第40話 疾風怒濤
あ~ぁ、ぼったくりバーの客引きが居直ったようで、可笑しくなる。
「何が可笑しい!」
「いいさいいさ。模擬戦で可愛がってやるから、それまでは笑っていろ」
パーティー名といい、この手口といい、懐かしくなるのは何故かな。
模擬戦も何時か申し込まれると思っていたが、訓練の成果を試す良い機会だな。
ビーちゃん達には上空で待機していてもらおう。
「面倒くせえなぁ~、誰と誰だ?」
「おうギルマス、この小僧が馬鹿にして模擬戦を要求してきたので、俺達疾風怒濤としては背を向ける訳にはいかねぇんだよ」
「小僧? 相手は一人か?」
「ギルマス、俺で~す。何かパーティーに入れてやるって言うので断ったら、模擬戦だって騒ぎ出したんですよ」
「シンヤだったな。あれ・・・この間Fランクにさせたよな」
「登録して1年経ったので、お陰様でFランクになりました」
あんたの間抜けな昇級推薦で、目出度くFランクにね。
嫌味が判ったのか、頬がピクピクしている。
「ほっほー、中々嫌味な奴だな。で、模擬戦の経験は?」
「有りません。ご教授願います、ギルマス」
「ふん、相手は八人だが、やれるのか? と言うか、お前の護衛はどうした?」
「言ったでしょう。俺を襲う奴を攻撃するって、未だ襲われてないので来ませんよ」
「それじゃー模擬戦は許可出来んな」
「ギルマス、何を訳の判らん事を言ってるんだ! さっさと遣らせろよ!」
「襲わないようにお願いするので、大丈夫ですよ」
〈おい、あ奴に模擬戦を要求するって〉
〈おもしれぇから黙ってろ〉
〈そうそう、何処で食い詰めて流れて来たのか知らねぇが、少しは痛い目をみろってんだ〉
〈巻き添えで刺されたら、シャレにならんぞ〉
〈で、どっちに賭ける?〉
〈俺っ・・・強そうな方だな〉
〈うむ~、蜂が居れば無敵なんだろうけど〉
〈そう言えば、今日は蜂が来ないな〉
〈8対1じゃ勝負にならねぇよ〉
〈彼奴が受けたのなら、何か奥の手が有るんじゃないのか〉
〈俺は止めとくよ。猫を抱えた奴との模擬戦なんて、賭けの対象にならねえよ〉
〈おら! 行けよ小僧〉
〈大口を叩いた事を後悔しやがれ!〉
〈震えてるんじゃないだろうな〉
〈その猫も模擬戦に出るのか〉
《マスター、何か馬鹿にしてますよね》
《あ~、ミーちゃんは何もしちゃ駄目だからね》
《一発顔に線を引いてやりたいです》
《ビーちゃん達も、呼ぶまで降りて来ちゃ駄目だよ》
《何なに、降りちゃ駄目なの?》
《マスター、暇です》
ミーちゃんをギルマスの後ろの特等席に座らせると、ギルマスから模擬戦の注意を聞き木剣を取り出す。
「此れでも良いんでしょう」
取り出したのは素振り用の太くて長い木刀。
「お前、そんな物を振れるのか?」
「大丈夫です。毎朝鍛錬の為に振っていますから」
長さ2m少々で太さは竹刀の1.5倍くらいだから気になるのかな。
〈おいおい、あれを見ろよ〉
〈ぷっ、長くて太けりゃ強いんだぞってか〉
〈太くて長いは、男の憧れだぜ〉
勝手に言ってろ、その憧れを縮み上がらせてやるから。
「一番手、出ろ!」
〈簡単に殺すなよ〉
〈マジックバッグ持ちだ、荷物持ちに最適だから手加減してやれよ〉
〈違いない。任せたぞー〉
ふん、何時まで笑っていられるかな。
10m程離れて向かい合い、ギルマスの合図で踏み込む。
のんびりと木刀を振りながら歩き始めたところを、俺が跳び込んだので慌てている。
小走りに近いスキップで、2足目には相手の胸元に水平蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。
〈おいおい、今の踏み込みは何だよ〉
〈舐めてかかるからだ! きっちり型に嵌めてやれ!〉
「御託は良いから! 次の奴出ろ!」
短槍に見立てた棒を構えて不敵に笑う髭面。
跳び込んで来たところを突くつもりだろうが、そうは髭の金タマだ。
俊敏と疾走を組み合わせた技を見せてやるよ。
始めの合図と共に小走りで踏み込み、胸元を狙って突き入れてきた棒を掴んで身体を浮かせて身を捻る。
棒を掴んで身体を浮かせると思っていなかったのだろう、一瞬動きが止まったところへ、身を捻った俺の足が上段から落ちてきて肩甲骨を砕いた。
〈今のを見たかよ。まるで連れている猫みたいじゃねぇか〉
〈なんて身が軽いんだ〉
〈またもや相手に何もさせずに終わったぞ〉
〈蜂なんて居なくても十分強いってか〉
さて、三番手はどいつかな。
誰も出て来ようとせずに、仲間内で何か揉めている。
「ギルマス、そこで井戸端会議をしているおっさん連中に、早くしろって言ってよ」
〈こらー、お前等が喧嘩を売ったんじゃねえか!〉
〈二人が負けただけで逃げる気か!〉
〈お前等は、疾風怒濤の逃げ足がパーティー名だったのか?〉
上手い野次に、見物席から爆笑が上がっている。
「シンヤ、ちょっと来い」
「ギルマス、まさか逃げるんじゃないですよね」
「詫びを入れたいとよ」
「勝手にパーティーに引きずり込もうとして、断ったら模擬戦だと騒いだ挙げ句に、マジックバッグ持ちだから荷物持ちにするとか言ってた屑連中ですよ。御免なさいで許されるとでも」
俺の言葉に、憎々しげに睨んできて御免なさいはないよな。
「見てよギルマス、負けたと思ってない目付きだよ」
「お前等、きちんと謝罪する気は有るのか?」
「判ってまさ~ぁ、ギルマス」
「謝りますよ~う。悪かったな兄さん」
「済まねえなぁ~」
「いやー、糞ガキがこんなに強いとはな」
にやにや笑いながらの口先だけの謝罪にもならない言葉を口にする奴等。
それならそれで良いさ。
《ビーちゃん1号2号3号、ゆっくり降りてきて俺の前に居る奴等をよく見て》
《マスターのお呼びだ♪》
「手遅れだな。ギルマス、ゆっくりと下がりなよ」
「何をする気だ?」
黙って上を指差してやると。はっとした顔で空を見上げると急いで訓練場から出て行く。
それを見て屑共が笑い出し、俺ににじり寄ってくる。
「中々の腕だな。街の外で会おうや」
「俺達の本気を見せてやるぞ」
「模擬戦如きで意気がるなよ」
「そう。何時まで意気がっていられるのか見せてもらうよ」
「何を小僧が!」
ビーちゃんが舞い降りて来ると、一歩踏み出した男の鼻に華麗な一刺し〈ギャーァ〉って汚い悲鳴が訓練場に響く。
《1号から5号は、俺の前に居る奴等を4回まで刺しても良いよ~》
〈キラービーだ!〉
〈何でこんな所に〉
〈おい! 未だ居るぞ〉
《マスターのお許しが出たぞ♪》
《行くぞー》
《任せなさ~い》
《刺しまくるぞ~♪》
〈逃げろ!〉
〈キラービーの群れだ!〉
〈結界を張れ!〉
〈痛たたた、止めろ!〉
〈焼き殺せ!〉
二人ほど詠唱を始めたが、ビーちゃん達の攻撃に詠唱が続かず逃げ出した。
なんとか訓練場の出入り口までは行けたが、倒れて呻いていて顔色がどす黒く変色している。
《マスター、此れは?》
ん、と思って見ると、肩が陥没した奴と安らかに眠る男の回りをビーちゃん達が取り囲んでいる。
肩を庇って唸る男に歩み寄ると、必死で尻を捻って後退る。
「悪かった、勘弁してくれ」
「お前みたいな弱っちいのに興味は無いが、俺の護衛を怒らせたからなぁ~」
「ご、ごご護衛って・・・まさか、キラービーか?」
「俺はテイマー神ティナ様の加護を授かっているんだ。で、お前達の様な奴等が突っかかってくると」
そう言って首を傾げると、ポカンとして思考力が停止した男。
《鼻に一回刺してやって》
《俺だー》目の前に居たビーちゃんがすかさず鼻にチクり〈ギャーァァァ〉って可愛い悲鳴。
《皆有り難うね。後でお肉を上げるから上で待ってて》
《はーい。マスター》
《お肉だよー♪》
《もっと刺したいなぁ~》
ミーちゃんを抱き上げてふと見ると、見物席の奴等が頭を抱えて硬直している。
人を賭け事のネタにした奴等だが、見逃して遣ろう。
訓練場を出るとギルマスが居て苦い顔をしている。
「おい、あれを片付けていけ!」
「あれとは?」
「そこに転がっている奴だ! お前の蜂が襲ったんだぞ」
「死んじゃいないんだから、毒消しのポーションでも飲めば治るでしょう。それとギルマス、本気で俺が蜂を使役していると思ってます」
《ビーちゃん4号、おいで》
《なになにマスター》
《俺の周りを飛んでいてね》
《判った、ブーンってね》
「おっおい、未だ蜂がいるぞ」
「そらさっきまで大群で居たんだから、二匹や三匹残っていても不思議じゃないでしょう」
「刺すなよ、刺さないようにお願いしておけ! 俺が刺されたら、ギルド登録剥奪だぞ!」
「なんて理不尽な事を言うんですか、文句ならキラービーを使わしたテイマー神様に言って下さい」
阿呆らしくなって、怪我人をギルマスに任せて訓練場を出ると、解体主任が俺を見て後退る。
そんな顔をしなくても噛みついたりしないんだけどなぁ~。
「査定が終わったのですか」
「あっ・・・ああ。噂に聞いていたが、あんなのに襲われたらたまったもんじゃないな」
「痛そうだけど、俺に喧嘩を売らなけりゃ蜂も怒らないのにね」
差し出された査定用紙を見て礼を言い、エールの飲み直しの為に食堂に戻る。
ファングドッグ 18頭、22,000ダーラ×18=396,000ダーラ
ハウルドッグ 15頭、13,000ダーラ×15=195,000ダーラ
フレイムドッグ 13頭、17,000ダーラ×13=221,000ダーラ
グレイウルフ 9頭、38,000ダーラ×9=342,000ダーラ
カリオン 7頭、25,000ダーラ×7=175,000ダーラ
合計 1,329,000ダーラ
能力と支配の獲得と同時に、生活費が手に入る気楽な冒険者稼業ってね。
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