第41話 オークキング

 エールを飲み直していると見物していた冒険者達が戻ってきたが、俺の周囲には誰も座らない。

 というか、遠巻きにして彼此言っているが丸聞こえだぞ。


 〈彼奴ってあんなに強かったのか〉

 〈数歩で踏み込み蹴り飛ばしたけど、奴は胸が陥没していたからな〉

 〈二番手の奴なんて、短槍に見立てた棒の上で曲芸を見せられて大怪我だぞ〉

 〈おお、綺麗に身を捻って足蹴りだもんなぁ~〉

 〈あのぶっとい木刀で殴られたら死ぬぞ〉


 煩いのでさっさとエールを飲み干し、査定用紙を持って精算カウンターに行く。

 1,329,000ダーラ、金貨13枚を貰って残りはギルドに預けておく。

 手持ち資金が6,000,000ダーラを越えたし、聞きたい事も有るので商業ギルドへ出向く。


 出入り口で立ち塞がろうとする警備の者に、商業ギルド会員のカードを示して扉を開けてもらう。

 中にいる案内係と言う名の警備員が、目聡く俺を見つけてやってくる。


 「何か御用でしょうか」


 「金を預けたいのと、魔道具の事で聞きたい」


 そう告げてギルドの会員カードを示す。


 預け入れ係の所へ案内されたので、取り敢えず金貨40枚を預けると告げ、同時に魔道具の事を教えて欲しいと告げる。

 「係の者をお呼びします」と答えて隣の者に呼んで来るように頼んでいる。


 預け入れ残高12,000,000ダーラを確認していると、係員がやって来たのでマジックポーチから野営用結界魔法板を取り出して見せる。

 此れより強度の高い物が欲しいので、魔道具店で詳しく話を聞きたいから紹介して欲しいと伝える。


 紹介状を持ってフォルゼン通りのエルベス魔道具店へ、此処でも出入り口で立ち塞がられて紹介状を差し出す。


 「現在どの様な結界魔法板をお持ちですか」


 マジックポーチから取り出した野営用結界魔法板を見て頷く。


 「1、2人用の簡易型の物ですね。此れより強化された物をお求めとか」


 「一回り大きくてブラウンベアやバッファロー等の強力な野獣の攻撃に耐えられる物が欲しいのだが、お値段次第って所かな」


 「簡易ベッド四人分置けるもので2,000,000ダーラですが、お望みの強度ですと3,000,000ダーラ致します」


 「簡易ベッド8個程度置ける物なら?」


 「それですと4,500,000ダーラ程になりますが」


 「商業ギルドに金を預けたばかりなので、明日にでも出直してくるよ」


 「私共の振込用紙に署名頂ければ、使いの者を商業ギルドへ走らせますが」


 「それでお願いします」


 用意された振込用紙に、金額とギルドカード番号を書き署名して渡すと、使用人が商業ギルドへ走った。

 その間にラノベでお馴染みの魔法防御や防刃を付与された物について質問すると、商業ギルドに相談すれば手配してくれると教えてくれた。

 但し、金貨150枚から200枚程度は必要になるそうだ。


 今の調子で稼げば、そう長く掛からずに金を貯められそうなので、次の目標は金貨200枚の貯金だな。

 と言うか、金貨45枚を支払って残りが7,500,000ダーラ金貨75枚有るので、あと125枚程だ。


 新たな野営用結界魔法板の説明を受けるが、ゴブリンの魔石だと24時間程度しか持たないし、オークの魔石でも10日程で使用不可能になるそうだ。

 高性能高燃費って訳だが、出入り口は付けられないが展開時に魔法板に同時に手を添えれば出入り自由との事。

 ティナの奴、そんな事も教えてくれなかったな。


 お茶を湧かす為の魔道コンロが有ると聞き、金貨8枚でお買い上げ。

 此れで簡単な調理やお茶の為に、薪を集める必要が無くなった。

 因みに、5-90のマジックバッグは22,000,000ダーラ金貨220枚と聞き、ミレーネ奥様の太っ腹に改めて感謝。

 やっぱり彼処はかかあ天下だと改めて思う。


 * * * * * * *


 食料をたっぷり買い込んでオシウス村へ向かったが、軽く走って陽の高いうちに到着した。

 しかし、ミーちゃんが連続した走りにはついてこられないので、俺の背負子に乗りご機嫌だ。

 グレイウルフの二頭は、俺の前後を走り、誰かと出会いそうになったら街道脇に隠れる。


 村の中には入らず、以前の訓練場所に野営用結界を展開して明日に備える。

 第一目標オーク、第二目標フォレストウルフだ。


 * * * * * * *


 《大きな人族と、マスターの横にいる奴の大きいのですね》


 《ああ、見つけたら教えてね》


 《任せなさ~い。マスターの為に頑張る》

 《俺が先に見つけてみせるよ》

 《刺しても良いの?》


 《だ~め。教えてくれるだけで良いからね》


 《行ってきま~す》

 《あ~、俺より先に行っちゃった》


 ビーちゃん達が帰って来るまでは、グレイ達のご飯を確保して備蓄だ。

 ミーちゃんと高い木の上から周囲を観察して、ホーンボアやエルク等を木の上から弓で仕留める。

 三人張りの弓に重い鏃なので威力は十分、逃げられてもグレイ達が後を追い直ぐに倒してくれる。

 ホーンラビットなんて、ミーちゃんが木の上から飛び降り爪の一撃で仕留める。


 《マスター、仲間の匂いがします》


 《仲間?》


 《オスですね》


 オス? 確認するとミーちゃんは雌猫だった。

 ぜんぜん気にしてなかったので知らなかったが、同族がいるのなら試してみよう。


 《ミーちゃん、どの辺に居るの?》


 鼻を上に上げ《こっち》と風上の方を前足で示す。

 風上に獣の気配はないので、距離が有りそうだ。

 ミーちゃんを抱えて風上方向の木に跳び、索敵と気配察知をフル稼働。

 気配は感じられ無いが、匂いは強くなっていると教えてくれる。

 この先は低木が多く下からの捜索になるので、ミーちゃんを降ろして先導してもらう。


 低木帯を過ぎたところでミーちゃんが何かに反応する。


 《マスター、呼ばれています》


 姿が見えないし声も聞こえないけど、ミーちゃんの聴力には届いているのかな。


 ミーちゃんが耳を立てた顔の向いた方へ向かい(テイム)〔ファングキャット、21〕

 (テイム・テイム)〔ファングキャット、4-2、夜目、俊敏〕


 ティナに会う以前より使役しているので、同族は弱らせなくてもテイム出来ると思ったのだが間違いなかった。

 尤もファングキャット以外には無効なので、大した意味は無い。


 《聞こえたら出てお出で》


 《判りました、マスター》


 音もなく足下にやって来たファングキャットは、ミーちゃんより一回り大きな感じである。


 《同族、仲間の居る場所が判るか?》


 《縄張りの外にいます》


 《よし、案内してくれ》


 《はい。マスター》


 半日がかりで二匹のファングキャットをテイムして、ファングキャットの支配を手に入れたので、三匹を解放した。


 ブラックウルフとフォレストウルフを何時もの手口でテイムして、支配を手に入れた。ので、グレイウルフを解放。

 能力は何方も同じ〔ブラックウルフ、嗅覚、疾走〕〔フォレストウルフ、嗅覚、疾走〕なので放置して、フォレストウルフで一番大きいやつ二匹を従える事にした。

 疾走もフォレストウルフの疾走にしたが、スキル上は何も変わらないので変更できたのかは不明、


 必要な支配は手に入ったので、オシウス村に向かっているときに、オークが居るとビーちゃんから知らせてきた。

 ビーちゃんからの知らせでオークの支配が未だだったのを思い出したので、オークの支配を手に入れる為に向かった。

 なのに、出会ったら今までより大きく毛色も変わっていて、テイムしてみたら〔オークキング・49〕と判りびっくり。

 予定と違うので戸惑ったが、フォレストウルフとミーちゃんの連携を試す為に闘う事にした。


 《フーちゃんの1と2は奴の左右から、ミーちゃんは後ろから行くぞ》


 《はい、マスター》

 《お任せ下さい、マスター》

 《必ず倒して見せます!》


 《怪我をしないように、奴の見ていない所から攻撃するのを忘れるな》


 《はい、マスター》


 しかし、でかいねぇ~。

 フォレストウルフ二頭と俺の組み合わせを、不思議そうに見ているオークキング。

 ミーちゃんは目に入らない様だが、その隙にミーちゃんが後ろに回り攻撃開始。


 素速くアキレス腱を切り付けたが〈ゴワーアァァァ〉と凄い咆哮に身が竦む思い。

 オークキングのアキレス腱は切れていない様なので、フーちゃんに脹ら脛に噛みつけと命じて観察。

 左右からの時間差攻撃に俺から目が逸れたので、飛び込み様に胸を狙って短槍を突き入れると、即座に抜きながら飛び退く。

 心臓を外しているので血が溢れ出しているが即死にはならない。


 (テイム)〔オークキング・37〕


 〈ブギャーオォォォ〉凄い咆哮でお怒りの様だが、簡単には死なせないからな。

 その間にもフーちゃん達が左右から攻撃しているが《マスター、固いです》なんて泣きが入る。

 《爪も全然切れません》


 なら仕方がない、陽動だけを任せて三角飛びだ。

 後ろから襲い掛かり、側頭部を短槍の峰で横殴りの一撃。

 〈ゴン〉って鈍い音がしてふらつくオークキング。

 流石はオークの剛力だ、短槍の峰で頭を叩かれてはオークキングも立っているのがやっとといった様子。


 (テイム)〔オークキング・29〕


 槍の一突きじゃ中々死にそうにないので、背後からもう一度短槍を胸に叩き込む。

 ビクンと身体が揺れたので、跳び下がって(テイム)〔オークキング・22・・・18・・・15・・・〕


 (テイム・テイム)〔・・・・・・〕

 (テイム・テイム)〔・・・・・・〕

 (テイム・テイム)〔・・・・・・〕


 ん、(テイム)〔オークキング・4・・・〕

 おーっととと(テイム・テイム)〔オークキング、1-1〕


 《キング、そのまま動くな!》

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