第94話 魔法使いが三人
ブラックベアと対峙するオルク達から少し離れて、フェルザンやホーキン達が緊張して武器を構えている。
彼等の後ろには野営用結界を設置しているので、勝てないと思ったら逃げ込めと言ってある。
オルク達から以前聞いた話では、かあちゃん達が居るのでエムデン周辺が狩り場だと言っていたし、ファンナの訓練が中心で本格的な狩りを見ていない。
彼等の本格的な狩りを見るのは初めてなので、俺は高みの見物と洒落込む。
ファンナはリンナから離れて後ろで周辺を警戒していて、男達5人が半円を描いて対峙している。
リンナの前、男達との間にエイナが立ち詠唱を始める。
(我が守護神アインスの力を我が手に導き、我の敵を射ち倒さん・・・)〈ハッ〉
氷結神はアインスかい!
それぞれが強弓を引き絞り、詠唱の終わりと同時に左右から矢を射ち込むと、怒りの咆哮をあげるブラックベア。
咆哮をあげる胸元にアイスランスが吸い込まれたが、フランに比べて細くて短い感じだ。
速度も強弓の矢程度なので、重さと早さが足りず半分程しか突き立っていない。
アイスランスが突き立つと同時に二の矢が突き刺さる。
多数の矢が刺さり動きが鈍くなると、オルク達が槍に持ち替えて止めを刺しにかかる。
「お前から見てどうだった」
「うむ~、アイスランスの威力が足りないね。それに詠唱が長すぎるよ」
「あれで威力が足りないってのか?」
「俺の友達は土魔法使いなんだけど、もっと太くて重いストーンランスを撃ち込むよ」
「ストーンランスとアイスランスを一緒にしないでよ。氷より土の方が重いのよ。それに詠唱が長いって何よ!」
「あっ、本来詠唱は必要無いんだよ」
「詠唱を唱えなくて、魔法をどうやって使うの?」
「俺の友達はランスの一言だけだよ。ランスとかシールドとか使い分けの為に一言だけ言っているよ」
「そんな馬鹿な・・・」
「それ、本当ですか?」
「ああ、嘘じゃない。タンザで一緒に狩りをしたけど、俺より簡単にゴールデンベアを討ち取るよ。それもただの一撃でだ」
「その噂は聞いた覚えがあります。タンザではフォレストウルフを従えるテイマーと、彼と友達の土魔法使いが討伐を競っていると。剣と牙のナーダです。土魔法を授かっていますので、土魔法の事で知っている事が有れば教えてもらえませんか。お願いします!」
おいおい、最敬礼をしちゃったよ。
魔法使いが三人、それも攻撃魔法ばかり、彼等の能力を上げれば次回の強制招集の時に楽が出来るし、俺が目立つ事も少なくなる。
話を聞かせたくない奴が一人いるので、少し離れた所へ移動する。
アマデウスの野郎が野獣討伐の為に人さらいの如く召喚しているが、俺の助言で授かった能力が向上して、召喚の必要が無くなったとなれば・・・その時の奴の顔が見てみたい。
ティナじゃないけど、焦った奴が俺の前に姿を現すかも知れない。
その時が元の世界に戻れる唯一のチャンスだろう。
「俺は魔法使いじゃないが、子供の頃に魔法や魔力の話を色々と聞かされていたんだ。それと、友達の魔法使いからの経験談でよければ教えるよ」
「お願いします!」
「魔法を授かったら、最初にすることは魔力操作だそうだ。どんなに魔力が多くても、魔力操作が出来なければ魔法は上達しないってね」
「確かに、魔力を動かし放出するのは最初に教わりました」
「ナーダは、土魔法で何が出来る?」
「ストーンアローとストーンランス、それと防壁ですが」
「それじゃ、その辺に防壁を一つ作ってもらえるかな」
真剣な顔で頷き、ブツブツと口内詠唱の後腕を伸ばして・・・〈ハッ〉と声を発した。
地面が揺れると幅1m程の土が盛り上がり始め1.5、6m位の防壁が出来たが、防壁ってより土壁って感じで頼りない。
ちょいと防壁の前に立ち、前蹴りを一発。
足の形に蹴り抜いてしまい、それを見たエイナが吹き出している。
「エイナ、失礼だろう。笑っていると後で恥を掻くことになるよ」
「ごめん、私は防壁は作った事がないの。土魔法の防壁って壁の様に固いと思っていたから」
「ナーダ、この防壁にもう一度魔法を使ってもらうけど、今度は防壁を石の如く固くなれと願って魔力を流してみてよ」
「そんな事が出来るのですか?」
「出来るよ。俺の友達はヘロヘロのストーンアローだったのを、ガチガチのストーンアローやランスを作れるまでになったからね。やるかやらないかはあんたの勝手だけど、上達したいのならやってみて」
俺に言われて真剣に悩んでいるが、多分詠唱の文言でも考えているのだろう。
一つ頷いて防壁に向かうので「防壁に手を当ててやってみて」と助言しておく。
防壁に手を当て、目を閉じてブツブツと呟き・・・〈ハッ〉と発して後ろに下がる。
自信なさげに魔力を込め直した防壁を見ているので、俺が結果を確認してやろう。
ナーダを横へ押しやり、深呼吸を一つしてから渾身の力で蹴る。
今度は〈バキン〉と音がしてくの字に折れたが、明らかに強度が上がっている。
「どう、強度が上がっているだろう」
「はい! まさか強度を上げることが出来るなんて思いもしませんでした」
「ちょっとちょっと、氷結魔法で此れを作っても硬く出来るの?」
「出来ると思うよ。色々な魔法が有るけど、基本的に魔力を使う事だからね。土と氷の違いはあるけど出来る筈だよ。タンザでバックアップをしてくれていたパーティーは結界魔法使いだったけど、此れより遥かに強力なシールドを瞬時に作れていたよ」
「シールド?」
「この防壁の事ね。縦2m横1.5m程の障壁だけど、俺の全力攻撃にも耐えたよ」
「ね、ね、私にも教えてよ。お願い!」
「教えるっても魔力操作だよ。魔力操作ができるから魔法が使えているのだろうけど、それをやり直して貰うよ」
「良いわよ」
「宜しくお願いします!」
ナーダの魔力は69、エイナは81だがそれぞれ魔法は16~19回程度使えるそうだ。
幅があるって事は、一回に使用する魔力量が安定していない証拠なので、魔力の使用量確認から始める。
例の如く腕に貯まる魔力の確認をするが、ナーダは手首から肘までに魔力を溜めて押し出すと言い、エイナは魔力溜りから詠唱の後掛け声と共に腕へと魔力が流れて放出される感じと答える。
何方にしろ、魔法を使うときは腕を通して魔力が流れる事に変わりなし。
判り易いよう腕に魔力を溜める方法を教える事にするが、エザードには何も話すな教えるなと釘を刺しておく。
近くで聞いていたフェルザンが、奴はパーティーから放り出すと言い仲間達も頷いている。
そして大怪我をしていたコランまでもが、魔力の使い方を教えて欲しいと頭を下げてきた。
望むところなので快く了解し、各自に魔力を腕に溜める練習から始めて貰う。
その際一回に使う量を溜めるのだが、今までそんな事を意識した事がなかったので、そこから教えなければならない。
特にエイナは魔力溜りから魔力を直接流しているので、流れる魔力をどの程度使っているのか、おおよその確認からだ。
魔力溜りから魔力を腕へ導き、手首から肘までの間で止めて貰う。
その際コランとナーダに、一回分として溜めている魔力の長さを聞いてみた。
手首と肘に消し炭で印をつけ、その長さをエイナの参考にして魔力溜りから魔力を腕に送り、それを魔力溜りに戻す練習をしてもらう。
三人とも魔法が使えるのでその練習は一日で終わり、それぞれの魔力を溜めている長さと同じ長さの小枝を渡す。
此れは何かとの問いに、腕に溜めている魔力の長さだと説明しておく。
そして練習の成果として各自五発の魔法を撃ってもらった。
違和感なく撃てると言うので、目印の小枝より指一本分短く魔力を溜める練習をする様に言いおく。
エイナが魔力操作の練習を始めたし、火祭りの剣と剣と牙のパーティーも怪我人と魔法使いが抜けては使い物にならない。
となれば俺が討伐の中心にならざるを得ず、サブマスの思惑に乗る様で気分が悪い。
ただし、低ランクパーティーの持ち場なので、時々しか野獣が現れないので気楽に討伐させてもらう。
一人なら支配を使って楽々討伐なのだが、その手が使えないので面倒だ。
二日目には短くした魔力で魔法を使ってもらい、三人とも問題なく魔法が使えることを確認出来たので、指二本分短くした魔力を操る練習にする。
魔力溜りから腕までの魔力操作に慣れたのか、一時間もせずにエイナが出来る様になり、続いてナーダとコランも出来る様になった。
再び魔法を使ってもらい、此れも問題なしなので次の段階に進む事にした。
「魔力を少なく使う練習は一時中断するけど、魔法が使えなくなるまで各自練習は続ける様に。魔法が使えなくなったら少し増やしてギリギリの所を常に覚えておくと良いよ。友達はそれを続けて魔法が使える回数が50回位迄増えたと言っていたな」
「その人の魔力量はどれ位なんですか?」
「確か・・・75,6だった筈だけど」
「俺と変わらないのに、倍以上魔法が使えるのって凄いですね」
「最初に会った時は、15,6回程度だったかな20回も使えなかった筈だけど、魔力を絞る練習を続けた結果だと言ってたな」
「加護持ちですか?」
「加護なんて無いよ。だから魔力は増えてないが、一回に使う魔力を絞る・・・少なくする練習をして回数を増やしたんだよ。それと言っておくけど、現在使える回数の2/3程度を攻撃に使い、常に1/3は身を守る為に使わないと死ぬよ」
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