第102話 やっぱり鬼門だ
オルク達はオシウス村での討伐と魔法の上達に満足してエムデンに帰る事になったが、問題は俺のマジックバッグに収まっている獲物だ。
氷結の楯の獲物の半分以上と、大地の炎の獲物は全て俺のマジックバッグに収まっている。
何処で処分をするかとなったが、フラン達がザンドラで獲物の処分をすると言いだして、ザンドラの街に寄ることになってしまった。
久々のザンドラ冒険者ギルド、ドラドさんが買い取りの親父に挨拶をして解体場へと向かう。
この街には良い思い出が無いので、オルク達の陰に隠れ顔を伏せて通る。
「またまた、えらく大人数だな」
「おう、三パーティー合同で狩りをしていたのでな、何処へ並べれば良い」
フランが獲物を並べていく隣を指示されたので、少し離れた所から並べ始める。
ブラックベア 3頭
ビッグホーン 4頭
ブラウンベア 2頭
オーク 15頭
バッファロー 3頭
ビッグエルク 2頭
ハイオーク 9頭
レッドベア 2頭
ファングタイガー 1頭
グレイウルフ 11頭
フォレストウルフ 7頭
「おいおい、凄いじゃないか。何処から来たんだ?」
「俺達はエムデンから、シンヤの友達を訪ねてオシウス村へ行ってきたんだよ」
「オシウス村か、あの辺りは獲物が増えているらしいな」
獲物を並べた後は皆に紛れて静かにしていたが、フランと氷結の楯の獲物も似た様な物で、獲物の数も多い。
ホーキンが俺の並べた獲物は氷結の楯と大地の炎の共同討伐と伝えている。
「シンヤ、きっちり別ける事が出来ないので、全て纏めて平等に分けないか」
ドルドさんから声が掛かり、オルクやホーキンも頷いている。
目立ちたくないので即行で了承しておく。
三パーティーの代表とソロの俺のギルドカードを預けると「お前、久しく来なかったがBランクになっていたのか!」と驚かれてしまった。
査定待ちの間食堂でエールを楽しんでいたが、大人数の俺達は目立つが人数が多すぎて絡んで来る奴はいない。
と思ったら、何やら表が騒がしい。
《マスター、触られて嫌なんですけど、振り回して押さえても良いですか》
〈おい、フォレストウルフを連れて来た奴がいるぞ!〉
〈しかも二頭も居るぞ〉
忘れていた、この街にウルフ達を連れてきた事がなかったんだ。
《ちょっと待って、直ぐに行くから》
急いで表へ出ると、RとLの周辺は人だかりが出来ていて、図太い奴がRとLを撫で回したり毛を引っ張ったりしている。
「俺の使役獣に何をしているんだ」
久々に殺気、王の威圧を振りまき人混みの中に踏み込む。
飛び下がって武器を手にする者や腰を抜かして震える者と様々だが、少数の者は太々しく俺を睨んでいる。
「兄さん、何の真似だ」
「そいつは俺の使役獣だ、見世物でもお前達が勝手にいじり回して良い物でもない。離れろ!」
「テイマーが偉そうに。フォレストウルフをテイムしていても、街中じゃ此奴は使えないぞ」
そう言ってLの頭を拳で殴りやがった。
《L、其奴の腕を咥えて振り回してやれ!》
〈エッ・・・ウワーッ〉
まさか温和しくしていたLに腕を噛まれると思っていなかったのか、変な声を出して顔色を変えた。
「やれ!」
俺の命令と同時に、咥えた腕を引き摺り振り回して地面に叩きつけた。
〈逃げろー〉
〈ウルフが暴れたぞー〉
〈殺せ!〉の声と同時に数人の男が武器を手にする。
そうはさせるかよ。
訓練用の棒を取り出し、Lに斬りかかった男を叩き伏せる。
〈やりやがったな!〉
冒険者ギルドの前で剣を抜き斬りかかってくる馬鹿!
短槍で殴りかかって来た男を蹴り飛ばし、弓を手にした奴に跳び蹴りを喰らわせる。
〈強いぞ! 仲間を呼べ!〉
「どうした、仲間を呼ばなきゃテイマー一人相手に出来ないのか」
〈糞ったれがー〉腰の引けた棒振り剣に笑いが出そうになるが、きっちりお仕置きの股間攻撃。
〈喧しい! 何をしている!〉
〈此処を何処だと思っている!〉
「シンヤ、どうしたんだ?」
「お前達は、何をしている!」
「あ~あ、シンヤに喧嘩を売ったの」
「馬鹿ねぇ~」
「俺の使役獣を殴ったのでやり返しただけだ。文句は転がっている腰抜けに言ってくれ」
「ギルマス、そこのウルフに襲われた! そいつが命じたんだ!」
「あーん、温和しくしている俺のウルフをこねくり回した挙げ句、頭を殴っただろうが。周りに居た者達が多数見ているんだぞ、適当な事を言うな! ギルマス、転がっている奴等は武器を持って襲って来たんだ。殺していないのだが相応の罰は受けるよな」
「見ていた奴等から話を聞いてからだ」
ギルマスが周囲の者に状況確認をしているところへ、今度は警備兵の団体さんが到着した。
長くなりそうなので、皆には報酬を受け取ったら先に帰って貰う事にした。
帰りにエムデンに寄るからと約束をしていると「お前のギルドカードを出せ」とギルマスのお言葉。
解体係に預けていると伝えると、ごっついギルド職員に取りに行かせる。
やっぱりザンドラは俺に取って鬼門、面倒事が起きる場所だ。
ギルドカードを受け取り、ジロリと睨み付けて来るギルマス。
「思い出したぞ、あの時の小僧か。Bランクになっていたとはな」
〈テイマーがBランクだってよ〉
〈嘘だろう〉
〈強いはずだな〉
「ふむー、猫の仔とウルフ二頭、タンザでの噂は聞いているぞ。仲間だと言う土魔法使いは何処だ」
「フランなら後ろに居るが、仲間じゃなく友達だよ」
「お前達、その男を捕まえろ!」
ん、と思って声の方を見れば、小洒落た格好のつもりだろうが装飾過多のアクセサリー男が喚いている。
怒鳴られている相手は警備兵、いやーな予感と此処がザンドラだと思い出した。
「ギルマス、その男を警備隊に引き渡して貰うぞ。ウルフを見ていた男達を、いきなり殴りだした粗暴な奴だ」
「誰?」
「妾の子、と呼ばれる領主の息子だ。まったく、厄介な事になったな」
「大丈夫、黙って俺を警備隊に引き渡しなよ。後の事はこっちでやるから」
「牢に放り込まれたらどうにもならんぞ。領主も妾に金タマを握られて骨抜きだからな」
「フラン、皆を連れて先に帰りなよ」
親指で上空を指差すと、察したフランが頷いてホーキン達に声を掛けている。
それを見ていたリンナやオルクが「無茶をするなよ」と、呆れた様に首を振りながら離れて行く。
無茶かどうかは相手の出方次第だな。
《RとLは、町の外に出て俺を待ってな。冒険者に襲われても殺すんじゃないよ》
《判りました、マスター》
《待っていますマスター》
〈あっ、逃げたぞ〉
〈ウルフが逃げたぞー〉
〈街中で彷徨かれたら不味いぞ!〉
〈あんなのが暴れたら、洒落になら事になるぞ〉
「見ろ! ギルマス。碌でもない奴のテイムした獣なんて、こんなものさ」
《ミーちゃんは、俺から離れても遠くへ行かずに声の聞こえる所にいてね》
《はい、マスター》
RとLがいなくなったので、腰の引けていた警備兵達が俺を取り囲み掴み掛かってきたが、身体を振り回して弾き飛ばす。
「此奴、抵抗する気か」
「大人しくしろ!」
「大人しくも何も、最初からじっとしているだろうが。警備隊の詰め所へ案内しろよ。それと、御領主様にウルフが逃げたと報告しておかないと、後で困った事になるぞ」
* * * * * * *
警備兵に囲まれて詰め所まで来たが責任者がいない。
小隊の隊長に身分証を見せても理解出来るかどうか不安になり、警備隊の責任者を呼べと命じる。
殺気と王の威圧を使っての命令なので、逃げ散った警備兵の残りの者が震えながら詰め所から出て行った。
* * * * * * *
「おい、他の奴等はどうした!」
「はっ、大隊長を呼びに行っています」
「大隊長だぁ、こんな屑の相手は俺がしてやる!」
妾の子がさっきの奴等を引き連れて来やがったが、俺が捕まっていると思って態度がでかいね。
というか、警備兵を押しのけて俺の前に出てくる。
「お前は妾の子らしいが、一応貴族の端くれだよな」
「おまえ・・・死にたいらしいな」
「お前に殺されるほど柔じゃないぞ」
そう言って目を見据え、殺気と王の威圧をぶっつけてみた。
〈ヒッ〉と言ったきり腰から砕け落ちて震えている。
取り巻き達も半数は腰を抜かしたり逃げだして、残りの三人が何とか剣を抜いた。
「今度は手加減なしで叩き殺すぞ。死ぬ覚悟があるのなら切りかかって来い!」
俺の本気を悟ったのか、身動きもせずに冷や汗を流している。
なんでこんな事になるのかねぇ。
此の馬鹿が出しゃばらなければ、屑共をギルマスに渡して終わりだったのに。
「お前、領主の名前と爵位は何だ?」
「ディ・・・ディルソン・ランデット子爵、様だ」
「この馬鹿の名は?」
「キンディ・ランデット様だ、子爵様の御子息であられる」
あられるって、笑わせるぜ。
妾の子と呼ばれて馬鹿にされ、腰巾着を引き連れて意気がっている様なら、素行の悪さで嫌われているって事だな。
腰巾着が半端物の冒険者って、人望がなければ頭も腕も悪いどうしようもない屑の出来上がりか。
こんな所で警備隊責任者を待つより、子爵の屋敷へ乗り込んだ方が早そうだ。
キンディの面に往復ビンタすると、小便を漏らして泣き出した。
「根性無し、お前のパパの所へ案内しろ」
襟首を掴んで持ち上げると〈ヒェー〉って情けない声を上げる。
取り巻きがいなきゃ、臆病な子犬みたいな奴。
残っている警備兵に「腰抜けを連れて子爵の所へ行くから、隊長にそう言っておけ」と怒鳴り、震える子犬の尻を蹴り飛ばす。
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