第158話 役立たず
「抜けた奴等を追っていった者達は、一人も帰って来ないし。何がどうなっている!」
「落ち着かれよ、子爵殿。と言うか、あんたが遣り過ぎたんだよ」
「何をだ! ドラゴンを討伐する為に全力を尽くしている!」
「俺が何も知らないと思っているのか。ギルドが買い上げる筈の獲物を、あんたの部下達が横取りしているだろう。それに冒険者達の配置場所に割り込んで放り出したりと好き勝手をしている」
「それがどうした。ギルドが買い上げる前の物だ。我が領地内の事だ、我が認めぬ物を持ち歩くことは許されていない」
「つくづく馬鹿だな」
「己は、我を馬鹿にする気か! ギルマスと言えども・・・」
「やりますかい。此れでも元Aランカーで、近接戦闘は得意ですからな。あんたご自慢の護衛くらいは、瞬殺してみせますよ。あんたのお陰で、強制招集した奴等が任務を放棄して自分の街へ帰っているんですよ。此れが何を意味するのか判っていない」
「己も儂の提案に乗り、金貨を受け取ったではないか。ドラゴン討伐は何が何でも成さねばならん!」
「出来るのですか?」
「凄腕の魔法使いを飼っているのでな。奴の魔法は城壁すら撃ち抜く威力だ。火魔法もこのギルド程度なら簡単に吹き飛ばすだろう」
「だがドラゴンが見つからないんでしょう。彼等を馬鹿にして持ち場から追い出したり獲物を取り上げたので、冒険者達が持ち場を放棄して帰っている。お陰で俺の評判は地に落ちたし、ギルマスを首になるのは間違いない」
「ドラゴンを討伐して陛下に献上すれば、我も辺境の領主から陞爵してもっと良い領地を与えられる。そうすれば、その方を高位の部下として雇ってやるぞ」
この馬鹿を利用して稼いできたが、此処まで馬鹿だったとは俺の運もここまでかな。
だが、此処でドラゴンを逃がしてこの街に被害が出れば、奴も俺も破滅する。
此奴に子飼いの奴等をあてがってドラゴンを捜索させて、ご自慢の魔法使いに討伐させるのが最良か。
「子爵殿、此の儘ではドラゴンを取り逃がすことになる。そうなると俺もあんたも破滅だ。それが嫌なら、俺の子飼いの冒険者達にドラゴンを捜索させるので、そいつ等の指示に従ってドラゴンを討伐しろ。ご自慢の魔法使いが失敗すれば、あんたも俺もお先真っ暗だ」
* * * * * * *
「兄貴、合図ですぜ」
「おっ、見つけたのか。俺様の雷を喰らわしてやるか」
「あんた、煩いのよりストーンランスにしなよ。静かだし一番強いって言ってるじゃない」
「ばっかやろう! ドラゴン討伐だぞ、俺の名が此の世界に轟くんだ。俺の討伐話が広がった時に、派手な効果音と見た目なら雷撃が一番だろう。ストーンランスなんて音がないので迫力無しだ、此の世界のバリバリ伝説を俺が作るんだ!」
「ふうーん、煩いのが好きなら、火魔法でドッカーンと一発で吹き飛ばせば」
「ばーか、黒焦げのドラゴンなんて、俺の討伐記録が汚れっちまう。黒焦げの剥製なんか残したら格好悪いだろう」
「本当に見栄っ張りなんだから。ちゃっちゃと倒して帰って来てね」
「任せとけ。上級治癒魔法使いとドラゴンスレイヤーの夫婦なんて、世間の奴が羨ましがるぞ。ドラゴンを討伐したら貴族になれるかもな」
「それ、格好いいわね」
「兄貴、早く行かないと逃げられますぜ」
「この間も行くのが遅くて逃げられましたからね」
「あの時は子爵様も切れてましたよ」
「わーってるよ。まってなユーミ」
* * * * * * *
「彼処ですぜ兄貴」
糞ッ、何でこんな原始的な所で走り回らなけりゃならんのだ、バイクの一台でも寄越せってんだ。
〈パーン〉〈パリパリドーン〉〈パンパーン〉
「誰だ、へなちょこ魔法を撃っている奴は! 俺の獲物を傷付けたら許さんぞ!」
「遅いぞ! 雷撃の」
「ワーッてるから、ちょっと水を飲ませろ」
〈やっとこさ来たぞ〉
〈攻撃魔法四種を使えるからって、威張り腐りやがって〉
〈あの顔で、治癒魔法使い連れときたもんだ〉
〈羨ましいのかよ〉
〈俺が攻撃魔法を四種も授かっていたら、とっくにドラゴンスレイヤーになって女を侍らせているわい〉
〈なんだ、僻んでいるだけか〉
〈悪いか、あんな奴にへいこらして、ドラゴンを追いかけて奴のお膳立てだけだぞ〉
〈まっ、僻みたくなる気も判るが、死なない様にやろうぜ〉
〈怪我でもしたら、あの屑女に金を毟り取られるからな〉
〈バリバリバリ ドーン〉
〈おっ、ご自慢の雷撃魔法だぜ〉
〈何がご自慢のだ、角が少し焦げているだけだぜ〉
〈ストーンランスを使えば獲物が綺麗に狩れるのに、態々雷撃を使って焦がしてる馬鹿!〉
〈バリバリバリ ドーン〉
〈雷撃が効いちゃいないぜ〉
〈奴は、腕は良いんだが、見栄っ張りで格好付けるからなぁ〉
〈威張り散らして、人を見下しやがるしよ〉
〈何でもいいからさっさと討伐しやがれってんだ〉
〈それよりも、聞いたかよ〉
〈ああ、応援の冒険者達が、討伐を放棄して帰ったそうだな〉
〈領主の兵が、獲物を横取りしやがるって怒っていたぞ〉
〈それよか、サブマスがキラービーに刺されて死んだとよ〉
〈抜けた奴等を、騎士達に追わせたって噂は本当か?〉
〈らしいけど、ギルドに尻を捲った奴等だ、戻ってこいと言われても戻ったりはしないだろうな〉
「兄貴! 雷撃が効いちゃいないですよ」
「それよか怒らせた様で、向かって来ますよ」
「なぁーに、足止めをしてファイヤーボールを食らわせてやる」
〈障壁・・・ハッ!〉〈障壁・・・ハッ!〉〈障壁・・・ハッ!〉
「おっ、凄えなぁー」
「流石は雷撃の王、リュージ様だ」
「魔法が冴えてますぜ」
〈食らえ、ファイヤーボール・・・ハッ!〉〈ドッカーン〉
〈ファイヤーボール・・・ハッ! ハッ!〉〈ドッカーン〉〈ドッカーン〉
「糞ッ、何で効かないんだ! おい、アーマードラゴンの弱点って何処だ?」
「えっ・・・」
「知ってるか?」
「馬鹿! 俺は魔法使いじゃねぇ!」
〈おい、何か雲行きが怪しいぞ〉
〈弱点を聞いているって・・・〉
〈彼奴はウィランドール王国の王都へ行ってないのか?〉
〈あんな所に行かなくても大丈夫だと笑っていたぞ〉
〈俺が聞いたのは、一月以上掛かって行く所じゃないと不貞腐れていたそうだ〉
〈逃げる準備をしておいた方が良さそうだな〉
〈おい! ・・・奴の横を見ろ!〉
〈嘘・・・だろう〉
「兄貴、向かって来ますよ!」
「ファイヤーボールも全然効いてません!」
「ストーンランスを、早く!」
「煩せえ! ギャンギャン喚くな! 奴の弱点を早く教えろ!」
「駄目だ、俺は逃げるぞ!」
「ああ、なんかヤバイ感じになったぞ」
「おい、蜥蜴が・・・」
〈教えなくて良いのか?〉
〈今声を掛けたら、俺達が襲われるぞ〉
〈身体を低くして静かに下がれ!〉
「兄貴! でかい蜥蜴もいますぜ!」
「何だと! 糞ッ」〈避難所・・・ハッ!〉
「エッ・・・」
「兄貴! 入れてくれ、兄貴! 糞っ垂れがー」
〈ギャァー〉
「助け・・・」
何故、何故無敵の魔法が通用しないんだ? ドラゴンがこんなに強いなんて聞いてないぞ!
〈ドォーン〉
何で蜥蜴まで居るんだ、糞っ垂れがぁー。
〈ドォーン〉
〈ドォーン〉〈バキッ〉
〈嘘だ、壊れそうだし・・・死にたくない。神様、帰らせて・・・〉
〈バキーン〉
〈ギャー たっ、助け・・・〉
* * * * * * *
「ギルマス! 駄目だ!」
「何が駄目なんだ」
「彼奴の魔法が全然通用しなくて、食われちまったぜ!」
「食われた? あの男の魔法が通用しなかったのか?」
「あの糞っ垂れは、能書きはデカかったが雷撃もファイヤーボールも弾かれてよ、ストーンランスすら歯が立たなかったんだ。奴は一人で避難所に立て籠もったけど、ウィップドラゴンの尻尾で叩き壊されて食われたぜ」
「奴は子爵の配下ではダントツの腕だぞ。応援の中に、奴を超える魔法使いは居るのか?」
「それが、領主の兵が獲物を掻っ攫ったと怒り、持ち場を放棄して帰った奴が多くて・・・」
* * * * * * *
「子爵様、コルテス子爵様!」
「何だ、何を慌てている?」
「彼奴が、リュージが食われました!」
「食われた・・・」
「あの男の魔法が悉く通用せず、腰巾着共に弱点を教えろなんて言いだしまして・・・その後、あの男が立て籠もった避難所も、ウィップドラゴンの尻尾で叩き壊されて食われました!」
「・・・冒険者達を集めて一斉に攻撃させれば、倒せると思うか?」
「それが、ウィランドール側からの応援は殆ど任務を放棄して消えました。周辺からの応援も、獲物のことで続々と持ち場を放棄し始めています」
「魔法部隊の者を全員向かわせろ! 見事討ち取れば褒美は望みのままだと伝えろ!」
* * * * * * *
タンザに戻り、冒険者ギルドへ皆で報告に行くと、ギルマスがぶち切れている。
「早馬で報告は聞いているし、王都の本部にも報告したが大問題だぞ。お前達の資格剥奪では済まないと覚悟しておけ!」
「そりゃー、大問題だろうさ。ギルドが領主と結託して、街を救う為に馳せ参じた冒険者の上前を撥ねていたんだからな。俺達は冒険者資格剥奪、ならギルド本部の責任はどうなるんだ? 本部はギルドを解散するのか?」
ギルマスは俺の指摘に「ウッ」と言ったきり何も言わなかった。
「以前の強制招集の時に教えて貰ったが、強制招集で狩った獲物の1/3は、ギルドが犠牲者の為にピンハネしているんだ。その上で大物や珍しい獲物をタダ同然で取り上げる。そんな事をされて、誰がギルドの命令に従うと思っているんだ」
何も言わないギルマスを放置して食堂へ向かい、エールで乾杯。
酔いが回った男達が、声高にムスランのギルドと領主の悪辣さを吹聴し罵っている。
明日にはタンザ中に知れ渡る事だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます