第132話 お肉は俺の物

 ルシアンに最後の教えを伝授する前に、再びブライトン宰相を訪ね鑑定使いをルシアンの為に譲り受けた。

 そして懸案の雪を頂く山々の事を訊ねた。


 「雪を頂く山々ですか・・・行かれるおつもりですか?」


 「何か問題でも?」


 「奥地は遠くに雪を被った山々が連なると言われています。その景色が見られる場所まで到達するだけで60日から90日掛かるそうです。そこへ行けるのはAランクやSランクに凄腕の魔法使いを含む、高位の冒険者パーティーだけだそうです。それも複数のパーティーで遠征すると聞きます。そして奥地は凶暴な野獣の集う危険地帯で、ドラゴンの生息地でもあります」


 出たー、お約束のドラゴン!

 アマデウスの野郎、俺にドラゴン退治をさせるつもりなのかな。


 「話が逸れましたな、雪を頂く山々は、我が国を含む九つの国に囲まれた地です。時計回りに見ると我が国は四時から六時にかけて、隣国ウルファング王国は六時から七時に掛けて雪を頂く山々と接しています」


 ちょっと待てよ、九つの国に囲まれている境界の山々を巡り、通路を修復しろって鬼畜過ぎるだろう。

 アマデウスが障壁と言った雪を被った山々で、一国分の境界でも此方と向こう側で2倍だぞ。

 溢れ出た野獣は、上達した魔法使い達に任せるつもりで情報公開したのに、これじゃ予定外だ。

 俺はなにか別な方法を探さないと、死ぬまで広がった通路探しをする羽目になりそう。


 ブライトン宰相が、補佐官に命じて地図を用意させようとしたので止める。

 四時から六時の方向の北西が雪を頂く山となれば、王都を出てブリュンゲ街道を北に進んだタンザの街、この西方向から野獣が押し寄せて来た訳が判った。

 今度は本格的にタンザから奥地へ行ってみて、それから考えた方が良さそうだ。


 ブライトン宰相に礼を言い、奴隷の首輪を外した鑑定使いバルザクを連れて王城を後にした。


 * * * * * * *


 久し振りに王都冒険者ギルドへ行き、買い取り係に断って解体場へ入らせて貰う。


 「久し振りだな。何を持ってきた?」


 「アーマーバッファローとカリオンやウルフ等だな」


 「マジかよ、ちょっと待ってくれ!」


 解体係が奥へ走って行き、解体主任を引っ張ってきた。


 「アーマーバッファローを持っているのか!」


 「ああ、だけど肉は全て引き取るからな」


 「そんなぁ~、半身・・・1/4でも良いから残してくれないか」


 「そりゃ駄目だ。俺も肉が美味いと聞いたから討伐したんだからな」


 「お前、そのちっこい身体でバッファロー一頭食い尽くす気か?」


 「お世話になっている貴族に渡すので、肉は全て引き取るぞ」


 アーマーバッファロー 1頭

 グレイウルフ 5頭

 カリオン 13頭

 ハウルドッグ 9頭

 オーク 3頭

 フレイムドッグ 6頭

 ホーンドッグ 14頭


 「アーマーバッファローを解体すると、オークションに掛けられないが良いのか」


 「構わない、肉が欲しくて討伐しただけだからな」


 解体主任が勿体ないとぶつくさ言っているが無視して、解体係にギルドカードを預けて食堂へ向かう。

 気持ち良くエールを飲んでいるのに、ドカドカと足音荒くギルマスが登場。


 「おいシンヤ、アーマーバッファローを一人で討伐したのか?」


 「ああ、俺は基本ソロだからな。それがどうかしたのか」


 「肉を全て引き取るって本当か?」


 「解体係にそう伝えた筈だぞ。肉は全て引き取るので諦めろ」


 「頼むよ、アーマーバッファローなんて最近獲れてないので、肉がほしい連中が煩いんだよ。お前が肉を抱え込んだら、その連中が黙っちゃいないぞ。それでもいいのかよ」


 「そんな奴等を黙らせる、切り札を持っているので大丈夫だよ」


 「どんな切り札か知らないが気を付けろよ。それとお前はAランクに昇格だ」


 「またかよ。ランクが上がっても、喧嘩を売ってくる奴を追い払う事にしか使い道がないぞ」


 糞ッ、解体係にカードを預けたのが失敗だった。


 〈聞いたか、アーマーバッファローだってよ〉

 〈見たこと無いから解体場へ行くベ〉

 〈あの若さでAランクとはねぇ〉

 〈彼奴はテイマーだぞ〉

 〈猫の仔を連れたテイマーがAランクとは、世も末だねぇ〉

 〈お前は頭が末で寂しいよなぁ〉


 解体係の持って来た査定用紙を持って受付へ行き、ギルドカードを受け取る序でに全て預けると告げる。

 お肉は二日後の昼以後に取りに来いとの事で、暇潰しにマークスの所へ寄り三日後に北門の外で待ち合わせを約束する。


 * * * * * * *


 辻馬車で冒険者ギルドへ行くと、ギルド周辺は豪華な馬車で包囲されていた。

 俺の乗った辻馬車がギルドを通り過ぎ、反対側に回って止まると護衛の男達からの視線が痛い。

 ギルマスの言っていた煩い連中の手先かと思ったが、気にせずギルドへ入り解体場へ直行する。


 「おう、人気者の登場だな」


 解体主任の嫌味を聞き流して、解体台の上に置かれ血の滲んだ肉塊を見る。


 「全部で23個、全ての肉だ。が、表を無事に通れるかなぁ♪」


 そう言ってニヤリと笑う。

 楽しそうな所を悪いが、有象無象を蹴散らす用意は出来ている。

 解体主任に軽く殺気と王の威圧を浴びせて「押し通って見せるから見ていなよ」と笑って、お肉をマジックバッグに入れる。


 解体主任に手を振って解体場から表へ出ると、一斉に群がってくる。


 〈その方、アーマーバッファローの肉を持っているそうだな!〉

 〈高値で買い取って使わすので・・・〉


 「皆様、前を開けて頂けますか」


 〈なにおぅ、出遅れたのなら指を咥えて見ていろ!〉

 〈何処の下郎だ!〉

 〈偉そうに前を開けろとは巫山戯た奴だ!〉

 〈誰の使いだ! 名乗れ!〉


 「ブライトン宰相閣下の、使いで御座います」


 この一言で場は静まりかえり、俺との間に道が出来た。

 聞いた様な声だと思ったら、護衛を従えた宰相補佐官の男がにこやかに頭を下げる。


 「シンヤ様、バルザクの見返りが欲しいと宰相閣下が仰せです」


 「宰相が? 王家は存外食い意地が張っているんだな」


 「いえいえ、貴男様が冒険者ギルドに持ち込んだ物を、宰相閣下が小耳に入れまして」


 「俺からは一欠片も渡せないな。何時もの伝から手に入るんじゃないかな。それよりも、この有象無象はどうにかならないか?」


 「全ての馬車の持ち主を控えておりますので、ご安心を」


 「そう、それじゃお先に失礼するね」


 軽く補佐官に頭を下げて、ゴミ共の前を通り待たせている馬車に乗る。

 ゴミの始末は補佐官に任せてギルドから逃げ出して、モーラン商会へ向かった。


 * * * * * * *


 「貴重な物を、私から王家へ献上しろと」


 「バルザクを譲って貰った礼に五個と、残りはルシアンを2、3日お借りするお礼ですよ。それを誰に分けようと俺には関係ありません」


 ミレーネ様がクスクスと笑って頷かれている。

 セバンスと厨房へ行き、23個の内、18個をワゴンに乗せバルザクが鑑定した物を、セバンスがマジックバッグに入れていく。


 一晩モーラン邸にお泊まりして、早朝セバンスの手配した馬車でルシアンと共に北門へ向かった。


 * * * * * * *


 シンヤとルシアンが出発すると、ミレーネもセバンスを伴って王城へ向かった。


 王城では与えられた控えの間で、ブライトン宰相立ち会いの下アーマーバッファローの肉塊が、次々と鑑定されては収納魔法持ちの前から消えていく。


 「此れほど大量に献上して大丈夫ですか?」


 「流石に全てではありませんが、此れほど大きな肉塊です。三個もあれば、友人達にお分けしても余りますので」


 「彼との友誼は貴方にとっては些細なものかも知れませんが、ウィランドール王国に取っては計り知れない益をもたらしています。近々訃報が届く予定でして、その後でミレーネ殿を伯爵にと陛下が仰せですので、お受け下さい」


 「訃報・・・?」


 「彼に危害を加えようとして、返り討ちになった者がいます」


 「彼に危害をですか、なんて無謀なことを」


 「バルロット殿下が、訓練場でお待ちですよ」


 「今日、彼がルシアンを連れて王都を出ました。2、3日で戻ると言いましたが、未だ何か教える気の様ですわ」


 「なんと、ルシアンは現在我が国のトップクラスの腕ですぞ。これ以上となれば再生魔法しか有りません・・・貴方はご存じないと思われますのでお伝えしておきますが、彼は現在、火魔法、土魔法、氷結魔法に結界魔法、治癒魔法、転移魔法と収納魔法を授かっています。その上神々の加護を10個持っています」


 「・・・そんな、馬鹿な!」


 「バルザクが最初に鑑定した時には、テイマー能力しか有りませんでしたが、その時既に三つの加護を授かっていましたよ。それがバルザクを欲しいと言ってきた時に、自身の鑑定を許したのです。彼の差し出した用紙と、バルザクの鑑定結果は同じでした。そしてテイマー神の加護が二つです。規格外にも程があります」


 ブライトン宰相がそう言って一枚の紙を差し出した。


 不審気に受け取り一読して驚いた。

 ルシアンから教えられた事が書かれている。


 「此れは?」


 「彼が公表を許しました。王家に魔法使い達の保護を条件にね」


 「此れは危険ではありませんか?」


 「一人前の魔法使いが増えれば多少は危険度も増すでしょうが、彼から直接手ほどきを受けた者達に比べれば、大した事はありません。それに魔法使いの冒険者が増えるのは歓迎すべき事です」


 「手ほどきを受けたとは、ルシアンの様にですか」


 「彼女とは別に、土魔法使いが二人に、結界魔法使いと氷結魔法使いに火魔法使いがそれぞれ一人ずつです。それぞれが瞬時に魔法を使い強固で威力抜群なのです」

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