第110話 警告

 「俺は魔法使いじゃないが、魔法の事は色々聞かされてある程度は知っている。それを教えてやるので、練習して使える様なら子爵家で良ければ紹介してやろう」


 「本当か!」


 「無茶は言わない御方だし、子爵様は女性だからな」


 「女貴族なのか、と言うか女で貴族になれるのか?」


 「実際子爵様だからな。で、テイマーの坊やにも手ほどきをしろってか」


 「誰かの弟子として放り込みたいが、俺の回りにテイマーがいないのだ。お前なら、フォレストウルフ二頭を使役する凄腕だからな。頼む!」


 王都に野獣を連れ込めないのだから、テイマーが居ないのは当然だ。


 「教えてやっても良いが、野獣を王都に連れて入れないぞ。この間までは俺も拒否されていたので、冒険者になれば王都には住めないと思えよ」


 「済まねぇ。従姉の身内なので断れなくて困っていたんだ」


 従姉の身内ってお前の身内でも・・・亭主の身内かな。


 「ところで、この間の奴はどうした?」


 「あんたに断られたと言っていたが、王都の入り口で貴族用の通路へ行ってしまったきりだ。金貨を3枚も払ってくれたから文句はないが、裏が有りそうでよ」


 「よくそんな依頼を受けたな」


 「なに、相手はあんたと判っていたし、王都の外へ出る護衛と言ったからな。もしも闘う羽目になったら、依頼主を捨てて逃げるさ」


 依頼主を放置するなんて酷え話だが、勝てない相手と闘わないのは当然か。


 注文した服の受け取りが終わったら、王都の外で教える事にしてマークスの家の場所を聞いてから別れて、俺はミレーネ様の所へ行く事にした。


 * * * * * * *


 「治癒魔法使いですか」


 「未だ治癒魔法を授かったばかりで、今から基礎訓練を始めますが、ある程度の目処が立ったらお報せしますのでご検討を」


 「訓練って、貴方が?」


 「魔法使いではありませんが、魔法の事は色々と聞きかじっていますので、それを教えておけば役立ちますからね」


 ミレーネ様の了解を得てマークスの家に向かう。ブルヘン通り26番地3階右の部屋。


 ノックをすると直ぐにマークスが出てきたので、了解はもらったのでルシアンに魔力を練る方法を教えたいと告げて中へ入れて貰った。

 緊張気味に俺の前に座るルシアンに目を閉じさせ、へその奥周辺に意識を集中すること、それを感知出来るまで毎日続けろと言ってお暇する。


 「たったそれだけか?」


 「マークス、冒険者登録をして直ぐAランクになれたか? 剣の持ち方から素振りや形稽古と段階を踏まないと万年FやEランク止まりだぞ」


 「違いない。ちゃんと練習させるよ」


 俺の家の場所を教え、感知出来る様になったら連絡してくれと言い待たせていた辻馬車に乗る。


 半月ほどして、マークスから連絡が来たので再び訪問する。

 今度は魔力溜りから腕を通して手首から肘までの間に魔力を送り、それを魔力溜りまで戻す練習だと言って終わり。


 「どうやって」と問われたので「魔力溜りの魔力を伸ばしたり千切ったりをしてみろ」と適当な事を言う。

 此ればかりは、魔法使いでない俺には詳しく説明できない。

 出来ないが出来る事は知っているのでそう言うしかない。


 「魔力溜りを感知出来たのなら、魔力を思い通りに動かすことは出来る筈だ。それが出来る様になったら魔法が使える様になるまで後一歩だ」


 などと、したり顔で諭して家に戻る。

 初っぱなから教えるのは初めてなので、ルシアンの魔力操作は後々の参考にさせてもらうつもりなので、心の中で頑張れーと声援を送っておく。


 * * * * * * *


 今度は一月少々掛かって出来る様になったと連絡が来た。

 マークスの家に行き、どうやって魔力を自由に動かせる様になったのか、その課程を含めて聞いておく。


 「子供の頃の泥遊びを思い出して、心の中で魔力をこねたり伸ばしたり出来ないかと思って、練習してみたら出来る様になりました」


 と聞かされて、へぇ~ぇと感心してしまったぜ。

 次は手首から肘までの間に溜めた魔力を掌から放出する練習だが、溜めた魔力を掌から外に押し出すんだと言ったら三日で出来る様になったと連絡が来た。


 マークスに、これから先は治療相手が必要だから、狩りに出る時に同行させるので、それなりの服装を用意しておく様にと言っておく。


 * * * * * * *


 ルシアンとデイルスを連れて王都を出るが、マークス達を俺が護衛として雇った。


 「奴等と同じようなことをするな」


 「以前、あんたがヘンな奴を護衛していただろう。あれ以後、俺の動きを探っている奴がいるのだが敵意は感じられない。が、鬱陶しいので何故付け回すのか聞いてみようと思ってな」


 「そいつ等を捕まえれば良いのか」


 「そう、王都の外へ出て来るのならそれなりの人数だと思う。王都の冒険者ならあんたは顔を知っているだろう。そいつ等は逃がしても良いが、見知らぬ奴が混じっていたら捕まえてくれ」


 俺を付け回す奴の顔は、ミーちゃんが匂いとともに知っているが、王都の外まで出てくるとは限らない。

 多分詐欺師の仲間だと思うが、ビーちゃん達を使うと無差別に刺しかねないのでマークス達に頼んだ。


 「一人銀貨三枚の気楽な仕事だ、任せておけ」と心強い返事をもらった。


 * * * * * * *


 金魚の糞は煉獄の牙に任せて、二人を連れて貴族用通路を通ってタンザス街道を北へ向かう。

 街道を小一時間程歩くと、右手の草原に目印の棒が立っていたので草原に足を踏み入れる。


 先頭は俺で、ルシアンとデイルスが後に続き、左右をRとLが守る。

 ミーちゃんは草叢に姿を隠しながら後方の警戒を任せる。


 《マスター、マスターの後を人族が歩いています。二つは知っている匂いです》


 《数は?》


 《七つと五つです》


 《判った。話が出来る距離から離れるなよ》


 後は煉獄の連中に任せて、俺は適当な獲物を探す。

 ゴブリンは臭いので斬り殺して放置して、囮に使うことにする。

 少し離れた所に野営用結界を展開してお茶の時間だ。

 ルシアンとデイルスは、初めて見る野営用結界に驚いているが大人しくお茶を飲んでいる。


 《マスター、何時もの人族が来ました》


 流石はA、Bランクだけの煉獄の牙、仕事が早いね。

 迎えに出たLに連れられてマークスがやって来たが、野営用結界を見て驚いている。


 「デエルゴ村での噂から相当稼いでいると思っていたが、こんな物まで持っているのか」


 「俺は基本ソロなので、安心安全に眠りたいからな。何人居た?」


 「12人だ。冒険者が10人と見知らぬ奴が二人だな」


 マークスの後に着いていくと、煉獄の牙以外に多数の冒険者が居るではないか。

 その中に縛られた男が二人いる。


 「俺達が声を掛けると、面白そうだからと逃げねぇんだよ」


 「何処で此奴等に雇われたんだ?」


 「酒場でだよ。草原に出て来る奴の一人に、聞きたい事があるので手伝ってくれと言われてよ」

 「一人銀貨二枚もらったぜ」

 「楽な仕事は断らない主義でよう」

 「まさか、煉獄の牙の待ち伏せに遭うとはな」


 にやにやと笑っている男達に、俺の事情を聞かせる訳にはいかない。

 今日の事は忘れろと言って、各自に金貨を握らせて帰らせる。


 「天気が良いから散歩に出てきただけさ」

 「冒険者が散歩なんてするかよ」

 「此れで旨い酒が飲めるな」

 「今日は良い日だぜ」


 皆ご機嫌で帰って行ったので、二人の懐を探ってマジックポーチを取り出し登録を解除させる。

 大人しく言っても聞き入れてくれないので少々手荒になったが、その後は快く聞き入れてくれた。


ローブの上でひっくり返し、お財布はマークスに渡し身分証は俺のポッケにないない。

 戒めを解いてマジックポーチを投げ返してやる。

 ローブの上に残った物をマジックポーチに戻させると、殺されないと思ったのか顔色が良くなるが甘い。

 ブーツを脱がせると、それもマジックポーチに入れさせる。


 煉獄の牙はここでお役御免、各自に金貨一枚を握らせて今日の事は忘れてもらい、ルシアンとデイルスは暫く俺が預かると言って帰ってもらった。

 彼等を見送ったら尋問タイム。


 「さてと、俺を付け回す訳を聞かせてもらおうか」


 「何か勘違いしている様だが、我々は君と敵対する気はない」


 「何故付け回すのか聞いているんだが、答える気はないのかな。それと、この身分証だが、主人は誰だ?」


 俺の問いかけに二人が顔を見合わせていたが、ニヤリと笑って口を開く。


 「我々はウルファング王国から派遣された者だ、こんな事をすればどうなるか判っていない様だな」

 「我が国の派遣公使閣下に、ゴールドマッシュと花蜜なる物を献上せよ」


 又ウルファング王国か、随分ゴールドマッシュと花蜜がお気に召した様だが、俺は気に入らない。


 「以前俺に接触してきた奴も、ウルファング王国とか言っていたがあんた達のお仲間かな」


 「如何にも、君と取引を求めているのにつれないねぇ」

 「公使閣下も焦れていて、これ以上焦らせて値上げを試みるのなら、後悔する事になるぞ」


 「後悔・・・か。王都内で付け回すのは見逃したけど、俺が何故草原に出てきたと思っているんだ」


 「君の手腕は認めるよ。まんまと捕まえられたからな」

 「お前が告げた金額はあまりにも法外だ。だが問題の二品を公使閣下に献上するのなら、ウルファング王国の貴族になれる様に計らっても良いと仰せだ」


 「良いだろう。俺を付け回した訳は聞かせてもらった。これは警告だ、二度と俺に関わるな! 公使閣下に献上する物は無い! そう伝えろ」


 襲ってこなかったから生かしておいてやるが、次はビーちゃんに襲われるか、俺が隠形を使って公使の館を襲ってやる。

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