第59話 それがどうした
一夜明けて狩りの訓練の為に獲物を探すが、こんな時に限ってゴブリンしか見当たらない。
仕方がないのでゴブリンで基本練習、氷結の皆には手加減をしてもらい、リンナがファンナにゴブリンの後ろに回る様に指示するが、どうやって攻撃させるのか戸惑っている。
仕方がないのでミーちゃんに手本を見せて貰う。
ミーちゃんは、氷結達と対峙しているゴブリンの後ろにトコトコと歩いて行くと、ゴブリンのアキレス腱や脹ら脛を爪で切り裂く。
俺が手本を見せてやってとお願いしたので、二匹ほどゴブリンの足を切り裂くとドヤ顔でやってみなと新入りを見ている。
「ファンナ、やりなさい!」
リンナの声に、ゴブリンの足を切り裂き素速く離れる。
ファングキャットは、ゴブリンの様な大物狩りはしない種族なので、慣れるまではリンナが色々と教えなければならない。
ホーンボアやエルクのアキレス腱は頑丈で、切るには爪の威力が足りず一撃離脱の太股攻撃を教える。
レッドチキンやコケッコー、チキチキバードの塒を教えて、夜に襲い夜が明けてから下で待つリンナに落とす事も教える。
教えるのはミーちゃんで、俺は付き添い兼説明係。
教えるのに三日も掛かってしまったが、十分役立つ使役獣になったと思ったのでお別れする事に。
「女房が世話になったな。エムデンに来たら何時でも声を掛けてくれ」
「念願のファングキャットをテイム出来て感謝しているわ」
ファンナを肩に乗せ、尻尾にスリスリしながら嬉しそうなリンナ。
俺も普通のテイマーの能力をある程度知れたし、テイマーがテイムしている使役獣も上書きテイム出来る事が確認出来て大収穫だ。
尤も支配していない獣を上書きテイム出来るとは思っていないので、有益そうな獣がいれば支配に加える事にした。
* * * * * * *
久方ぶりのザンドラだが、今回は厄介事に巻き込まれません様にとお祈りしておく。
勿論、祈る神様は日本の八百万の神様だ。
スキルで確認してもスライムの数は5と変わってなく、一年近く放置してもテイムは有効と確認出来たが、リングベアの熊五郎が消えている。
ハニービーのママの巣を見に行くと、スライムを一匹確認出来た。
時々来て、ママの巣を壊す奴を弾き飛ばせとの命令を忠実に守っている様なので、ご褒美にホーンボアの小さい奴を一つ進呈する。
ハニービー達に花が咲き始めたら来ると伝えてザンドラに戻る事にした。
* * * * * * *
二度ほど獲物を売り、手持ち資金が5,000,000ダーラを越えてミレーネ様からの金貨5袋を思い出し、確認の為に商業ギルド出向く。
ミレーネ様より54,800,000ダーラの振り込みの後、二月ほど後に185,690,000ダーラの振り込みがあった。
4,800,000ダーラが蜜の代金と思われるが、ティーカップ一杯分金貨4枚の計算なので、結構良い値で引き取ってくれている。
マジックポーチかマジックバッグか知らないが、それの処分代込みとしても185,690,000ダーラは破格の金額である。
劫火のオーウェンって、結構溜め込んでいたのだと感心した。
240,490,000ダーラなんて当分必要無さそうなので。確認だけして放置。
花の盛りまで草原や森でのんびり過ごすことにしたが、三度目にエールを飲みに冒険者ギルドに寄った後で、金魚の糞が現れた。
今回は心当たりがまるで無い、一人二人なら別に大した事はないと無視して街を出たが、そう甘い相手ではなさそうだ。
日暮れ前の草原を抜けて森との境に掛かる頃、多数の視線を感じてミーちゃんを降ろしてフードを被る。
ミーちゃんに先導されて野営地に向かうが、監視だけで攻撃してこない。
《フーちゃん達はそのまま離れていて、俺を監視している奴らを見張っていろ》
《マスター、噛み殺しましょうか》
《未だ駄目だよ。街からついてきた人数は何人?》
《八人と少しです》
《二号です。森の方には七人居ます》
《ミーちゃんの方は?》
《こっちも八人です》
金魚の糞が合流して24、5人か、それ以上って事ね。
もうすぐ日暮れになるので、それを待っているのならビーちゃん達の事を知っている奴に違いない。
ザンドラでフーちゃんの事を知っているのはごく少数なので、陽が落ちたらミーちゃん以外に居ないと思っているのかな。
今から使役獣を増やすのは無理だが、魔法付与の服と俊敏とジャンプで何とかなるだろうと思う。
しかし、俺に取ってザンドラは厄介事が湧き出る泉の様な所だわ。
等と呑気に考えていたら、ポスポスと音がし足下に矢が落ちてきた。
周囲に丈高い草の無い、見通しの良いところで攻撃してきたか。
襟を立てて口元を隠すと、フードを絞ってガードを固めてから、フーちゃん達には足を狙って動けなくしろと命じる。
〈・・・・・・〉
〈・・・ッ〉
〈ァッ・・・・〉
声なき悲鳴や驚愕の気配が伝わってくるが、中々根性のある奴等のらしい。
包囲の陣形が崩れているので相当被害が出ている様だ。
〈ギャン〉と悲鳴が聞こえたが、人とは思えない。
《マスタ・・・》
《どうした、フーちゃん?》
《フーちゃん! フーちゃん返事をして!》
《ミーちゃん!》
《マスター御用ですか?》
《攻撃を止めて物陰から見張っていて》
《判りました》
フーちゃん達と連絡が途絶えたが、スキルで確認をしている暇は無さそうだ。
索敵には数は減ったが、包囲の輪が絞られているのが感じられるし、薄暗くなってきた草叢や木陰に時々淡い光りが見える。
嫌な予感はよく当たる。
《ミーちゃん、時々草叢が明るくなるのは何故なのか見てきて》
数は少なくなったが矢の雨は未だ止まらないので匍匐前進で暗がりを目指す。
一息ついているとミーちゃんから連絡が来たが、怪我人が動ける様になっていますとの事。
ますます、嫌な予感が強くなる。
と思ったら、目の前が真っ赤に染まり〈ドーン〉と轟音が響き渡る。
糞ッ、なんでこんな所に居るんだよ!
続けてもう一発が前方に着弾して轟音を立てる。
居場所を狙われているのは間違いない。
即座に腰を上げると全力疾走して、躓いたついでに三角跳びで方向を変えて草叢に突っ込み、そのまま暗がりを利用して移動する。
その最中に元いた場所の近くに三度目のファイヤーボールが着弾した。
着弾の間隔は、ダルマさんが転んだを急いで三度言った程度。
多分無詠唱が出来なくて早口言葉での詠唱なのだろうが、アマデウスの加護は馬鹿に出来ない。
ファイヤーボールの飛んできた方向へ全力でジャンプして、着地と同時にもう一度踏み込む。
居た! 立ち上がり俺の居たあたりを確認している女。
女の方に向き直ったとき、奴も俺に気付きファイヤーボールを射つ態勢になるので、即座に横っ飛びに逃げる。
射ち出されたファイヤーボールは遅い! フランの初期のストーンアローが思い出される。
女は転移魔法が使えないので後回しにして男を捜すが見当たらない。
何処かに隠れて俺を狙っているはずなので、ミーちゃんに探してもらう。
《ミーちゃん、俺と男が喧嘩をして、ビーちゃん達が沢山来た事を覚えているかい》
《はい、覚えていますマスター》
《あの時の男が隠れて居るはずなので、見つからない様に探して》
《判りました》
さてと、ミーちゃんが探している間に女をかたづけるかな。
ファイヤーボールが飛んできた場所を目指してジャンプ、複数の男達が剣や弓を持って立っている所へ跳び込み、木刀で殴り倒して女に迫る。
女の顔に真っ向唐竹割りを射ち込むが、手前で身体が何か当たって弾かれた。
此奴も結界魔法が使えるのを忘れていた。
魔鋼鉄製の短槍に持ち替えて軽く素振りをする。
俺に掌を向けて何かを呟いているので、腕で目を庇った瞬間隙間が赤くそまり爆発音が響く。
手袋まで魔法付与の物を作った甲斐があるってものだ。
じゃじゃ馬だかあばずれだか知らないが、王の威圧を全力で浴びせる。
フリーズして蒼白な顔を引き攣らせているが、それじゃー詠唱できまい。
短槍を振りかぶり結界に叩き付けると〈ドーン〉という音と共に〈パーン〉と軽い音がして結界が破れた。
踏み込もうとした時、目の前に奴が現れたが片膝ついて脂汗を流している。
「待ってくれ」掌を俺に向けて制止するが待つ気はない。
一歩踏み出したが又何かに当たって前へ進めない、此奴は無詠唱で魔法が使えるのか。
「エリ、糞猫に足をやられた、治してくれ」
お~お、脹ら脛をスッパリきられてやんの。
アキレス腱なら、痛みでのたうち回っていただろうに残念。
結界魔法の中で安全だと思っているようだが、前回も二回の打撃で破壊されたのを忘れているようだ。
くらえ、特注短槍の打撃をと振り下ろしたが〈ガーン〉って、前回と音が違うぞ
「はぁーっはははは、お前に破られたので強化したからな。今度は破れまい」
ほーん、それなら俺も一撃で打ち抜く方法を考えているんだよ。
結界内が安全だと思って女に治療するように言っているが、王の威圧で身も心もフリーズ中だぞ。
奴の心臓目掛けて、全力で短槍を投げつける。
〈バシン〉と音を立てて突き抜け、奴の肩に突き立つ。
驚愕の表情を俺に向けるが、強化ガラスを鉄棒で殴ってもなかなか割れないが、先端の尖った固い物なら簡単に割ることが出来るんだよ。
にっこりと笑って、奴にお別れを言う。
「待て! 俺達を殺せば、あのおっさんが黙ってないぞ!」
「そん事は気にするな」そう言って奴が必死に揺すっている女の首を刎ねる。
「くっそーおぉぉぉ、やりやがったな!」
「それがどうした。お前も直ぐに後を追わせてやるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます