第60話 旅立ち

 「お前は、神様が召喚した俺を殺す気か!」


 「おいおい、おっさんから神様に昇格か。あのおっさんは、召喚する相手は誰でも良いんだよ。喧嘩をしている奴を、闘気が溢れているなんて言って気軽に召喚していたからな。俺なんか余り物で、テイマー神に丸投げだぞ。お前如きが死んだとて、気にも留めずに次の奴を召喚するさ」


 肩に短槍が突き立ち俺に掴まれていて転移で逃げられない奴に、ショートソードを突きつけて心臓を抉る。


 包囲攻撃してきた奴等で、逃げのびた者は少なかったようで後片付けが大変だ。

 フーちゃん達はストーンランスに射ち抜かれて絶命していたので、マジックバッグの仲間入り。

 足を怪我して逃げられない奴等が命乞いをするが、全て首を掻き斬りマジックバッグに入れて野獣の餌だ。

 依頼料無しで伯爵の望み通りになったのは癪だが、マジックバッグと酒をたっぷりせしめたのでチャラにしてやろう。


 10日程フォレストウルフ補充の為にオシウス村に行っていたが、フラン達には会わずにザンドラに引き返した。

 ハニービーの巣の周辺は花が咲き誇り、ハニー達が春の蜜を求めて盛んに飛び回っている。

 俺は一段落するまで待ってから蜜を貰うつもりなので、のんびりと過ごす。


 去年貰った蜜は寸胴の半分程しか減っていないので、ミレーネ様に譲る分を確保する為に空の寸胴を二つ買ってきている。

 それに浅めの大鍋を一つ、これに木の枝を取り付けてハニー達が止まりやすいようにして、花密を落として貰う予定だ。


 待つ間に新しいフーちゃん達の訓練をし、ミーちゃんとも連携が取れるようにした。

 訓練の途中思いついて、ミーちゃんに自分で小さくなったり元に戻ったり出来るのか試した貰った結果、俺の指示がなくても自由に出来ることが判った。

 但し、普通のテイマーがテイムした使役獣が、それが出来るのかどうかは不明。

 訓練の結果、ホーンボアやエルク等が沢山獲れて、当分彼等の餌には困らなくなった。


 * * * * * * *


 ハニーママにお願いして去年と同じ様に蜂蜜を分けて貰い、以前の物を含め三つの寸胴には蜜の詰まった巣がぎっしりと収まっている。

 綺麗に絞った蜜が寸胴一つと半分に、花密が梅酒用の大瓶くらいの物に一つ半収穫出来た。


 此れだけあれば街の周辺で適当に働き、後はのんびり生活出来るはずだ。

 ザンドラには寄らずにエムデンを目指して街道沿いをのんびり歩き、三日目の昼過ぎには到着した。

 街に入るのにちょっと揉めたが、ギルドカードにファングキャットとフォレストウルフ二頭と記載されているので何とか通れた。

 テイム済みのメダルを付けているのだから、黙って通せとは言えないので面倒だ。


 フーちゃん二頭には、指示がなければ小さくならなくて良いと言っているので、冒険者ギルドの出入り口横で待機。

 ミーちゃんを肩に買い取り係に解体場へ行くと告げて通して貰う。

 大量の死者を適当に投げ捨てたが、数が多かったので漸く野獣の処分が出来る。


 今回は少し数が多いと告げて、広い場所を指定して貰う。

 エルク、フォレストウルフ、カリオン、バッファロー等十数頭並べて査定依頼。


 「お前はレッドチキンやチキチキバードは持って無いのか?」


 「少し持っているけど、俺の食い扶持だから出さないよ。氷結の楯のリンナが狩っているんじゃないの」


 「おお、時々持って来るな。彼奴もファングキャットをテイム出来て嬉しそうだぞ。今日辺り持ち込んで来るんじゃないかな」


 食堂に居ると告げて、ギルドカードを預ける。

 エールを飲んでつまみを齧っていると、表のフーちゃんの話題で賑やかだ。

 真っ昼間から飲んでないで仕事をしろよと思うが、他人は他人、俺は俺なので知らんぷり。

 査定用紙を貰い、精算カウンターで全て預けると告げる。


 フーちゃん二頭を連れて市場へ行ったら大騒ぎになり、警備兵に叱られてしまった。

 フォレストウルフは厳ついし大きいので恐いのだろうが、テイム済みのメダルを下げているのに理不尽な奴等。

 だが先々フーちゃん達を連れ歩くからには、行く先々で文句を言われても相手になれて貰う必要が有る。


 夕暮れ時に再び冒険者ギルドへ行くと、丁度氷結のメンバーが食堂へ行くところだった。


 「シンヤ、久し振りね」


 「ファンナはどう」


 「とっても良い子よ。大物狩りの腕も大分上達したし、バード類も良く狩ってくれるわ」

 「ああ、お陰で奴の稼ぎを貯めて、マジックポーチの容量の大きいのを買う予定だ」

 「それに狩りも随分楽になったしなぁ」

 「ところで、フーちゃん達を街に入れたの?」


 「ああ、これからはのんびり稼ぐ予定だし、王都に行く用が有るので街中に慣れさせておくつもりだよ」


 「王都か、あんな所に何の用だ?」


 「ホルムに在るモーラン商会のミレーネ様が、王都に行かれてしまったので取引の為だよ」


 「シンヤは商売でもしているの」


 「ちょっと変わった収穫物を売る約束でね。それよりも、ファンナの進歩を確かめたいので明日は同行しても良いかな」


 早朝南門の外で待つと伝えてギルドを後にしたが、フーちゃん達の周りは人だかりが出来ていて迷惑そうだ。

 温和しいフォレストウルフが珍しいのか、今なら危険は無いと思い図に乗った奴が尻尾を引っ張っているので、俺が其奴の尻を蹴り上げてやる。


 「何をしやがる!」


 「それはこっちの台詞だ。俺の使役獣に何をしているんだ、あまり度が過ぎて噛まれても文句は言わせないぞ」


 「ウルフをテイム出来て意気がっているようだが、あまり舐めた・・・」


 面倒なので殺気をぶつけてやると腰砕けになって震えている。


  「フーちゃん達、行くよ」


 声を掛けると練習の甲斐あり、すっと立ち上がり腰砕けの男を上から見下ろしている。


 《ちょっと牙を見せて唸ってやりな》


 男を見下ろしたまま牙を剥き唸り声を上げると、周囲の者達が逃げ散っていくが、腰を抜かした男は泡を吹いて気絶してしまった。


 * * * * * * *


 「おはよう。大騒ぎになっているわよ」


 「何が?」


 「あんたの使役獣が牙を剥いたって、騒ぎ立てた奴がいてね」


 「尤も、あんたのフォレストウルフにちょっかい掛けていたのを、大勢の人が見ていたので反対にギルマスから絞られていたけど」

 「テイマーの冒険者が少ないので、テイムされた使役獣に手を出せば、反撃されても文句を言えないって事を忘れている馬鹿が多いのさ」

 「ファンナにも、時々変ないちゃもんを付けてくる奴がいるわ」

 「まっ、俺達に正面切って喧嘩を売る奴はあまりいないけどな」

 「で、ファンナの何を見たいの」


 「ファンナの狩りや、討伐支援の上達具合を見てみたいんだ。俺はテイマーとしての基準が判らないからね」


 「それなら私も他のテイマーを知らないのは一緒よ」


 「でも、リンナがどの程度教える事が出来るのか、どうやって教えているのかを知っておきたいからさ」


 オレンジシープ、ゴート、エルクと、ファンナはリンナの言葉と手の合図で狩りの手助けをして、時に木に駆け上がり周囲を見回して獲物を探すことすらしていた。

 猫かわいがりしているのかと思ったが、使役獣としての躾も確りしていて感心した。


 俺の場合索敵はビーちゃん頼みが多く、狩りの手助けも念話での指示なので全く違う事にびっくり。

 他のテイマーに出会った時の参考になったので、礼を言ってお別れする。

 後は秋のゴールドマッシュの採取まで目的が無いので、王都見物と蜂蜜を売る為にエムデンを後にした。


 * * * * * * *


 ホルムは街にすら入らずに迂回して進み、次の街ブルンを目指す。

 此の世界に来て初めて、厄介事でなく自分の意思で旅をしていると思うと心が軽い。

 ただし、街道を王都に向かって歩けば、厄介事が向こうからやってくる事に気づくのに時間は掛からなかった。


 フォレストウルフ二頭を従えて歩く俺は相当に目立っている様で、追い越して行く馬車が三度止まり護衛の騎士や馬車の中から声を掛けられた。

 曰く、フォレストウルフを従えているのなら召し抱えてやろうとか、主の護衛として仕えよなんて偉そうに言ってくる。


 何の事は無い、フォレストウルフをアクセサリーにして見栄を張りたいだけの勧誘で、給金を聞いて笑いそうになる。

 金貨の2枚や3枚で自由を売り渡す気はないので、フーちゃんを撫でながらその10倍以上稼いでいるのでと丁寧に辞退する。

 俺の稼ぎを聞いて引き下がれば良し、しつこい奴には王の威圧で相手を押さえて引き下がらせる。

 しかしその手の勧誘より、俺とフーちゃんを見て道を避けて通ったり急いで追い越して行く者が殆どだ。


 マジックバッグの中に残る獲物を処分する為にブルンの街に入るが、此処でもフーちゃん達フォレストウルフを二頭もテイム出来るはずがないと、頑固な警備兵に止められてしまった。

 ほんと、自分の常識だけで物を言う奴にはウンザリするが、此処で喧嘩をしたら街に入れないので説明することに。


 「ギルドカードをよく見てください。テイマーで能力1ですが」


 〈ぷっ、能力1のテイマーってか〉


 此奴は人を見下して優越感に浸るタイプらしい。


 「そうですよ。能力1ですが、テイマー神様の加護を授かっています。この二頭はエムデンで登録したのですが、ファングキャットとウルフ二頭と登録されています」


 「加護を授かっている? 加護を授かれば二頭も・・・ん、ファングキャットもだと。ますますおかしい」


 「何を騒いでいる!」


 上司らしい男が現れたが、どうなる事やら。

 好い加減にしないとビーちゃんを召喚して大暴れさせるぞ。

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