第128話 神々の加護

 宰相と呼ばれていた男と数名の騎士が倒れていて、部屋の中央に騎士達の集団が剣を構えている。


 〈痴れ者!〉

 〈斬り殺せ!〉


 前後左右から殺到して来る騎士達を短槍を振り回して弾き飛ばし、集団に向かって突撃する。

 踏み込む距離が短かったのか、巨体の騎士達の陣形が崩れただけだったが、豪華な衣装に宝石で飾られた長剣を握った男と目が合う。

 睨み合う暇も無く、前後左右から斬りかかって来る者を切り払い前進すると「皆、下がれ! 前を開けろ!」と怒声が飛び、攻撃がピタリと止まった。


 「おっ、観念したか屑野郎」


 「下郎が、素首を刎ねてやる!」


 抜き打ちに斬りかかってきた剣を掴み、ぐいっと引き寄せ腹を蹴り上げたが、けろりとしている。

 俺と同じ魔法が付与された服か。

 剣を掴んだまま俺の前に引き寄せられた男の顔を、短槍を握った拳で殴りつけると、流石に顔に魔法付与が出来なかったのか歯を撒き散らして仰け反る。

 顔が半分崩壊していて意識が朦朧としているのか、目の焦点が合っていない。

 手を離し崩れ落ちた男の首に足を掛け、全体重を乗せて首をへし折る。


 「陛下!」

 「許すまじ!」


 部屋の気配が変わったが、歪な顔の男の首を刎ねると窓に向かって蹴り飛ばす。


 〈・・・〉

 〈アャギャェゥ・・・〉

 〈ウァアァァ〉


 声にならない声を発しながら襲い掛かって来る奴らを、叩き斬り殴り飛ばして宰相と呼ばれた男に歩み寄り、首に短槍を突き立てて止めを刺す。

 数十人の死体が転がり、残った男達が呆然としているが俺の用は終わった。


 * * * * * * * *


 王城を脱出するまでに何度か攻撃を受けたが、高位貴族の身形の男を捕まえ、これ以上攻撃をするのなら皆殺しも覚悟しろと言って放り出した。

 どうせ王太子か一族の誰かが後継者争いの為に俺を討ち取ろうとしているのだろうが煩いだけだ。

 警告後に襲って来た奴等と王城全域をビーちゃん達にお願いして、殺さない程度に攻撃して貰ってからは静かになった。


 すっかり陽の暮れた王都デュランディスを闇に紛れて脱出すると、ペイデン街道沿いの草原をのんびり歩き、デュランディスから一日離れた草原に野営用結界を展開する。

 急ぐ旅でもないので、此処で魔法の基本である魔力溜りを探す事にした。


 直接攻撃が無くなれば暗殺を狙って魑魅魍魎が湧いて出るだろう。

 四六時中気を張っているのも面倒なので、ほとぼりが冷めてからのんびり帰らせてもらおう。


 ウィランドール王国に帰らなければならない訳でもないが、アマデウスに魔法を貰った礼はしておかなくっちゃ。

 魔法を広めるのならウィランドール王国を利用するのが手っ取り早いし、雪を頂く山々が連なる場所を聞かなければならない。


 * * * * * * * *


 「ミレーネ様、此処まで出来れば後は放出だけです。放出をする時には回数を数えるのを忘れないで下さい。そして、一番大事な魔力切れも体験して貰います」


 「魔力の放出って、魔法を使う事じゃないの?」


 「違います。シンヤ様は、魔力の放出の練習は魔法をスムーズに使う練習だと仰いました。此れがスムーズに出来れば魔法は簡単だって、私も初めから魔法が使えてビックリしました」


 「そう、では私もその練習をするわ」


 「それと、魔力を放出できる回数分魔法を使ったら、魔力切れで動けなくなり気を失っちゃいます。だから自分が使える回数の1/5程度は、魔力を残す様にって」


 「でもルシアンは火魔法を使えないので、詠唱は判らないわね」


 「はい、それは火魔法が使える方に教わって下さい」


 「ルシアンが治癒魔法を使う時の詠唱って、どんなものか尋ねてもいい?」


 「私は口内詠唱って言うか、心の中で怪我が綺麗に治って元通りになります様にとか、病気が治って元気になります様にです。そう祈ってからヒールって声と共に魔力を放出しています。詠唱の後に、掛け声に合わせて魔力を放出するのが遣り易いです」


 シンヤから教わった事を話すが、魔力を少なくしたり増やしたりする方法だけは黙っている。

 魔力操作を教えても、魔力量の調節だけは信頼出来る者にだけ教えても良いと言われているが、自分と同じ様に魔法が完璧に使える様になってからだと思っている。


 * * * * * * * *


 「ミレーネ殿、練習は進んでいますか?」


 「殿下こそ如何ですか?」


 「教えて貰った方法で練習して試しましたが、アイスバレットがスムーズに使える様になりました。手ほどきしてくれた魔法師団長や氷結魔法使いも驚いていましたが、此れを広めても良いものかどうか。彼の性格を考えると、下手な事は出来ませんからね」


 「ルシアンに、魔力操作の方法を教える事を許しているのは、攻撃魔法でないからだと思いますよ。ルシアンは、詠唱や攻撃魔法の使い方は知りませんからね」


 「確かに、各攻撃魔法の詠唱は違いますし、バレットとファイヤーボールでは物自体も違うので他の魔法使いに教わる事は出来ませんからね」


 「それでご相談が」


 「火魔法使いですか」


 「はい、それと火魔法は音がしますので自宅では練習できませんし」


 「それではブライトン宰相に話しを通しておきます。練習の時には是非ご一緒させて下さい」


 * * * * * * * *


 魔力溜りは一日で確認出来たし、魔力の操作は二日で出来る様になった。

 知識があるにしても余りにも早いので、久々にスキルを確認して原因を探ることにした。


 (スキル)〔シンヤ、人族・22才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護×2、火魔法・フレインの加護、土魔法・アーンスの加護、氷結魔法・アインスの加護、結界魔法・ディーフの加護、治癒魔法・トリートの加護、転移魔法・ムーブの加護、空間収納魔法・トレージの加護、生活魔法・魔力710/710、索敵上級、気配察知上級、隠形上級、木登り・毒無効 ・ ・ ・ ・

キラービーの支配・ジャンプ・俊敏・剛力・怪力無双・ハニービーの支配・スライムの支配ブラックキャットの支配 ・ ・ ・ ・〕


 魔法と加護が七つ増え、アマデウスとティナの加護を含めると加護が10個に魔法が七つとはねぇ。

 それに魔力が 710/710って・・・生活魔法の10に各魔法神が100ずつ魔力をくれたって事だよな。

 これなら魔力溜りなんて直ぐに判るはずだし、はっきりくっきり魔力が判れば操作も簡単。

 やっぱり此の世界の神様はポンコツだけど、ポンコツ神に乾杯♪

 支配は読む気が失せてすっ飛ばした。


 魔力を絞る練習をして魔法の発現するギリギリを探り、氷作りで試したが手首より指三本で十分氷塊が出来るし安定しているので良しとする。

 回数を確かめようにも、710の魔力を使い切るまで魔力を放出するのは阿呆らしいので止めた。

 一番面倒だったのはアイスバレット、アイスアロー、アイスランスのイメージ作りだったが、此れも一週間もすれば楽に出来る様になった。

 アニメやラノベで、イメージ作りに馴れていたせいだろう。


 シェルターやドームにシールド作りと射撃等の各種練習は、ウィランドールに向かいながらすることにした。


 * * * * * * * *


 ミレーネ様のお供で初めてお城に入ったが、大きすぎて何が何やらさっぱり判らない。

 子爵であるミレーネ様の控えの間で着替えを済ませ、侍従と呼ばれる方の後をミレーネ様と歩く。

 着いた所は大きな部屋だけど椅子ばかり置かれていて、多くの人が座っていたが、待つこともなく奥の部屋へ通された。


 「モーラン子爵殿用意は出来ていますぞ。殿下もお待ちかねです」


 殿下・・・そんな人いるの?


 「ミレーネ殿、ご案内しますよ」


 声の方を振り向くと、バルロット様がソファーに座っていてニコニコと笑っている。


 「その娘が治癒魔法使いですかな」


 「はい、彼から預かったルシアンです。ルシアン、ブライトン宰相閣下様よ」


 ミレーネ様に言われて仰天、慌てて跪いた。


 「あー、よいよい。立ちなさい」


 宰相閣下様なんて、あの時の侯爵様より偉い方じゃない。

 ミレーネ様に立つ様にと言われたが、足が震えてしまった。

 バルロット様について通路を歩いて行くと、広い場所に出て高い壁に遮られた所に着いた。

 既に五人ほどの人が待っていて一斉に頭を下げられてビックリしたが「お待ちしておりました殿下」と聞いて又々ビックリ。


 「ルシアン、跪く必要はないからね。公式の場でなければバルロットだよ」って言われてしまった。


 ミレーネ様が前に出て男の方から何か聞いていたが、掌を上に向けて何事か呟いている。

 〈ハッ〉と掛け声を掛けると丸い火の玉が現れたので、此処が魔法の練習場だと気がついた。

 それに教えている方は、施療院に居た一人だ。


 「おお、流石はミレーネ殿だ」


 何度か火の玉を作り、その後は的に向かって飛ばす練習を始めると、バルロット様も魔法の練習を始められた。


 * * * * * * * *


 ホルカからイリアンに向かっている時から人の目を感じる様になったが、索敵にも引っ掛からないので遠くから見ている様だ。

 魔法の練習をしながらなので歩く速度が遅く、視線が気になるが攻撃範囲に入って来る様子もないので放置しておく。


 人の目に気付いてから三日目、遠くにイリアンの街が見える所で索敵に引っ掛かった。

 数は六つで明らかに待ち伏せの様だが殺気が無い。


 《ビーちゃん、居るかな》


 《マスター、お呼びですか》


 《俺の上に集まってくれるかな、うんと高い所でだよ》


 《マスターが呼んでるよー》

 《皆集まれー》

 《何をするの?》


 《降りて来ちゃ駄目だよ》


 隠れるでもなく堂々と姿を現したのは、鉄血の刃と呼ばれていた男達だ。

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