第153話 収穫と確認

 思ったより少ないと思ったが、何時もの倍量を瓶詰めしたのだった。

 残っていた寸胴入りの蜂蜜を含めると、寸胴一個と1/3に大瓶が10個と中瓶が26本。

 ちょっと心許ないので、気が向いたらもう一度蜂蜜集めに行くことに決めた。


 三人の労を労って、在庫からドラゴンの肉を調理人に渡してステーキ祭りを開催する。

 蛇の肉以外は、ドラゴンとアーマーバッファローの肉としか判らないが、たっぷりと残っているので食べ放題にしておく。


 マーカス達から何の肉だと問われたが、アーマーバッファローだと惚けておく。

 食後のお茶用にお湯に絞り滓を入れて残り蜜を溶かした、濃厚蜂蜜水を提供し、マーカス達には冷えたエールだ。


 * * * * * * * *


 ミレーネ様の所にお邪魔し、花蜜を8本と蜂蜜の中瓶を10本と大瓶を二個、それにゴールドマッシュを五本提供しておく。


 「ゴールドマッシュは手持ちが少ないので、秋に採取して冬の初め頃に追加で三本ほどお渡しします」


 「今此れをもらえるって事は、何処かへ行くの」


 「ザンドラで気になる話を聞いたので、ちょっと確認の為に行ってきます。それよりも、魔法大会でルシアンとニーナは何をしていたんですか?」


 「万が一怪我人が出たときの待機ですって。魔法部隊の者達はと聞けば、通常業務の治療をしていたと聞きました。ルシアンを私が預かっていますが、貴族に良い印象がない様で治療に行くのも嫌がるのよ。その為に、王家は同じ様に貴方から指導を受けたニーナを望んでいるの」


 「王家はそんなに治癒魔法使いが足りないのですか」


 「いいえ、特級魔法使いが二人に一級魔法使いが四人かしら、最近腕を上げたと専らの噂よ。ニーナは万が一の時の派遣要員に雇いたいらしいわ。その時にルシアンが私の所に居れば、彼女も派遣して欲しいと言われているの」


 討伐は無傷では済まないだろうから、優秀な魔法使いを失わない為の救命要員か。

 溢れ出る野獣が何れの地に湧いて出るのか判らないのが困る。

 アマデウスかティナが教えてくれれば良いが、ポンコツ神に期待するだけ無駄だろうな。

 何年先の話か判らないが出たとこ勝負になるだろうし、其れ迄に優秀な魔法使いが育つことを祈っておこう。


 * * * * * * * *


 「おや、今日は何の用かな」


 「中瓶を40本欲しい。それとこの間言っていた事を詳しく知りたいのだが、エルフよりも長寿と言いましたよね」


 「そうだな。我々エルフ族は通常200~250年の寿命だよ。私の様な中位者となると250~300年といった所だね」


 「上位者は?」


 「上位者は300~400年と言われている。と言うのも上位者となると隠棲してしまう者が殆どで、正確には判らないのだ。時たま長老と呼ばれる者が居て、400才を越えているらしい。君の場合は、上位者と同等かそれを上回ると思われるが、詳しくは上位者か長老に聞かねば判らないな」


 「中位者や上位者の違いってなんなの?」


 「私は通常の者より勘が鋭いらしく、時に君の様な者の存在を感知するのだよ。それと獣の存在や他の事もね。だが、君の知りたい事は別の様だね」


 「時々冒険者ギルドから強制招集が掛かるけど、野獣が溢れるのはどうして?」


 「森の奥により強い獣が現れるからと言われているね」


 「ドラゴンよりも?」


 「ドラゴンか、噂になっているね。ドラゴンの住まう地より奥は、我々エルフにとっては禁足地なのだよ」


 「ドラゴンの住まう地より奥って事は、ドラゴン討伐を出来るって事だよね」


 おっ、ギルマスエルフの眉が跳ね上がったよ。


 「出来る者もいるが、私には無理だね。私はポーション程度しか扱えないのでね。君は禁足地に行ったことが有りそうだね」


 「禁足地に行けば、何か神罰でも下るの?」


 「そんな事はないが、我々エルフ族の者からは神々の地と呼ばれ、見てはならないものが居ると言われている」


 確かにね。出来損ないの獣や、口にするのも悍ましい生き物が沢山居たな。


 「ドラゴンクラスの野獣が街を襲った事は有るの?」


 「私は聞いたことがないな。時たまドラゴン討伐任務を請け負う冒険者がいるとは聞いているが、破格の依頼料だそうだ」


 「野獣やドラゴンは何処から来たの? 言い伝えでも良いから、知っていれば教えてもらえるかな」


 「我々のお伽噺では、創造神アマデウス様が此の地を創られたとき、人と獣を分けられたそうだ。人族は余りにもひ弱で獣に敵わなかったからね。哀れに思われたアマデウス様は魔法を司る神々を誕生させ、人族に魔法を授けられたと。魔法を授けられた人族は嬉しさの余り魔法を遊びに使った為に、獣と隔てられていた柵を壊してしまったそうだ。壊れた柵の隙間から、獣が人族の住む地に溢れて来る様になった。と言うのが我々のお伽噺だよ」


 「何処から溢れて来るのか判るの?」


 「禁足地だよ」


 そう言って肩を竦めたので、これ以上は有力情報を得られないと思い、お礼にゴールドマッシュの小瓶を一つ提供しておく。

 流石は薬師ギルドのギルマスだ、小瓶を一目見るなり「信じられない」と何かを察した。


 「俺には有能なミーちゃんが居るからね」


 そう言ってミーちゃんの頭を撫でると「ファングキャットをゴールドマッシュ探しに使うとはね」と首を振っていた。


 * * * * * * * *


 ザンドラを去る前に寸胴を二つ買い、懐かしいハニービーの巣へ行き女王蜂にご挨拶。

 前回同様蜂蜜を寸胴四つ分分けて貰い、空間収納に備蓄しておく。

 此れで当分蜂蜜集めはしなくて済むので、前回フラン達と行った場所を目指す。


 前回はフランやオシウスの牙の皆が居て歩きだったが、スーちゃんのジャンプと転移魔法を使って一日で到着、此処からは歩きで西に向かうことにした。

 タンザから西に向かった時には、ひたすらジャンプと転移を使って進んだので、ドラゴンの生息地までどれ位の距離かも判らなかった。

 秋のゴールドマッシュ採取までに戻れば良いので、今回は周囲を観察しながら進む。


 西に進み始めて40日近くなると地面の泥濘や陥没等、タンザの奥地の様な様相になり始めドラゴンの足跡もチラホラと目に付き始めた。

 出会った野獣は全て支配で追い返していたので、普通の冒険者の足なら50日前後は掛かると思われる。

 タンザとザンドラの違いはあれど、奥地にはドラゴンクラスが容易に人里へ向かえない地形になっていると思われる。

 この地形を抜けて人里に向かうというのなら、強烈な野獣が溢れて来ることになる。

 八本足のヤツメウナギの親玉とか。足が長くて多足なムカデ擬きでないことを祈ろう。


 ザンドラに向かいながら、ビーちゃん達にお願いしてグリーンスネークを探してもらい、前回より小振りの奴を発見。

 お肉が欲しいので首輪をプレゼントし、のたうっている隙に地面に押さえつけ地面からストーンランスで突き上げる。

 ちょいとズレたが顎下から脳天を突き抜けると、痙攣後パタリと尻尾が落ち静かになった。


 * * * * * * * *


 ルンルンで東に向かい、タンザス街道を越えると以前茸取りでフランと別れた場所へと向かう。

 木々の葉が落ち始めており、其処此処に茸の姿が見える。

 ミーちゃんにゴールドマッシュの見本を見せて、覚えているかと尋ねると覚えていますと言って木を探し始める。

 RとLにもミーちゃんが見つけた木の匂いを嗅がせ、同じ木を探す様に命じる。


 この方面に茸取りに来る者が少ないのか、タンザで使った籠は一日も経たずに一杯になる。

 夜にそれを薬草袋に入れ替え、空間収納に蓄えては翌日又ゴールドマッシュを採取する。


 籠の大きさは直径60cm程で深さは80cm程度の物二つ、RやLが見つけた木をミーちゃんが登り茸があると知らせてくる。

 すかさず籠を担いだ俺が登り、ゴールドマッシュを収穫しては籠の中へポイポイ。

 小さい物や育ちすぎは放棄しているのだが、今年は当たり年の様で幾らでも採れる。

 五日間で籠10杯の収穫に満足して王都の家へ帰ることにした。


 * * * * * * * *


 久し振りに家に帰るとルシアンとニーナが居るではないか。

 ルシアンは10日に一度は母親の所に顔を出し、帰りにマークスの所へ寄るのだそうだ。

 ニーナはルシアンに合わせて弟妹二人に会いに来て、ルシアンと共にミレーネ様の所へ戻っていると話してくれた。


 その後で真剣な顔になり「シンヤ様、私は十月で巣立ちを迎えました。それで、ミレーネ様から王家に仕えてはどうかと言われています。お返事はシンヤ様が戻られてからで良いと、でもガブルとアイラがいますので・・・」


 やっぱり王家が目を付けるか。


 「俺も帰ったばかりだから少し待ってくれ。落ち着いたら兄弟全員で暮らせる様に、ミレーネ様と相談するよ」


 翌日からガブルとアイラに手伝わせて、一部屋を使ってロープを張り巡らしてゴールドマッシュの干し場を作る。

 ゴールドマッシュの茎に糸を通して数珠繋ぎにすると、ロープに掛けて陰干しだ。

 マークス達は大量の茸を見て呆れていたが、暇なので手伝ってくれるが茸が高価な物だとは気付いていない。

 昼間は窓も扉も全開にし、夜は鎧戸だけを締めてひたすら乾燥させることを指示してから、ミレーネ様の所へお出掛けだ。


 * * * * * * * *


 「ニーナを王家で雇いたいと聞きましたが、条件を聞いていますか」


 「ニーナの望みとして弟妹と離れずに暮らしたいと伝えた所、王宮に詰める必要はなく、王城に週に一度出仕すれば良いとの事です。その際に私に与えられた控えの間を使う様にと仰せです。それ以外の日は貴方の家に居れば良いとの事で、治療依頼を受けるのは自由だそうよ」

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