第144話 何方が賊だ?

 「お前達が死ねば、俺が捕まる事なんてないさ。あの少女はどうしたんだ?」


 「ぬ、盗みをしたので犯罪奴隷にするんだ。俺は何も悪い事はしていない!」


 「そう、なーんにも悪くありませんってか? なら、お前達を襲っていた奴等を殺す必要はないよな。街につれて行けば、一人金貨二枚だっけ」


 「襲われて頭にきていたんだ。本当は殺す気なんてなかったんだ」


 「そうなの。お前の護衛達は、お前とは違った考えの様だったけど」


 「そっ、それは、護衛が勝手に」


 面倒なのでもう一度脇腹を蹴って黙らせる。


 俺に放り上げられて水平着地をした男が呻いているので、軽く治癒魔法で痛みを抑えてやり尋問開始。


 「あのおっさんは何者だ?」


 「知らねえよ。知りたきゃ本人に聞けよ」


 脇腹をブーツの先がめり込むほど蹴り上げてやると、苦悶の表情で転げ回っている。

 其奴の服をナイフで切り裂き、素っ裸にして両手首と両足首を叩き折る。


 「お前はゴブリンの餌確定な。素っ裸で風に吹かれていては寒いだろうから、早めにゴブリンと対面出来る様にしてやるから安心しろ」


 そう言って、折れた足を掴んで引き摺りながら草原の奥へ向かう。


 「ちょっと待てよ、本気じゃないよな?」


 「冗談で男を裸にして引き摺る趣味はないぞ。ゴブリンがいなきゃ、別の奴の餌になれるから安心しろ」


 「待て、待ってくれ! 喋るから止めてくれ!」


 「無理に喋らなくてもいいよ。他にも大勢いるので、誰か一人くらい喋ってくれるだろうからな」


 「だから喋ると言っているだろうが! 彼奴は奴隷商のホーガンだ、娘は親父から買ったと言っていたが、親父に金貨を握らせて連れてきたんだ。どこやらの貴族に高く売りつけるって言っていたぞ。治癒魔法持ちの生娘だから高く売れるってな」


 「そうか、ご苦労だな」


 「喋ったんだから怪我を治してくれよ」


 「あ~ん、お前はゴブリンの餌確定だと言っただろう。今の言葉だって、死にたくないので口から出任せだろう。事実だとしても、殺すと言った奴を連れ帰ったら俺が甘く見られる。知りたい事は他の奴から聞き出すので、心置きなく野獣の餌になれ」


 草叢の中へ放り込み、何やら命乞いをしているが無視して引き返す。


 《マスター、人族が沢山集まってきました》


 Rに言われて気付いたが、街道上に奴の乗っていた馬車が止まっていて、ご通行中の皆様が興味津々で俺達を見ている。

 ちょっと頭に血が上りすぎていて、街道脇だったのを忘れていた。


 冒険者が居たので此処は何処の領地か尋ねると、ホーランド領でザンドラの街まで半日の距離だと教えてくれた。

 またもやザンドラかと地名を聞いたとたんウンザリしたが、彼奴に丸投げしようと思い直して冒険者達を雇うことにした。


 「あんた達ザンドラに行くのなら頼まれてくれないか。勿論タダでとは言わない、書状を領主の館まで届けてくれたら金貨一枚を渡すぞ。多分子爵様が警備兵を寄越すはずだから、案内してきたら金貨をもう一枚出そう」


 そう言って、お財布用のマジックポーチから金貨を一枚取りだして指で弾く。


 「その話に乗っても良いが、その前にどうなっているんだ?」

 「迂闊に話に乗って俺達まで捕まっちゃ堪らんからな」


 「馬車が襲われていたので助けたら、馬車の護衛達からも攻撃されたんだ。おまけに馬車の中には、成人前後の少女が手足を縛られて乗せられていたのさ。俺を襲った奴等に話を聞こうにも喋る気がなさそうなので、此処は御領主様にお出まし願おうと思ってな」


 「領主に書状を書くくらいなら、あんたを信用しても良さそうだな」


 急いで事のあらましを記した書状を用意して、表書きはノルト・ランデット子爵とし、差出人に俺の名を記す。


 「御領主様の館の通用門で、子爵様宛の書状を預かって来たので返事が欲しいと言えば良い。その際に、此処で見たことを告げれば必ず返事をもらえるはずだ」と言って書状を託す。


 馬車組と襲っていた奴等を別々のドームで包み、俺の宿舎用のドームに少女を入れてミーちゃんにお守りを頼む。

 野次馬連中を殺気、王の威圧で追い払い、馬車を路外に引き出しておく。


 ドームの中へ入ると、ミーちゃんを抱いてぼんやりしていたが、RとLを見てビクついている。

 暖かいお茶を飲ませて落ち着かせ、名前と住んでいた街の名を尋ねる。

 名前はニーナで15才、授けの儀で治癒魔法を授かったけど、父ちゃんがお金を貰って馬車に乗せられたと話した。

 住んでいたのはザンドラより一つ北のモルクの町とのことで、ザンドラの領主であるランデット子爵に丸投げするには都合が良い。


 * * * * * * *


 「兄さん、子爵様宛の書状を預かって来たので、執事様に伝えてくれねぇか」


 「あーん。子爵様への書状とな」


 「へい、此れでさぁ」


 差し出された書状を受け取り表書きを見ると、主であるノルト・ランデット子爵となっているので冒険者を待たせて執事の元へ走る。


 「オーランド様、只今冒険者が此の様な書状を持って参りました」


 「冒険者が?」


 「はい、何でもモルクの町との中間地点で、冒険者同士の争いがあり、多数の者が捕らえているそうです。其処で若い男から子爵様宛の書状を託されたそうで、返事が欲しいと待っています」


 手渡された書状の表書きは主のノルト・ランデット子爵宛になっていて、差出人は王妃様の御用係を務める少年と同じ名である。

 此れは一大事と、警備兵に冒険者達を出入り業者の待合室で待たせておけと命じると、書状を持って急ぎ主の執務室へ向かった。


 * * * * * * *


 「ランデット様、王妃様の御用係を務められるシンヤ様より、書状が届いております」


 慌てて飛び込んで来た執事から、差し出された書状を受け取り差出人を確認する。

 確かにシンヤの名が記されているので急いで封を切る。


 書状の内容は簡潔だが、奴隷商と称される男が治癒魔法を授かった娘を拘束して馬車に乗せている所を賊に襲われた事。

 襲った男達も襲われた奴隷商と護衛達にも不審な点が多々有り、全員を拘束しているので引き取り調べて欲しい事。

 場所は書状を届けた冒険者が知っているので、案内させるようにと書かれていた。


 「オーランド、此れを届けた冒険者は何処だ!」


 「出入り業者の待合室で待たせております」


 「会おう」と一言言って歩き出す。


 双方会わせて28人と少女、その殆どが大怪我をして歩けないとは何たることか。

 あの時も、たった一人でこの屋敷に乗り込んで来られた。


 執事が待合室のドアを開け「ノルト・ランデット子爵様である」と告げているのを遮り、跪こうとする冒険者達を立たせる。


 「この書状を託した少年は無事だったか?」


 「へい、フォレストウルフと猫の仔を連れたテイマーのくせに、矢鱈と強そうでした」


 テイマーなら間違いなくシンヤ殿だ。


 「捕らえられた男達は、大怪我をしているのか?」


 「俺達が見たのは、怪我をしている奴等を集めて治療しているところからですが、テイマーの癖に治癒魔法を使って治していました」

 「その後で土魔法でドームを造り閉じ込めていました」

 「その書状を届けたら金貨一枚と言われて請け負ったのですが、案内したらもう一枚貰えると・・・」


 「うむ、明日早朝迎えに行くので案内を頼む」


 執事に冒険者達に食事と寝場所の用意を命じると、騎士団長を呼び寄せて怪我人の運搬準備を命じる。


 * * * * * * *


 執事に連れられて使用人達の食堂で食事を与えられ、今夜の塒の屋根裏部屋にベッドの用意をして貰った。


 「彼奴って御領主様に顔が利くのかよ」

 「おお、なんか気楽に金貨を呉れるし、子爵様も侮った様子はなかったな」

 「テイマーの癖に、治癒魔法が使えて土魔法まで使えるなんて、聞いたことがないぞ」

 「彼奴じゃないのか」

 「何がよ」

 「噂の猫の仔とフォレストウルフを従えたテイマーだよ」

 「確かに猫の仔とフォレストウルフがいたなぁ」

 「タンザの強制招集の時に、一人で大暴れしていた奴の事か?」

 「オシウス村のフランと友達で、二人して大物を狩りまくったって噂になっていたからな」

 「フランか、奴はオシウスの牙と組んで時々獲物を売りに来るが、全て一撃で倒している凄腕だと聞くな」

 「俺は奴が獲物を並べるところを見たが、その話は本当だぞ」

 「そうなると、明日が楽しみだな」


 * * * * * * *


 早朝から叩き起こされ食堂で食事を済ませて表へ出ると、多数の馬車や荷車が並べられ騎士達が整列していた。

 先頭近くの馬車に乗せられたが、その後ろには御領主様の馬車もありびっくり。

 直ぐに馬車が動き出したが、急ぐのか馬車の酷い揺れに二時間ほど耐えると街道脇にドームが見えてきたので、馬車と並行して進む騎士にあれだと指差して伝える。


 * * * * * * *


 《マスター、沢山の馬と馬車が来ます》


 Rに起こされて眠い目をこすり起きると、簡易ベッドでミーちゃんと一緒に眠るニーナを起こさない様に転移魔法で外に出る。

 街道側に回ると、騎士達に守られた馬車列が見える。


 俺の姿を認めたのか一騎が駆け寄り「シンヤ殿でありますか」と丁寧に尋ねてくる。

 やれやれ、此れで奴等を引き渡して丸投げできると安心していたら、貴族の紋章を付けた馬車が目の前に止まり、ランデット子爵が降りてくる。


 「シンヤ殿、賊を引き取りに参りました。ご連絡ありがとう御座います」


 「ランデット子爵様、お手数掛けて申し訳ありません。私の手には負えそうもないので、取り調べをお願い致します」


 「徹底的に調べますのでお任せ下さい!」

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