第113話 捕虜
わらわらと湧いて出た奴等が斬りかかって来るが、訓練用の棒で殴りつけて骨を叩き折る。
〈痛めつけても殺すなよ!〉
〈中々の猛者の様だが、此の数には敵うまい〉
〈お下がり下さい。此奴は我等が〉
時々〈ギャアー〉とか〈足が・・・〉と聞こえてくるのはミーちゃんに襲われているようだ。
あれれ、聞き覚えのある声がするぞと思ったら〈パスン〉〈パスン〉と音がして足下に矢が落ちる。
別方向から湧いて出た奴等が、石弩で射ってくる。
石弩が邪魔なので先にかたづけるべく、ジャンプして矢をつがえている奴に体当たり。
ちょっと肘を入れたので、声も上げずに悶絶しちゃった。
隣に居た奴が目を見開いていたので、開いた目に指を突っ込んで見えなくしてやると、周囲が真っ赤になり〈パーン〉と破裂音が響く。
魔法なんて直接目に当たらなければ恐くないが、中々用意周到な様で攻撃が途切れない。
〈糞ッ、なんて素速い奴なんだ!〉
〈ギャーァァ・・・〉
〈早すぎて詠唱が間に合わない!〉
水平に全力ジャンプで蹴り飛ばしたり、上空へジャンプして敵の位置を確認後殴り込む。
一ヶ所にいれば的になるので移動しながらの攻撃は面倒だが、その間もそこ此処で悲鳴が上がり攻撃が疎らになってくる。
薄明かりの中の乱戦となれば、ミーちゃんの独壇場だ。
〈奴とは別に何か居るぞ!〉
〈ウルフは何処だ?〉
〈ウオォォォー 足が・・・ポーションを寄越せ!〉
〈ウルフなんて居ないぞ〉
〈何か小さい奴にやられた! ウワッー〉
散発的に魔法を射っているが、何処を射っているのかね。
混乱して同士討ちでもしているのかな。
《マスター、少し逃げました》
《そっちはRとLに任せるから、穴の中に残っていないか見て回って》
RとLを呼び出すと、上空へジャンプして逃げた奴を探して追わせる。
薄明かりの中でもよく見える、ブラックキャットの夜目って便利だね。
遠くで悲鳴が上がり、暫くするとLが男の足を咥えて引き摺って来た。
俺の前に放り出すと再び駆けだしていき、Rも男の襟を咥えて戻って来たが、此奴は花蜜とゴールドマッシュを公使に献上しろと言っていた奴だ。
腕が折れているのか変な方向に曲がり血が滲んでいるが、死ぬ心配は無さそう。
「化け物め!」
「化け物とは心外だな。いったい何人で襲って来たんだ?」
「此の暗がりの中だが、時々お前が跳んでいるのを見たぞ。金狼族や黒龍族の奴等だってあんな事は出来ない」
「お褒めいただき有り難う。で、何人で襲って来たのか聞いているんだ、答えろよ」
「知るか! 殺せ!」
べっと唾を吐き捨てて喚く。
無事な方の掌に足を乗せ、踵でグリグリと念入りに捏ねてやる。
〈クッソオォォォ〉何て言いながら耐えたが顔中汗だらけになっている。
「死にたければ殺してやるよ。頼むから殺してくれと懇願するまで責めて、俺の知りたい事を喋った後でな」
又ファイヤーボールが飛んで来たが、暗がりの中で声を頼りに射っている様だ。
ただ、少し間を置いて悲鳴が聞こえて来たが、悲鳴と言うより呻き声から察するに、ミーちゃんに顔を撫でられたのだろう。
あの爪で、ザックリやられた時の事を思い出すぜ。
呻く男を放置し、倒れている奴等を武装解除して縛るお仕事に取りかかる。
慣れない仕事は疲れる上に、魔法使いが混じっているので全員に猿轡をしなければならない。
総勢33名を縛り上げると、一ヶ所に集めてから尋問開始。
三人の顔見知りには耳栓までしてやる親切さだが、サービスにはそれなりの対価が必要になる。
その対価は俺が満足するまで喋るかだ。
《マスター、犬の群れのようです》
《蹴散らしましょうか?》
《待って、此処へ近づけない様にしてくれたらいいよ》
拷問係が来てくれたので、楽をさせて貰おう。
転がっている男達の中から石弩を射っていた奴を選び出して、両足首を掴んでくるくる回り遠心力を利用してポーイ。
近づいて来たワンコの群れに向かって投げ捨てた。
引き出された奴等は何をされるのか判らず怯えていたが、ハウルドッグの群れに向けて投げ捨てられると知り、恐慌をきたして暴れ出した。
両手を折られ足を縛られていても必死で暴れるが、両足首を掴んでくるくる回ってポーイ。
飛んで来た男に驚き逃げたワンちゃん達も、飛んできた物が餌だと認識した様で、お礼も言わずに食らいついている。
くぐもった悲鳴が聞こえると、残った男達が恐怖に震えている。
三人も投げると誰もおれと目を合わそうとしなくなった。
殺せと喚いた男の前にしゃがみ、眼力を使って睨みながら耳元で囁いてやる。
「お前には、あんな楽な死に方はさせないから安心しろ」
顔面蒼白鳥肌立ってカタカタと震えているので、優しく質問する。
「警告はしたよな。それなのに襲って来たって事は、お前の一存じゃ無いのは判る。誰に何と命じられたのか喋れ!」
震えながらも首を横に振るので、此奴は死刑確定なので耳栓を戻して蹴り倒しておく。
二人目は目も合わそうとしないが、耳元で同じ様に問いかけると蹴り倒した奴を見て唾を飲み込む。
後一押しで喋りそうなので、親切な俺はちょっと押してみることに。
「次の野獣が来たら、素っ裸で向かわせてやるよ。俺は優しいから剣を持たせてやるけど、此の暗がりでどれ位生きていられるかな。野獣が現れるまで考えさせてやるが、さっきの悲鳴を聞かせられ無かったのが残念だ」
にやりと笑い耳栓はせずに放置、野獣の接近に耳を澄ませて怯えていろ。
三人目も躊躇っているが、蹴り倒した奴はゴブリンの餌にするので、お前達二人で喋った奴が生き延びることになると囁く。
二番目の男が喋りますと言って頭を下げ、三番目の男も私が喋りますので殺さないで下さいと命乞いを始めた。
俺を襲ったのは、如何なる手段を取っても花蜜とゴールドマッシュを手に入れろとの指示で、生きていれば入手手段を聞き出すつもりだったそうだ。
あまりにも遠慮の無い攻撃だったので問い質すと、何方も不可能ならウィランドール王国にも渡らぬ様に殺せと命じられたと。
最初の男からも身分証を取り上げて職務を尋ねると、ウルファング王国公使閣下の配下で下っ端、要はパシリって事らしい。
他の奴等はウルファング王国から訪れている商人達の配下や支店の使用人達で、何かあれば公使の命で動く駒だそうだ。
気に入らない、大人しくしていれば利用された挙げ句ポイ捨てされるのは目に見えている。
ウィランドール王国だろうがウルファング王国だろうが関係ない、俺には日本に帰るっていう目的があるし、それ迄は自由に生きると決めている。
その邪魔をするのなら排除するまでだ。
皆殺しにするより利用した方が良さそうなので、ルシアンに怪我人の治療を頼みに行ったら、もの凄く怯えている。
どうしてと思ったら、暗いながらも外に転がしている奴等が見えていた。
つまり、投げ捨てた奴がハウルドッグに食われている音と呻きも聞こえていたって事になる。
命の遣り取りに慣れて鈍感になっていたが、15才の少女には刺激が強すぎた様だ。
怖がって野営用結界から出たがらないので、怪我人を担いでルシアンの前に運び治療を頼む。
全員両腕を折ったり砕いているし、ミーちゃんの攻撃で足を負傷している者が多数いる。
とても一度に治すのは無理なので、重傷者から治してもらい結界内に詰め込んでいく。
通路を含めて簡易ベッド八台しか置けないところへ大の男30人を詰め込んだので狭いせまい。
一夜明けてルシアンを王都に戻す事にし、捕まえた奴らは野営用結界の中に放置しておく。
* * * * * * *
マークスの家に行き、襲われた事を話してルシアンの今後の事を相談をする。
「彼奴らか、何処の誰だかは判ったのか?」
「ああ、だけど知らない方が良いだろう」
「まぁな。余計な厄介事は避けるに限るからな。治癒魔法が使える様になったのなら、ルシアンは子爵様の所へ預けてくれ。此処に居るより貴族の館の方が安全だろう」
「良いのか?」
「どのみち預けるつもりだし、俺が何時も此の家にいる訳じゃないからな」
そう言って奥さんと何事か話した後、二人してルシアンの前に立った。
「巣立ち前だがお別れだ、お前が治癒魔法を授かった善し悪しは分からないが、シンヤの斡旋だ悪い事にはなるまい。何か有ったら帰って来い」
そう言ってマジックポーチを渡して使用者登録をさせている。
「着替え等お前の物は全て入れているからね。身体に気を付けて立派な治癒魔法使いになりなさい」
別れの場面は嫌いなんだが、逃げ場所が無いので背を向けているが居心地が悪い。
マークスには、ミレーネ様の住まいであるモーラン商会の住所を教えておく。
訪ねて行くときはパリッとした身形で辻馬車で行く様に、歩いて行くと警備兵に声を掛けられて面倒だからと教えておく。
「貴族街じゃないのか?」
「王家や貴族に様々な細工物や美術品を納める商会で、子爵待遇だったのさ。それが年金貴族に格上げされたのだが、高級住宅街に店舗兼用の住まいがあるんだ。貴族街だと迂闊に会いに行けないぞ」
「何とまぁ~、豪商から貴族に成り上がったのか」
「親父は隠居して、ミレーネ様が子爵に列せられたのさ。そのうち一緒に会いに行ってやるよ」
「子供じゃあるまいし、一人で行けるから大丈夫だ」
* * * * * * *
ルシアンを伴ってモーラン商会に向かい、出迎えのセバンスに奥様への取り次ぎを頼むと、そのままサロンに案内された。
ミレーネ様に挨拶をすると、仏頂面の糞親父の目が光る。
「ご隠居様、俺が頼まれてこの子ルシアンをミレーネ様に預けるんですよ。貴方には、この子に対して一言半句も口を出す権利は有りません! それを忘れると押し込めになりますよ」
苦り切った顔の糞親父を見て、ミレーネ様がクスクスと笑っている。
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