第127話 アマデウス

 ヒット! アマデウスの野郎、やっとこさ喰いついたか。

 でも、今はちょっと取り込んでいるんだけどなぁ~。


 《いい事、テイマースキルの加護と虫たちをテイムしている事は口にしちゃ駄目よ》


 * * * * * * * *


 いきなり踏みしめているのに何も無いし上下左右の感覚の無い不思議な空間、以前召喚された時と同じ感覚になる。

 まったく、ティナの野郎、口止めの為に俺の所へ来たな。


 《シンヤと言ったな。お前に魔法を授けていないのに、何故そんなに詳しいのだ?》


 このおっさんも唐突だねぇ。


 《アマデウスって言ったっけ?》


 《そうじゃ、答えよ!》


 偉そうに言っているが、元いた世界ではラノベって魔法の教本が有るんだよ。

 そんな事も知らずに、闘気が有るなんてほざいて召喚しやがったのか。


 《俺の居た世界では、魔法の教本が有ったのさ。それを読んだ事のある者であれば、魔法を授からなくても他人に手ほどきくらいは出来るさ》


 《ならば、我が魔法を授けた者達を導け。来るべき野獣との闘いに備えよ》


 ん、来るべき野獣との闘い?

 そう言えば、ティナが『野獣が増えすぎて、人族達では討伐が間に合わないのです。その為に、闘争心溢れる者をこの世界に召喚し、野獣討伐の使命を与えているのです』って言ってたな。

 ギルドの強制招集とは違うのかな。


 《来るべき野獣との闘いって? 時々野獣が溢れて来るのとは違うのか?》


 《そんな事があるのか?》


 駄目だ、糞ポンコツ神め!


 《有りますよ。と言うか知らないのですか?》


 《知らん。どうせ野に漏れ出た野獣が増えすぎたのであろう。我が言っているのは、障壁から溢れ出そうな大きな野獣のことだ。時々溢れるそれ等を、討伐出来る魔法使いが中々現れぬ》


 《それで俺に魔法の指南をしろって事ですか?》


 《そうじゃ、頼むぞ》


 《お断り! 無理! どうしてもと言うのなら、俺を元の世界に戻す約束をしてくれ》


 《元の世界?》


 変なものを見る様に俺の顔を見てくるアマデウス。


 《そうだ、勝手に召喚しておいて、余り者だとティナに投げ与えて此の世界に放り出した。それも、最低の能力でだ! 多少の知識と幸運に恵まれて生きているが、あんたの命令に従わなければならない義理は無い!》


 ティナが俺に授けた能力を取り上げることが出来なかったのなら、アマデウスも俺に何か出来るとは思えない。

 それに俺に魔法の手ほどきを命じてくるって事は、俺が必要だって事だろう。

 交換条件に応じて貰わねば、日本に帰る方法が無い。

 創造神で此の世界に引き込んだのなら、送り返す事も出来るよな。


 て、又アマデウスが変な顔になっているぞ。

 嫌な予感がする。


 《それは無理じゃ。儂は闘気溢れる者を召喚している。お前の世界から召喚している訳ではない》


 また訳の判らない事を言いだしたぞ。


 《水の中から浮かぶ泡を掬い取ったが、不用だからと元の水に戻せると思うか。戻したところで元の水は流れ去っている。闘気が溢れる所へ送ることが出来たとしても、それは元の所ではない》


 《此れだけ地球産に似た野獣が溢れているのに?》


 《色々と招いたが、此の地に馴染んだ物が生き残り増えただけだ。お前が魔法を授けた者を導かねば、溢れ出た野獣で世界が荒れることになる》


 またまた、話しが大きくなってきたが、優秀な魔法使いが必要なので召喚しているのは間違いなさそうだ。

 日本に帰れないのなら、別な条件を呑んで貰うか。


 《魔法使いを導くには条件がある。俺が必要と思える魔法を授けてくれ。俺は巻き添えで召喚されたのだが、その時の奴等は複数の魔法を授かっていたので出来るでしょう。魔法も使えないのに教えるのって、結構大変なんですよ》


 《出来ない事もないが、一度作った物に手を加えるのは大変なのじゃ》


 やっぱりそうなんだ、だからティナも俺の加護を剥奪出来なかった。

 そうなるとアマデウスも俺に干渉するのは難しいって事だな。

 だが、出来ない訳じゃないことは覚えておこう。


 《お前に魔法を授ければ、魔法使いを導いてくれるか?》


 《俺の望む魔法を授けてくれるのならね。それと、一人ひとりに教えるのは手間が掛かって効率が悪いので、基本を万人に教える事でよければだな》


 《良かろう。望むものを言うが良い》


 《そうだな、攻撃魔法として火魔法・土魔法・氷結魔法、安全の為に結界魔法と治癒魔法に空間収納魔法かな。それと魔力は100って事で》


 《なんと六つも寄越せとな》


 《あんたの願いを叶えるのなら攻撃魔法は欠かせないし、魔法を教えるのなら、彼等の身を守り怪我などを治せないと危なくてやってられないだろう。空間収納も食糧等が大量に必要だからな。転移魔法も欲しいが、此れでも遠慮しているんだ》


 何か悩んでいたが、いきなり叫びだした。


 「フレイン、アーンス、アインス、ディーフ、トリート、トレージ、ムーブ!」


 フレインとかアーンスと叫んでいるので神々の召喚かな。

 呼ばれて一呼吸おくと次々と現れる男女だが各種人族に見えるのは何故?

 神様の好みかな。


 「この者に魔法と魔力を授けてやれ!」


 「えっ、アマデウスから貰えるのじゃないの?」


 「我の加護が既に付いていて、追加は無理じゃ。ティナの様にそれぞれから貰え」


 「じゃあ、魔法と同時に加護もお願いします」


 俺の願いを聞いたアマデウスの顔こそ見物だったので、笑いそうになったぜ。

 呼ばれた神様も微妙な顔になりながらも、魔法と加護を授けてくれてから消えていった。


 《それでは頼んだぞ!》


 《待った!!!》


 《なんじゃ、未だ何か欲しいのか?》


 《野獣が溢れる場所を聞いてないが、俺に探せってのかな》


 《おお、そっそうじゃな。雪に覆われた高い山で仕切った中で育てている。野獣が増えると、細い道や穴を通って出て来る様にしてある。その道が広がっているので雪に覆われた山の麓へ行け》


 《ん、それなら広がった道を修復すれば良いだけなのでは》


 《言ったであろう。一度作ったものに手を加えるのは大変なんじゃ。お前には土魔法も授けたのだから修復も頼むぞ》


 《あっ、未だ・・・》消えやがった。


 《よかった~あぁぁぁ。私のことは気にしていなかったわね》


 又現れ、それだけ言って消えてしまったティナ。

 はいはい、ポンコツ神共め!


 まっ、日本に帰れない代わりに、欲しい魔法は全て手に入れたから良しとするか。

 しかし、雪に覆われた高い山で仕切った中で育てているって、召喚した野獣の牧場って事だよな。

 それを態々通路を作って野に放つって事は、食物連鎖を作っているって事かな。


 * * * * * * * *


 と、いきなり森の中に放り込まれた。

 ほんっと、勝手な奴等!


  森の向こうに屋敷が見えたが、周りに楯を並べ背後に多数の兵の姿が見える。

 向こうも俺の姿を確認したのか、直ぐに矢が飛んで来たが木々に阻まれて俺まで届かない。

 なる程ね、魔法部隊の攻撃が一回で終わったのは、此処を最終防衛拠点と定めた為か。


 《あの中に居るよ》


 何事も無くビーちゃんに言われたので、さっきの間の時間経過が気になるが今は其れ処じゃない。

 授かった魔法も、直ぐに使えるとは思えないので体力勝負でいきますか。


 《有り難う。もう少し待ってね。俺の肩に止まってていいよ》


 《ビーちゃん達、聞こえたら集まれー》


 《マスターのお呼びだ》

 《何処なのー》

 《マスターが居た!》

 《マスター、御用ですかー》


 《俺の前に居る人族を一回ずつ刺してくれるかな》


 《お任せ下さい》

 《いっぱいいるね》

 《ブーンだ♪》

 《チクチクしちゃーうー♪》


 〈蜂だ! 伏せろ!〉

 〈何でこんなに蜂が居るんだ!〉

 〈さっきも刺されたんだぞ。勘弁しろよぉ〉


 《其処のお家の周りにも居る奴にも、一回ずつ刺してやって。それと此処から逃げ出す奴も刺して良いから》


 《はーい》

 《毒は未だまだ有るよー》

 《チクっとしちゃうんだから》


 あ~あ、防御陣が一瞬で崩壊しちゃたぞ。


 * * * * * * * *


 「へっ、陛下! 防衛陣が一瞬で崩壊しました!!!」


 「馬鹿な!」


 「何か逃げ惑っています」

 「皆伏せていますが、少数は何かを追い払う様な仕草です」


 「まさか・・・ウィランドール城と同じ事が起きているのか?」


 「あの男は、虫を操れるのかの問いに『多数の虫を操れると思うのならば、そう思っていればいいさ』と言いましたが、これは・・・」


 「防衛陣が破られ、跳び越えてやって来ます!」


 「剣を寄越せ。まさか、こんな事で剣を手にするとは思わなかったぞ」


 《ビーちゃん、何処か判る?》


 《マスター、此処ですよー♪》


 飛び立ったビーちゃんが、二階の一室の前でホバリングしているので礼を言って帰ってもらう。


 「陛下! 蜂です!」


 窓から外を伺っていた宰相が、悲鳴の様な声で叫ぶ。


 同時に階下と二階の殆どの窓が開き、二階からは弦音と共に無数の矢が賊に向かって飛ぶ。

 一呼吸おいて魔法攻撃が始まった。


 ビーちゃんにお礼を言って帰し、さて最後の詰めをと思ったら多くの窓が開き矢が飛んできた。

 フードを深く被り、覆面の前に庇を作って前進を開始する。


 〈ポスポス、ポスポスポス〉と情けない音がするが殆どの矢は俺の後方に突き刺さった。

 庇の下から建物の土台を見ながら走り、15m程手前で軽くジャンプしてフードを深く被る。


 〈バキーン〉と窓の壊れる音と外から〈パーン、パンパン、ドーン〉と、爆発音が殆ど同時に聞こえた。


 男が建物に向かって走り出したと思ったら、いきなり窓に男の姿が見えたと同時に、破壊音と身体に衝撃を受けた。


 何かにぶつかった様だが、フードを跳ね上げて確認もせずに短槍を振り回す。

 悲鳴が聞こえたので、一呼吸して周囲を確認。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る