第148話 ニーナの訓練
ミレーネ様の頼みとは、リリアンジュ様が各王家に送る花蜜とゴールドマッシュの人気が高く、もう少し増やして欲しいと王妃様から頼まれているとの事だった。
聞けば花蜜とゴールドマッシュは、ウィランドール産が高級ブランド化していて、花蜜は無理でもゴールドマッシュをと冒険者ギルドに求めたが、極少数しか集められないとの事だった。
その為に大量に消費する他国の王家は、リリアンジュ様におねだりしてくるんだと苦笑いで教えられた。
それは俺だってミーちゃんがいなきゃ集められないし、花蜜に至ってはハニービー頼りだからな。
在庫も残り少なくなっているので、今年の春は花蜜集めから始まりそうな予感。
確約は出来ないが、もう少し頑張って集めましょうと返事をしておいた。
宰相閣下には、ドラゴンハウスの人気が高すぎて冒険者達が見学に入れないので、冒険者カードを示す者は優先的に入れる様にお願いした。
冒険者だけを優遇するのはと難色を示されたが、冒険者は王都に住まう者の極少数であり冒険者こそが見る必要があり、見るべき物を見れば二度三度と訪れないと伝えて了承された。
* * * * * * *
ニーナは魔力量が多いだけあり、魔力の把握は一週間で出来て魔力操作も順調で二週間で魔力の移動も思い通り出来ると言い出したので、夜寝る前にベッドの中で魔力の放出を命じる。
翌朝食事時に何回放出出来たのか尋ねると、31回まで数えたところで寝ちゃいましたと言う。
それは寝たんじゃなくて魔力切れで失神したんだが、魔力調節の時に教える事にして魔力放出を続ける様に言っておく。
しかし、俺が手ほどきした相手は、ほぼ魔力量の1/3回程度の魔法が使えるか魔力の放出回数になるので不思議だ。
まっ、魔力を絞り魔力の増減で治癒の加減が出来る事を教えれば回数も増えるだろう。
また草原に出て、ゴブリンに治癒魔法の練習相手になって貰わないとならないのが面倒だ。
* * * * * * *
お願いしておいたドラゴンハウスへの入場方法を変更して、冒険者は優先的に入れる様にしたと連絡がきたので皆に伝えておく。
それと同時に、王国内の魔法使いを集めた魔法大会を開くことが発表されて、詳しい事も知らせてきた。
出場資格は攻撃魔法の火土氷雷の四部門と結界魔法と治癒魔法も募集していて、貴族や冒険者など出場は自由だが一定の条件を満たす必要が有ること。
各部門の最優秀者には金貨100枚を与えるとの事で、王家も優れた魔法使いを育てる気になった様だ。
一定の条件が気になったので読んでみると、火魔法なら30m離れた地点から直径30cmの的五つを10発以内で撃ち抜く事と、一定の強度の的を破壊できる事と書かれている。
土魔法や氷結魔法も似た様な条件だが、結界魔法は防御障壁を一定時間内に作り、攻撃魔法上位者の攻撃に耐えられること。
治癒魔法は野獣を一定条件で傷付けて治せる事と、中々実戦的な方法を採る様だ。
それに領主や冒険者ギルドの推薦を受けた者は、道中の宿泊場所と食事の提供を各地の領主が負担するようにと命じたとも知らせてきた。
その他には、冒険者パーティーに属する者は、仲間と共に王都まで出てくる路銀として一人一日銀貨一枚を支給するそうだ。
此の辺り、冒険者ギルドと相談でもしたのかな。
開催は六月の半ばに王都の闘技場で行うとの事で、又王都名物が増えそうだ。
* * * * * * *
3月になり暖かくなって来たので、ニーナを連れて草原に行こうとしていたら、ルシアンとミーナがやって来た。
ルシアンは父親のマークスと話込んでいたがミーナは俺の居間に来て「あっ、フランがいる!」と叫んでニコニコになる。
フランもビックリして「ミーナ様お久し振りです」と言うのが精一杯で、アワアワしている。
「ミーナ、もう大きくなったのだから、フランにおぶって貰うのはなしだぞ」
「判っているわ。淑女として殿方に失礼な事は致しませんわ」
すまし顔で言うが、ブルーを抱いてニーナを珍しそうに見ている。
「ミーナ、ニーナだ。似た様な名前だしルシアンと同じ治癒魔法を授かり練習中だ。ルシアン同様仲良くしてやってくれよ」
うんうん頷いているが、ニーナの側で寛ぐRとLが気になるのかチラチラと見ている。
ミレーネ様の所ではRとLは家の中には入れなかったので、居間で寛ぐRとLを間近で見て珍しいのだろう。
「ミーナ、RとLだ、触っても大丈夫だよ。ブルー、おいで」
《はい、マスター》
ミーナの腕から飛び出して俺の所へやって来たので、頭を撫でながら不満は無いかと尋ねる。
《暖かい寝床と何時でもご飯が食べられて嬉しいです。でも時々獲物の肉が食べたいです》
獲物の肉・・・?
生肉かなと思い、寝室へ行き空間収納からお肉の塊を取りだして小分けにした一塊を持って戻る。
小皿に乗せてブルーの前に置いてやると、少し匂いを嗅いでから肉に食いついた。
ウニャウニャ言って夢中で食べているので、ミーナに時々は生肉を食べさせてやりなと言っておく。
ルシアンが来たのでニーナを紹介し、同じ治癒魔法使いなので仲良くしてとお願いしたら、ミーナと三人並んでRとLをモフっている。
* * * * * * *
ニーナを連れて草原に向かい、ゴブリン探しをビーちゃんにお願いしてドームでまったりと過ごす。
ビーちゃんの知らせを受け、RとLをニーナの下に残してゴブリンの所へ行き、支配を使いドームの近くまで連れて来る。
周囲を壁で囲い、テーブルにゴブリンを乗せて固定し水洗いをして臭みを消す一連の作業。。
何か手慣れてきたなと思うが、これも立派な治癒魔法使いを育てる為と自分に言い聞かせる。
ニーナを連れて来ると土のテーブルが四つ、それぞれにびしょ濡れのゴブリンが大の字に固定されていて、グギャグギャと煩い。
ゴブリン達を見たニーナがビックリしているが、一匹ずつだと面倒なので頑丈そうな個体を纏めて連れて来ただけさ。
「シンヤ様・・・此れって」
「言っただろう、治癒魔法の練習だと。教えた詠唱を唱えて綺麗に治る様に願い、ヒールの掛け声と共に魔力を放出してみろ」
一匹目のゴブリンの太股にナイフを滑らせて傷をつけると、ニーナに促す。
恐々とゴブリンに近づき「傷が綺麗に治ります様に・・・ヒール!」
両手をゴブリンに向けて詠唱したが、魔力を溜めた右腕からのみ治癒の光りが溢れ出る。
「よし! 治ったぞ。それと、目は閉じなくても良いし、魔力を溜めた右手だけ差し出せば良いぞ」
自分が治療したゴブリンの足をマジマジと見ていたニーナが、嬉しそうにしている。
「次ぎだ、次は今使っている魔力を指一本分減らせ」
傷が治ったゴブリンの足を再び傷付けて治療をさせる。
段々と魔力を絞らせて、手首と肘の中間から指二本分少なくしたところで、治癒魔法が発動しなくなった。
中間点より指一本少なくした所と同じ長さの小枝を渡して、此れが魔法が発動する基本の魔力量だと教える。
その基本の魔力量で傷付けたゴブリンをひたすら治療させたが、三頭目が死んだところで魔力切れ寸前になり中止。
三日間同じ事を続け、その間に傷が深くて一度で治らない時は再度治療させる。
次の日は一度で治らない傷に対し、基本より指一本分魔力を増やして治療させ、魔力量によって治療効果が違うことを実感させた。
動脈切断などで緊急時には一時的な血止めと、その後落ち着いてから本格治療や、指や手足を切断しての再生治療も教えておいた。
毎日治療対象のゴブリンや草食獣を求めて移動していたので、王都から随分離れてしまったので王都へ戻る事にしたが、前方を歩くRから争いの気配がすると連絡がきた。
こんな時は余り良いことが起きないんだよな、と思いながらRの所へ向かった。
《マスター、人族と毛の生えた人族です》
《毛の生えた人族って俺より小さい奴の事か?》
《そうです。此処まで臭い匂いがします》
は~ん、ゴブリンと冒険者の様なので急ぐこともあるまいと思っていたが、様子が変だ。
《マスター、人族が弱い様です》
《RとLは先に行って助けてやって、俺は後から行くので人族に攻撃されても逃げるだけにしておけよ》
《判りました、マスター》
《行きます!》
突如走り出したRとLに驚くニーナを、シェルターに閉じ込めてミーちゃんにお留守番を命じると、ニーナにすぐに戻ると伝えて二頭の後を追う。
* * * * * * *
〈気を抜くなよ!〉
〈死にたくなければ、歯を食いしばってでも剣を振れ!〉
〈生きて帰って、ギルドで逃げたとバラしてやる!〉
〈糞ッ〉
〈エッ・・・〉
突然ゴブリンが悲鳴を上げて地面に叩きつけられたと思ったら、別な大きなウルフがゴブリンの足を咥えて振り回している。
その間に最初のゴブリンが放り捨てられると、別なゴブリンが悲鳴を上げる。
自分達も襲われると思ったが、二頭のウルフはゴブリンのみを攻撃し、あっと言う間に多数のゴブリンが転がり呻いている。
ウルフの動きが止まり、自分達を見ているので手槍を構えると「そいつを攻撃するのは止めてくれよ」と声が掛かった。
闘いは直ぐに終わった様で、到着した時には二頭と冒険者達が睨み合っていたので止めに入った。
「怪我人がいる様だが、ポーションを持っているか?」
「助かりました有り難う御座います。ウルフは使役獣なんですか?」
「そうだ、襲われる心配はしなくて良いので怪我人の手当と、ゴブリンの止めを刺しておきな」
ニーナの練習相手には役不足な怪我の様だが、ものは序でなのでニーナを連れてきて怪我の治療をやらせる。
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