第42話 ゴールドマッシュ

 名前としてキングと呼んだのでスキルを確認すると〔オークキング・1-1、咆哮と王の威圧〕が能力として有り、オークキングの支配が付いていた。

 王の威圧を選択してから、キングには動くなと命じ一息つく。


 三人張りの強弓を取り出して矢をつがえて背後に立ち(テイム・解放)と呟くと同時に心臓に一撃。

 解放された瞬間心臓を射抜かれたオークキングは、ビクリとした後前のめりに倒れて死んだ。

 大物をテイムするのは気を使って大変だが、これ以上の大物は遠慮願いたい。


 しかし、オークキングが居るのならハイオークも居ると思うし、オークの上位種をテイム出来て支配を手に入れたので、ハイオークとオークに支配が通用するのか試しておく必要がある。


 ビーちゃん達に大きな人族を探してもらい、オークにオークキングの支配を試したが通用しなかった。

 仕方がないのでミーちゃんフーちゃんとともに実力行使、一頭テイム出来れば後は楽勝。


 オークの支配とハイオークの支配を手に入れて目的達成。

 オークの〔暴食、剛腕〕ハイオークの〔剛腕、咆哮〕オークキングの〔咆哮、王の威圧〕って被っていて、何か損をしたようで納得がいかなかった。


 取得した能力と支配が、スキルを見てもややこしく、整理の為に紙に書き出してみた。


 木登り・毒無効・ジャンプ・俊敏・疾走・剛腕・王の威圧


 キラービーの支配

 ハニービーの支配

 スライムの支配

 ゴブリンの支配

 ファングドッグの支配

 ハウルドッグの支配

 フレイムドッグの支配

 グレイウルフの支配

 カリオンの支配

 ファングキャットの支配

 ブラックウルフの支配

 フォレストウルフの支配

 オークキングの支配

 オークの支配

 ハイオークの支配


 能力が7つに支配が15、冒険者として不自由なく生きるには十分なもので大満足だ。


 * * * * * * *


 フォレストウルフ二頭を連れていくと騒ぎになると思うので、オシウス村に入る前にフーちゃん達を村から離れさせて、人族を襲わない様に命じ毎朝近くに来る事を言いつけてから自由にさせる。


 「おう、久し振りだな」


 「柵が大分出来ましたね」


 「完成すれば野菜に困らなくなるので楽しみだよ。その分フランはバテ気味だけどな」


 フランの家へ訪ねて行くと、俺の顔を見てげんなりしている。


 「お疲れの様だな」


 「俺は、土魔法が上達したことを後悔しています」


 「そう、今更下手糞には戻れないだろうから諦めろ」


 「シンヤさんはどうですか?」


 「まあ、そこそこな」


 「ミーちゃん以外にも?」


 黙って頷いておく。


 「シンヤさん、息抜きの為に2,3日付き合って下さいよ」


 「何をするんだ」


 「森の恵みを収穫に行きたいんです。これ以上遅くなると木の実も茸も無くなっちゃいますから」


 「茸と木の実か、それは見逃せないな。何しろどれが食べられる物なのか、美味いか不味いか判らないので見過ごしてきたからな」


 「えっ、森で暮らしていたんでしょう」


 「そうだけど、俺はな~んにも知らないって言っただろう」


 フランが呆れた様に首を振っているが、無視だ。


 親と村長に2、3日俺と森へ行くと断り、翌朝二人で森へ入ったが茸の多い場所へ行くんだと張り切っている。


 「フラン、索敵に二頭ばかり引っ掛かると思うが、襲って来る事は無いので心配するなよ」


 「やはり二頭目・・・二種類の獣をテイム出来たんですね」


 「ああ、俺の思ったとおりで、テイマー神の加護に感謝だよ」


 村から遠く離れたところで《フーちゃん達お出で》と呼ぶ。

 索敵に引っ掛かっていた二頭が、近づいて来るので緊張気味のフラン。

 現れたフォレストウルフを見て硬直しているので、二頭にはフランを紹介して襲うなよと言っておく。

 俺の脇より少し低い位の体高に2m越えの体長は、濃い灰色の斑模様で迫力満点だ。


 「フォレストウルフですか、それも二頭とは・・・」


 「護衛に良かろうと思ってね。ビーちゃんは夜は寝ちゃうし、目の前に来るまで侮られるからな」


 「フォレストウルフを護衛にしていれば、誰も絡んできませんよ」


 「茸や果物の匂いを覚えさせれば、収穫が捗ると思ってさ。頼むよフーちゃんミーちゃん」


 「フーちゃんですか。相変わらず可愛い名付けですね」


 「長ったらしい名前は面倒だろう」


 幾らでもテイム出来るんだから、名付けは簡単にしないとこんがらがるからな。


 フランが見つけた茸や木の実の匂いを嗅がせて、周辺の捜索を頼む。

 地面に近いミーちゃんと臭覚に優れるフーちゃん達は、目視で探す俺に次々と生えている場所を教えてくれる。

 その為フランには、一度匂いを嗅がせた物は探さなくて良いと伝えた。

 持って来た籠はあっと言う間に一杯になり、薬草袋に詰め込んでいく。


 俺は名前も知らない茸をせっせと採取して、木の実の匂いがすると教えられた方向をフランに伝える。

 フランがその方向へ歩けば必ず新たな木が見つかるのでフランも苦笑いだ。

 あまりにも大量に採れるので籠も薬草袋も一杯になり、翌日にはフランが蔓を編んで籠を作る羽目になってしまった。


 その間に出会す野獣は、フーちゃんに足止めさせて俺が横から矢を射ち込んで仕留める。

 テイムしても良いが、これ以上支配が増えても面倒なので放置している。

 安心安全簡単気楽な、理想の冒険者生活は約束されたも同然なので必要無い。

 こうなると5-90のマジックバッグではなく、時間遅延が180か360の物が欲しくなってきた。


 「シンヤさん、この木に黄色い茸が生えてないかミーちゃんに探させて下さい!」


 「フラン、なんでそんなに慌てているんだ?」


 「この木に生える茸は特別なんですよ。乾燥させた物を粉末にしてふりかければ、味も香りも素晴らしいんです。乾燥させた物をギルドに渡せば、重さと同じ数の銀貨が支払われるんですよ!」


 なに~ぃぃ、それは見逃せない情報だぞ。

 此の世界の飯は今一しっくりこないんだ、モーラン商会で食べたのが唯一満足できる食事だったからな。

 金を出せばそれなりの食事が出来るのは判ったが、素材の美味さ以外に日本の様な安くて美味い食事が見あたらない。


 さっそくミーちゃんに茸を探してもらうが、俺もミーちゃんに続いて木登り開始。

 序でに木肌や葉の形状を記憶する事に努めて、見本の葉も数枚採取してマジックバッグの中へ入れておく。

 残念ながら空振り、茸の欠片も見当たらなかった。

 フーちゃんとミーちゃんには木の匂いを覚えてもらい見つけたら教えてとお願いしておく。


 3日間で大量の茸を収穫したが、家庭消費と市場に卸すとのことで俺は焼いたら美味い物を籠一つ分貰った。

 果物の方は例年より小粒の様で、実の入りも悪く売り物にならないと言うので、残念だが村の消費に回した。

 問題の茸はゴールドマッシュ、何とか三本だけ見つけることが出来た。

 見掛けは痩せた柄の長い椎茸といった感じで、色は薄い黄色で乾燥させると綺麗な黄色になるそうだ。

 乾燥させなければ売り物にならないので、俺が一本貰い二本はフランに渡す。


 村の手前でフランと別れて、街へ帰る序でに周辺の森を調べて茸を探す事にした。


 * * * * * * *


 茸の収穫は満足できたが乾燥に時間が掛かり、10日以上過ぎてから街に帰り着いた。

 フーちゃん達はハニーの巣の周辺で待機、熊五郎と喧嘩しない様に引き合わせておく。


 ミーちゃんを背負子に乗せて街に戻り、薬師ギルドへ直行だ。


 「おや久し振りだね」


 「小瓶と中瓶を各10本と、大瓶を二本下さい。それと茸を粉末にしたいので道具は有りますか?」


 「茸を粉末・・・それって黄色い茸かな」


 「御存知で?」


 「ああ、高価買い取りだね。卸して貰えるのかな」


 「此れなんですけど、どの程度の引き取り額ですか?」


 マジックポーチからゴールドマッシュを一つ取り出して聞いてみた。


 「乾燥状態にもよるが、此れだけ乾燥していれば1g銀貨1枚からだね。品物が逼迫していれば当然値は上がる」


 見せたゴールドマッシュを掌に載せて重さを確認しながら答えてくれた。

 俺は乾燥椎茸を思い出しながら、ゴールドマッシュの乾燥具合を確認していたからな。


 「此れをポーション作りに使うのですか?」


 「いやいや、こういう貴重な物は、冒険者ギルドよりも薬師ギルドの方が高く買い取るからね。それを知っている冒険者が売りに来るのさ。私達もそれで儲けさせて貰っているよ」


 やっぱりこのエルフは信頼出来そうなので少し売ってみるかな。

 薬草袋から大小10個程カウンターに置く。


 「まさかとは思うけど、それ全てゴールドマッシュじゃないだろうね」


 問いかけには答えず、にっこり笑っておく。


 それぞれの重さを慎重に計り、紙に記していく。

 小さい物で1.5g~2g、大きい物でも4.5g~5g、11個で54.5g


 「ちょっと待ってくれ」と言って奥へ行き、帳簿の様な物を持ってきてページをめくる。


 「先週の取引価格が1g-12,600ダーラだね。我々は手数料として20%貰っているので・・・549,360ダーラになるが、どうする?」


 「それで結構です。それと、小中の瓶を各10本と大瓶を2本に、茸を粉にする道具が有ればそれも」


 「それは君に必要無いと思うんだが」


 「いえいえ、料理に使えば味と香りが一段と上がり、美味しくなると聞いたので採取してきたんです」


 一瞬ポカンとしたが、クスクス笑いながら戸棚から各種瓶を取り出すと、最後に小さな石臼の様な物を出してきた。

 使い方の説明を聞いたが、細かくした物を石臼上部の穴にいれて、別に差し込んだ握りを持って回せと言われた。

 最低2回、は粉にした方が使いやすいとのお言葉。

 俺は3回以上入れ直してきなこみたいにしてやるぞ!


 瓶代が前回同様59,000ダーラで、石臼が200,000ダーラ。

 差し引き290,360ダーラを受け取って薬師ギルドを後にした。

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