第43話 王の威圧

 今回は少し気が重いが、マジックバッグに死蔵する訳にもいかないので冒険者ギルドへ行く。

 冒険者の持ち込んだ薬草を見ている、買い取り係のおっちゃんに挨拶をする。

 「奥か?」と尋ねてくるので頷くと、解体場を指差してくれる。

 相変わらず肩に乗るミーちゃんは注目の的だが、華麗に無視して解体場へ向かう。

 今日は先客がいないので、直ぐに解体責任者のおっちゃんがやって来た。


 「遅いじゃないか。チキチキバードは捕れたか?」


 「オシウス村の方へ行っていたんですよ。大きいのが有るので広い場所をお願いします」


 「お前はいつも纏めてだな」と言いながら、中央の広い場所を指定されたので、マジックバッグから取り出して並べる。


 オークキング 1頭

 ハイオーク 2頭

 オーク 5頭

 フォレストウルフ 7頭

 ビッグエルク 1頭

 ホーンボア 2頭

 ヘッジホッグ 9匹

 チキチキバード 6羽

 レッドチキン 2羽

 コケッコー 8羽

 スプリントバード 4羽


 「かー、オークキングかよ。オシウス村って言ったよな」


 「正確には、オシウス村から森の奥へ3日程の所です。ハイオークもオークも似た様な場所です」


 「この街の周辺でないのなら良いぞ」


 そりゃそうだろう。こんなのにウロウロされたら、野営もおちおち出来ないからな。


 「おっ、チキチキバードにレッドチキンか。お大尽が煩くてよ」


 「その分、高く売りつけているんでしょう」


 「当然だ! 冒険者ギルドは冒険者の稼ぎを守るのが仕事だからな。お前の猫は良い働きをするな」


 お大尽に催促される物は高く売りつけるんだろうなと思ったが、黙っておく。

 ギルドカードを預けて食堂へ向かい、久方ぶりのエールで喉を潤す。


 〈おい! オークキングが持ち込まれているぞ!〉


 〈馬鹿言え! この辺りにオークキングが居るかよ〉

 〈そうそう、ハイオークすら居ないのにな〉

 〈大物は田舎の森に行かなきゃ居ないぞ〉

 〈この街の周辺は、精々Dランクの稼ぎ場だからな〉

 〈此処は、オークを狩ったら大騒ぎになる所だぞ〉


 〈信じねえのは勝手だが、解体場へ行ってみろ! お前等はオークキングなんて見たことがねぇだろう〉


 〈へいへい、俺は薬草採取のしがない冒険者ですよ〉

 〈せめてホーンラビットが狩れるようになってから冒険者を名乗れよ〉

 〈周辺の村辺りから持ち込まれた物に決まっているだろう〉


 〈おい、ギルマスだぞ〉


 ギルマスの声に受付の方を見ると、真っ直ぐ俺の方へ歩いてくるギルマス。

 いや~な悪寒がする。


 「あれを持ち込んだのはお前か?」


 「そうですけど、場所はオシウス村の森の奥ですよ」


 「それは聞いたが、一人でか?」


 「俺には、ミーちゃんっていうねずみ取りの名人がいますから」


 チラリとミーちゃんを見て鼻で笑うギルマス。

 手には俺のギルドカードが握られている。


 「Eランクに昇格だ」


 「又ですか」


 「あれを一人で狩れるのなら、当然だ。もう一つランク上げても良いぞ」


 「お断りします。てか、俺はFランクで十分ですから」


 「可愛いミーちゃんとしっかり励め」


 「ねずみ取りにですか?」


 また鼻で笑って帰って行くギルマス、何しに来たんだよ。

 この調子じゃ、試しに蜂蜜を売ると面倒そうなので他の街で売る事にしよう。


 解体主任が査定用紙を持って来てくれたので、確認して了承する。


 オークキング 1頭、260,000ダーラ

 ハイオーク 2頭、130,000ダーラ×2=260,000ダーラ

 オーク 5頭、70,000ダーラ×5=350,000ダーラ

 フォレストウルフ 7頭、78,000ダーラ×7=546,000ダーラ

 ビッグエルク 1頭、155,000ダーラ

 ホーンボア 2頭、160,000ダーラ×2=320,000ダーラ

 ヘッジホッグ 9匹、24,000ダーラ×9=216,000ダーラ

 チキチキバード 6羽、55,000ダーラ×6=330,000ダーラ

 レッドチキン 2羽、20,000ダーラ×2=40,000ダーラ

 コケッコー 8羽、16,000ダーラ×8=128,000ダーラ

 スプリントバード 4羽、35,000ダーラ×4=140,000ダーラ

 合計、2,745,000ダーラ


 結構なお値段になったが、欲しい服を買うには未だ未だ足りない。

 かといって、荒稼ぎをすると目立つので持ち込む数を少なくした方が良さそうだ。

 数というより、オーク以上の獲物は狩らない方が良さそうだ。

 小物で数を稼ぎ、一回に1,000,000ダーラ以下に抑えよう。


 〈おい、あれを持ち込んだのがガキ一人だとよ〉

 〈吹きすぎだぜ〉

 〈お前は何を見ていた。ギルマスが確かめていただろうが〉

 〈しかもEランク、あの若さでブロンズだぞ〉


 また煩くなりそうなので受付でギルドカードを受け取り、換金カウンターで全額換金してマジックポーチに収めると、即行でギルドを後にする。

 そのまま街を出て、タンザス街道を北に向かう。


 タンザス街道に出て軽く走って見たが、背負子にミーちゃんを乗せ前後をフーちゃん達が走ると、皆俺を見て驚いていた。

 フーちゃんは軽い早足程度だが、流石はフォレストウルフ早い早い。

 前方に護衛を従えた馬車が見えたので、草原に入り目立たぬ様に北へ向かった。


 次ぎの大きな街はクルークス領エムデンの街だが、その前に石臼での試し挽きが先だ。

 野営用結界の中に広げた薬草袋の上に石臼を置き、カラカラに乾燥させたゴールドマッシュを小さく砕き、石臼の上部に空いた穴へ入れる。

 回す為の棒を差し込んでゆっくりと時計回りに回すと、穴の中に入れたゴールドマッシュが少しずつ下に消えていく。

 小学生の時に郷土資料館で見たビデオ通りにやったが、お勉強はしておくものだ。


 臼の下側に有る溝に、挽きつぶされて粉になった物がじわじわと出てきて貯まる。

 指でつまんでみると、挽きが甘いのかざらざらするので・・・粉を集める道具が無い。

 外に出て草の茎を集めて叩き、小さな箒を作ってこそこそと粉を掻き集める。

 三度繰り返して綺麗なきなこ状になった粉末を、備蓄の肉を挟んだパンに指で軽くふりかけて一口。


 鼻に抜ける香りが何とも言えず、咀嚼する肉の味も何時もとは大違いだが

 肉の硬さは変わらない、しかし味は高級牛肉を思わせるものだ。

 スープや野菜の煮込み等に入れて味わってみたいが、持ち合わせが無い。

 エムデンに着いたら、粉挽きの便利道具一式とふりかける為の容器を手に入れよう。

 それと小さめの寸胴を2,3個買って煮込み料理やスープ等を買い込み、食生活の向上を図らねばと決意する。


 フーちゃん連れで街道を歩くと何かと問題があるので、街道脇の草原を北に向かって歩く。

 そうなると野獣と出会す確率が高くなり、討伐しながらの旅となる。

 ホーンラビットやホーンボア等は、フーちゃん達のお食事用にマジックバッグに保存する。

 ゴブリンは支配を使って動くなと命じて、後ろからプスリで後は放置する。


 ハウルドッグやホーンドッグ等が時々現れても、全て支配でフリーズを命じてから死んで貰い、そのままマジックバッグにポイ。

 狩りをする気がなくても、獲物が勝手にやって来るので在庫が増えていく。

 真面目な冒険者からみれば、巫山戯た野郎だと思われそう。


 * * * * * * *


 ザンドラ、エムデン間は馬車で3日の距離だが、のんびり草原を歩いて2日で着いた。

 街に入ると直ぐに市場に行き、調理器具を売っている店の場所を尋ねて直行する。


 小さめの蓋付き寸胴を三つと調味料をふりかける容器を買い、筆を求めて西東。

 目的の物が揃うと市場に行き、煮込み料理やスープ等を味見をして気に入れば纏めてお買い上げ。

 10人前20人前を買うので、屋台の親父や小母ちゃんがビックリしているが気にしない。

 串焼き肉やステーキに具材を挟んだパンもたっぷりと仕入れてから、冒険者ギルドに向かう。


 舐められない様にショートソードを腰に吊り、背負子にミーちゃんを座らせて冒険者ギルドのドアを開ける。

 真っ直ぐに買い取り査定の親父の所へ・・・行列が出来ている。

 お買い物に時間が掛かった為に、冒険者達が帰ってくる時間だったのを忘れていたが、待つのは嫌なので列を離れる。


 此処まで来れば喉を潤して帰るのが冒険者の勤めだ。

 カウンター前も列が出来ているが、エールを飲まずには帰れない。


 《マスター・・・》


 《どうした、ミーちゃん》


 《髭を引っ張られるんですが、引っ掻いても良いですか》


 《肩に乗りな》


 ミーちゃんが肩に乗ったので素速く振り返ると、尻尾に手を伸ばした奴がいる。


 「俺の使役獣に何か用か?」


 「食堂へ猫なんか連れて来るなよ」


 「だからと言って他人の使役獣に手を出すな。それに登録しているので、何処へ連れて行こうと勝手だ。お前にとやかく言われる筋合いは無いぞ」


 「猫しかテイム出来ないチンピラテイマーが、大きく出たな」


 糞野郎が、ゴブリンで試したが人族では初の被験者にしてやろう。


 「チンピラテイマーね」


 にへらと笑いながら目を見据えると、王の威圧(なぶり殺すぞ)の意思を込めて睨んでみた。


 〈なっ〉そう言ったきりへなへなと座り込み、プルプル震えだして股間に水溜まりが出来ていく。


 糞野郎の後ろにいた奴等も、殺気に反応したのか剣を抜いてたり逃げ出したりと大騒ぎになった。


 殺気を消して糞野郎に「どうした、チンピラテイマーが恐いのか」と揶揄い気味に問いかけたが、目の焦点が合ってないので放置。

 カウンター前に並んでいた奴等も逃げ散っていたので、素知らぬ顔でエールとつまみを注文する。

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