第39話 支配

 早朝に野営用結界をマジックポーチにしまうと、ママの巣と冒険者達の中間地点の草叢に潜む。

 彼等もハニービーが動き始める前に巣を襲うつもりなのだろう。


 《熊五郎、聞こえるかな? 熊五郎》


 返事は無しってことで、俺がやるしかないがミーちゃんに先制攻撃をして貰う。

 というか、ミーちゃんの爪を使わせてもらおう。


 《ミーちゃん、彼奴らの後ろから近づいて皮を切り裂けるかい?》


 《判りません。大きい奴等は厚くて固いんです》


 《ちょっと試してみてよ》


 小首を傾げて頷き草叢の中に消えていった。

 暫くして集団の動きが乱れたが、被害を受けたようには見えない。


 《マスター、爪が立ちません》


 《それじゃ、姿を見られないように横からすれ違い様に、目のところを切り裂いてみて》


 《判りました》


 今度は被害を与えた様で、集団の足並みが乱れて何事か話し合っている、

 全身毛まみれの服で防御していても、目のところを見える様にすれば脆弱な所になる。

 多分細枝の格子か薄衣を貼っているのに違いない。


 集団の動きが止まっているので背後に回り、ホップ・ステップ・ジャーンプ。

 水平跳び蹴りで、向かい合っている奴同士がぶつかるように両足を開いて二人の背中を蹴り、混乱に乗じて近くの草叢に跳び込む。

 暫く観察していたが、ママの巣に向かうのを諦めた様なので、俺も静かに撤退する。


 熊五郎一人、一匹じゃ心許ないのでもう一種テイムすることにした。

 活動を始めたハニー達に、蜜集めの序でにスライムを探してとお願いしたが、説明が大変だった。

 後は寝て待つだけと思ったら、何かがママの巣の方へ向かっている。


 《マスター、熊五郎の様です》


 ママの巣の方へ迷いもなく近づいているが、ハニービー達が攻撃していないので熊五郎に間違いない。

 小さく見える熊五郎に届くかなと思ったが、試しに呼んでみる。


 《熊五郎、ご苦労さん。美味しい物を上げるからお出で》


 《マスター、何処ですか~姿が見えませ~ん》


 立ち上がってキョロキョロしているので、手を振って居場所を教えてやる。

 熊五郎が駆けてくるが、ツキノワグマってこんなに太っていたっけかと思うほど、タップンタップン揺れている。

 駆けてきた速度のまま抱きつこうとしたので、軽くジャンプして躱す。

 こん奴に体当たりと抱擁されたら、一発で死ぬわ。


 《熊五郎、毎日来なくてもいいよ。自分の餌を捕って、暇な時に来てくれれば良いから》


 《はい、マスター。美味しい物下さい!》


 突進してきたのは、そっちかよ!

 蜜を絞り取った滓をカップ二杯分程出してやると、夢中で舐め回している。

 未だまだたっぷり蜜を含んでいるので嬉しそうだ。

 舐め終わって物足りなさそうな熊五郎を連れてママの巣の所へ行き、作って貰った熊五郎用の皿を置く。

 そしてもう一度絞り滓を置き、熊五郎が夢中で舐めているのをハニービー達に見せる。


 《熊五郎が巣を壊しに来た奴を追い払ったら、此処に少しだけ花蜜を入れてあげてね》


 《判りました、マスター》

 《この毛玉は巣を壊さないんですね》


 《ああ、壊しちゃ駄目って教えたからね》


 熊五郎にご褒美の場所を教え、後はスライムだけだと再びまったりしていたが、直ぐに見つけたと知らせてきた。


 《マスター、丸いの見つけたよ~♪》

 《丸いのが何か食べてるよ》


 《有り難う。案内してくれるかな》


 《あーい。こっち》


 目の前でくるくる回ってスイーと跳ぶハニーちゃん。

 ハニービーの飛ぶ速度は早いので、ミーちゃんを抱えて全力スキップ。

 スライムは野獣の残骸の上に乗りお食事中だったので、ティナとの約束が何処まで使えるのか試す。


 無心にお食事中のスライムに(テイム・テイム)〔・・・・・・〕

 約束前に解放したものは駄目のようなので、面倒だが仕方がない。

 マジックポーチからお仕置き棒と名付けた長い棒を取り出して、真っ向唐竹割り。


 (テイム)〔スライム、2〕


 剛力が有るので大分手加減したのだが、二発目はもっと軽く叩いてテイム。


 〔スライム、30-1〕テイムを完了したので、隣の奴を(テイム・テイム)〔スライム、30-2〕


 約束通りに弱らせなくてもテイムできるのを確認出来たので、二匹のスライムに仲間を探させる。

 その日は五匹のスライムをテイム出来たので、ママの巣を教えて壊す奴がいたら全力でぶつかれと教えておく。


 * * * * * * *


 一頭をテイムすれば、後は同種相手ならテイムと唱えるだけでテイム出来るので、目に付く野獣を気楽にテイムしていく。

 取り敢えずスライムのテイムを続け、30-30になったところでスライムの支配がスキルに加わった。

 6番目から30番までのスライムを解放してスライム狩りは終了。


 次は何をと思う間もなくゴブリンと遭遇したので、ゴブリンのテイムを開始する。

 ゴブリンの後ろから近づき、手加減しての尻バット。

 仰け反るように倒れたゴブリンを何度も殴り(テイム)〔ゴブリン、6-1〕

 仲間が大騒ぎして俺に迫ってくるが、バックステップで離れると同時に〔テイム・テイム〕6-2、6-3と群れ一つで満杯カンストになり〔ゴブリンの支配〕を獲得。


 即座に(テイム・解放)キョロキョロしているゴブリンを短槍でプスリ。

 ゴブリンの支配など欲しくはないが、一言で自由に扱える能力が有れば、討伐は楽勝なので確保した。

 尤も討伐よりは、支配を使って同士討ちさせれば手間も掛からないと後で思いついた。


 * * * * * * *


 せっせとザンドラ周辺の草原や森を彷徨い獲物を狩り、備蓄の食料が尽きたので街に戻る事にした。

 その間にテイムして支配を手に入れたのはゴブリンを含め7種で、グレイウルフ2頭を護衛として従えている。

 何れフォレストウルフを支配して、護衛をやらせるまでの繋ぎだが頼りになる。

 だがスキルが凄いことになってしまい、ちょっと頭が痛い。


(スキル)〔シンヤ、人族・19才。テイマー・能力1、アマデウスの加護・ティナの加護、生活魔法・魔力10/10、索敵中級上、気配察知中級上、隠形中級上・木登り・毒無効・キラービーの支配、ジャンプ、俊敏、ハニービーの支配、スライムの支配、ゴブリンの支配、ファングドッグの支配、ハウルドッグの支配、グレイウルフの支配、疾走、フレイムドッグの支配、カリオンの支配〕

〔ファングキャット、4-1、夜目、俊敏〕

〔グレイウルフ、2、嗅覚、疾走〕

〔リングベア、3-1、嗅覚、穴掘り〕

〔スライム、5,軟体、ジャンプ〕


 索敵、気配察知、隠形が全て中級の上に変化している。

 能力はグレイウルフの疾走をもらったが、支配がスライムの支配、ゴブリンの支配、ファングドッグの支配、ハウルドッグの支配、グレイウルフの支配、フレイムドッグの支配、カリオンの支配と七個増えて全部で九個になった。


 神の加護二つと、スキルに付いた加護が良い働きをしていると思って間違いない。


 * * * * * * *


 《俺は街へ行くが、グレイ達は中へは連れて行けないので、入り口近くで人族に見られない様にして待っていろ》


 餌用のホーンラビットを置いておく。


 《判りましたマスター》

 《早く帰って来て下さいね、マスター》


 テイマーの事を彼此調べたが、複数種や複数頭をテイム出来る者は殆どいないそうだ。

 殆どとは、加護を授かっている者が複数頭従えているらしい。

 俺なんて複数種に複数頭のテイムが出来るし、支配もバンバン増えている。

 此れを大っぴらにしたら騒ぎになるのは間違いないので、必要に迫られるまでは内緒だ。


 ミーちゃんを肩に乗せて街に入ると、冒険者ギルドへ直行して解体場へ入らせてもらう。


 「今日はどれ位だ?」


 「今回はワンちゃんが殆どです。数がちょっと多いかな」


 ファングドッグ 18頭

 ハウルドッグ 15頭

 フレイムドッグ 13頭

 グレイウルフ 9頭

 カリオン 7頭


 「なんと、此れを一人でか?」


 「まぁ、便利な物を持っていますんで」


 「しかもグレイウルフも9頭か。それにしても、殆ど腹の傷だな」


 そりゃーね、野営用結界の中からプスリだもの。

 結界の中からホーンラビットを突き出し、それに喰いつく奴の腹を突くだけだもの。

 時に瀕死の奴を結界内から手を伸ばして中へ引きずり込み、テイムしていたんだから楽勝よ。

 お陰で支配も楽々入手できた。


 〈凄腕だな〉

 〈見ろよ、一突きか二突きで仕留めているぜ〉

 〈どう見てもGかFランクにしか見えねえがよ〉

 〈何処のパーティーだ?〉

 〈ザンドラも獲物が多そうだな〉


 ギルドカードを預けて食堂へ行き、エールで一息つく。


 「兄さん、一人かい?」


 「勧誘ならお断りです」


 「いやいや、俺達は最近ザンドラに来た者でよぅ」

 「腕の良い奴に森の案内を頼みたくてな」

 「見れば良い腕をしてる様だし」

 「暫く俺達に付き合ってくれねぇか」


 「俺達?」


 「おお、俺達は〔疾風怒濤〕って8人のパーティーだ」

 「宜しく頼むぜ。相棒」

 「おお、仲間になった祝いだ!」

 「おい、エールとつまみを持って来い!」


 勝手に盛り上がって座り礼儀の欠片もないっていうか、疾風怒濤って日本人か?

 エールのジョッキをドンドンと置き「兄さんすまねえ、ゴチになるぜ」って俺は奢るなんて言ってないぞ。


 「仲間内で盛り上がるのは勝手だが『兄さんすまねえ、ゴチになるぜ』って何だ? 俺は奢るなんて一言も言ってないぞ。新手の集りの手口か?」


 「おっ、洒落たことを言うじゃねぇか」

 「お前は、俺達のパーティーに入会したくて名前を聞いてきたんだろう。まさかおちょくってんじゃねぇよな!」

 「それは聞き捨てならねえなぁ。一丁模擬戦で鍛えてやるか」

 「よーし受けたな! おい、ギルマスを呼べ! 模擬戦をやるぞ!」

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