第147話 宰相閣下の訪問

 冒険者ギルドへ行き食堂でドラド達と合流したが、皆が微妙な顔で俺を見てくる。


 「どうかしたの?」


 「依頼掲示板を見てみろ」


 ドラドの言葉に皆がニヤリと笑い、さっさと行ってこいと押し出された。

 数人の者が依頼掲示板横で何やら話し込んでいたが、ドラゴンと聞こえたので見てみると大きな張り紙がしてあり、ドラゴンの絵姿が描かれていた。


 「済みません、ちょっと見せてもらえますか」


 「あ~ん、小僧の見る様なものじゃねえ。薬草依頼の所でも見ていろ!」

 「猫の仔を肩に乗せて巫山戯たガキだな」

 「お前が凄腕の魔法使いなら見せてやるが、テイマーらしいから無用のものだぞ」


 シッシと犬の仔を追い払う仕草をするので、殺気、王の威圧を浴びせて「其処を退け!」と低音の魅力を発揮して囁いてやる。


 「聞こえなかったのか?」


 冷や汗を流しながら慌てて後ろに下がり、足を縺れさせたのか三人揃って転倒する。


 ふむ、約束通り絵姿と討伐の参考として弱点を記している。

 って待てまて、王都冒険者ギルドからサラディン広場へ向かう途中、フルラント通り中央〔ドラゴンハウス〕って何だよ!

 俺の家も、サラディン広場に続く道にあるんだぞ!

 ドラゴンハウスも、ウルファング王国商人の屋敷を改築したのに違いない。

 王都に都合良く空き家が有る訳が無いので、ちょっと図られたかな。


 「邪魔、したな」


 倒れたまま震えている奴等に挨拶をして、ドラド達の所へ戻る。


 「お前の話どおりだな」

 「でよ、獲物を売って懐も暖かいので、王都へドラゴン見物に行こうと話が決まったんだ。お前の家に泊めてくれよな」


 「それは大丈夫だけど、子供連れの旅になるよ」


 「子供連れ?」


 「シンヤさん・・・又ですか」


 「あっ、もう片付いているはずだよ」


 「何だ、訳有りか?」


 「皆に会いに来る途中ザンドラの手前で、馬車が襲われていたのに出会して助けたのさ。それが何方も胡散臭い連中で、俺にそれを指摘されたら斬りかかって来たので、全員捕まえて御領主様に引き渡したんだ」


 * * * * * * * *


 ドラド達を連れて御領主様のお屋敷へ向かい、ランデット子爵様に面会を求めると即座に執務室へ案内された。


 「お待ちしておりました。事件は粗方片付きましたし、関与していた貴族の名は王家へ報告済みです」


 「馬車を襲った奴等は?」


 「彼等は、ニーナの父親が酒場で娘のことを自慢げに話していたのを聞きつけた冒険者と破落戸共でした。娘を売った金で飲み歩き、娘が治癒魔法を授かり魔力が96等と吹聴した挙げ句、奴隷商の男を介して貴族に奉公させるんだと喋ったものですから」


 「飢えた破落戸を呼び寄せたのですか」


 「ニーナと彼女の弟妹を、引き取りニーナを治癒魔法師に預けられるとか」


 「はい、王都に知り合いの治癒魔法使いがいますので、彼女に預けるのが最善かと思っています」


 「王都までは当家の馬車をお使い下さい」


 「お申し出は有り難いのですが、知り合いの冒険者達も同行しますので」


 「その者達の馬車も用意致しますので、遠慮なさらずにお使い下さい」


 そう言って執事に頷くと、執事が革袋を捧げ持って俺の前に立つ。


 「28名賊と父親の29名分の報奨金で御座います」


 と恭しく差し出されて脱力したが、断る訳にもいかないので受け取っておく。

 出立は明日の朝と決まり、ドラド達を待合室に待たせていたのを呼んでご挨拶とお礼を言っておく。


 「フランとオシウスの牙とは、タンザの野獣討伐でシンヤ殿と共に名を馳せた者ですな」


 ガチゴチに緊張しているドラド達は食事を共にと言われて必死でお断りしているので、俺も面倒事はお断りして使用人用の食堂で夕食をご馳走になる。

 ニーナと弟のガブルと妹のアイラも元気そうで一安心。


 「お前、子爵様とえらく仲が良さそうじゃないか」

 「おお、シンヤ殿だってよ」

 「思わず跪こうとしましたよ」


 「フランは貴族に良い思いがないからな」


 「で、あの身分証は子爵様にも有効なのか」


 「以前も言っただろう、貴族も迂闊に手が出せないものだって」


 「しかし、王都迄貴族様が用意してくれた馬車で行けるとはなぁ」

 「子供連れだから有り難いが、後が恐そうだな」


 「そこは大丈夫だよ。貴族と何かあったら連絡してくれたら何とか出来ると思うよ」


 * * * * * * * *


 出発にさいし、護衛の騎士までつけてくれようとしたので固くお断りし、お礼にとゴールドマッシュの中瓶を一本と蜂蜜の中瓶10本進呈しておく。


 護衛の騎士なんぞつけられたら、街々でホテル泊まりになり時間がかかって面倒だ。

 こちとら冒険者が七人なので、道中は早朝出発の日暮れて野営となる。

 フランに野営用ドームと馬や馬車の保管場所を作ってもらい、御者の寝床や食事は俺に任せてもらう。


 子供達の野営も、冒険者御用達の店で簡易ベッドとローブを買い込み、土魔法のドーム内でストーブを作って暖を取るので寒くない。

 初めての馬車旅と野営にワクテカの子供達は、ドーム内ではフォレストウルフが珍しいのでRとLの側を離れず、モフモフを堪能していた。


 旅は順調で、ザンドラ王都間を普通は18日かかるところを12日で走破して、リオランド通りの家に到着し馬車を貴族街のランデット子爵邸に向かわせた。


 * * * * * * * *


 馬車から降りたら周りは大きな家ばかりで、通りも立派なので驚くフランやドラド達。


 「立派な家ばかりだが、お前の家は何処だ?」


 「ん、目の前に在るだろう。見えないのか」


 「シンヤさん、ミレーネ様が用意してくれた家って・・・」


 「俺もホイホイ貰ったが、こんなに大きな家だとは知らなかったんだよ。家を見てから要らないと言えないので、仕方なしに住んでいるんだ」


 玄関に向かうと扉が引き開けられてマークスが迎えてくれる。


 「漸く帰って来たか」


 「ドラド達オシウスの牙とフランだ。それと三人は暫く俺が預かる事になったので、ムラードに部屋を用意させてくれ」


 「そっちは?」


 「俺の空き部屋を使うので良いよ」


 ムラードが急いでやって来たので改めて紹介しておく。


 「マークス、ドラゴンハウスってのが出来たと聞いたけど、知っているか」


 「おお、サラディン広場から冒険者ギルドに向かう道の途中にある、フルラント通りの中程だな。でかい家で警備兵も立っているので直ぐに判るぞ。毎日大混雑だそうだ」


 市場を挟んだ至近距離でないことにホッとする。


 一日のんびりするつもりだったが、ドラドやフランがドラゴンを見に行くと張り切っていて、マークスの部下に案内を頼んだが、小一時間もせずに帰って来た。


 「駄目だ! 馬鹿混み!」

 「ちょっとやそっとでは入れそうにないです」

 「冒険者以外は銅貨一枚らしいが、大儲けしているな」

 「幾ら無料で入れるからっても、優先的に入れてもらえないので何日待てば良いのか判らないぞ」


 * * * * * * * *


 ニーナには魔法の手引き書を渡し、朝と就寝前にベッドの中で魔力溜りを探す事から始めさせる。

 魔法使いになる為の道筋がはっきりと示されているので魔力放出までは手引き書を見ながら練習をしろと言いつけてある。

 但し、夕食時にはその日の出来具合の報告を聞き、少しだけアドバイスをしておく。

 カブルとアイラは基礎教育は終えているので、メイド長のカレンに預けて下働き見習いとしている。


 のんびり過ごしていたある日、家令のムラードが血相を変えて俺の所へやって来た。


 「シンヤ様、ミレーネ様とブライトン宰相閣下がお越しで御座います」


 二人が? 二人揃っても珍しいが宰相が俺に何の用だろう。

 俺の居間で寛いでいたフランやドルド達が興味津々な顔になる。


 「フラン、ミレーネ様にご挨拶をしておくか。伯爵様になられているので、顔見せをしておいて損はないぞ」


 「やめて起きます。面倒事はシンヤさんに任せますよ」


 応接室に向かうと、扉の左右に宰相の護衛が立っているじゃないの。

 此処って俺の家だよな。

 マークス達が護衛達から少し離れて、苦い顔で立っている。


 「お前達、ブライトン宰相の護衛だよな」


 「そうだが、お前は?」


 「俺は此の家の主だ」ゴールデンタイガーの眼光を使って睨みあげ「誰の許しで好き勝手をしている。宰相の護衛なら部屋に入り壁に張り付いていろ!」


 「しっ、しかし、宰相閣下が内密の話があるので誰も近寄らせるなと」


 流石は宰相の護衛だ、眼光にも怯まず返答して来るが気に入らない。


 「だから他人の家で好き勝手をするのか? そこを俺の護衛に譲り、お前達は反対側に立っていろ!」


 何時も俺の側に控えるRとLが牙を剥き低く唸りだしたので、漸くマーカス達に場所を譲り離れて行く。


 「任せたよ」


 「おう、任せておけ」


 客室には宰相とミレーネ様のみでお茶すら出ていない。


 「何の御用でしょうか?」


 「陛下の名代として参った。ドラゴン討伐の礼も出来ずに申し訳ないと、此れを陛下より預かってきた」


 そう言って、綺麗な刺繍を施されたマジックバッグを差し出してきた。


 「此れは?」


 「ランク12で時間遅延が360の物だよ。君が献上してくれたドラゴン五頭と

蛇の謝礼として金貨18,000枚が入っている。オークションに出せないので少ないと思うが、王家から君への感謝の気持ちだ」


 受け取るのを渋ると、ミレーネ様が「受け取ってもらえないかしら。そうでないと私も頼み事をしづらいのよ」と言ってくる。


 「頼みづらいとは?」


 「それを受け取ってもらえない。貴方のお陰でウィランドール王国は一目置かれる存在になり、隣国との関係も改善されているの」


 腐る物でもないし、ごねる所でもないので頭を下げて受け取っておいたが、又マジックバッグと金貨が増えてしまった。

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