第26話 テイムと解放

 「フラン! 元気にしているか?」


 「あれっドラドさん、どうしたんですか?」


 冒険者ギルドへ獲物を売りに来たら、フランに声が掛かった。

 知り合いの様で、フランも嬉しそうに返事をしているが冒険者の様である。

 俺より頭一つ背が高いフランが、男達に囲まれると子供に見えるし横幅も半分に見える。


 「ドラドさん紹介します、ザンドラに来て組んでもらったシンヤさんです」

 「シンヤさん、村でお世話になっていたドラドさんとオシウスの牙の皆さんです」


 「シンヤです。フランとは、冒険者登録以来仲良くさせてもらっています」


 「おう、フランは役に立つかい」


 「はい、魔法使いは羨ましいですね」


 「お前も少しは腕を上げたか」

 「村を出てから半年だ、まだまだひよっこだぞ」

 「もっと飯を食って身体を大きくしろよな」

 「大型獣を相手に出来る様になったら戻って来いよ」


 「はい、皆さんはどうして此処へ」


 「うむ、最近ブラウンベアの目撃情報が有ってな、足跡を見たが大物だ」

 「それで討伐依頼に来たんだ」

 「ありゃー、俺達の手には負えねえな」


 「シンヤ、良いかな」


 フランがマジックポーチを軽く叩き聞いてくる。


 「獲物を見せたいのか?」


 「ああ、今の力を知ってもらいたいんだ」


 「おっ、何か大物を狩って来たのか?」

 「お前、マジックポーチを持っているのか?」


 「詳しくは後で話すけど、見て貰った方が早いので解体場に来て下さい」


 フランが彼等を案内して解体場に向かい、解体係にハウルドッグを12頭と伝える。


 「お前達二人でハウルドッグを12頭か?」


 「はい、俺が9頭にシンヤさんが3頭です。後で訓練場に行って今の腕を見せます」


 「ストーンアローが上達したようだな」


 「それだけじゃ有りませんけど、後でお見せします」


 フランが並べたハウルドッグを仔細に見て、ドラドが仲間達と話し合っている。


 「今回も綺麗なものだな、少し高めに査定しておいたからな」


 渡された用紙を受け取り礼を言っておく。

 ハウルドッグ、16,000ダーラ×12=192,000ダーラ。

 用紙をフランに見せると「良い値段になりましたね」と嬉しそうだ。


 そのままフランの知り合い達と訓練場へ向かい、標的射撃の場所に行き的に向かう。


 「フラン、アローを五連射とシールドを一つだけな」


 「えっ、ランスを見せたいのに」


 「此処じゃ射ち抜いてしまうし、目立つけど良いのか。ランスは物を見せるだけにしておけよ」


 頷いて的に向かうと、〈ハッ〉〈ハッ〉と掛け声の連続でストーンアローが連続して的に突き立つ。

 それも〈ドン〉と言った重い音の連続に、見物していたドラド達から声が上がる。

 ストーンアローの五連射が終わると、〈シールド〉とすかさず幅1.5m高さ2mのシールドを立ち上げた。


 「おいおい、無茶苦茶上達しているじゃないか」

 「ストーンアローの音を聞いたか、あの威力ならハウルドッグを一発で無力化出来る筈だな」

 「命中率も良いな」

 「ああ、それにシールドの素速い立ち上がりと、ストーンアローの連射は凄いな」

 「村を出て半年で凄い上達だが、誰か師匠がいるのか?」

 「それよりランスと言ったな。ストーンランスも射てるのか?」


 「はい、20発程度ですが射てます。街の外でシェルターやストーンランスの威力をお見せします」


 そう言って立ち上げたシールドとアローの魔力を抜いた。


 「ほう、魔力も抜けるとは凄いな」

 「ああ、俺の知る土魔法使いにはいないぞ」

 「リーダー、依頼を出す前にフランの魔法を確かめようぜ」


 「シンヤと言ったな、フランの腕が良ければ討伐を手伝って貰うことになるが、お前はどうだ?」


 「俺は何処だって構いませんよ。但し、俺は数に入れないで下さいね」


 「ん、フランと二人でやっているのなら、相応の腕はあるんじゃないのか」


 「俺はテイマー職を授かっていますが、生憎能力は1なのです」


 微妙な顔になり仲間達と顔を見合わせている。


 「ドラドさん、シンヤさんはああ言っていますが、テイマー神の加護を授かっています。それに、俺の魔法が上達したのはシンヤさんの助言のお陰です」


 「まぁそれは、お前の魔法を見てからだな」


 精算カウンターで金を貰い、フランと山分けをしてドラド達と街の外に向かった。


 * * * * * * *


 「本当に良いのですか」


 「俺は何処でも良いんだよ。フランは自分の村に助力したいのだろう。未だ教えて貰いたいことは有るけど、一人で彷徨いても困らない程度には教えて貰ったからな。それにお前の村に行けば、知らない事を覚えられそうだし」


 「俺はシンヤさんから教わる事ばかりですし、此れからも一緒に遣りたいとおもっていますよ」


 「クーちゃん達を置いている場所にしようか。それと、俺はお願いしているだけなのを忘れないでね」


 「言っても信じて貰えませんよ」


 野営地に向かう途中、太い立木を標的にストーンランスを三連射してみせる。


 〈ドン〉〈ドン〉〈ドン〉と鈍い音を立てて立木にめり込むストーンランス。


 「おお、此れなら大型獣も十分倒せそうだな」

 「確かに、此れじゃギルドの的がもたないな」

 「立木でこの威力なら、生身の野獣なら倍以上打ち込めるぞ」

 「早さも威力も申し分ない」


 その後で野営用ドームとシェルターを作り、ドラド達に攻撃して貰い強度もお墨付きを貰っていた。

 「よしフラン、ブラウンベア討伐を手伝え。その間シンヤには村で待っててもらうことになるぞ」


 「俺は構いませんが、できればブラウンベアの討伐を見てみたいですね」


 「そりゃー駄目だ。俺達はお前のお守りまでは出来ないからな」


 「ドラドさん、シンヤを守るのは俺に任せて下さい。もっとも、その必要は無いと思いますけど」


 「意味深だな、訳を話せ!」


 「街を出てから、何か気付いたことは有りませんか?」


 「何の事だ」

 「シンヤに対してか?」


 「ええ、シンヤさんとその周辺ですよ」


 「その周辺か・・・この場所は妙に蜂が多い事かな」

 「そういえば時々キラービーが周囲を飛んでいるな。この近くに巣でも有るのか」


 「シンヤさんは、テイマー神の加護を授かっていると言ったでしょう。冗談でもシンヤさんを叩いたりしないで下さいね。攻撃と看做されたら、キラービーの襲撃を受けてあの世行きですよ」


 「お前、村を出てから可笑しくなったのか。キラービーに襲撃されるって」

 「こうちょこちょこキラービーが飛んでいるけど、それはないだろう」


 フランの言葉を信じてないのは明らかだし、当然そうなるわな。

 フランが嘘つき呼ばわりされたら可哀想なので、ビーちゃん達を呼んで事実だと判らせておくか。


 《1号から6号は俺の周囲を旋回して待機》


 《はーい、マスター》

 《行くぞー》

 《マスターと仲間でない奴は刺すの?》


 《刺さないでね。俺の周りを回って、疲れたら俺に止まればいいよ》


 《マスターの肩は俺の席だ!》


 「おい! キラービーが向かって来るぞ!」


 「あっ、動かないで! 攻撃もしないで!」


 「伏せろ!」

 「馬鹿な!」

 「フランも伏せろ!」


 「大丈夫ですよ。追い払ったり攻撃しなければ何もしませんから。此れのお陰で、何度も助けられていますから」


 《残りの皆も俺の周りに集合ー》


 《マスターがお呼びだー》

 《それ行けー》

 《ちょっと噛みついてみようかな~♪》


 「おい! この羽音は・・・」

 「群れじゃないのか?」

 「勘弁しろよ。こんな所でキラービーに襲われたら・・・」

 「フラン、さっきのシェルターを作れ! 早く!」


 「大丈夫ですよ」


 フランの、のんびりした声を羽音がかき消し、ビーちゃん達が俺の周囲に集まり旋回を始める。


 伏せているドラド達が、羽音がするのに全然刺されないので恐々と顔を上げると。俺とフランの周りを旋回するキラービーを見て青ざめている。


 「おい、マジかよ~」


 《皆有り難う。後でお肉をあげるから散ってね》


 《よっしゃー、お肉だ!》

 《俺はちょっと休憩していきま~す》

 《あっ、肩は俺の席だぞ》

 《反対側が空いてるだろう》

 《俺は胸の所に止まりま~す》


 羽音が消えると「もう居なくなりましたよ」と、フランに言われて青い顔で立ち上がり、俺の胸や肩に止まる蜂を見てギョッとした顔になる。


 「見たでしょう。シンヤさんを襲った奴等は、蜂に刺されて全員死にました。俺達を殴っただけで大群に襲われた人もいますが、シンヤさんがお願いして止めてもらいました。その時にはもう刺されていましたけどね」


 「テイマーが蜂を使役するなんて、信じられん」

 「まさか蜂をテイム出来るなんてな」


 「あっ、俺は蜂をテイムしていませんよ。テイマー神ティナ様の加護を授かっているので、その御利益でしょう」


 「だがさっきお前の周囲を飛んでいたが・・・」


 「助けてとか、止めてあげてとかお願いはしますが、使役している訳ではありませんよ」


 スッ惚けるが、俺の胸や肩で寛ぐキラービーから目が離れない。

 クーちゃん達を隠している所へ行き、全てのクーちゃんのテイムを解放する。

 惜しいけど当分用は無さそうだし、連れ歩くのも大変だ。

 それに、一つ確認しておきたい事もあったから。


 久々のスキル確認(スキル)〔シンヤ、人族・18才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力10/10、索敵中級中、気配察知中級中、隠形中級中・木登り・毒無効・キラービーの支配〕

〔キラービー、50-50、複眼、毒無効〕


 ポイズンスパイダーの項目が消えて、索敵に気配察知と隠形が全て中級の中になっている。

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