第96話 王都帰還
「そこだよ」
「何が?」
「大きさと威力、ストーンランスもアイスランスも爆発はしない」
「当然よ、石や氷は爆発しないわ」
「いいかい、ファイヤーボールを作る飛ばす迄はエイナと同じだが、着弾と同時に爆発する。アローやランスとここが違う。爆発する魔力は何処から引っ張って来たのか」
「それは・・・ファイヤーボールを作る時に、爆発する分の魔力も込めているからじゃないの」
「そう思うのが当たり前だな。となると、ファイヤーボールを作る時に爆発の大小を決められると思わないか」
「そこが良く判らないなぁ~」
「アローにしろランスやバレットにしても、形と大きさに強度も決めているじゃない。形がボールやアローで、大きさ強度が爆発力だと思えば判り易いと思う」
「それでファイヤーボールの大きさが同じで、爆発力の違う物が作れるってのが・・・」
「爆発力を決められるってのは無意識に大きさを決めたときに、大きさに合った爆発力も決めていたんだと思う。そこまで考えれば大きさは関係ない、拳大のファイヤーボールに、特大の爆発力を込める事もできるとなる」
「ついて行けないわ」
「俺も、頭がこんがらがりそうですよ」
「いやいや、俺だって、聞いたときには何が何だかさっぱりでしたし、練習方法ががらりと変わって大変でしたよ。特に、小さな果実ほどのファイヤーボール作りは」
「そりゃー、野獣の口の中にも入るわよね」
「命中率も凄いです」
「たっぷり扱かれたぞ」
* * * * * * *
討伐の交代が来て村に引き返すと、強制招集が解除になっていた。
獲物を差し出し、強制招集解除の手続きを済ませてお別れだが、魔法使いの三人に話が有ると言ってハインツ迄同行する事に。
ハインツに向かったその夜、ナーダの作ったドームの中で俺の危惧を伝える。
「皆も知っているだろうけど、腕っこきの魔法使いは貴族が雇いたがる。時には無理難題を言ったり、領民なら断り辛い状況を作って囲い込むんだ」
「目立たない様にするので大丈夫よ」
「そういう訳にもいかないときは、俺に連絡をしてくれれば何とかできると思う」
「ん、何か伝が有るの?」
「これを見て」
王妃様から預かっている身分証を取り出して見せる。
「お前・・・これって王家の紋章だよな」
「シンヤさんって、高貴な生まれなんですか?」
「嘘だろう~」
「あんた、これって本物なの?」
「以前ホルムのモーラン商会の話をしたことが有っただろう。当主の娘でミレーネ様って方の繋がりで、王妃様から預かっているんだ」
「あ~、何か聞いた様な」
「以前会った時に王都へ行くとか言っていたわね」
「これを使えば貴族用通路も通れるし、貴族と交渉も出来るんだ。俺が貴族用通路を通ったのを、フェルザンは見ていたよな」
「はい、ハインツで警備兵が敬礼している所を見ましたが、こんな物を持っていたのですね」
「王都のラムコット通り19番地一階左が俺の家なので、連絡をくれれば会いに行くよ。但し何時も家にいるとは限らないので、用件を書面にして放り込んでおいてくれたら良いよ」
「王都に家を持っているの?」
「借家だけどね。ミレーネ様と身分証の繋がりで、連絡の為に家を借りたんだ」
「ふう~ん」
「なに、その笑い」
「そこそこ稼いだし、王都に寄り道して帰るのも悪くないわね。私達が寝る場所くらいは有るんでしょう」
「王都で知り合いの家に泊まり、お買い物三昧が出来るなんて素敵!」
「シンヤ、諦めろ。あの顔つきになったら俺達では止められない」
「かあちゃんが迷惑を掛けるが勘弁してくれ」
「もっとも、王都は始めてだから楽しみだな」
「おう、こんな時でもなきゃ、来る事は無いからな」
* * * * * * *
ハインツに到着して俺はRとLを連れて貴族用通路を通るが、今度は何も言われない。
皆は何かあったら恐いと一般の出入り口に並び、俺が貴族用通路を通るのを眺めている。
貴族用通路を通る序でに、仲間の冒険者も一緒に通れるのか尋ねると問題ないとのこと。
貴族の従者と同じ扱いなので、責任を持ってくれれば大丈夫だと教えてくれた。
街を抜けるときに試そうかと思ったが、俺以外に氷結の楯が7名と火祭りの剣が5名に剣と牙が5名の17名。
流石に多すぎて気が引けるので止めておく。
ハインツから王都ラングスに向かう道中、火祭りの剣と剣と牙二つのパーティーが五名ずつでは戦力にならないので、統合する話が決まる。
統合した彼等は〔大地の炎〕と名を改め、暫くはオルク達の居るエムデンに移動して周辺を覚えながら狩りをする事になった。
10名のパーティーが王都周辺で稼ぐには獲物が少なすぎるので、エムデンに行くのは良いことだ。
王都に到着後、フェルザンとホーキンはそれぞれの仲間と共に、それぞれのパーティー解消と新たなパーティー登録の為に冒険者ギルドへ向かった。
俺達は貴族用通路から王都に入り、市場に寄ってから俺の家へ向かう事にして貴族用通路に並ぶ。
貴族や豪商達の馬車が並ぶ中に、冒険者の一団がぽつりで目立つ目立つ。
直ぐに警備兵が飛んできたが、RとLを連れた俺を見ると敬礼して通してくれた。
「へぇ~、あんたって王都では顔パスなの」
「今度から、シンヤ様って呼ばせて貰うわ」
「だな、貴族より優先して貰ったのは初めてだからそれ位はするか」
「でもよぅ~、貴族の護衛からの目付きが恐かったな」
「そうそう、何で貴族より冒険者が先に通るんだって不満顔で睨んでいたぞ」
「そのくせ警備兵に文句は言わねぇんだよな」
「いやいや、テイマーでフォレストウルフを連れているのは俺だけだし、冒険者で王妃様の身分証持ちってのは珍しいらしいよ」
「その王妃様の身分証ってのがねぇ~、なんであんたと王妃様が繋がっているのか、今も理解出来ないわ」
「モーラン商会のミレーネ様繋がりとしか言えないよ」
久し振りに家に帰るとこれ又大変な事に、ミーちゃんに閂を外してもらい中へ入ると、数十通の書状が放り込まれていた。
「あらあら、あんたって人気者なのね」
「書状が届くなんて、冒険者じゃ考えられないわね」
「何処かの商人か貴族様みてえだな」
「居間と寝室だけの家に住む貴族はないだろう」
「でも結構広くて快適そうね」
「元が食堂だかレストランだった所だからね」
書状の差出人の名を確認しながら生返事をするが、ミレーネ様からも届いていた。
ミーナがブルーを連れてお出掛けする時に、はぐれない様にする良い方法はないだろうかとの事だ。
此の世界に猫用のハーネスなんてのは無いのかな。
そんな事を考えているとホーキンたち10人が到着、流石に17人も居ると狭い。
オルク達氷結の楯には俺の寝室を使ってもらい、俺は居間で大地の炎と雑魚寝する事になった。
翌日王都育ちのホーキンに、オルク達の王都案内を頼み俺はモーラン商会へ出掛けることにした。
何時もの街着に着替えて辻馬車に乗るが、皆の視線が痛い。
こりゃー帰ったら質問攻めになりそうで恐い。
* * * * * * *
モーラン商会に到着すると、直ぐにサロンへ案内されたがミレーネ様とミーナとブルーが待っていたが、糞親父も抜かりなく座っているので一睨みしておく。
「来てくれてありがとう。ブルーのこともだけれど、貴方に謝っておかなければならなくてね」
そう言って、糞親父をチラリと見るミレーネ様。
「今度は何を喋ったのですか」
「王家主催の晩餐会が開かれ、振る舞われた料理の味に皆驚いたのよ。ゴールドマッシュの事を知る者はある程度いますので、何が使われたのかは直ぐに話題になりました。ただ、数百人分の料理に使うとなれば、その出所が話題に上がります」
「悪い癖が出ましたか」
おれの言葉に苦い顔で頷かれる。
「ゴールドマッシュは私の手から王家に献上されたと、同じテーブルの顔なじみに喋ったのです」
「お前のことは、何一つ喋っていないぞ!」
「三人寄れば満座の中。ミレーネ様から王家に献上されたとなれば、ミレーネ様に問い合わせが殺到するのは目に見えている。そして俺と付き合いがあるのは、王妃様の周辺に居る者達から知れ渡る」
「その結果、貴方との繋ぎを求めて私の所へ多数の人々が殺到しました。当家は子爵待遇であって貴族ではありません。高位貴族からの問い合わせに、貴方の名を出し王都に住んで居るはずだと返答しましたが、住所は教えていません」
「ホテルに泊まれず、家を借りたのは結構知られていた様なので、商業ギルドに問い合わせれば判ります。それで、俺の家に書状が多数放り込まれていたのですね」
糞親父、縊り殺してやりたいが今更だし、書状を放り込んだ有象無象の扱いをどうするかだ。
「それで提案が有るのです。提案と言うより、貴方の所へ来る者達に身分証を突きつけ、花蜜やゴールドマッシュは王妃様にのみ献上する約束だと伝えなさい」
「献上した品々が欲しければ、王家を差し置いて要求する覚悟を持てと」
「そう、貴方の厚意以外でゴールドマッシュを手に入れれば、王家を無視してごり押しした事になります。高位貴族であっても、そんな危険は犯さないと思いますよ」
なる程ね、ミレーネ様経由で献上していた効果が、こんな所ででたか。
「ミレーネ様の所へは?」
「仲の良いお友達や断り切れない方々に、極々少量をお分けしたわ」
800ml入りの中瓶一本だ、少量ずつ分けてもすぐに無くなるだろう。
糞親父を部屋から出て行かせてから、内緒で中瓶一本を進呈しておく。
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