第95話 魔法の威力
魔力を絞る練習は続けて貰うが、それは自主練習に切り替えて短縮詠唱を教える。
短縮詠唱と言うとエイナが喰いついて来た。
「あの詠唱をたった一言に変えられるって、本当に!」
「出来るよ。と言っても実際に見せられないので、俺の言う事を信じて貰うしかないけどな」
「信じます! 魔力操作が目に見える形に出来る何て誰も教えてくれませんでした」
「そんな大事な事をあっさりと教えてくれるなんて」
「そうよね。魔法を授かって何が大変かって言ったら、指南してくれる人が殆どいない事よ」
「そうですよ。ひたすら魔力を練るとか、神々に祈りその力を我が手に導くと言われても、さっぱり判りません」
「詠唱は何の為にしているか知っているだろう」
「それはね、魔力を導き武器を決めて守護神様に祈り、その力をお借りする為よ」
「それを口にしなきゃ駄目なの? 口内詠唱を使っていても同じだよね。だけど考えてよ、口にするって事は頭の中で同じ事を考えているんだよ。だからアイスアローならアローと言った時に矢の大きさを考え目標を見ているだろう。そんな事は必要無いんだよ、アローとだけ言って掌の上に魔力を流してみなよ」
「アロー・・・ アロー・・・ アローって、出来た!」
「なんであんたが先に出来るのよ!」
「なんて理不尽な。ナーダが素直だから、俺の言った通りにしただけさ。エイナも心を綺麗にして、素直な心で魔法と向き合おうよ。信じる者は騙されるって言うじゃない」
「あんたは詐欺師か!」
「あの~・・・火魔法はどうすれば」
「えっ、ファイヤーボールでしょう」
「神様から魔法を使うお許しを得なくても?」
「神様が許しているから魔法を授かったんだぞ。お許しも糞もあるかい! 目の前にファイヤーボールが浮かんでいることを思って、魔力を送り出せ!」
「そんな事で出来るのかなぁ~」
「ん、生活魔法に詠唱なんてしてないだろう。フレイムの一言で薪の中に炎が現れるじゃない。ウォーターでカップの中に水が出るだろう。その時にカップの中へ水なんて言わねぇじゃん。そんな事は自然に頭の中で考えているんだよ、最後にフレイムとかウォーターって言ってるだけなんだから」
「確かに、そうですね」
「言われてみれば詠唱なしで魔法を使っているわねぇ」
「なんで今まで気付かなかったのかな」
「判ったら、魔力を絞って魔法を発動させる練習だよ」
《マスター、マスターの嫌いな奴がそっちに行こうとしてますが》
《脅して追い返せ! 従わなければ足を咥えて振り回してやれ》
《判りました》
あの馬鹿が出て来ると、面倒事が増えるに決まっている。
フェルザンが奴を放り出すと言っていたし、彼の仲間達も放り出す事に賛同していた。
それなら情報は極力与えない方が、後々面倒を招かずにすむ。
一人が出来る様になると、残りの二人も負けじと必死で言われたことを実行しようとする。
魔法を発現させた回数を数えさせ、同時に魔力溜りから魔力が減っていくのを常に確認させる。
魔力切れ寸前になれば魔法の練習を中止してお茶の時間だが、そんな時に限って野獣が現れる。
オルク達と替わって俺が前に出るが、一人なら支配で簡単に討伐出来るのに、見せられないので面倒極まりない。
まっ、その代わり魔法使い三人を鍛えておけば、次の機会に俺の出番が少なくなると思って辛抱だ。
ファングタイガーを討伐して戻るとお茶を飲みながら談笑していたが、エイナが嬉しそうに報告してくる。
「シンヤ、後1,2回魔法が使えるとして22回出来たわよ。魔力を絞るだけで、こんなに簡単に回数が増えるとは思わなかったわ」
「俺も19回出来ましたし、後2,3回使えると思います」
「俺もです、魔力切れまでなら21回位使えます!」
「言っておくけど、エイナとナーダは使える回数の2/3迄しか攻撃に使うなよ。コランは1/4位は残しておけよ。土魔法と氷結魔法は魔力が少なくなれば、シェルターやドームの中で魔力の回復迄休憩できるが、それでも魔力を必要とすることが起きるから。その時に反撃や防御に使う魔力が無けりゃ死ぬことになる。コランの場合は逃げる体力と、最後っ屁の為に少し残しておくと良いな」
「最後っ屁って」
「シェルターやドームってどうやって作るの?」
「エイナとナーダに此れから教えるよ。攻撃はその後だな」
「どうしてなの? 攻撃出来なきゃ役に立たないじゃない」
「逆だよ。身の安全を確保して楽に討伐する為に、シェルターとドーム作りから覚えて貰うんだ。俺の友達もそうやって、安心安全な野獣討伐をしているよ」
「安心安全って、そんな討伐なんて考えた事もなかったわね」
「土魔法なんて、お家と武器を持って歩いている様なものだからね。頑丈な家の中から討伐なんて考えてもみろよ、俺より楽に稼いでいるからな」
「私は氷よ、寒くってやってられないわ」
「何言ってるんだよ。頑丈な氷のシェルターを作れれば中から攻撃出来るし、野営の準備もドームの中で安全に出来るじゃないか。野営中でも危険になれば、氷のドームを作って避難できるし良いことずくめだぞ」
「言われてみればそうかも。危険を冒すだけが冒険者じゃないわね」
* * * * * * *
コランにファイヤーボールの作り方からやり直させる。
ファイヤーボールと言えば、常に拳大の火の玉が作れる様に練習させる。
その間エイナとナーダにはシェルター作りの練習だが、見本が無いので泥遊びから始めた。
土を固めて釣り鐘形の模型を見せ、それの大きな物を作らせてイメージを固定して、シェルターと言えば此れを思い出す様に仕向けた。
それから地面に直径2m程の円を描き、描かれた丸をそのまま円筒にする練習から始めさせた。
フランが曲がりなりにもドームを作れていたのとは違い、イメージ作りから始めた。
それでも日々進歩しているのが実感できるのか、三人とも真剣に練習を続けた。
その間に一度村に戻りエザードと、大怪我を負って心の折れた二人を討伐から外した。
その際、俺達が討伐した獲物の代金も均等に分けてやったが、エザードがごねたので追放を取り消させた。
まだフェルザン達から甘い汁を吸えるとほくそ笑む奴だったが、きっちり配置に着かせて闘わせると言ったら、その夜のうちに姿を消してしまった。
心が折れた二人には、サブマスに訳を話してランクを下げて貰い、王都周辺での小物の討伐や薬草採取が出来る様にして帰した。
その際二人には金貨を10枚ずつ握らせて、王都に帰ったらエザードが討伐中持ち場を放棄して逃げたせいで怪我人が多数出たと、ギルドで飲みながら愚痴れと言い含める。
奴はそのせいで仲間から嫌われ、パーティーを追放になったと言うのも忘れるなと念を押しておく。
なんちゃってDランクの癖に、大きな顔をしているのが気に入らないので、俺からのちょっとした嫌がらせだ。
何だかんだでシェルター作りとドーム作りを覚えたので、武器作りに移る。
ナーダにストーンアローとランスの見本を二つずつ作らせ、一本をエイナに持たせる。
エイナは自分が使っているアイスアローやランスより明らかに大きく太いので戸惑っていたが、物の大小に関わらず同じ魔力を使うので関係ないと理解させるのが大変だった。
* * * * * * *
氷結の楯と共に討伐任務に就いて一月近くなり、エイナ達の武器作りが安定したので実戦だ!
エイナ、ナーダ、コランの中で、一番長く攻撃練習をしていたコランは火魔法なので、単体の討伐よりも群れで襲ってくる野獣の相手が役目だ。
ドッグ系やウルフ系、時にはオーク等の群れの中心にファイヤーボールを打ち込み大爆発を起こさせる。
群れの中心で起きた爆発により吹き飛んだり、恐慌を起こした野獣をパーティー仲間が一斉に襲い掛かり殲滅する。
目標から外れても短縮詠唱の連続攻撃で翻弄するので、以前より討伐が格段に楽になったと皆喜んでいる。
時には大物も倒すが、命中精度をあげる練習の成果でもある。
どんな大物でも、口の中にファイヤーボールを打ち込まれては堪らない。
口内で爆発すれば即死か、死ななくても脳震盪を起こしてふらふらなので、心臓を狙って短槍か矢を射ち込んで終わり。
此れには、見ていたエイナやナーダが呆れていた。
彼等の狩りを見て、火魔法をもっと効率よく使う方法を考え練習させた効果だ。
「まったく、よく口の中にファイヤーボールを打ち込めるわね」
「それにあの爆発力は何ですか? 無茶苦茶じゃないか」
「そうよねぇ~。今まで見たり聞いたりした火魔法と、全然違うわね」
「それはシンヤさんに言って下さい。俺は大物も狩る方法はないのかと尋ねたら教えてくれたんですから」
「命中率は練習次第だと思うけど、あの爆発力は半端ないわね」
「ビッグホーンの鼻先で爆発したのに、あの巨体が吹っ飛んでしまったからなぁ」
「あの小さなファイヤーボールが大爆発を起こすなんて、ビッグホーンも思わなかったでしょうね」
「いやいや、俺達だって思いませんよ。初めて見たときはびっくりしましたもの」
「シンヤはどうしてあんな物を思いついたの?」
「ん、アイスアローもアイスランスも、大きさに関係なく魔力を一つ使って作るだろう。それに飛ばすにも魔力を一つ使う。ところが作って飛ばすときは魔力が一つですむ、おかしいだろう。ファイヤーボールも同じだが、大きさによって爆発力が違うのがおかしいと思ったんだ」
「それって当然じゃない、アローとランスでは威力が違うのが当然だし、シンヤも大きさと速度が威力に影響するって言ったじゃない」
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