第145話 魔法披露

 何か視線を感じて横を見ると、昨日の冒険者達が呆気にとられた顔で俺達を見ている。

 子爵様に断って彼等の所へ行き、約束の金貨を渡してお役御免を伝える。


 「街に帰っても、この事はペラペラ喋らない方が良いよ。情報が漏れて奴等の仲間が逃げ出したら、あんた達のせいになるからな」


 金貨を貰い、街に帰れば法螺話の中心になれるとワクテカの顔が、俺の一言で引き攣る。

 そうは問屋が卸すものか、もう一枚金貨を握らせ「俺の事は忘れろよ」と、チラリと子爵様を見て釘を刺しておく。

 素直にこくこくしているので、にっこり笑って送り出す。


 それぞれのドームに閉じ込めていた奴等を、馬車や荷馬車に乗せてザンドラに向かうが、俺とニーナは子爵様の馬車に乗りRとLが護衛の様に馬車の後ろをついてくる。


 「子爵様、ニーナから聞いた話では、授けの儀の後で父親が男から金を貰って馬車に乗せられたと言っています。その際魔法を授かっているのに王国に登録していない様です。それとニーナを縛り同じ馬車に乗っていた男は、ニーナが盗みを働いたので犯罪奴隷にすると言っていました。ところが死んだ男は『彼奴は奴隷商のホーガンだ、娘は親父から買ったと言っていたが、親父に金貨を握らせて連れてきたんだ。どこやらの貴族に高く売りつけるって言っていたぞ。治癒魔法持ちの生娘だから高く売れる』と言っていました」


 「つまり違法奴隷売買と、登録前の魔法使いを拐かして売りつける相手もいると言う事ですか」


 「授けの儀に貴方の配下の者は立ち会っていないのですか?」


 「立ち会わせていますが、治癒魔法を授かった少女がいるとの報告は受けていません」


 「甘いですね。配下を信頼するのは結構ですが、信頼だけじゃ裏切られますよ」


 「肝に銘じておきます。彼女の父親も人身売買に引っ掛かりますが、彼女に帰る所は?」


 「母親は既に亡くなっています。弟と妹がいるそうですが、此のまま帰しても同じ事が起きそうですので、知り合いの治癒魔法使いに預けようと思っています。私はオシウス村の友人を訪ねていく途中でして、用事が済み次第引き取りに参りますので、彼女とモルクの町に居る弟妹を暫く預かっていてもらえませんか」


 「承知しました、彼女と弟妹の方は責任を持ってお預かりいたします。事件の方も徹底的に解明して見せますのでご安心を」


 * * * * * * * *


 ランデット子爵様が快く了承してくれたので、ニーナを預けてオシウス村に向かった。

 災難の巣窟ザンドラで、此れほど簡単に事が運んだのは初めてなので、善行は積んでおくものだと八百万の神々に感謝しておく。


 久し振りのオシウス村は冬支度も終わり、フラン達ものんびりしていて俺の顔を見てどうしたのかと問いかけてくるが、此処でもドラゴンの事が話題に出る。


 「ドラゴンを展示するらしいから、遊びにおいでよ。新しい家に引っ越したので今度は広いから何人来ても大丈夫だよ」


 「お前はドラゴンを見たのか?」


 「まぁね。中々の迫力だよ」


 「ドラゴンかぁ~、一度は拝んでおきたいな」

 「ドラゴンスレイヤーが誰だか判らないんだろう」

 「それより、魔法の手引き書はシンヤさんでしょう?」


 「ああ、それ絡みで此処へ来たんだよ」


 「あれが出回ってから、攻撃魔法を授かった奴等が必死で練習をしていたからな」

 「というか、魔法を授かった奴等の経典みたいになっているぞ」

 「魔法を使う為の基礎ですからね。俺はシンヤさんから教えられて一気に上達したけど、魔力操作を覚えて魔法は使えるけれど、その先が難しいんだよね」


 「まぁね。それぞれの魔法によって違うからな」


 「それですよ。俺が土魔法が得意だからって、魔力操作を覚えた奴が色々と聞きにきますが、火魔法や雷撃魔法の事なんて判りませんから」

 「そういや、レブンも少しは腕を上げたけどそこまでの様だな」


 「レブンって、お漏らし君の事?」


 「彼奴の性格の悪さから、仲間内でしか狩りに行けないので上達しねぇな」

 「若いのも奴等とは狩りに行きたがらないしな」


 「暇ならちょっと森の奥へ行かないか」


 「今度は何ですか?」


 「魔法の手引き書絡みとしか言えないよ。ちょっと大物狙いに出掛けようよ」


 「また何か思いついたのですか?」


 「まぁね。行けば判るよ」


 「久し振りにシンヤの暴れっぷりを見せて貰うか」


 ドラドの一言で森の奥へお出掛けすることに決まり、食料も酒もたっぷりあると伝えると歓迎された。

 但しオシウス村から森の奥と言えば東に向かうのだが、西に向かいタンザス街道を越えて西の森に向かった。


 ドラド達は何時もの森ではなく、何故西の森に行くのかとブツブツ言ったが、訳は後で話すと言って西へ向かった。


 * * * * * * * *


 タンザス街道を越えて一週間、ひたすら西に向かって進むと獲物の数が多くなり、大物も増えた。


 「俺ばっかり狩っているけど、シンヤさんはどうして狩らないんです?」


 「此の辺りって、ザンドラ辺りの冒険者は余り来ないよな」


 「態々この辺に来なくても獲物はいますからね」


 「その口振りだと、又何か始めたのか?」

 「新しい野獣でも従えるのか?」


 「魔法だよ。フラン、絶対に壊れないドームを作ってくれ」


 「壊れないドームですか」


 「ああ、アーマーバッファローの突撃程度じゃなく、俺の全力攻撃に耐えられる様な奴をな」


 「あの短槍の一撃にですか・・・野営に使っているドームでも十分に耐えられると思いますけど」


 「おっ、自信満々だね」


 「そりゃーシンヤさんの手ほどきを受けて強化したやつですから」


 そう言ってドームを作り、念のためにと言って新たに魔力を込めて強化した。


 距離にして30m程離れた位置からストーンランスを撃ち込む。

 魔鋼鉄の強度と、リニアモーターカーの速度をイメージして撃ち出したストーンランス。

 〈ドゴーン〉と轟音を立てて野営用のドームを射ち抜いた。


 フランがあんぐりと口を開けて、穴の開いたドームを見ている。

 それはドラド達も同様で、誰も何も言わない。


 暫くして「何で」とフランが口を開くがそれ以上何も言わない。


 「お前! 魔法が使えたのか?」

 「何でフランのドームを打ち抜けるんだ?」

 「魔法が使えるなんて聞いちゃいないぞ!」


 「あ~、お静かに。驚くのは此れからだよ」


 ドームの穴を狙い、魔力たっぷりのファイヤーボールを撃ち込むと同時に、ドーム状の結界を張る。

 穴の中に吸い込まれたファイヤーボールは良い働きをした。

 穴から炎が吹きだすと同時にドームが膨れ上がり〈ドオォォォーン〉と先程とは比べものにならない轟音が響き爆発した。

 飛散したドームの破片が俺達にも飛んで来るが、結界に阻まれ〈ドカドカ〉と音を立てて当たり弾かれて下に落ちる。


 今度こそ誰も何も言わずにフリーズしたままで、現世に帰って来ない。

 土魔法でテーブルを作り、マグカップを用意して氷を入れて酒を注ぐ。

 それをフリーズして動かぬ彼等の手に握らせてやると、無意識に飲み全員噎せている。


 「エールの方が良かったかな」


 「そんな問題じゃねぇ。なんで三種も魔法が使えるんだ!」

 「あのファイヤーボールは何だ!」

 「とんでもない威力じゃねぇか」

 「シンヤさん・・・」


 「何かな、フラン」


 「何かなじゃねぇ! 説明しろ!」


 「だから遠くへ来たんだよ。それと魔法は三種じゃない、七つの魔法が使えるよ」


 「七つ・・・」

 「本当か?」

 「もういい。もう一杯くれ」


 ユージンがマグカップを突き出すと、ヤンス、ゴルヘンと続き全員がマグカップを俺に突きつけてくる。

 そのマグカップに氷を追加し、酒を注ぎ足してやる。


 「気楽に氷を作っているが、氷結魔法も使えるのか?」

 「フランの強化したドームをストーンランスで撃ち抜き、ファイヤーボールで吹き飛ばして結界で身を守る」

 「驚いた俺達に、気付けにと氷で冷やした酒を出してくれる」

 「親切なのか不親切なのか・・・」

 「残りの魔法は何だ?」

 「もう、何を聞いても驚かないぞ・・・多分な」

 「ああ、驚かない様に、酒が回ってから聞かせてくれ」


 「治癒魔法と転移魔法に空間収納だよ」


 「すまん、もう一杯くれ」


 疲れた様な顔で、ドラドがマグカップを突き出してきた。


 「もしかして・・・ドラゴンを討伐したのって」

 「お前か!!!」


 フランの言葉に、ドラドが即座に反応して指を突きつけてくる。

 黙ってマグカップを目線の高さに掲げて笑っておいた。


 「もういい。今日は飲んで寝るぞ!」

 「ああ、完全に力が抜けちまったわ」

 「とんでもねぇテイマーがいたもんだわ」

 「シンヤ、美味いつまみは無いのか?」


 テラノドラゴンの串焼き肉を皿に盛って出してやると、一口食べて目を見開いたが、チラリと俺を見て首を振りふり、黙々とドラゴンの串焼き肉を食べては酒をあおっている。

 皆が同じ反応なので可笑しくなりニヤニヤ笑っていると、フランまで同じ反応をしている。


 * * * * * * * *


 酔っ払い共の酒臭い空気に耐えられず、ドームに細長い窓を多数作り空気を入れ換えると、フランがもそもそと起きてきた。


 蜂蜜を入れた熱いお茶に花蜜を入れて出してやると、目を細めて飲んでいたが「タンザに居たときには魔法は使えてなかったですよね」と聞いてくる。


 「魔法が使える様になったのは、一年少々前だな。その前はただのテイマーだったな」


 「ただのテイマーって事はないでしょう。あの時だって無敵に近い存在でしたよ」

 「その話を聞かせろよ」


 ドラド達も起きだして、興味深そうに俺を見てくる。

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