ろに回れ》
《はい、マスター》
俺に襲い掛かりたいが、ビーちゃん達が邪魔で焦るオークの背後に、ミーちゃんが忍び寄り頑丈な爪でスッパリと切り裂く。
〈ギャーーー〉
足を斬り付けられて倒れたオークだが、未だまだ元気なのでミーちゃんとの連係攻撃に切り替える。
俺に気を取られるオークの背後から飛びかかり、反対の足や首の付け根をスッパリ斬り付けて跳び下がる。
後ろにも敵がいると知ったオークが振り向くと、今度は俺が短槍を抱えて跳び込みプスリと刺して即下がる。
三頭のオークが動かなくなるのに、そう時間は掛からなかったがここからが大変だった。
瀕死の二頭に止めを刺すと、未だ余力のあるオークの体力を削る為にミーちゃんと交互に手足を傷付けていく。
(テイム)〔オーク・11〕
未だまだ元気と、致命傷にならない様に傷付けながら数字が下がるのを確認する。
(テイム)〔オーク・3・・・2・・・1〕
(テイム・テイム)〔オーク・2-1〕
やれやれ、テイムしたら何時も通り傷が治っているが、短弓の矢を射ち込み矢が残った状態でテイムしたらどうなるのか興味がある。
《聞こえるか》
《はい、マスター》
《名前はオークな》〔オーク、2-1、暴食、剛力〕
名付けの時に、能力が一瞬頭に浮かんで消えるのは止めて欲しい。
《はい。オークですねマスター》
(スキル)〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力10/10、索敵中級中、気配察知中級中、隠形中級中・木登り・毒無効・キラービーの支配〕
〔キラービー、50-50、複眼、毒無効〕
〔スライム、30-1、軟体、ジャンプ〕、
〔ファングキャット、4-1、夜目、俊敏、29〕
〔オーク、2-1、暴食、剛力、60〕
思った通り能力に剛力が付いているが、末尾の数字が60か。
クーちゃんの時は数字が消えてから解放したので、木登りの能力が残った。
剛力を選択して受け取れば60日は支配下に置く必要が有る。
《命令だ、此れから60日たったらここへ来い》
《60にち・・・》
《両手を前に出せ。毎日指を一つずつ曲げ、全部の指を曲げたらここへ来い。判ったか?》
《はい、マスター》
《それまでは、この近くに来るな。それと俺の様な人族から逃げて絶対に襲うな》
《はい、全部の指を曲げたらここへ来ます。それから逃げます》
《よし、行って良いぞ》
やれやれ、数字が判らないとは思わなかった。
これで10日おきに此処へ来て、オークの存命を確認するしかないな。
《ミーちゃん、60って判る?》
《ろくじゅ・・・ですか》
《あっ、良いよ忘れて》
ビーちゃん達に番号を割り振って呼んでいたので、数字を理解していると思ったけど、数字じゃなく名前だったのを忘れていた。
ビーちゃん達も少しの数字が判るのでミーちゃんに聞くと10程度なら判る様だ。
しかし、スキルの確認はテイムした所だけを見る事が出来ないものかな。
* * * * * * *
剛力は、短槍を振り回しても小枝を振っている様な感覚だ。
スーちゃんの能力ジャンプを貰って試したが、スーちゃんの半分程度の能力。
上にジャンプは、スーちゃんが体長?の20倍程度で俺が身長の10倍程跳べる。
前後左右なら、スーちゃんは30倍程度で俺が15倍程度跳べる。
オークの剛力の半分ってどれ位の物を持ち上げられるんだろうと、試しに自分の胴体位の石を持ち上げたが、〈よっこいしょ〉の掛け声も必要無かったので笑ってしまった。
ミーちゃんの素早さにオークの剛力を使い熟す練習は、ドラドさんから長剣の扱いを教わりゼブルさんからは短槍、ヤンスから改めて短弓の扱いを習う。
毎朝朝食前の素振りと形稽古が日課になった。
保存食料が心細くなっているので森に入り、小動物や鳥を狩りに行く。
ホーンラビットにヘッジホッグ、コケッコーやケンケンバードにチキチキバード。
コケッコーって名古屋コーチンによく似た鶏だが、体高が2倍程度で結構素速く飛ぶ。
ケンケンバードは尻尾が長く、尾羽は矢羽根として珍重されているし肉も美味い。
チキチキバードは鳴き声から命名された様だが、肉が最高に美味くて高値で取引されると聞いた。
獲物を狩るとその場で解体して、内臓や不用部はスーちゃんやミーちゃんのお食事に提供。
とても一人では食べきれないので、5-90のマジックバッグに保存したりフラン達に提供している。
* * * * * * *
オークをテイムしてから何度となく戻ってきたオークを確認しては放流を繰り返し、木々が芽吹き葉が生い茂る頃に数字が消滅した。
スーちゃんで試したかったが、村の子供の人気者なので解放は出来なかった。
オークを連れ歩く気はないので心置きなく解放する事に(テイム・解放)
支配が解けてキョロキョロするオークの背後から、短弓で心臓を射抜いて倒し魔石を抜き取って死骸はマジックバッグにポイ。
冷酷非情の様だが、此れも世の習いだ許せ! とニヒルを気取る。
スキルを確認して剛力は残っているので、あの数字は能力の定着日数に間違いないと確信した。
スキルを確認していて、ビーちゃん達の数が減っているのに気付いた。
寿命か、オーク等との戦闘で失われたのかは不明だが数が減るのは不味いので補充することにした。
と言っても、一匹ずつ呼び寄せて叩くのは面倒なので支配を試す事にした。
ビーちゃん1号に頼んで群れを呼んで貰い、目の前でホバリングしているキラービーをテイムしてみた。
思った通りで、支配はその種族を弱らせることなくテイム出来る。
欠番になっている番号を割り当てて、ビーちゃん軍団復活。
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