第159話 タンザ再び

 「陛下、ムスランからの急報で御座います。コルテス子爵の執事からの報告では、ムスランの領主ジェファーノ・コルテス子爵と家族の姿が消えたそうです。それと、ムスランの冒険者ギルドのギルドマスターも居なくなった様です。その為にドラゴンは討伐されず、ムスランに近いスンザ村は放棄され村民はムスランに避難しているそうです」


 「どう言う事だ?」


 「噂では冒険者ギルドと子爵が結託して、冒険者の獲物の一部を取り上げていたらしゅう御座います。それに反発したドラゴン討伐に集まっていた冒険者達が、任務を放棄して帰ってしまった様なのです」


 「コルテスの姿が消えたとは・・・ドラゴン討伐を放棄して逐電したのか?」


 「ドラゴンが街を襲えば民心は王国から離れてしまいます。急ぎ周辺領主達に、討伐の為の魔法部隊派遣命令をお出しくださる様、お願い致します」


 「判った! 冒険者ギルド本部に詳しい事を問い合わせろ」


 「只今問い合わせの使者を向かわせていますので、暫しお待ち下さい。消えたコルテス子爵と家族は如何致しましょうか」


 「領地を放棄したのなら、捕らえて処分しろ! ムスランを逃げ出したのなら、ウィランドールに逃げ込んだに違いない。問い合わせと捕獲を依頼しておけ」


 「それでは我が国の恥をさらすことになりますが」


 「構わん。コルテスが消えたと判れば、直ぐに噂になるだろう。どうせ知られるのなら公表して何処にも逃げられなくしてやれ。ドラゴンは如何なる犠牲を払ってでも討ち取れ!」


 * * * * * * *


 スンザ村で狩った獲物を少しずつタンザのギルドで処分しているが、数が多いのに一気に売れないので、時間が掛かって仕方がない。

 解体係も以前の強制招集の事を覚えているので、俺が出す獲物が通常より大きい個体で、タンザの森で狩った物じゃないと判っているが何も言わない。


 討伐を放棄して帰って来た奴等が、思いっきりムスランのギルドと領主の遣り口を喋ったので、任務放棄に関してはギルド本部は沈黙を守っている。

 ギルマスも勝手に帰った事を怒っていたが、あれ以来何も言わない。


 そうこうしていると、ムスランの噂が聞こえてきだした。

 曰く、サブマスはキラービーに刺されて死亡、ギルマスは逃亡して行方知れずで、バジスカル王国の冒険者ギルド本部はギルマスの資格剥奪と追放を発表したと。

 ムスランの領主ジェファーノ・コルテス子爵は家族共々逐電したそうで、バジスカル王国が子爵捕獲の手配をしたと聞こえて来た。


 冒険者達が居なくなり、スンザ村は住民がムスランに逃げ出して廃村。

 ムスランの住人もドラゴンに怯えて、大量脱出が続いているとの事だ。

 周辺の貴族達が魔法部隊を引き連れて乗り込み、ドラゴン討伐に乗り出しているが、冒険者の数が圧倒的に足りなくて、ドラゴンの追跡にも難儀しているらしい。


 その為にバジスカル王国のギルド本部は強制招集に必死だが、悪評が広まってしまい応じる者が殆どいないらしい。

 強制招集拒否は冒険者資格剥奪だが、ギルドの失態が原因なのでそれも出来ずに頭を痛めていると聞こえてくる。

 当然だろう、拒否した連中の資格を剥奪すれば高ランク冒険者がいなくなる。


 溢れて来る野獣の討伐も含めて、貴族の魔法部隊では落ち着くまで相当時間が掛かりそうである。

 確認されているドラゴンは、アーマードラゴン二頭、ウィップドラゴン三頭とテラノドラゴン一頭と計六頭が確認されていて、ムスランがドラゴン防衛の一大拠点だそうだ。


 バジスカルの王家も魔法部隊を送り込み、ムスラン周辺で必死の討伐を繰り広げているそうで、噂話には尾ひれが付くので実際はどうなのか不明だ。

 討伐をしているのなら、そのうち何とかなるだろう。

 ドラゴンだって街や村を襲うのが目的じゃないので、餌さえあればいきなり街に乗り込みはしないだろう。


 魔法の手引き書を広めておいて良かったとつくづく思ったが、この騒ぎにアマデウスが気付いてないのか静かなものだ。

 気付いたところで現世には余り手出しは出来なさそうだし、魔法使いが育っているので何とかなるだろう。


 空間収納の獲物の処分も終わり王都ラングスへ戻る前に、バジスカル王国ムスランでのドラゴン討伐が終わったと聞こえて来た。

 但し被害も相当らしくスンザ村は住民が戻らず廃村、ムスランも住民の大量流出でガタガタらしい。

 そして逐電したコルテス子爵は、ウィランドール王国のシャリフに潜んでいるところを発見されて、バジスカル王国に引き渡されたそうな。


 * * * * * * *


 王都ラングスに戻り、ミレーネ様に花蜜や蜂蜜とゴールドマッシュの備蓄を渡した後は、例年通り魔法大会の見物などをして過ごしていた。

 王家もムスランの失態から、魔法使い達の能力に満足してはならないと思った様だ。

 その為に貴族達が抱える魔法部隊の攻撃訓練の成果も、魔法大会で披露させる事にした様で、何時もより見応えのある魔法攻撃の展示となった。


 冒険者ギルドと領主の任務とは言え、ドラゴンが現れたら被害地域の領主軍と冒険者達だけでは心許ない。

 防衛拠点が崩壊した時の為に、バックアップは必要だろう。


 * * * * * * *


 「また強制招集だと?」


 「おお、12年振りだが前回より酷そうだと連絡が来た。ディエルゴ村へ行って、サブマスに聞いてくれ」


 「魔法使いが増えたのだから、今回は楽なところでしょうね」


 「お前さんの結界は頑丈だ、攻撃魔法使いの奴と組んで貰うことになるな」


 「ギルマス、魔法が上手くなったからって逆上せ上がった奴となら、自分達だけで討伐させてもらうぞ」


 「その辺はサブマスと話し合ってくれ」


 「グレン大丈夫よ。逆上せ上がっていたら、身動き出来ない様に結界の中に閉じ込めてやるわ」


 * * * * * * *


 時々王都の外に出てRやLを思う存分走らせたり、ミーちゃんとチキチキバードを狩りに出掛けたりとのんびりしていた。

 秋になりゴールドマッシュの採取も終わって一息ついている時に、マークスからギルマスの訪問を告げられた。

 またかの思いがあるが、サボリ気味だが冒険者稼業を続けている手前、逢わない訳にはいかない。


 「今度は何処ですか?」


 「タンザだ。大量の野獣が押し出されているらしい。王国内と隣国バジスカルのギルドにも応援要請をしたらしい」


 「タンザ、前回は何時だったっけ」


 「丁度12年前の11月だ。前回の時も規模が大きかったが、今回はそれを上回る規模らしい。頼むぞ!」


 それだけ言ってそそくさと帰っていった。


 「相変わらず言いたい事だけ言うと、即行で帰って行くね」


 「ムスランの件でギルドの信頼も地に落ちたからな。隣国のギルドのヘマとは言え、大元は同じギルドなので影響をモロに受けているのさ。行くのか?」


 「友達もいるので、無視する訳にはいかないよ」


 「ムスランじゃないが、腕の良い魔法使いを抱えるパーティーも多いので大丈夫だろう」


 「前回の時はサブマスに謀られて、とんでもない場所に行かされたからな。今回は、少しは楽な場所に行かせて貰えると思うよ」


 * * * * * * *


 王都を出発して四日目、タンザに到着して冒険者ギルドへ報告に向かう。

 前回同様現場指揮所はデエルゴ村だと言われて放り出された。

 相変わらず扱いが悪いが、前回より酷いと聞いていたのでデエルゴ村へ急ぐ。


 村長の家へ行くとごった返していて、一人で来た俺に嘲りの声が聞こえるが無視して到着報告をする。


 「サブマス、今回はどんな具合?」


 「おお、お前か良いところに来たな、また斥候に行ってくれ」


 「またですか」


 「前回より酷くて、溢れて来る奴を防ぐので手一杯なんだ。北のベルサム領の領主軍も出張っているし、南のアッシード領の領主軍も出ている。勿論ヒュルザスとクリュンザのギルドからも迎撃に出ているので、全然手が足りないのだ」


 「サブマス、そんなひょろい奴に行かせて大丈夫か?」


 「心配するな。前回の招集では一番の稼ぎ頭だ」


 「どの辺りに防御線を張っているんだ」


 「西に二時間ほどの所を南北にだ。防御線の前に出て南北には適当で良いから、出来るだけ奥へ行ってみてくれ」


 「南北は良いのか?」


 「ヒュルザスとクリュンザの防御線があるので、そっちに任せるさ」


 「タンザの楯はどの辺りに居るの?」


 「西に行けば防御線だ。防御線を北に向かって一時間少々の所だが、今回は奴等を付けてやれんぞ」


 「RとLを預けておくだけだよ。そこから西に向かいながら南北も確かめて来るよ」


 「ウルフなら此処に置いていけば良かろう」


 「駄目だね。知らない奴にちょっかい掛けられたくない。アリエラなら良く判っているので安心さ」


 「判った、頼んだぞ」


 * * * * * * *


 前回の起点より手前に防御線を敷いていて、それぞれの担当場所には魔法使いが一人は居るようだった。


 淡く光るドームが有るので行ってみると、知らないパーティーが陣取っている。

 他の結界魔法使いかと思ったが念の為に聞いてみると、アリエラが一日に一度、野営と防御用にドームを作ってくれていると教えてくれた。


 次の結界のドームにタンザの楯と見覚えのあるパーティーが居て、レッドベア討伐の最中だった。

 アリエラの結界で動きを押さえ、三発のアイスランスを撃ち込んでから止めを刺している。


 「グレン、調子はどう」


 「シンヤか、調子も何も、また外れな場所をあてがわれた様だ」


 「シンヤも一緒にやるの?」


 「RとLを預かってもらいたくて来たんだ。俺は斥候に行けと言われてしまったよ」


 斥候と聞いたアリエラに引っ張られて、皆から離れた場所に行く。


 「今回は前の時より数が多いし大きな野獣が多いわ。ひょってしたら、此処の奥にもドラゴンがいるんじゃないの」


 やっぱりそう思うか。

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