第109話 詐欺師

 ミレーネはリリアンジュ王妃に招かれて何時もの様にお茶を楽しんでいると、国王陛下に呼び出された。


 「ミレーネ殿、最近ウルファング王国の公使や商人共が、花蜜を求めて徘徊しているので何れそなたの所にも現れると思う。その時の為に、そのほうの所へ王国騎士団の者を暫くの間常駐させたいのだが」


 「心強いお言葉感謝致します。噂は耳に入っておりますが、私は彼から受け取り王妃様に献上しているだけですので、そう危険は無いと思われます。ただ、彼等がシンヤに無理を通そうとすれば・・・」


 「その事だが、彼から加護の事について何か聞いていないか?」


 「テイマー神様より加護を授かり、キラービーが守ってくれていると聞いていますが、それ以外に何か」


 「あれも不思議な男でな、王家に仕えるテイマー達に言わせれば、テイマー神の加護を授かっていても、三種五頭もテイムしている事は有り得ないそうだ。それと、彼と共に討伐任務に就いた魔法使い達は、皆格段に腕を上げている。無理に聞き出す必要はないが、魔法の事で知り得たことは逐一報告して欲しい」


 陛下に頼まれたが、それは難しいと思う。

 彼との付き合いは彼此四年近くになるが、自分のことを語ろうとしないし地位にも興味を示さない。

 まして、冒険者生活のことを語った事は一度も無い。

 だが陛下の頼みだ、何か方法を考えてみよう。


 * * * * * * *


 何となく服が小さくなったような気がしてきたし、くたびれてきたので新調する為商業ギルドに出向いた。

 残高照会をすると、王家から金貨2,000枚200,000,000ダーラに、ミレーネ様からは48,000,000ダーラと120,000,000ダーラに思い出せない振り込みが50,000,000ダーラ以上あり、総額638,720,000ダーラ。


 家賃以外はポケットマネーで生活していたので溜まりすぎている。

 そのポケットマネーと冒険者ギルドに預けている分を含めれば、多分60,000,000ダーラくらいにはなる筈だ。


 魔法を付与された服を新調したいと告げると、満面の笑みで商談室に案内してくれた。

 冒険者服と街着を新調して約40,000,000ダーラをギルドから引き落としてもらう。


 金が貯まりすぎていて40,000,000ダーラ支払っても、何とも思わなくなってしまった。

 仮縫いは十日後、俺の家に来てもらう事にしてギルドを後にする。

 紹介状を書いてもらったので皮革店へ辻馬車で向かう。

 ブーツの採寸をして金貨40枚を支払い、受け取りの日を決めた後は、武器屋で強弓を一張り手に入れておく事に。


 ティヴォリ通りのカルザンス武器店、高ランク冒険者御用達と聞いて来たが中々の品揃えだし、物も良さそう。


 「兄さん、何を探しているんだい」


 「弓を、できるだけ強い物が欲しいんだが」


 「表のウルフは、兄さんが連れて来たんじゃないのか」


 「そうだけど、何か?」


 「テイマーの細腕じゃ、此処に有る弓は扱えねぇよ」


 またか、先入観で物を言う奴に説明するのは面倒なので、マジックポーチから魔鋼鉄製の短槍を取り出して床に叩きつけてやると、せせら笑いが消えた。


 「三人張りの弓を持っているが、柔すぎるので強い弓を見せてくれ」


 五人張りの弓も軽くてダメだと言うと「此れが此の店の最高の弓です」と奥から取り出してきたのは10人張りの強弓だと胸をはる。

 軽く引いてみると、剛力と怪力無双を持つ俺からすれば、まあまあの手応えだが無理は言うまい。

 魔法使いの陰からちまちまと矢を射ち込むつもりなのだが、大物も一発で倒せる物が欲しいのは人情。


 短槍を振り回しての討伐は目立ちすぎて嫌だ。

 一人なら支配を使って動きを止めて、止めを刺す楽なお仕事だし強弓が有れば射殺したと惚けられる。

 一番太くて重い矢を20本ばかり買って金貨25枚、2,500,000ダーラを支払って店を後にする。


 仮縫いまで王都の外に出て弓の威力を試すことにして、ビーちゃんに頼んでバッファローやホーンボアを探してもらい、RとLに獲物の動きを牽制させて至近距離から矢を射ち込む。

 強弓で射ち出された矢は、大きく重い鏃と相まって深々と刺さり一撃で倒せる。

 ビーちゃん達には、王城でのお礼も兼ねてたっぷりのお肉を提供しておく。


 何れベア類やタイガー類でも試してみたいが、草原は花盛りなので花蜜を集めることにした。

 ハニービーの巣を探しに行くのは面倒なので、蜜を集めているハニービーに仲間を呼んできてと頼み、周辺から集まったハニービーに蜜を集めてもらう。

 用意の鍋に小枝を括り付けたら、後は草原でお昼寝タイム。


 三日で800cc入り中瓶に五本の花蜜を収穫出来、手持ちを含めて13本貯まった。

 ゴールドマッシュも16本有るので、暫くは放置していても大丈夫だろう。

 仕立屋が仮縫いに来るので家に戻る事にしたが、遠くに王都が見えたところで障害物が現れた。


 総勢十数名が姿を現し悠然と歩いて来る。

 ビーちゃん達を呼び上空で待機させると、RとLは左右に分かれて草叢に身を沈める。

 ミーちゃんは俺の背中から降りると、背後の草叢に潜み気配を消した。


 包囲する気は無いのか六人が横一列に並び、その後ろにもう一列いるが殺気が無い。

 何となく見覚えが有るのでよく見ると、煉獄の牙と名乗ったパーティーと下っ端達だ。


 「マークスって言ってたっけ。待ち伏せにしては妙だな」


 「まぁ、待ち伏せには違いないが草原での護衛と、お前と依頼主を王都の外で逢わせる事を条件の仕事だな」


 「こんな所でか?」


 「王都の中では会えないそうだ。お前が王都を出たと言って俺達に依頼してきたんだ」


 「相手は?」


 「呼びに行っている。もうすぐ来るはずだ」


 ふむ、王都の中で会えないってのが気になるが、襲う気はなさそうだ。


 「デエルゴ村でもダラワンでも見掛けなかったが、どうしていたんだ」


 「デエルゴには行っていたぞ。お前の噂を随分聞かせてもらったさ。俺達はお前とは反対方向だったし、魔法使いが居ないからな。ダラワンの時には王都に居なかったので、招集には引っ掛からなかったのさ」


 守備範囲が広かったし、俺は獲物を渡すときだけしかデエルゴに滞在しなかったので、会えなくて当然か。


 「来たようだな」


 ゆったりした服を着た男と護衛らしき男が四人に、冒険者らしき男達が五人。

 依頼主は似合わぬ服を着てよたよたと歩いている男だろう。


 俺の前に立つと、ジロジロと見て一つ頷きマークスに下がれと命じている。


 「シンヤ殿だな。我はウルファング王国よりウィランドール王国に派遣された者である。貴殿がウィランドール王家に献上した、花蜜なる物とゴールドマッシュの手持ち分全てを買い上げたい」


 なる程、王都の中では俺の所へ来にくい筈だし、表だって手に入れる方法が無いからな。

 しかし、手持ち分全てとはねぇ~。

 買い占めて、ウィランドール王家が手に入れられなくするつもりなのかな。


 「花蜜もゴールドマッシュも、生憎手持ちが無いので無理だな」


 「ほう、私はそうは聞いていないが。花蜜とゴールドマッシュ、それぞれ容器一本を金貨100枚で買い上げよう」


 「話を聞いていないのかな、手持ちが無いと言っている。それと安すぎるな。花蜜は此れと同じ容器一本で金貨200枚、ゴールドマッシュは500枚を返礼として貰っているんだが」


 半笑いでマジックポーチから空の中瓶を取り出し、目の前で振って見せる。


 呆然とした顔で、金貨200枚と500枚と呟いている。

 ウルファング王国だウィランドール王国だと言ったが、何一つ証明する物を示さないのは詐欺師の手口と同じだ。

 最低でもそれらしき物を示すのが本物の詐欺師なので何とも言えないが、王国を口にするのなら金貨の200や500で驚くなよ。


 「物が欲しければ、最低でも半金は見せて貰わないと採取する気になれませんな。それと御存知だとは思いますが、何方の品も季節物ですのでご注文はお早めにお願いします」


 聞こえていない様なのでマークスを呼んでお帰りだと告げると、小声で「話が有るのだが会えないか」と言われたので、三日後の昼前にギルドでと答えておく。


 * * * * * * *


 約束の日にギルドの食堂へ行くと、マークス達六人とは別に二人の若い男女が畏まっている。

 エールのジョッキを抱えてマークスの向かいに座る。


 「話とは?」


 「娘のルシアンと、遠縁の子でデイルスだ。娘は治癒魔法を授かった、デイルスはテイマーだ。話というのは、娘を信頼のおける貴族に預けたいのだが・・・」


 「治癒魔法は使えるのか?」


 「授けの儀で授かったばかりだが、何かと煩くてよ」


 「どうして俺に」


 「お前は、貴族用の通路をウルフを連れて素通りしているだろう。並んでいる貴族の列から文句も出ないと聞いている」


 確かに、王都の手入りは貴族用の通路を使っていて、冒険者達に見られているので知っている者は多い。

 ルシアンと紹介された娘が不安げな顔で俺を見ている。

 治癒魔法を使えるのなら、ミレーネ様に預けるか他を紹介して貰えるのだが。


 「魔力は幾ら有る」


 「84です」


 王家も俺が魔法の手ほどきをしていると知らなくても、俺と行動を共にした魔法使い達が腕を上げているのは知っている。

 フランも村の者に魔法の手ほどきをしているし、別に教える事を禁じてはいない。

 近い将来、俺が彼等に手ほどきをしたと知られるだろう。


 別に知られた所で問題ないが、貴族や王家に利用されるのが気に入らないだけの事。

 魔法使いの能力向上は俺の目的とも合致するし、アマデウスを誘き寄せる餌でもあるが、治癒魔法か。

 魔法使いの基本である魔力操作を教えれば何とかなるだろうし、魔力操作の方法が知れ渡れば魔法使い全般の能力向上に繋がるので引き受けてもよいか。

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