第143話 不審な乗客

 エールを20樽と食料をたっぷりと空間収納に溜め込んで、久々にタンザス街道を歩む。

 今回は街道を歩いて見たが、半日もせずに街道脇の草原へ移動してRとLの速度に合わせて進む。

 五日目にエムデンの冒険者ギルドに顔を出したが、氷結の楯のオルク達も大地の炎のホーキン達も居なかった。

 と言うか、大地の炎は分裂してしまったそうでその名は消滅していた。

 二つのパーティーが合併して攻撃魔法使いが二人、総勢10人のパーティーでは気の合わない者もいるだろうし、分裂も止むなしかな。


 夕暮れ時にギルドに顔を出して三日目、フェルザンに声を掛けられた。


 「フォレストウルフが居ると聞いたので、シンヤさんだと思いましたよ」


 「分裂したんだって?」


 「ええ、攻撃魔法使いが二人いても、獲物の数は2倍にはなりませんので分け前に不満が出ちゃって。それに魔法の手引き書が出て、競争相手も増えましたからね。俺達は元の火祭りの剣を名乗り、攻撃はコランを中心にやっています。ホーキン達はザンドラに拠点を移した様です」


 隣でコラン達が頷いている。


 「コラン、回数は増えたかい」


 「今は34、5回って所ですかね。あれってシンヤさんが広めたのですか?」


 「ああ、知り合いの伯爵様繋がりで教えたのさ。強制招集で扱き使われるのは嫌だからな。腕利きが多ければ楽が出来るだろう」


 「いやー、競争相手が増えちゃって大変ですよ」

 「でも、コランほど命中率の良い奴はいませんからね」

 「爆発力も、エムデンでは一番だと思うな」


 「オルク達氷結の楯はどうしてる?」


 「五日ほど前に会いましたから、そろそろ獲物を持って来るんじゃないですか」


 「ようシンヤ、久し振りじゃないか。何か用か?」


 言っているそばから声が掛かった。


 「ああ、新しい家に移ったから連絡をしたんだけど、オシウス村へ行く序でに寄ってみたんだ。新しい家はリオランド通り11番地、サラディン広場の近くだよ。今度は少し大きな家だから、皆が来ても余裕だよ」


 「あれって、あんたでしょう」


 「それでコランに恨まれているよ」


 「恨むなんてとんでもない。シンヤさんには感謝しています」


 「お前は王都住まいだから、ドラゴンを見たか?」

 「そうそう、ドラゴンが五頭も討伐されたんだってね」

 「でかい蛇もいたって聞いたけどな」


 「ドラゴンを展示して、誰でも見に行ける様にするらしいよ」


 「五種類のドラゴンらしいな」


 「あ~、説明が難しいけど、一番大きなドラゴンは30m以上の大きさだそうだよ」


 「そんな奴よ良く討伐出来たな」


 「コランの得意技と同じで、口の中にアイスランスを撃ち込んで討伐されたと聞いたよ。ドラゴンが飾られたら王都に見に来れば良いよ」


 「その時は、又お前の家に泊めてくれよ」


 「だから、今度の家は大きいから大丈夫だよ。リオランド通り11番地、サラディン広場って市場の近くだから判りよいと思うね」


 「それなら俺もドラゴン討伐が出来るって事かい?」


 「誰か防御を受け持ってくれる奴がいないと無理なんじゃないの」


 「ナーダが居たらなぁ」

 「奴が居なくなってから、野営がしんどいからなぁ」

 「土魔法を授かった奴を勧誘するか」

 「土魔法使いってだけで、争奪戦になるので俺達には回ってこないさ」


 「腕の悪い奴を勧誘して鍛えれば良いのさ。使えなければ建築関係にでも放り出せよ」


 「腕が良くなったら、好待遇の所へ逃げられたりして」

 「その話しは聞くなぁ」

 「王国に登録している魔法使いは国に守られているので、貴族でも迂闊な事が出来ないっていうからな」


 * * * * * * * *


 皆と会って住所を教えたしドラゴンが展示されると教えたので、ドラゴンハウスが出来たら一度王都へ招待する事にした。

 来られなくても、王国がドラゴンの図解と弱点や攻撃方法を記した物を各ギルドに配り、ギルドに展示して貰う手筈になっているので、いざという時には役立つだろう。


 又の再会を約してエムデンを後にしたが、草原を駆けているときに前を走るRが突然立ち止まり耳を立てると、Lも俺の横に来てRと同じ方向を見て耳を立てている。

 こんな時は大物の野獣がいるので、街道に近い場所だし討伐しておくかとRを先頭に向かおうとした。


 《マスター、人族の争いの様です》

 《間違いないですマスター》


 聞いた以上は確かめておくかと、Rを先頭に争いの場所へ向かうことにした。

 直ぐに金属の打ち合う音や怒鳴り声が聞こえ始めたが、どうも不穏な言動が聞こえる。


 街道に馬車が止まり馬車を背に武器を構えた男達と、彼等を取り囲んだ男達の争いだ。

 既に数名が倒れたり傷を負って戦線離脱していて、馬車の護衛が不利の様だ。

 馬車を襲う野盗に見えるが、一応確認の為に声を掛ける事にして、RとLに左右の草叢に姿を隠せと命じておく。

 ミーちゃんは何時も通り俺の正面向こう側に回り込んだ。


 「おい! 何か物騒な事をしているが、お前達は野盗なのか?」


 声を掛けたとたん〈殺れ!〉と声がすると〈ポスン〉〈ポスン〉と音がして、足下に矢が落ちた。

 同時に馬車を取り囲んでいた数人が俺に向き直り、短槍や剣を向けてくる。


 《ミーちゃん、弓を持っている奴を頼む》


 《はい、マスター》


 《RとLは馬車を取り囲んでいる奴等を頼む》


 マジックポーチから短槍を取りだしながら命じると、馬車を包囲している奴等から悲鳴が上がり、包囲の一角が崩れる。

 俺に向かって来た奴三人は、短槍の峰で足を叩き折り戦力外にする。


 〈強いぞ!〉

 〈糞ッ、逃げろ!〉


 逃げろとの声に、不利を悟ったのか一斉に背を向けて逃げ出した男達を、RとLが、後ろから足に噛みつき振り回している。

 別の方角からは、ミーちゃんの攻撃を受けた奴の悲鳴が聞こえる。


 「負傷者の手当をしてやれよ」


 「ああ、こんな所で襲われるとは思わなくてよ。助かったぜ」


 「何をしている! 屑共は始末してしまえ!」


 馬車の中からの怒声に、無事だった奴等が倒れている賊に向かったので止める。


 「ちょっと待てよ、そいつ等は俺の獲物だ。勝手に殺されちゃ金にならないだろうが」


 そう言うと、礼を言ってきた男の気配が変わった。


 「兄さん、助けてくれたのは有り難いが、此奴等は俺達を襲ったんだ。始末をつける権利は有ると思うがな」


 「それはお前達が倒した相手だけだ。俺の使役獣が倒した奴までお前等に渡す気はないぞ」


 「小僧、ご苦労だった」


 馬車の窓から身を乗り出した男が革袋を投げて寄越す。

 足下に投げられた革袋の音は、精々銀貨が10枚か20枚といったところ。


 「其奴を拾って消えな」


 そう言って倒れている賊の方に向かったので、殺気、王の威圧を浴びせる。


 ぱっと振り向いた男の目に殺意が浮かんでいるし、無事だった男達が俺の周囲に集まって来る。


 「な~んか不自然だよな」


 ビーちゃん達を呼んでも、似た様な格好の男達ばかりでは攻撃対象を絞れない。

 今回はミーちゃんにお願いする事にして、馬車の下に潜り込めと指示する。


 「テイマーにしちゃー腕が良いが、余計な事に首を突っ込むなよ。何も言わずに袋を拾って消えれば、命を捨てなくて済んだのに」


 「恐いことを言うねぇ~。でも遠慮はいらない様・・・」


 俺の言葉が終わらぬうちに無言で斬り込んで来たが、刀身を掴んで引き寄せると同時に、腕を掴んで上へ放り上げる。


 〈エッ〉とか〈馬鹿な!〉なんて声が聞こえたが、ミーちゃんに足を切り裂かれて悲鳴に変わる。

 俺と悲鳴を上げた奴を交互に見て狼狽える馬鹿も、直ぐに悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 放り上げた馬鹿は、地面に落ちて〈グェッ〉て変な声を出して悶えている。

 他の奴等もRとLに襲われて、為す術も無く地面に横たわっている。

 状況がよく判らないので、偉そうにしている奴に尋ねる事にした。


 声も掛けずに馬車の扉を開けると、窓から身を乗り出して喚いていた男が、狭い馬車の中でこれでもかと身を縮めて俺から遠ざかろうとしている。

 もう一人の乗客は少女で、腕と足を縛られている


 「おっさん、聞きたい事があるので降りろよ」


 いやいやをする様に首を振り、降りようとしないのでLに引きずり下ろせと命じる。

 大きなフォレストウルフがいきなり馬車に乗り込んだものだから、可愛い悲鳴と野太い悲鳴が響き渡る。

 Lがおっさんの足を咥えて馬車から引き摺り出したが、その間中野太い悲鳴が途切れずに聞こえて耳が痛い。

 軽く脇腹を蹴って静かにさせる。


 胡散臭い護衛達と傲慢な男に、縛られた少女。

 襲っていた奴等を殺す訳にいかない様なので、ポーションを血止め程度に軽く振り掛けてやる。

 しかし、RやLに噛まれた程度なら良いが、ミーちゃんに脹ら脛をスッパリ切られていては血止め程度とはいかず、手持ちのポーション使い切り数が足りない。

 見せたくはないが、倒れている男達を治癒魔法を使って軽く血止めしていく。

 離れていた奴らも血止めをして一ヶ所に集め、馬車の護衛達も同じ様に治療して別の場所に集める。


 馬車の中で震えている、少女のロープを切ってやり「お嬢ちゃん、何故縛られていたんだ」と問いかけたが震えていて言葉がでない。

 さっきLに乗り込まれ、おっさんの汚い悲鳴を聞いてショックを受けたのか震えが止まらないので、ミーちゃんを呼び寄せて少女の相手を頼む。

 何時もの様に小さくなり、俺の肩から馬車の中へ飛び込むと、少女の匂いを嗅いでからスリスリして甘い声で鳴いている。

 ミーちゃんも、ブルーとミーナを見て人たらしの方法を学んだ様だ。

 

 「おっさん、何時まで死んだふりをしているんだ。そんなに死にたいのならゴブリンの餌にしてやろうか。ゴブリンは生き餌が大好きだから、お前の悲鳴を聞けば喜ぶぞ」


 「そっ・・・そそ、そんな事をしたら、犯罪奴隷だぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る