第152話 魔法大会の助言
道案内ついでにマークス共々闘技場に入ったが、指定の入り口はBで係の警備兵が微妙な顔で入場許可書を見て、俺の身分証を見て納得してから席へ案内してくれた。
用意されていたのは升席で、ミレーネ様にお願いをしたことを後悔した。
周りは着飾った男女で、冒険者スタイルの者は皆無。
彼等も警備兵に案内されて現れた俺達を見て驚き、無遠慮な眼差しを向けてくる。
〈どうしてあんな輩が・・・〉
〈此処は貴族席ですわよね〉
〈おお嫌だ、何か匂わない〉
〈警備兵を呼べ! 何であの様な輩が我々と同列な扱いなんだ!〉
「何か居心地が悪いわね」
「思いっきり馬鹿にされてるな」
「此奴等が野獣なら丸焼きにしてやるのに」
「シンヤ、俺達はもっと別な所へ行かないか」
「あ~、ちょっと気合いを入れておきなよ」
「えっ、またあれをやるんですか」
「嘴だけの屑に、冒険者の胆力を見せてやる。直ぐに囀りが消えるさ」
周囲を見回し、殺気、王の威圧全開でゆっくりと囀っていた奴らの顔を見ていく。
〈ヒィー〉とか〈エッ〉と言ってヘナヘナと崩れ落ちる者や〈カタカタ〉と歯を鳴らして震える者と、周囲が静まりかえった。
「ちょっとー、恐いから止めなさい」
「相変わらずお前の殺気は痺れるな」
「見ろよ、ピイチク囀っていた奴らが震えているぞ」
「おいおい、警備兵が飛んで来ているぞ」
「俺は無関係だからな」
「マークス、俺を売るつもりなのかな」
「お前の、お守りを突きつけろよ」
「何事だ!」
何で俺達に向かって怒鳴りつけるんだよ。
王妃様の身分証をチラリと見せ、警備兵の勢いが削がれた時を狙って「王家が手配した席次が気に入らないと騒ぐので、困っているんですよ」と大きな声で伝える。
俺がチラ見せした身分証を見た警備兵は、困惑した顔で上司にお伝えしますと答える。
近くにいた煩い連中にも身分証が見えた様で、マジマジと俺の顔を見ているが顔が引き攣っている。
此奴等をどうしてくれようかと考えていると、国王のお出ましとなり魔法大会の開会を告げる合図の音が響き渡る。
こんな奴等の相手より魔法大会の方が大事なので、奴等を無視して会場の方に注意を向ける。
「あんたの持つ身分証って威力抜群ね」
「俺のファイヤーボールより強力だぜ」
「ほらほら、馬鹿より会場の方を見た方が良いよ」
魔法部隊の者達が整列し、防壁の前に並んだ的に向かい詠唱を始めた様だ。
ファイヤーボールの一斉射が三度、入れ替わって土魔法使いのストーンランスの一斉射が三度と、魔法部隊の威力を誇示していく。
「ふむふむ、流石は王国の魔法部隊だな」
「ええ、アイスランスの一斉射は見応えがあるわね」
「でもファイヤーボールなら俺の方が威力が有ると思うな」
「コランが本気を出したら後ろの防壁を壊せる?」
「無理、と言うか威力を強くすると爆風で自分が怪我をしますよ。ナーダがいて防壁を作ってくれないと、全力攻撃なんて恐くて出来ないな」
「おっ、次は冒険者達の様だぞ」
「火魔法からだな」
「どの程度の奴が居るのかな」
魔法部隊も冒険者達も短縮詠唱を使っている様で、以前の様な長々とした間合いが無く、比較的早く次弾を撃ち出しているが、命中率に難ありといったところ。
中には10発撃って命中が五発以下の者が時々出るし、威力もまあまあといったところで、コランの足下にも及ばない。
「コラン、ちょっと行って見本を見せてやれ」
「冗談! 手の内は見せずですよ」
「おっ、言うねぇ」
「でも全体的に命中率が悪いな」
「威力が有っても、当たらなけりゃどうにもならないからな」
10発撃ち終わると隣の的に移動したが、此方は結界魔法を撃ち抜くか壊せば合格の様だ。
なる程ね、命中率の高い者の中から威力の有る者を探し出すのか。
幾ら派手な爆発をしても、結界を壊せなければ音だけという事になる。
「エイナならあの結界を壊せる?」
「撃ってみなきゃ判らないわ。自分のシールドは打ち抜けないので、それなりの自信は有るけどね」
「最初は、氷結魔法でシールドが作れるとは知らなかったよ」
「シールドだけじゃないし、氷結魔法って中々便利な魔法よ」
「おう、暑い日の氷は堪らないぞ」
「エールも冷やせるので美味いぞ」
火魔法、土魔法、氷結魔法と続き、雷撃魔法を見ながら気付いたのは、魔力を絞る事を覚えて魔法が発現する。
その威力に満足して、それ以上先を考えていない者が多数いること。
威力を上げる為に魔力を増やせば良いといった、単純な事に気づき実践している者が殆どいない。
威力の小さな魔法使いが幾ら増えても、溢れてくるドラゴンやそれ以上の野獣は倒せないだろう。
数百人とはいわないが、数十人はドラゴンを狩れる実力者が欲しい。
魔法の手引き書に、威力を上げる方法を追加する必要が出てきた。
此からの事を考えていると「おい、また警備兵がやって来るぞ」とマークスに教えられた。
ん、と思って顔を上げると、警備兵に誘導された宰相補佐官がいて一礼をする。
「シンヤ殿、お仲間に魔法の手本を示してもらえないかと仰せです」
誰が、とは聞けないよな。
ドラゴン討伐には威力が足りないと気付いた様なので、手本を見せて威力を上げる方法を知らせるのが手っ取り早いか。
「エイナ、コランお願い出来るかな。あの威力じゃいざって時に頼りにならないので、的に五発、結界に三発で良いだろう」
「余り見せたくはないのだけれど、頼りにならないってのは確かよね」
「俺も危険は分散したいのでやります」
「撃ち終わったら、余計な事はせずに此処へ帰して下さいよ。威力を上げる方法は後ほどお報せしますので」
「承知致しました」
補佐官が頭を下げ、警備兵と共に二人を会場へと案内していく。
一通り終わった筈なのに、改めて二人が的の前に立ったので会場にざわめきが起きる。
エイナが的から30mの位置に立ち、無造作にアイスランスを撃ち込むと〈ドゴーン〉と轟音を立てて的を射ち抜き背後の防壁に突き立つ。
それを見た観衆から歓声が上がるが、エイナが次の的の前に移動しアイスランスを撃ち出す。
連続して五回、的を射ち抜き防壁にアイスランスが突き立つと、大歓声が沸き起こる。
続いてコランが的の前に立つが、静まらぬ歓声を無視してファイヤーボールを撃ち出すと〈ドッカーン〉と轟音が闘技場に響き渡る。
一瞬で会場が静まりかえるなか、コランが次の的の前に立つと再び轟音が会場に響き渡る。
「ブライトン、報告以上の威力だな」
「はっ、彼等を迎えに行った補佐官が『あの威力じゃいざって時に頼りにならない』と彼が言い、あの二人を送り出したそうです。そして『威力を上げる方法は後ほどお報せします』と言ったそうです」
「彼もそう思ったのか」
「彼は討伐者ですので、どの程度の威力が必要なのか判っていますので危惧したのでしょう」
「しかし、結界魔法が思ったよりも脆かったな」
「此程大胆に攻撃された事が無かったのでしょう。自分達の防壁が万全ではないと判ったのですから工夫をすると思います」
* * * * * * * *
後日モーラン伯爵を通じて、シンヤから一枚の書状が届けられた。
曰く、魔力を絞り魔法が発現する限界で魔法を使っているが、威力が足りないときには魔力量を増やせば威力は上がる。
注意すべきは魔力を一気に上げない事で、魔力を増やし威力を上げる事は魔法が使える回数を減らす事になる。
特に火魔法は爆発が自分に跳ね返ってくるので、魔力は少しずつ段階的に増やして限界を知る必要が有る。
先ずすべきは事は、威力を上げるより命中率を上げる事を優先すること。威力を上げるのは簡単だが命中率は練習あるのみ。
この文書を魔法の手引き書に追加する様にと末尾に書かれていた。
* * * * * * * *
魔法大会も終わり、皆が自分達の街に帰ったので蜂蜜を集める為にハインツに向かった。
ハインツの手前を、東に半日ほど歩いた場所にハニービーの巣が有る。
巨木の中程に出来た大きな巣で、巣の主、女王蜂に蜜を分けてとお願いすると、ザンドラの時と同じ様に蜜の所の壁を開けてくれた。
今回は寸胴四個分を蜜倉から切り取り、礼を言って巣の壁を元に戻す。
今回は家に帰ってからメイドさんに頼んで精製してもらおうと思っているのでのんびりと王都へ向かった。
後は秋にゴールドマッシュを集めて備蓄するだけなので気楽なものだ。
希望通りの気楽な生活が出来る様になったが、面倒事が一つ有るのが気にいらない。
* * * * * * * *
王都の家に帰るとメイド長のカレンを呼び、寸胴に入れた蜜の塊を見せてお手伝いをお願いする。
「此れは何ですか?」
「蜂蜜だよ尤も此の儘だと蜜蝋が邪魔で使い辛いので、巣と蜜を分離しなきゃならないんだ」
皆が「へえ~」とか「ほお~」とか珍しそうに見ている。
カレンは調理関係は関わった事が無いので、蜂蜜を見たことはあっても巣の中に詰まった物は初めて見るらしい。
調理係を呼びましょうかと言われたが、二人しかいないので使用人の食事にかかりっきりなので手伝わせるのは酷だ。
メイド一人とニーナの弟妹を呼び出し、湯煎の方法等を教えて彼等に蜂蜜絞りをやらせる事にした。
蒸留水用の中瓶を20本並べ隣りに大瓶10個を置く。
ミレーネ様にもお分けする物なので、余計な物が混じらない様に急がず慌てずに、ゆっくりとしろと言って後は任せる。
時々経過確認をし、絞り滓を空いた寸胴に溜めさせておく。
三人がかりで三日かけ、出来上がった中瓶20本と梅酒用と同じ大きさの大瓶10個、それに寸胴一個と1/3ほどが収穫出来た。
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