第146話 エルフの目
「神様、アマデウスとそれぞれの魔法を司る神様から授かったと言ったら、信じるかい」
「ん~、シンヤさんは嘘は言わないし、魔法は神様から授かるものだからなぁ」
「お前の話が本当だとしても、何故今頃になってお前に魔法を授けるんだ?」
「そうだよなぁ。テイマースキルを授かったらそれで終わりの筈なのに」
「何で魔法を授かったんだ?」
アマデウスと取引したなんて言えないよな。
「此れから話すことは信じられないだろうけど、近い将来か遠い先の事かは判らないが、野獣が人里を襲う恐れがあるんだ」
「それって、強制招集の時の様な事が起きるって事ですか」
「それより強力な野獣・・・ドラゴンクラスか、もっと強力な奴らしいんだ」
「何でそんな事が判るんだ?」
「アマデウスに聞いたからだよ。此処からずっと西に行けば、何があるのか知っているか」
「遠くに雪を被った山が見えるって聞いたが、お前、さっきからアマデウス、アマデウスって言っているが頭は大丈夫か?」
「極めて正常だよ」
「それは狂った奴が何時も言う台詞だ。自分はおかしい何て言わないからな」
「じゃぁ、七つの魔法を、誰が俺に授けたと思っているんだ」
「治癒魔法と転移魔法に空間収納って言ったよな。証明できるか?」
「簡単だよ、古傷があれば見せてみなよ」
斥候のヤンスがシャツを捲りあげると、脇腹にスッパリと切られた2本の傷痕が見える。
「ふう~ん、ドジを踏んだね」
「うっせえわっ! 治癒魔法を授かっているのなら治せるだろう」
「ヤンス、古傷を治すのは流石に無理だろう」
「大丈夫だよ」(元の様に綺麗にな~おれ・・・ヒール!)
傷痕に向けた掌から治癒の光りが溢れ出て、ヤンスの傷痕に吸い込まれて消えた。
「うっそ~おぉぉぉ」
「マジかよ!」
「俺の傷も消えるのか?」
ドラドも上着を脱ぎ捨て、シャツを捲り上げて背中を見せた。
「見事な爪痕だねぇ」
「おお、新人の頃にブラックタイガーの不意打ちを食らってな」
背中に掌を当て(元の様に綺麗にな~おれ・・・ヒール!)
「ん、光りが見えないぞ」
「掌を背中に当てていたので、直接身体の中へ浸透したのさ」
「リーダー・・・傷痕が消えているぞ」
「おう、引きつりがなくなっているな」
そう言いながら身体を捻り腕をグルグル回すドラド。
「俺の古傷も頼まぁ~」
「俺は腰の具合が悪くてよ」
「俺は二日酔いで頭が痛いし吐き気も・・・」
面倒なので纏めて(元の様に綺麗にな~おれ・・・ヒール!)と頭から治癒の光を浴びせてやる。
「ユージン、顔の傷痕も消えているぞ」
「動かなかった指も動くぞ!」
「ん、何でフランも立ち上がっているんだ?」
「小さい頃の火傷の痕が」
「はいはい」(元の様に綺麗にな~おれ・・・ヒール)
「本当だ。火傷の痕が綺麗に消えている」
ズボンを捲り上げてフランが感心した声をあげる。
「転移魔法も見たい?」
「いや、信じるよ」
「ああ、古傷も治せるとはなかなかの腕だな」
「それでさっきの話だけど、雪を頂く山々は九つの国に囲まれているそうだ」
「それはそうだろう。山越えというか、森の奥へ行けないから山を挟んで国が連なっているのだから」
「それが少し違うらしいんだ。聞いた話では、連なった山々は輪になっているそうだ。それぞれの国が雪を頂く山々を取り囲んでいるが、山の向こう側が他国じゃないんだ。輪になった山々に抱かれて広大な大地が広がり、俺達の知らない野獣が跋扈する世界らしい」
「そんな話を誰から・・・」
「アマデウスからだよ。奴が此の世界を造ったときに、野獣を山々に囲まれた地に放したそうなんだ。そして、そこから漏れ出たやつが俺達の狩っている野獣の一部と言っていた。山の麓まで行って来たが、広すぎて野獣が漏れ出てくる場所なんて見つけられない。九つの国と接する広さだ、見つけられなくて当然だ。そうなると、漏れ出た野獣は奥地の野獣より強いので奥地の野獣が押し出される。俺達がタンザで見た野獣よりでかい奴や、ドラゴンなんかが押し出されたらどうなると思う」
「それを信じろと言うのか」
「いや、信じなくても良いが、ドラゴン討伐の方法くらいは覚えておいて欲しいから来たんだ。それと性格の良い攻撃魔法使いがいたら、出来る限り能力を上げてやってくれ」
「創造神アマデウス様や、魔法を司る神々の話は信じられないけれど、ドラゴンが押し寄せてくる話は信じますよ。どうすれば討伐出来るのか教えて下さい」
「フランくらいの魔法使いなら、方法さえ知っていればそう難しい事ではないよ。ドラゴンや巨大な蛇相手の時は、シェルターやドームの形を変えれば良いしな」
通常のシェルターを作り、隣りに半地下にして上部を皿形にしたシェルターを作ってみせる。
「此れなら突撃されても直撃しないので耐えられるし、グリーンスネークに巻き付かれる事もない。此れでも危険だと思ったら全てを地下に作り、上部に蓋をすれば良いのさ」
そう言って垂直に穴を開け、空気穴を残して上部を塞ぎ横穴を六個作る。
「こうすれば安全だし、危険が去るまで寝て過ごせば良いからな」
「討伐はどうやったんですか」
「後で教えるよ。王家はドラゴンを剥製にして、ドラゴンハウスってやつを造り展示するそうだ。冒険者はギルドカードを見せれば無料と言っていたぞ。それとは別に、ドラゴンの絵姿と討伐方法を記した物を各ギルドに張り出す予定だよ」
「王家がそんな事をするのなら、お前の話を信じたって事だよな」
そりゃー鑑定使いに俺を鑑定させたからな。
七つの魔法と九人の神様から加護を十個授かり魔力が710だ、信じざるを得ないさ。
地上に戻ると太めの立木から少し離れて立ち、フランによく見ていろと言って地面から石柱を立て、途中から曲げて立木に巻き付かせて締め上げる。
次いで、立木に直接土の輪を出現させて締め上げてみせる。
「判るか、ロングドラゴンとタートルドラゴンは、ストーンランスでは撃ち抜くのが難しい。地面からストーンランスを撃ち出してもだ」
そう言って地面からストーンランスを瞬時に生やしてみせる。
「本当に土魔法なのか?」
「あんなにグニャグニャ出来るものなのか?」
「流石はシンヤさん、色々と考えるものですね」
「感心していないで、やってみてよ」
フランが俺の物を真似て作ろうとするが、柱作りやストーンランスは散々やってきたが、途中で変化させるのは初めてなので難しいらしい。
「因みに、こういう事も出来るぞ」
そう言って結界の輪を、立木に巻きつかせた状態で発現させて締めてみせる。
「此れが出来れば、どんな野獣やドラゴンでも倒せるよ」
「フラン、頑張れよー」
「俺達の安全はお前にかかっているぞ!」
「ドラゴン討伐もな」
「ドラゴンスレイヤーになれるチャンスだぞ」
「身を守る術と攻撃方法を知っていれば無敵だぞ。頑張れー♪」と、俺もエールを送っておく。
* * * * * * *
フランが教えた土魔法を何とか自在に使える様になるのに十日かかった。
その間に現れた獲物は俺が狩っていたので、獲物を処分することにしてザンドラに向かった。
冒険者ギルドで落ち合う事にしてフラン達は冒険者ギルドへ向かい、俺は使い切った中級ポーションを求めて薬師ギルドに向かった。
魔法防御の服を買ってからは、ポーションは自分の為に数度しか使っていないが、時々他人に使っていて補充を忘れていた。
まさか大量にポーションが必要になるとは思わなかった。
上級ポーションを奴等の為に使うのは業腹なので、中級ポーション以下を使ったが、下級ポーションではミーちゃんにスッパリ切られた脹ら脛には効き目が薄かった。
薬師ギルドには久しく来ていなかったので、何か懐かしい。
先客と入れ替わりにカウンターの前に立つと、ギルマスのエルフがビックリした様な顔で俺を見る。
中級と下級のポーションを補充して、蒸留水保存用の中瓶を20本買って支払いを済ませると「少し聞いても良いか」と言われた。
「何でしょうか」
「君を以前見た時に加護が他人より多いと思ったが、今は加護も魔力も溢れんばかりではないか! 神々の祝福でも受けたのかね!」
冒険者ギルド販売のポーションを、無理矢理口に放り込まれた気分になる。
俺の顔の変化に気付いたのか、慌てて弁明してきた。
「済まない。此れを公言する気は無いので安心してくれ。ただ以前の君でも長寿だと思ったが・・・」
「思ったが何ですか、それと長寿って?」
「ご家族は息災かな」
「天涯孤独です」
「なら知らない様だね。君は見るからに人族だが、加護を授かっている者や魔力の多い者は得てして長寿の傾向にある。人族の平均が130才~150才程度だが、加護を授かったり魔力の多い者は2、3割長生きの傾向にある。それと貴族や金を持つ者もね」
「話が良く判らないのですが」
「手短に言えば、君は人族としては遥かに長生きをする筈だ。われわれエルフ族よりも」
「それは加護と魔力が多い為ですか」
「多いと言うより多過ぎる為だろうと思う。その辺りは長老に聞かなければ判らないとしか言えないな。君の加護と魔力の多さは尋常じゃない」
「今までに、そんな事を言われたことが無かったのですが」
「私はエルフ族の中でも中位者でね、上位者と少数の中位者が加護や魔力の多寡が見えるのだよ。気になったら上位者か長老を紹介するので、訪ねてみれば良いよ」
万人が気付く訳ではないのなら、暫くは放置だな。
冒険者ギルドで待っているフラン達と合流して、その後は子爵邸へニーナと彼女の弟妹を引き取りに行かなければならない。
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