第101話 最後の仕上げ
氷結の楯と合流してから本格的に森の奥へ踏み込んだ。
先頭はRで、その後ろをホーキン達のパーティーで斥候をしていたアルバが続く。
俺はアルバの後ろを歩くが、俺の後ろを歩く大地の炎の連中には索敵と気配察知の練習を怠るなと言ってある。
オルクや俺が何時までも付いている訳ではないので、甘えられては困る。
Rの後ろを歩くアルバの足が止まり、神経を集中していて小首を傾げると後ろを振り向く。
「右手に何か居ると思うんだが」
「距離は?」
「今の俺なら30m~40m位だから・・・」
「皆を誘導しろ」
「Rは?」
「不意打ちで死なない様に守っているだけだよ。斥候が索敵も誘導もするだろう。お伺いはリーダーのホーキンにだ」
静かにやって来たホーキンに小声で状況を伝え、ホーキンが頷いて手信号で討伐準備を命じる。
静かに獲物を取り囲む態勢になるが、コランとナーダが左右に別れて攻撃用意をする。
二人を守る様に陣形を整えると、ホーキンの合図でコランが獲物が潜む位置にファイヤーボールを打ち込む。
〈ドーン〉と轟音が響くと、驚いた獲物が動き姿が顕わになる。
ビッグホーンエルク、見事な木化けだったが爆発音に驚いては木化けも無駄だ。
姿を確認したナーダがすかさずストーンランスを射ち込む。
跳ね上がる様に倒れたエルクだが逃げようと必死で藻掻いているが、殺到した仲間達が止めの矢を射ち込む。
「中々手際が良くなってきたな」
「ああ、惜しむらくは一撃で仕留められないってところかな」
「えぇ~、十分じゃない。私だってあの状態では一撃じゃ無理だわ。姿を確認すると同時に撃っても、突き立つまでじっとしていてくれないもの」
「やはり速度が遅いからかな」
「遅いと言っても、三人張りの弓の矢と同じ早さで飛んでいるぞ」
「シンヤの教え通り、矢に負けない早さで射ち出していても駄目なの」
「此ればっかりは口で言ってもなぁ~」
射ち出された矢を追い越すつもりで撃てと言っても理解出来ない様だし、此ればっかりは手本が目の前に無けりゃ駄目か。
「それじゃ、フランって人に会いに行きましょうか。その人のストーンアローをじっくり見て教えを請えば、あんたも満足するでしょう」
エイナが人の考えを読んだ様な事を言いだした。
「エイナの腕も上がったし、今なら街を離れてもやっていけるので行ってみるか」
「オシウス村って言ったな、行ってみようぜ」
「その村も獲物が多いって言ったよな」
「村から奥へ行けばだけどね」
「シンヤさん、連れて行ってください。シンヤさんが満足できる腕になって見せます!」
「師匠、お願いします!」
「おいおい、師匠なんて止めてよ。俺は魔法使いじゃないぞ」
「ううん、あんたは立派な師匠よ。テイマーの手ほどきもしてくれたし、それぞれの魔法使いを三人とも上達させたのだから。師匠と呼ばれても不思議じゃないわ」
魔法の手ほどきは下心が有って教えたので、気恥ずかしいし師匠と呼ばれるのだけは断固拒否だ!
* * * * * * *
エムデン、ザンドラ間は馬車で三日の距離だが、タンザス街道を歩かず道沿いの草原を歩く。
ザンドラから南へ一日、そこから東へ一日でオシウス村だが、ザンドラを通り過ぎるのを不思議がるリンナとエイナ。
「何でザンドラに寄らないの。あんたの登録地だし知り合いも居るんじゃないの」
「何か嫌がってる様に見えるけど」
女の勘は恐ろしいが、ザンドラは俺に取って鬼門、最悪の街だ。
黙って行かせろよと言えば、余計に興味を持つのは経験から判る。
「ザンドラにはあまり良い思い出が無いからな。向こうだって俺の顔は見たくないだろうし、モテない酒場の馬鹿息子より関係が悪いのさ」
ヘンに興味を持たれて詮索される前に、フランに魔法の手ほどきをさせたら適当なところでトンズラしようと心に誓う。
* * * * * * *
「ほう、見事な障壁じゃないか」
「シンヤさん、此れをフランって方が一人で作ったのですか?」
「だろうね。俺は最初の頃しか見ていないけど、立派な物だよな」
「俺も何時かは此れくらいの物が作れる様になれるかな」
フランも愚痴っていたが、死ぬほど後悔する事になるぞとは言わないでおこう。
夢を持つのは良いことなので、頑張れーと棒読みで返事をしておく。
出入り口の門も頑丈な物に変わっていたが、見張りは顔なじみのおっちゃん。
「お久し振り、元気だった」
「おう、お前こそ久し振りだな。話はフラン達から聞いたが相当腕を上げたんだってな。随分大勢だが何か有ったのか?」
「いや、フランに合いに来ただけだよ」
時々腕利きの冒険者を呼んだりしているので、見知らぬ者にもあまり関心を示さない村だったが、流石に人数が多すぎて村長まで出てきた。
皆を紹介して待っていてもらい、フランの家へ駈け込む。
「あれっ、シンヤさんどうしたの」
「ちょっとフランの力を借りたくて来たんだ。仲間を広場に待たせているのだが、2,3日狩りに出られないか」
「訳有りですか」
「少し前にハインツで強制招集が有ったんだ。その時に魔法の手ほどきをしたんだが、一つだけ教えられないことが有って手伝って欲しいんだよ」
「良いですよ。用意しますので広場で待ってて下さい」
広場に戻るとドラド達まで集まっている。
「おい、今度は何だ?」
「2、3日フランを借りるね」
「何をするんだ?」
「フランの狩りを彼等に見せたいんだ」
「て事は、魔法使いか?」
「三人ばかりね」
「各パーティーに一人とは、豪勢だな。村で魔法を授かった奴がフランから教わっているが、土魔法以外は大して上達しねぇな。土魔法使いもフランの半分程度だが、その三人の腕はどうだ」
「お漏らし君よりは遥かに強力だよ。土魔法使いも中々だけど、最後の詰めをフランに教えて貰いたくて来たんだ」
「彼奴か、フランに教わろうともしないし、上達しねぇな。此のあたりも野獣が少し増えてるので、一緒に狩りをするか」
* * * * * * *
フランとオシウスの牙を含めて総勢24名、野獣が増えているというのが気になるが、魔法の標的は多い方が良いので歓迎だ。
村から半日歩いて野営となったが、それまでにハイオーク六頭の群れとレッドベアに出会ったが、全てフランに任せて俺達は見物。
ナーダとコランにエイナは、フランがハイオークに連続してストーンランスを射ち込み、全て一発で仕留めたのに驚愕していた。
レッドベアには鼻面にストーンバレットを射ち込み怒らせて、立ち上がったところで心臓に一発射ち込んで終わらせたのを見て呆れ気味。
「えらく簡単に仕留めますね」
「正確無比ってか、連射も凄いです」
「皆、見るところが違うよ。ストーンランスの速度と飛び方だよ」
フランにバレットを撃って貰い、それを横から眺めさせるが対象物が無いので早いとしか実感できない様だ。
仕方がないので、一人ずつフランと並んで魔法を撃って貰う事にした。
エイナとフランが並び、標的の岩に向かってエイナがアイスランスを射つ。
直後にフランがストーンバレットを射つが、エイナのアイスランスを追い越してしまう。
「比べると、早さが全然違う!」
「何でそんなに早いんですか」
一番若いフランに、敬語で尋ねるコラン。
「フランが射つストーンバレットの早さを覚えて、負けない早さを心がけて射つ練習をすれば出来るよ。多分ね」
三発射ってナーダと替わり、三発射ってコランと替わる。
野営地に着いたら、射ち比べたイメージが残っている間に練習を始めたので、二人ずつ並んで射たせる。
その際相手より早く飛ばす事を意識する様にとアドバイス。
「三人とも中々の魔法使いじゃないですか」
「普通のパーティーなら十分通用するだろうけど、又強制招集なんかで呼ばれても余裕で熟せる腕にしたいからね」
「腕の良い魔法使いが増えたら、シンヤさんの出番がなくなりますよ」
「俺はそれが望みだよ。Dランク以下に落としたいのだけど、そうもいかないからな。それより領主は何も言ってこないか」
「今のところ何も言われてないです」
* * * * * * *
野営の時にフランと並んでバレットを射ち、速度を合わせる練習を五日も続けるとほぼ同じ速度で撃てる様になった。
「やはり魔法を使っている人は覚えが早いですね」
「周りに仲の良い魔法使いが居ると、情報交換をして腕を磨くことに励むからだろう」
「しかし、あのファイヤーボールの威力は凄いですね。あれも教えたのですか」
「ちょっと、ヒントをね」
「彼こそ、貴族が欲しがる魔法使いですよ」
「討伐ではなく対人戦闘となれば、並みの魔法使いの10人分位の威力だからなぁ」
「コランさんと闘えと言われたら、断るかシェルターに籠もって寝ていますよ。あの命中率なら、下手に穴を開けて反撃しようとしたら死にますからね」
フランなら勝つ方法はあるけど、態々教える必要も無いだろうから黙っておく。
オシウスの森にも慣れてきたので、フラン達オシウスの牙と氷結の楯、大地の炎の二組に分かれる事にして、俺はホーキン達大地の炎と行動を共にする
結局最後まで俺が面倒を見ろって事だと諦めて、彼等のお供をして獲物を預かる係に徹する。
斥候のアルバを先頭にホーキン、ナーダ、コランと続き、RとLはその左右を歩く。
俺は最後尾の一つ前を歩き、後方の警戒は気配察知に優れるミルドに任せている。
大地の炎として此の配置がベストだろうし、これから先は彼等が決めることだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます