第11話 囚われ人

 追加で三回も刺されて、流石に熊さんみたいな奴も参った様で動かなくなった。

 何とか縛り上げたフランが一息ついている間に、俺は老婆の所へ行く。


 「盗賊の一味には見えないけど、あんたは誰だ?」


 「モーラン商会のお嬢様の乳母をしていますハンナと申します。助けに来てくれたのですか?」


 「まぁ結果的に助けた様だけど、未だ判らないよ」


 「判らないとは?」


 「俺達は二人だけだ。襲われたので反撃して、結果的に此処に乗り込んで来たんだが、後どれだけの人数が居ることやら。こいつ等以外に仲間はどれ位いるの」


 「大勢います。私たちの馬車を襲って来た時に沢山いました」


 沢山ね、街からつけてきた奴等が11人で、表に5人にとここに3人で19人。

 この世界の盗賊団の規模は知らないが、ギルマスがボスならやさぐれ冒険者や街の破落戸を従えるのは簡単だろう。


 ラノベやアニメなら、授かった魔法を使い悪人共をバッタバッタと薙ぎ払うところだが、生憎俺は能力最低のテイマーときた。

 まったく、とんでもない世界に召喚してくれたもんだ。


 「シンヤ、これからどうするの?」


 「もう陽が暮れるだろうし、今夜はここで寝るしかないな」


 「こいつ等を放り出す?」


 「いや、なんかお嬢さんと乳母って人が居るので見捨てる訳にもいかないし、街まで送り届けるにしても盗賊の生き証人は必要だろう」


 縛り上げた三人を背中合わせにして、それぞれの手足を隣の奴と繋いで縛りなおし、仕上げに三人の首を繋いで身動き出来ない様にする。

 息も絶え絶えだが、死のうが生きようが関係ない。


 「あなた! 動かないで、蜂が!」


 老婆が指差す肩を見れば、ビーちゃんが止まって休憩中。


 《ビーちゃん達は入り口で休憩してて、後でお肉を上げるからね》


 《はーい》の返事とともに入り口に移動し適当に寛いでいる。


 「この蜂は襲ってこないので心配ないよ。それよりこいつ等以外に五人居たけど、他にどれ位居るのか知ってる」


 「ここには8人ですが、街へ行った者が6人います」


 隠れ家内を捜索して賊が残っていない事を確認してから、老婆が抱えている大荷物をじっくり見ると、小さな足が見えている。


 「お嬢さんとやらを出してあげなよ。その状態じゃ苦しいだろう」


 「でも・・・」


 老婆の視線の先には、縛り上げた賊からマジックポーチや武器などを剥ぎ取っているフランがいる。


 「武器は取り上げるし、マジックポーチはどうせ襲った相手から取り上げた物だろう。金は俺達の手間賃だな。これでも冒険者だから、獲物は金にするのは当然さ。あんた達の物は返すから盗られた物を言いなよ」


 「この子の着替えと、玩具やアクセサリーが入ったマジックバッグだけです。それに全て入っていましたが、取り上げられてそこのマジックポーチの中です」


 そう言いながら被せていた物を外すと、蜂から守る為だろう多数の服や布きれの下から小さな女の子が出てきた。


 「ホルムに在ります、モーラン商会のミーナお嬢様です」


 「モーラン商会、知ってる?」


 「知らない、俺は田舎の小倅だよ」


 「王家にも様々な細工物や美術品を納める、モーラン商会をご存じないのですか?」


 「見ての通りの冒険者だよ、住む世界が違うのだから知らないよ。ホルムって何処かな?」


 俺の問いかけに呆れた様に首を振る老婆。


 「王都ラングスより、タンザス街道を南に下った四つ目の大きな街、エルザート領ホルムです」


 思わずフランと顔を見合わせたが、フランも困惑顔だ。


 「済みませんが、ザンドラから何方の方ですか」


 「本当に何も知らない田舎者なのね」


 首を振りながら呆れた様に言うハンナ婆さん。

 盗賊達に捕らわれていたのを助けたのに、えらく態度がでかいな。


 「フラン、婆さんの相手より、その子の着替え等が入ったマジックポーチを出させよう」


 「ですね。田舎者の俺には話が合いそうもないです」


 しかし、婆さんが指差したのは熊のような大男で、どうしたものかと考えてしまった。

 映画で見た拷問方法を試してみることにした、取り上げたマジックポーチの中から武器を選び出す。


 「熊さん、マジックポーチの使用者登録を素直に外せば怪我をしないが、嫌なら指が一本ずつ無くなっていくよ。というか、ポーションが飲みたきゃ使用者登録を外しな」


 腫れ上がった顔を上げて唾を吐く熊さん。

 唾のお礼に、見つけた棍棒で膝の皿を叩き割ってやる。


 〈ウゴッ〉・・・「てめえぇぇ・・覚悟・は・・・」


 「覚悟は出来ているって事ね。それじゃー反対側も砕いておくか」


 〈グッ・・・糞ッ〉


 「あんまり我慢していると、ポーションじゃ治らなくなるよ」


 今度は腕の肘の腱を一つプッツンしてみると〈ウガァーァァ〉と悲鳴を上げた。

 思い出した! アキレス腱断裂は、大の男も涙を流すほどの痛みと聞いたな。


 「今度はもっと痛いと思うけど、どうする? 使用者登録を外すかい」


 未だ歯を食いしばって睨んでくるので汚いブーツを脱がせたが、悪臭にむせ返りゲロを吐きそうだ。

 思わず「クリーン、クリーン、クリーン」の三連発。


 「シンヤさん、勘弁して下さいよ。お婆さんどころか、小さい子までえずいてますよ」


 「悪い、俺もブーツの中がこんなに危険な物とは知らなかったよ」


 気分が悪いので、アキレス腱にナイフを叩き付ける。


 〈ギャーァァァ・・・やめ・・て、やめ・・・ろ〉


 「ああっ、もう片足残っているぞ!」


 「シンヤさん、あの匂いは勘弁して下さいよ~」


 「大丈夫だよ。今度はブーツの上から切ってやるから匂わないと思うよ」


 足を踏みつけ、ナイフをブーツの後ろに当てると「止めて・くれ・・・はず・す・から」


 「だから最初に言っただろう、素直に解除すれば痛い思いをしなくて済むのに」


 熊さんの指に血を付けてマジックポーチを当ててやると、何やらブツブツ言っていたが解除出来たようだ。

 お嬢ちゃんが被っていた大きな布を広げ、マジックポーチを逆さにする。


 まー、ビックリするくらいごちゃごちゃと出てきたので、マジックポーチを探すのが大変だ。

 熊男がポーションを飲ませてと泣きついてきたが、後回しにしてマジックポーチを探してハンナ婆さんに渡す。


 問題はポーションだ、色々と10本のビンが出てきたが用途がさっぱり判らない。

 熊ちゃんに質問しながら選り分け、毒消しポーション2本、初級ポーション5本に中級ポーション3本。

 熊ちゃんにポーションのレクチャーを受けながら、中級ポーションを傷に振り掛けてやる。

 毒消しポーションも飲ませてくれと懇願してきたが、ダーメの一言で撥ねのける。


 残ったポーションはフランと山分けだが、俺に毒消しポーションは必要無いと思われるのでフランに渡す。

 熊ちゃんのお財布、革袋はずっしりと重かったが、後で山分けの為に俺のマジックポーチにポイする。

 ぶち撒けた物をマジックポーチに入れられないで困っていると、ハンナ婆さんがお嬢様のマジックバッグに預かっておきますよと言ってくれた。


 ん、と思ってマジックバッグ? と聞き返すと、ランク3迄がマジックポーチで、ランク4以上がマジックバッグと呼ばれていますと教えてくれた。

 参考までに聞いたら、ランク12が最高ランクだそうだ。


 ミーナお嬢ちゃんは、マジックバッグから取り出されたお菓子を夢中で食べている。

 何時から捕らわれていたのか知らないが、むさいおっさん連中の作る飯は不味かったのだろう。


 フランに出入り口を塞いでもらい、縛っているとは言え盗賊と一緒に寝る気はない。

 交代で寝る事にして、万が一に備えてビーちゃんにも見張ってと思ったが、蜂って夜は寝るんだよな。


 * * * * * * *


 陽が高くなる頃に塒から匍い出して、フランに太い土管を作って貰い蓋をしてビーちゃんが出入りできる穴を開けさせる。


 「こんな物どうするんですか?」


 「ビーちゃんのお仲間捕獲に使うのさ。一匹ずつ捕獲してテイムするのは面倒だろう。大量に呼び込んで、その穴から出て来る奴を一匹ずつテイムしようと思う」


 土管の中に止まり木を立てかけると《ビーちゃん、又お仲間を呼んできてくれるかな。今度はこの中へ入らせてね》


 《はーい、たくさん呼んでくるね~♪》


 《残ってる子は、ホーンラビットを探してお肉を食べようか》


 《任せて!》

 《すぐにお肉を食べようね》

 《仲間の分もね~》


 「シンヤ、街へ帰らないのですか」


 「あっ、出て来ないで。もうすぐ蜂の大群が来るので刺されるよ」


 「そなたはテイマーだと言ったが、テイマーとは蜂も操れるのか?」


 「嫌だなぁ~、俺にそんな能力はないよ。多分テイマー神の加護持ちだから、蜂が協力してくれてるんだと思うよ。蜂が来たら危ないので、ミーナの側にいてやりなよ」


 婆さん助かったと思ったら、大店のお嬢様の乳母として使用人に対する態度で、俺達にあれこれと煩く言いだしたよ。


 「蜂が協力ですかぁ~」


 「煩いよ。ポイズンスパイダーやキラービーをテイム出来ると知られたら、面倒事になるのは間違いない。フランも余計な事は言わずに、聞かれたら加護持ちだから守って貰えてるんじゃないですか、くらいの事は言えよ」


 「大丈夫です。冒険者は手の内を知らせない、仲間の技も他人に漏らさないのは常識ですから。それより、ビーちゃんが帰ってきたようですよ」


 遠くから低音の羽ばたきが近づいて来るので、フランには一時避難してもらい、土管の蓋を少し浮かせて準備はOK。

 俺も少し離れてしゃがみ込み、キラービーの群れが土管に入るのを息を殺して待つ。


 綿毛を足に付けたビーちゃんが土管に入ると、付いてきた群れが次々と土管の中に姿を消すが、何も無いので引き返して来るものが出始めた。

 用意していた蓋に繋がる蔓を引くと、支えていた棒が外れゴトンと土管の蓋が閉まった。

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