第133話 サツにチクる

 北門でマークス達と落ち合い、ブリュンゲ街道を小一時間歩いてから草原に踏み込み、街道から見えない場所に野営用結界を展開する。

 ルシアンをマークス達に預け、俺は犠牲となる獲物を探しに行くことに。


 「気付いているか?」


 「ああ、視線は感じるな。それに敵意も、かな」


 「それでも一人で行くのか?」


 「俺はソロだぞ、何時もの事さ。それと気になる事があるので、誰も結界の中から出るなよ」


 「ん、気配と言うか、視線は一人の様だが」


 「俺もそう思うよ。索敵に引っ掛からない様に遠くから監視しているが、敵意は隠せてないな。ミーちゃんを向かわせているが、よく判らないらしい」


 「お前がそう言うのなら危険な相手の様だな」


 マークス達と別れて草原の奥へ向かったが、奴に言わなかった事がある。

 視線は感じるが、ミーちゃんを現場に向かわせても目標がいない。

 三度ミーちゃんに指示して向かわせたが、残り香は同じだが目標が見当たらないので、ミーちゃんが戸惑っている。


 俺も視線を感じるが、時々方向が変わるので転移魔法使いだろうと思う。

 魔法の手引き書を読んで練習したにしては、習得が早すぎるし熟練している感じだ。

 ミーちゃんを呼び戻し、ビーちゃんに協力して貰う事にした。


 《ビーちゃん、聞こえたらお返事して》


 《マスター、側にいるよ♪》


 いきなり目の前に浮かんだので、肩の上のミーちゃんが唸り声を上げる。


 《マスター御用ですかー》

 《俺も居るよー》


 《返事した仔だけ俺の上の方に居てね。後は来ちゃ駄目だよ》


 《えー、もうすぐマスターの上なのにー》


 《後でお肉をあげるから、大人しく待っててね。それと俺の肩に乗っているミーちゃんは刺しちゃ駄目だよ》


 《毛玉は刺しちゃ駄目なのね》

 《マスターに従います!》


 《上の仔は、俺の指差す先に居る人族の上に行って、合図をしたら一回ずつ刺してもいいよ》


 《一回だけですかぁ~》

 《沢山刺したいなぁ~》


 聞きたい事が有るので、戦闘種族の本能を出さないで欲しいな。


 《あれっ・・・マスター、居なくなっちゃいました》

 《何で? さっき居たのに・・・》

 《消えちゃった》


 《あっ、あんな所に居るぞ!》

 《変な人族だな》


 やはり転移魔法の様だが、捕まえるのが面倒そうだ。


 《一回ずつ刺してもいいよ。刺したら直ぐに離れるんだよ》


 《はい、マスター》

 《行くぞー》

 《チクっとねっ♪》


 視線が途切れたので推定位置の上空へジャンプし、結界の風船で落下速度を調整しながら、位置を確認して背後にジャンプ。


 「糞っ、なんでこんな所に蜂が居るんだよ!」


 背後に飛び降りたら愚痴っていたので、気付かれる前に腕を叩き折る。


 「よう、なんで俺を付け回すんだ?」


 「おまっ・・・誰だ!」


 「だれだってぇ、何も知らずに付け回しているなんて言わないよな」


 俺の肩に乗る、ミーちゃんを見て「シンヤか?」呟いたと思ったら姿が消えた。


 《ビーちゃん、さっきの人族を探してよ》


 《マスター、こっちに居るよ》


 ビーちゃんが目の前に来て誘導してくれるので、スーちゃんのジャンプ力を利用して後を追う。

 二度のジャンプで追いついたら、ポーションを飲もうとしていたが片手なので焦っていて、俺の顔を見て再度姿が消えた。

 面倒な奴!


 《ビーちゃん、又消えたので、見つけたらもう一回ずつ刺してよ》


 《はーい》

 《みっけ♪》

 《それ行けー》


 《あっ、何処か教えてよ》


 《マスター、こっちだよ》


 今度もそう遠くない場所にいて、六回も刺されて流石にこたえたのか苦悶の表情でふらついている。

 折れていない腕を掴んでねじ伏せてから、解毒を願って(ヒール)

 へし折った腕はそのままだが、顔色が良くなったので解毒だけ出来た様だ。


 「ご機嫌は如何かな」


 「お前も転移魔法が使えるのか? てか、何だこの蜂は!」


 驚いているが、俺の周囲を舞うビーちゃん達から目が離せないようだ。

 ミーちゃんが怖がっているので、俺の周囲から離れてとお願いする。


 「何故俺を付け回すんだ、話さないと痛い思いだけじゃ済まなくなるぞ」


 「糞ッ」


 景色が変わったのでジャンプした様だが、腕を掴んで捻っているので、俺も一緒に跳んだので体勢は変わらず。


 《あれっ、マスターも居なくなったぞ》

 《マスター、何処なの》

 《こっちに居るぞ!》

 《マスターも、変な人族みたいなの?》


 面倒なので、折れていない腕もへし折ると〈ギャー〉って煩い奴。


 「此れでポーションも飲めないな。好きなだけジャンプして逃げろよ」


 「お前は何者だ? ただのテイマーじゃねえな」


 今度は片足の向こう脛を叩き折る。


 「俺の質問に答える気は無さそうだな」


 「止めてくれ! 何でも喋るから勘弁してくれ!」


 「だから、何故俺を付け回しているんだと聞いている」


 「知らない、俺は獲物を探していただけで、何の事か」


 往復ビンタの連続攻撃をしてから、優しく問い直す。


 「北門を出て暫くしてから俺達の後をつけてきていたし、草原に入ってからは転移魔法で場所を変えながら俺を見ていたよな」


 震えているが、目は逃げる口実を探しているのか忙しなく動く。

 面倒なので、生活魔法のフレイムを鼻先に浮かべてやる。

 喋りたくないのなら喋らなくても良いが、最後は生きたままゴブリンの餌にしてやるからな。


 「止めてくれ、熱い」


 「逃げても無駄だぞ」


 逃げる方へファイヤーボールを浮かべてやると、両手と片足の骨を折られているので逃げるに逃げられずに悲鳴を上げる。


 「糞ッ、ぜってぇにサツにチクってやるからな! 熱い! 止めてくれ!」


 サツにチクるって、此奴も日本人召喚者か。

 サツって台詞が出る時点で、お里が知れるってものだが顔に見覚えは無いが、ヨシやヒロクンの例もあるので確認しておくか。

 火炙りの刑を一時中断し、火傷でぐったりして呻く男に問いかけてみる。


 「サツにチクるって、此処にサツなんていないぞ」


 「痛い、なんでも喋るので、頼むから止めてくれ」


 「さっきから、何度同じ事を言わせるんだ!」


 殺気と王の威圧を浴びせながら聞くと、痛みも忘れて震えている。

 顔の火膨れを治療してやり、喋りやすくする。


 「顔の痛みが消えただろう。俺は治癒魔法も使えるんだ。此れが最後だ、俺が聞いたことの返事をしろ、喋らなければ死なない程度に火炙りにしてから放置するぞ」


 「頼まれたんだ。猫の仔とフォレストウルフを連れたテイマーを・・・」


 「誰に?」


 「元締めにだ、ウィランドールのラングスに住んでいる、シンヤって冒険者を・・・」


 「その元締めって何処の誰だ?」


 「デュランディスの裏を仕切る、ブロンクスさんだ」


 ウルファングの刺客の一人に間違いなさそうだ。


 「で、サツって何だ。此の世界にサツなんて便利な物はいないぞ」


 「・・・あんた、日本人か。助けてくれ、いや、助けて下さい! 此れを治してくれたら、あんたの下に付いて何でもしますから!」


 「お前のしょぼい転移魔法じゃ、精々街中での暗殺くらいにしか役に立ちそうもないが」


 「ひっ、氷結魔法と水魔法も使えます! 此れまでしくじった事はないです!」


 「ところで、お前は何で此の世界に来たんだ?」


 「仲間とキャンプしてたら、いきなり変なおっさんに魔法をやるから野獣退治をしろって。俺って都会派だから野獣相手より王都で・・・」


 「あ~、もういいぞ。ところでヒロクンとかヨシの仲間だよな」


 「何で知ってるんだ。彼奴らは何処にいるんだ。知っているのか?」


 よ~く知ってるさ。

 ナイフを取りだし、服を切り裂き剥ぎ取っていく。


 「ちょっ、何をするんだ! 助けてくれたら俺は役に立つぜ」


 煩いので、ナイフを握った拳で顎の骨を叩き割る。


 「俺の事なんて覚えて無いのだろう。ヒロクンとかヨシにケバい女の所へ送ってやるよ」


 何の事か判らない様なので、それ以上の説明はせずに上空へジャンプ。

 三度ジャンプして目的の群れを見つけたので、男の所へ戻る。

 一本残った無事な足首を掴み、ゴブリンの群れの方へ向かってジャンプし背後に降下する。

 足首を掴んでぶら下げたので上空からゴブリンの群れが見えたのだろう。

 俺の意図を察して暴れ出したが、無事な足一本で暴れても怪力無双に敵うはずもない。


 「残り少ない人生だけど、ゴブリンとは仲良くしろよ」


 無事な足のアキレス腱を切断して草叢に放り投げ、ゴブリンに向かってアイスバレットを撃ち込み群れを呼び寄せる。


 雄叫びを上げて迫り来るゴブリンが、男を見つけて喰いついたのを確認してから「あばよ」と別れの挨拶をしてからジャンプする。


 ちょっと手間取ったが、別なゴブリンの群れを見つけて支配下に置き連れて帰る。


 * * * * * * * *


 野営用結界の少し手前で手足を縛ってから支配を解除し、ルシアンを呼びに行く。


 土魔法で作ったテーブルの上に、手足を縛ったゴブリンが大の字に乗っているのを見て「なんじゃこりゃー」と喚いたのはマークス。

 魔力710、9柱の加護を受けたウォーターは、バケツで水を掛けた様にバシャバシャ出るので、ゴブリンはびしょ濡れだから無理もない。


 「臭いゴブリンは、ルシアンも嫌だろうからちょっと洗ったんだ」


 「地面までびしょ濡れじゃねぇか」


 「臭いのよりマシさ。それより、此処から離れて周囲を見張っていてよ」


 「なんでぇ、俺達には聞かせられないってのか」


 「知らない方が身の為って事も有るだろう」


 声が聞こえない所まで追いやり、ルシアンに再生魔法を伝授していく。

 ルシアンは教えを守って魔力を絞る練習を続けていて、以前は45、6回と言っていたのに52、3回仕えると喜んでいた。

 一回分ではゴブリンの指1、2本の再生が出来、肘からから先指五本分短くしていたのが指六本分少ない魔力で魔法が使える様になっていた。

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