第111話 それぞれの性格
放置したゴブリンの死骸に喰いつくプレイリードッグを呼びつけ、ついて来いと命令する。
野営用結界の前に座らせて手足を縛り、もういいよと言って支配を外す。
ウガウガ言っているが、ルシアンの教材になってもらうので念話は通じない方がよい。
強力なクリーンで匂いを消すと、腰の部分を濡らしてショートソードを使って毛を剃る。
血だらけになったが、治癒魔法の練習には丁度良い。
ルシアンを呼び、治癒魔法の練習を始めると告げると驚いている。
「怪我人も病人もいませんよ」
「練習に人を集めるのは大変だし、治せなかったら馬鹿にされるぞ。ワンちゃんなら治らなくても文句は言わないからな」
「犬で練習ですか」と微妙な顔で見ている。
「腕に魔力を集めたら、綺麗に治ります様にと呟きながら魔力を掌から放出しろ」
「えっ、お祈りは?」
治癒魔法の神様ってなんて名だろう。
治療って英語ならトリートメントだっけ、アマデウスの野郎ならトリメンとかリーメン・・・リートかな。
どうでも良いので放っておこう。
「お祈りは要らない! 魔法を授かったんだからお許しは出ているんだ。綺麗に治ります様にって祈りながら魔力を掌から放り出せ!」
攻撃魔法使いなら教え甲斐もあるが、治癒魔法は予定外だ。
ワンちゃんに手を差しの伸べ、深呼吸をすると目を閉じ〈綺麗に治ります様に・・・エイッ〉
ワンちゃんの少し上に伸ばした腕、掛け声で身体が揺れ掌が斜めになった為に、治癒の光りが切り傷から外れた場所に降りかかっている。
関係ない場所に、光りが降り注いだんじゃ治らないよな。
治癒魔法を初めて見たが、虹色に輝く螺鈿細工の様な淡い光りで中々綺麗だ。
閉じていた目を開き、ワンちゃんを見るが毛剃りで出来た切り傷は治っていない。
がっかりしているが、治癒魔法は発現したのだから少し手直しをすればOKだな。
しかし、魔法は魔力操作ができれば発現すると判っていたが、簡単に発現するね。
「ルシアン、手首から肘まで魔力を集めたんだよな」
「はい、みっちり詰め込みました」
ちょっ、みっちり詰め込むってなによ。
ルシアンの腕を取り、肘より指二本分短い位置を押さえ、手首から押さえた場所まで魔力を溜めろと指示する。
魔力をみっちり詰め込む必要は無い普通に溜めろと言い、何度か練習させてから再度挑戦だ。
傷の上に掌が来る様に構えさせ、もう一度やってみろと命じる。
深呼吸をすると目を閉じて精神を集中し〈綺麗に治ります様に・・・エイッ〉と掛け声と共に掌から淡い光りが降り注ぐ。
今度は傷が消えたが、斑に刈られた毛が侘しさを誘う。
「はれっ、治ってますよ!」
「そりゃー治癒魔法を使ったのだから治るさ」
「此れって、私が治したんですか?」
「ん、俺は魔法は使えないぞ。それより魔力を溜める位置をもう少し短くするから練習だ」
「ハイ!」
治癒魔法が使えたと知り、返事に気合いが入っている。
二本短くした位置よりもう二本分手首よりにして練習している間に、ワンちゃんの腰を軽く斬り付けておく。
「出来る様になりました」って早いな。
魔力操作の練習の成果かな。
今度は目をつぶらずにやれと言い、切り傷に治癒魔法を使わせる。
〈綺麗に治ります様に・・・エイッ〉エイッて掛け声がなんとも締まらないので、ラノベの様にヒールに改めさせよう。
他の治癒魔法使い達は、何と言って治療しているのかな。
此れも無事治癒魔法の光りが降り注ぎ綺麗に治ったのでもう少し魔力を絞らせる。
結局肘を直角に曲げた状態から指5本分短くした所が限界で、丁度ホクロがあったので目印にする。
毎晩手首からホクロの位置まで魔力を溜めて放出し、その回数を数えておけと言って練習は終わり。
因みに今までの練習では何回出来たのか聞けば、26,7回ですと元気な返事。
流石は魔力が84も有ると回数も多い、アリエラは魔力64で14,5回だったしフランも少なかったからな。
今回の魔力調整で半分近くまで絞ったので、報告が楽しみだ。
ルシアンを野営用結界の中へ戻して休憩させると、デイルスを連れ出す。
腰の毛を斑に剃られたプレイリードッグを見て微妙な顔になる。
「デイルスの能力は57だったな」
「はい、此れって」
「お察しのとおり、此奴で練習してもらう」
「こんな不細工な犬っころで練習ですか?」
「嫌なら別に良いぞ。オークスに頼まれたので教えてやるが、無理に覚えろとは言わない」
デイルスを放っておいて野営用結界の方へ歩き始めると「すいません! 教えて下さい、お願いします!」って慌てている。
「教えて欲しいのなら、最初から言われたことに従え。そんな調子だと、冒険者になってもEランクかDランクで終わるぞ。魔法も剣も常に練習をして、どうすれば上手く強くなれるのか考えられる奴が上達するんだ」
「判りました! 宜しくお願いします!」
やれやれ、リンナはデイルスの半分程の能力で、ミーちゃんと同じファングキャットがお望みだった。
デイルスは何がお望みなのか知らないが、テイム出来る様にならなきゃ話にならない。
「いいか、テイムする野獣はお前より弱い事が条件だ」
「俺より弱い事がですか」
「そうだ、お前より強い奴はテイム出来ない」
「それじゃー此のワンコも、縛られてなかったらテイム出来ないって事ですよね」
「あー・・・弱いってのはお前のテイマーとしての能力よりって事だ」
「???・・・意味わかんないんっすけど」
「俺はテイマー神様の加護を授かっている。で、此のワンコは足を縛ってなくても、お前の能力より弱いって判るんだ」
「それじゃテイム出来るんですね」
「それはどうかな。お前が此奴より強いと言うか、ワンコがお前に勝てないと思わせないとテイム出来ないだろうな」
「つまり・・・どういう事ですか」
「テイムする方法は簡単だ、そのワンコに向かってテイムを二度続けて言ってみろ。テイム出来たら淡い光りの紐で繋がるから」
おっ、腕まくりをしてワンコを睨み「テイム・テイム」と大声で唱える。
「出来ましたか?」
「だ~め! 此のワンコよりお前が強いと思わせないとテイム出来ないと言っただろう」
薬草袋をワンコに被せて、殴りつけてお前の方が強いと教えてやれと言うと、即座にワンコを蹴り上げた。
〈ギャン〉と悲鳴を上げたワンコを見て嬉しそうに「テイム・テイム」と叫ぶ。
淡い光りの紐が、ワンコからデイルスへと繋がった。
「あっ・・・出来ました。よね!」
「ああ、テイムは出来たな」
何とも直接的と言うか、即行動に移す考えなしな性格の様だ。
授けの日から間がないので未だ15才か、冒険者登録をしてもFランク、良くてDランク止まりかな。
「此れをどうするんですか?」
「呼びやすい名前を付けろ。名付けると結びつきが強くなる」
「名前ですか、う~、ワンコにします」
思わずずっこけそうになってしまった。
まっ、一通り教えたら解放を教えて、もう少し強い野獣をテイムすれば良いんだからそれもよしか。
「それをそいつに言うんだよ。お前はワンコ、ってな」
「お前はワンコ! 俺の家来だから逆らうなよ!」
もう何て言ったら良いのか、阿呆らしくなってきた。
此奴は冒険者じゃなく、牛馬をテイムさせて何処かに奉公させた方が良いんじゃないかと思える。
ワンコの足の紐を斬り落として立たせると、デイルスに躾を始めさせる。
「躾って?」
「お座り、吠えるな、大小便をする場所、獲物を見つけたらお前に教えろとか吠えろとかだな。勿論倒せなんてのもだ。此の儘だと襲っては来ないだろうが、ただの野獣だからな」
「そんなに面倒なんですかぁ~」
「お前なぁ、野獣をテイムしました。直ぐに思い通りに動かせるなんて、俺の様な加護持ちじゃなきゃ無理だと思うぞ。オークス達を見ろ、剣や弓の稽古は欠かさないからゴールドランクになれたんだ。楽な道なら馬車馬をテイムして御者や馬丁になるんだな」
「ウルフなんかを、連れて歩けると思ったんですが・・・」
「もう一つ大事な事だ、忘れると死ぬから良く聞け! 其奴が不要になったら足でも縛ってから殺せ。テイムを外すには「テイム・解放」と言えばテイムが解除されてただの野獣に戻る。その時に側にいればどうなるのか判るよな」
「判りました」
青い顔で小さく答えるが、思っていたテイマーと違うって顔だ。
「テイマーの基本的な事はそれだけだ。後はお前の、創意工夫と躾次第だ」
「えっ、此れで終わりですか?」
「言っただろう。俺はテイマー神様の加護を授かっている、普通のテイマーとは違うんだ。俺の方法はお前には使えない。王都に野獣を連れて入れないので、後で此奴を解放しておけよ」
今度こそ訳が判らないって顔になる。
「でっ、でも、シンヤさんはウルフを連れて出入りしているじゃないですか」
「お前は馬鹿か、王都を出るときに何処を通ったのか忘れたのか。俺は特別な許可をもらっているので、貴族用の通路を通って王都に出入り出来るんだ。教えた解放をやってみろ」
俺の話にがっかりしたのか、ワンコを見て「テイム・解放」と呟やいた。
馬鹿! ワンコが野性に戻り、唸り声を上げてデイルスに襲い掛かった。
武器を取り出す暇がないので、横からワンコの腹を蹴り上げる。
〈ギャン〉と悲鳴を上げて高々と空に舞い上がるワンコ。
デイルスを見れば、服が破れて少し血が出ているだけで大した怪我はしていない。
「俺の話を、真面目に聞いていなかったな」
震えるデイルスを野営用結界の中へ連れ戻して、ルシアンに治療を頼む。
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