第46話 ミーナの護衛依頼

 「貴方を呼んだのは、護衛をお願いしたいからなの」


 「護衛?」


 「母から、二月程前ミーナ宛てに書状が届きました。その時には元気で、又ミーナに会うのを楽しみにしていると書かれていました。10日程前に父と私宛てに届いた書状には、三月程前から体調が悪くなりどうしてもミーナに会いたいとの書状が届きました」


 異変を知らせる手紙か。


 「俺はテイマーですよ。ビーちゃんの支援を受けられるとは言え、俺向きの仕事じゃない」


 「それは判っています。でも、貴方は困難を乗り越えて、二人を救ってくれた知恵があります。護衛の騎士や冒険者達を幾ら集めても、母を助けられるかどうか」


 「監禁、若しくは見張られていると思っているのですね」


 「二通の書状を読めば、そう考えざるを得ません。それと、先年の事を思えば内通者がいると思われますが・・・」


 「恨まれる覚えは?」


 「私自身は無いと思いますが、人の妬み嫉みには際限がありませんから」


 そう言って父親をチラリと見る。

 思い込みの激しい見本が目の前に居て、迷惑を掛けられまくっているので、恨みの線もなきにしもって事か。

 でもなぁ、近接戦も戦えると思うが、護衛と人質救出任務なんて無理ゲーだろう。


 「そこ迄判っていてお三方が出掛けて行けば、身代金だけで済むとは思えませんけど」


 「判っていますが、見捨てることは出来ません。万が一の場合には、ミーナだけは守りたいのです。貴方にミーナの護衛をお願いしたいのと、私と父に何かあればそこに居る全ての者に制裁をお願いします」


 父親が目の前にいても何も言わさずに、こんな事を決めるとはかかあ天下どころか女傑だわ。


 「ミーナ嬢一人の護衛としても、守り切れるとはとても言えません。それどころかミーナ嬢共々、私も死ぬ確率が高いですよ」


 「貴様! ミレーネ、こんな冒険者を当てにせず護衛達に任せよ」


 「お父様は、彼等がミーナを守りきれると思いますか」


 「それは・・・」


 勝負あり、娘に勝てない親父が賊に勝てる訳がないな。

 奥様の読み通りなら人質奪還作戦となるが、家族がのこのこ出掛けて行っても邪魔どころか最悪の結果が待っている。

 ミーナとはよくよく縁がある様だが、此れって悪縁か?

 俺が賊ならどうする、ホルムの街から見張っているか? それとも母親の住む街の入り口で見張るか。


 「奥様、ミーナ嬢の護衛はお断りします」


 「見ろ! 所詮、下賎な冒険者だ! 勝てないと思えば即座に裏切る!」


 「気の早い御方ですねぇ。それに裏切るって、別に貴方の配下でも身内でもありません」


 「ミーナの護衛を断るとは?」


 「奥様のお考え通りなら、お婆様は監禁されて居るか見張りが付いている事でしょう。では使用人達は?」


 「それは・・・」


 「その家はお婆様が主人なのですよね」


 「そうです。使用人13名程居るはずです」


 「主人を人質に取れば、使用人は脅されて普段通りの生活をしていると思われます。でなければ、周囲が不審に思い何かしらの不都合が生じます。そこへ奥様方が行くのは愚策の極みです」


 「でも行かなければ」


 「簡単な計算です、一人が犠牲になるか四人とも死ぬか」


 「・・・・・・」


 「そこで提案です」


 「何か妙案でも?」


 「いえ、お婆様は諦めてもらいます」


 「お前は、我等を揶揄っているのか! その方の首を叩き斬れと命じても良いのだぞ」


 「今度こそ、全身をキラービーに刺されて死にたいのか? 策が無いのなら黙って最後まで聞け!」


 「話を続けて下さい」


 「成功報酬を示して下さい。失敗したら無給どころか死ぬ確率が高いので。それと、俺が帰って来なければ、諦めて役人に任せるか引き返して下さい」


 「何をするつもりですか?」


 「よくよくミーナ嬢とは縁がありそうだが、どうも命の遣り取りに関わる縁らしい。見捨てても良いが、見捨てれば皆様は死ぬか奴隷になりそうで寝覚めが悪い。俺の様な小僧が一人が乗り込んでも、相手はそれ程警戒はしないでしょう。状況が判りませんので、俺が死ぬか相手が死ぬかの一発勝負です。俺が死ねば、ビーちゃん達が許さないでしょう」


 「それは・・・」


 「彼等に敵味方や善悪は関係ありません。その場に居る者は皆殺しになるのは間違いない。運が良ければ助かりますが、賊に殺されるかビーちゃん達に殺されるかなので、諦めてくれと言いました」


 「判りました、貴方にお願いするわ。何か手伝えることは?」


 此処で手勢を集めても時間が掛かるし、護衛の冒険者を使うのは警備に穴が開く。

 ザンドラで集めるしか無さそうだ。

 まっ、手勢と言っても事の見届け人で連絡係だからシルバー辺りを数名集めれば良いか。

 何時の間にか馬車が止まっていて、外を見ればホテルの前に横付けされていた。


 「ホテルの中で貴方が何をするのか教えて下さい」


 「はい。私も色々と聞きたいことが有りますので」


 「あれっ・・・シンヤ?」


 奥様に起こされ寝ぼけ眼のミーナに笑っておくが、ミーナは俺の膝で寛ぐミーちゃんをガン見している。


 ホテルの奥様達の部屋で、お婆様の住まう家の場所や間取り等を詳しく聞き出す。


 ザンドラの南、馬車で2日の所にあるカンタスの町。

 町の大広場の一角にお婆様の家があると聞き、簡単な地図と書状を書いてもらう。

 広場は市場にもなっていて、広場の西に2階建て18室の建物だから直ぐに判るって。

 カンタスはお婆様の生家で現当主と結婚したが、当主の性格に呆れ果てて離縁し生家に戻ったそうで、娘夫婦と暮らしていたが今は一人で使用人が居るだけだそうだ。

 それ以上詳しい話は遮り、間取りとお婆様の寝室や居間の位置を詳しく聞き出す。


 俺はお婆さんの確保と、賊の排除か捕獲だけ出来ればそれで良し。

 幾ら王の威圧を殺気としてぶつけても、全てをやれる訳が無い。

 殺気でフリーズしている賊と思しき奴等を無力化し、賊と引き離せばお仕事完了。

 さして難しい事では無いが、万が一の事を考えて覚悟だけはしてもらっただけだ。


 問題はお婆様とやらが殺気で心臓麻痺でも起こしたら、手持ちのポーションで回復するのかそれが心配だ。


 話が終わりホテルの一室をあてがわれたが、ミーナがミーちゃんを抱いて放さない。

 抱きしめてスンスンスリスリしてはうっとりしていて、下僕の素質十分だがミーちゃんは迷惑顔で俺を見ている。

 7才のミーナには、小さくなっているミーちゃんは丁度良い抱き心地らしく、もう暫くの辛抱だと慰めておく。


 * * * * * * *


 朝一でエムデンを出てタンザス街道をザンドラに向けて歩き出すが、直ぐに街道を逸れて草原地帯を街道沿いに走る。

 エムデン→ザンドラ→カンタス間を馬車で5日掛かるが、ザンドラで冒険者を数名雇いたいので急ぐ。

 出会す野獣はテイムを使うが、初見の野獣は王の威圧で動きを止め即座にプスリとしてマジックバッグ行き。

 2日目の夕方にはザンドラに到着したので、そのまま冒険者ギルドに向かう。


 「シンヤじゃない、急いでいる様だけどどうしたの」


 振り向けば女戦士・・・確か血飛沫の剣だったかな。

 「メリンダ、どうした」と声が掛かり、リーダーと名乗ったベルガが後ろから現れた。


 「ベルガさん、一人一日銀貨2枚で4~5日付き合って貰えませんか」


 「美味しそうな話だが、いきなりだな」


 「急ぎの仕事でして、カンタスまで行ってちょっと人助けです。ベルガさん達は俺が呼ぶまで待機、音沙汰なければ帰って貰って結構です」


 「お前さんを信用しない訳じゃないが、話がうますぎるな」


 「カンタスの町中なので怪しい仕事じゃ有りません。受けて貰えるなら5日分金貨7枚だが、前金で金貨3枚残金は5日後にでどうです。詳しい話はカンタスに向かいながら話します」


 「私は受けても良いと思うわ。シンヤは結構稼いでいるって噂だし、興味もあるわね」

 「だな、腕はこの間見せて貰ったし、助けてもらった恩も有るからな」

 「良いだろう。何時出発だ」


 「今から街を出ます。全員分の食料は持っていますし、皆が寝られる野営用結界も有ります」


 「野営用結界って、マジかよ」

 「噂には聞くけど見たことないぞ」

 「少々の野獣の攻撃には耐えられるって話だが」


 「行きましょ。街の外で野営しその時に詳しい説明をします」


 その場でベルガに金貨3枚を渡すと、閉門前に街を出るべく急いだ。


 * * * * * * *


 街を出てカンタス方面に暫く歩き立ち止まる。


 「使役獣を呼びますので、攻撃しないで下さいね」


 「使役獣って、その猫ちゃんじゃなく?」


 「ええ、フォレストウルフです。ギルドでの登録はしていませんが、テイムしています」


 「本当かよ?」

 「おい、右手の草原から何か近づいて来るぞ」

 「待て、ウルフだ・・・それも2頭だぞ」


 フーちゃん達に7人の匂いを嗅がせて、暫く一緒に行動すると教えておく。


 「フォレストウルフの使役獣なんて初めて見たな」

 「俺もだ、大抵はドッグ系だし、たまにブラックウルフとかグレイウルフもいるけどよ」

 「それも1頭だからなぁ」


 草原の平らなところで大きい方の野営用結界を展開する。

 その際に3人に同時に結界魔法板に指を置いてもらい、出入りには彼等に手を引いてもらえば、誰でも出入り自由と教えておく。

 フーちゃんミーちゃん達は外でホーンラビット2匹でお食事、俺達は野営用結界の中で血飛沫の剣の7人に保存している食事を提供する。


 野営用結界の仕組みに驚いていたが、中へ入って二度ビックリしている。


 「外が丸見えだわ」

 「見張りには便利だが、野獣が近づいて来たら気になって眠れそうにないな」

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